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Avalon Rain ~終焉の雨と彼女の願い~  作者: 音無 一九三
第一章【凶変の召喚魔法】
3/53

02 記憶喪失の少女

  結局、その日は森から出ることは叶わなかった。応急処置をして、安全な場所に移動して、本格的に回復魔法を掛けて、そして今は少女が目を覚ますのを待っている、といった具合だ。

 回復魔法を掛けてから背負って森を出れば、とも考えたが、それもあまりよろしくはないだろうと、思った。


 何せ、全く面識のない女の子だ。いきなり背負われてどこそこへ連れていかれている状況で目を覚ましたら、きっとパニックを起こすだろう。


 それに、少女の身体には、あのサソリ蜘蛛から受けただろうもの以外の傷が幾つも見られた。回復させたとは言え、安静にすべきなのは変わらない。と言うより、完全に回復させられたかどうか、定かではないのだ。


 確かに、明らかにヤバそうだった腹部の傷は治したし、その他にも大小、目につく範囲に治療は行った。顔色も安定してきたようだし、ひとまずは急場は凌いだのは間違いない。呼吸も落ち着いている。だが、予断は出来ない。


 ……さすがに気を失っている女の子の服を脱がして傷を確認する、なんてわけにもいかないし、何よりも──。


「……はあ、そもそもオレ、回復系の魔法って、苦手なんだよなぁ…。自分の傷ならともかく……。これがロッティだったら全然違っただろうに」


 彼はどうにも回復魔法とは相性が悪いらしく、魔力消費も大きい上に中々治らない。自分自身の傷ならそうでもないのだが、他者に対してだと、効果は芳しくない。

 真っ先に思わず頭に浮かんだのは、彼の仲間の紅蓮の髪をした少女だった。


(あいつなら、ささっと治しちゃうんだろうなぁ。それに、女の子同士なら、服を捲って確認しても問題はないだろうし…。はぁ…)


 治療を終えて一息ついた頃には日も暮れてしまい、ただでさえほの暗かった森の中は、さすがに誰かを背負って歩くには厳しいものがある。

 それでなくとも、まだ明るい段階ですらすっ転んだばかりだし…。



 パチパチと焚き火にくべられた木の枝が弾け、火の粉が舞う。

 そこは、森の中腹程にある洞穴の前だった。

 恐らくは元々は何らかの魔物か野生動物の住み処だったのだろうそこは、一時的に身を隠すには丁度良い場所だった。


 洞穴の入り口付近は、他の場所に比べれば遥かにマシなくらいに陽光も差していたようで、乾いた枝もそれなりに集めることが出来た。そんなわけでこうして暖を取りつつ魔物避けのために、焚き火をして少女が起きるのを待っているのだが。


「…とりあえず、叔父さんに連絡しておくか」


 ひとまずは討伐依頼も完遂したことだし、完了報告の連絡を入れようと思い至った少年は、ポケットに手を突っ込んだ。

 取り出されたのは、軽金属製の平べったい端末だ。


 テレパス・ソーサリー。略してテレサと呼ばれるそれは、魔導科学の発展によって造られた情報端末の総称だ。魔力を持つ者ならば扱うことが可能で、離れた相手との会話等が出来る代物だ。

 彼の住む街は大陸の中でも他の追随を許さないくらいに魔導科学が発展しており、そのため住人はほぼ1人1台この魔導式情報端末(テレサ)を所持している。


 魔導式情報端末(テレサ)の通話機能を呼び出すと、少年はそれを耳に当てる。しばらくの後、通話相手に接続された。


『おお、アルフか。随分と久し振りの連絡になったな』


「まあね。ちょっと一気に依頼を引き受けすぎたからね…今回は」


『全くだ。いくらなんでも欲張り過ぎだろうに。まあ、こちらとしては助かると言えば助かるし、事情もわかるから何とも言えんのだが…。…連絡してきたということは、依頼は全て終わったのか?』


「うん、そっちは……ね」


『…そっちは?』


 魔導式情報端末(テレサ)から響いた声は、労いを伴う色から、訝しむようなものに切り替わる。顔が見えずとも、通話先の人物が眉間に皺を寄せているのが手に取るようにわかる。


『またお前は厄介事を持ち込む気か…』


 その言葉に、少年──アルフはムッとした顔をする。


「いやいや、基本オレのせいじゃないじゃん。大体はロッティかグレイのせいだし!」


 言いながら、アルフの心に浮かんだのは、小柄でコロコロと表情の変わる、愛くるしいがとてもじゃないが放っておけない少女。そして、兄貴分であり頼もしい時もあるが、大抵の場合欲望に正直過ぎて面倒事を持ってくる2つ年上の青年のことだった。

 基本的にはパーティとして、アルフはこの2人と行動を共にするのだが、それ故に大概巻き添えを食うのだった。


 アルフの言葉は最もだったようで、むう…、という唸り声が聞こえてきた。



「…まあ、厄介事と言えば違いはないんだけど…さ」


『……話してみろ』


 恐らく他にも気を揉むようなことがあるのだろう、疲労の色を濃く反映した、何だか諦観の悟りに至ったような声。次いで、その疲労やら何やらを押し流すように、ズズッと飲み物を啜る音が聞こえる。


 恐らく──いや、間違いなくあの2人が、また何かやらかしたんだろうなぁ、と思うアルフ。とは言え、お小言は無しのようだ。そのことにホッとしつつも、アルフはその厄介事を話し始めた。



「えっと、意識のない女の子を拾った」


『ブフォッ…!!』


 ……盛大に吹き出す音。完全に言い方が悪かった。

 有り体に言えば確かにその通りではあるが、色々とはしょりすぎていた。それもそうだ。魔物討伐の依頼を受けて街を出た甥の口から、「女の子を拾った」という脈絡のない発言を受けたのだ。それも「意識のない」等という犯罪臭のする単語まで飛び交えば、仕方がない反応だろう。


「あ、いや、保護した…だね。うん」


『お前なぁ…言い方があるだろう言い方が! 端的に言うのはいいが、省きすぎだろうに。お前を間違った方向に育てちまったのかと思ったぞ…。そうなったら、私は兄貴に顔向け出来ん…』


「ご、ごめんごめん。ちょっと流石に疲れてて面倒がり過ぎた」


 しばらくの沈黙。頭でも押さえているのだろう。

 再びズズッと音が聞こえ、溜め息が1つ。



 さらにたっぷり5秒程置いて、それで、と促されようやっと、アルフは順を追って説明を始めた。


「実は──」


 幾つかの依頼を順調に達成していったこと。最後の1つがとてつもなく嫌気が差したものだったこと。そして、その最中に発見した、傷だらけの少女のこと。



「──という訳なんだ。まだ意識が戻らないから何とも言えないけど、場合によっては、街に連れてくことになるかも」


『……イクリプシアでは、ないんだろうな?』


 それまでより格段に暗い声色でそう尋ねられ、自然とアルフは真剣な顔つきになった。


 イクリプシア──。人間と何ら変わらぬ姿を持ちながら、人間とは比べ物にならない力を有した存在。人間には理解出来ない言霊によって、命の宿らない──より正確には、明確な意志を持たない──ものを意のままに操ることの出来る存在だ。

 人間が扱うことの出来る魔法では到底出来ないようなことをさらっとやってのける、人類最大の敵。


 既に人とイクリプシアの争いは数百年に及び、必死に抵抗し続けてはいるが、このまま行けば遠からず人類はイクリプシアに滅ぼされるだろう、と言われている。


 そんな存在をむざむざ街に連れて行くなど、とてもではないが見過ごせるはずもない。そしてアルフも、勿論そんなことはしたくなどない。


「大丈夫。瞼を持ち上げて見てみたけれど、瞳の色は青かった。イクリプシアではない筈だよ」


 イクリプシアは、決まって翡翠色の瞳孔をしている。そして、身体のどこかにアザのような紋様がある。流石に服を脱がせたり捲ったりしたわけではないので十分とは言い難いが、少なくとも見える範囲にそれらしい紋様はなかったし、第一瞳の色が違うから、イクリプシアではない、という結論に至った。


「ただ、明らかにあのサソリ蜘蛛から受けたとは思えない傷もたくさんあったんだ。ここに来るまでで魔物に襲われたのか、あるいは──」


 誰かに追われている、とか。

 口には出さなかったが、それは十二分に伝わったようだった。


『…何にしても、目覚めて見るまではわからんな…。アルフ、疲れているだろうが、ひとまずはその少女が目を覚ますのを待ってくれ。その後、話を聞いて、場合によっては街まで連れて帰って来て構わん』


「元々そのつもりだから大丈夫だよ、叔父さん」


『そうか。街に戻ったら少し長めの休暇をやるから、それまでは頑張れよ』


「お、やった! ありがとう叔父さん!」


 浮かれるアルフを他所に、しかしだ、と言葉が付け加えられる。


『仕事の時は叔父さんではなく、団長(・・)と呼べといつも言っているだろう』


「細かいなぁ叔父さんは。いいじゃん別に」


『そうか、休みはいらな──』


「失礼致しました! ラーノルド団長ッ!」


 思わず立ち上がり礼までしながら叫ぶアルフ。最敬礼である。


『フッ、わかればよろしい。では、お前の帰りを待っているぞ』


 それだけ言い残し、通話は切れた。思わず息を吐いたアルフは、そこでようやく自分がだいぶ大声で話していたことに思い至り、背後を振り返った。


 洞窟の入り口から少し入ったところに毛布にくるまれて寝かされた少女は、時折辛そうに顔をしかめているが、未だ目を覚ましてはいない。ため息をつきつつも、今ので起きてくれていたら話が早かったのに、とも思わなくもない。



 もし、仮に彼女が何者かに追われているのだとすれば、一所に留まっているのは悪手なのだろうが、幸いにも、ここはいるだけで嫌気が差すような森の真っ只中だ。

 寧ろ、無理して森から出るよりも、いいだろう。


 そして、仮に追われているのなら、やはりその理由を知らないことには、どうしようもない。


 少女自身の体調もそうだが、状況的にも、彼女が目を覚ますまで、待つしかないのだ。

 それ以外に特に出来ることもなく、定期的に焚き火に拾ってきた枝を継ぎ足していくアルフ。


 やがて、夜も更けて深夜になろうとした時には、流石のアルフも疲労と寝不足で舟を漕ぎ始め、瞼が重くなっていた。

 首を振っても、目を擦っても、少し離れたと思ったらまたぞろやって来る睡魔。いよいよ限界を迎えたアルフが横になって仮眠を取ろうとした時だった。



「──いやぁああぁああああッ!!」


「何だッ!?」


 まさしく寝耳に水を食らった勢いで、アルフは辺りを見回した。明らかに悲鳴だ。何があった、とあまりの驚きに眠気も晴れた頭と視界で、必死にその音源を追い求める。

 しかし、その悲鳴の主は、極々身近にいた。言わずもがな、先程まで気を失っていた少女である。


 上体を起こし上げ、両手で自身の身体を抱き締めた姿勢で、何度も荒い呼吸を繰り返している。それは、まるで酷い悪夢を見た後のような、そんな姿だった。

 未だ呼吸の落ち着かない少女は、焦点の定まらない眼で辺りをキョロキョロと見回している。

 とにかく、落ち着かせなくては話も出来ない。


「大丈夫だよ! もう近くに魔物はいないし、ここは安全だから! 落ち着いて!」


 少女に駆け寄って、弾かれたりしながらも優しく背中を擦ったりして、アルフは少女が落ち着くのを待った。最初は抵抗していた少女だったが、徐々に落ち着きを取り戻したのか、呼吸も緩やかなものへと変わっていく。


「そう、そのまま深呼吸して。吸って、吐いて。もう1回吸って、吐いて──」


 何度か深く呼吸をさせると、ようやく少女は恐慌状態を脱したようだ。ごめんなさい、と言いつつも恥ずかしそうに、今度は俯いてしまう。


「……良かった。それだけ暴れられれば、ひとまずは問題ないか」


「あう…ご、ごめんなさい。思い切り、ひっ叩いちゃって…」


 アルフの頬には、今しがた彼女を宥める際に貰った、見事な紅葉模様が浮かんでいる。しかしアルフは、紅葉痕を擦りながらも気にしないで、と笑い掛けた。


「何にしても、君が目を覚ましてくれて良かったよ。傷の方はどう? とりあえず回復魔法は掛けたんだけど…」


「えっと、…ええ、大丈夫…み…た…い……。……っ!?」


 言いながら、少女の顔が今度は羞恥に染まっていく。それを見てアルフもその事に思い至った。またしても言葉が足りなかった。明らかに自分の傷は身体中の至るところにあった。それが治療されているということは──。


「あ、いや、大丈夫! 服を脱がせたり捲ったりとかしてないから! そんなことしてないから! だからちゃんと確認出来なくて、治ってるかわかんなかったんだよ!」


 そう言われて少女は、確かに胸元辺り等の、服の内側で見えない部分の傷が治癒し切っていないのを確認すると、彼の言っていることは本当だろうと感じた。……これがそこまで見越した確信犯であるならば話は別だが、幸いにもアルフの理性は欲望より強かったし、少女もアルフの言葉を疑わなかった。


「…その、ごめんなさい。確かあの時…私が落ちたところにいた人…よね?」


 そしてそれよりも、アルフの顔には僅かだが覚えがあった。確かに目の前の少年は、魔物に吹き飛ばされた自分が思いっきり激突してしまった人と同じだったはず。気絶するまでの僅かな時間ではあったが、確かに覚えがある。アルフもそれを肯定する。


「あ、覚えてたんだ。うん。あの時はびっくりしたよ。けど、何にしても良かった」


「本当にごめんなさい…。助けて貰った上に、傷の手当てもしてくれて…」


「構わないよ。あのまま放っておけなかったしさ」


 アルフは笑って少女を手招きし、焚き火の近くに移動する。目を覚ましたのなら、わざわざ暗い洞窟の中よりも、焚き火の近くの方が話をするにはいいだろう、という判断だ。


 焚き火の元に着いたアルフは、近くに置いていた筒から器に飲み水を注ぐと、それを少女に渡す。軽く会釈をして少女がそれを受け取り、一息つくのを待ってから、アルフは口を開いた。


「とりあえず、自己紹介かな。オレはアルフ。アルフ・トゥーレリア。レーヴェティアの街の騎士だよ。君は?」


「私は──…、えっと……リ、リィル…。リィル・フリックリア…」


 何やら口ごもるような様になりつつも、少女──リィルは自身の名を明かす。


「リィルか。よろしくね、リィル。それで、君はどこから来たの? 何でこんなところに?」


 彼女を保護するにしても送り届けるにしても、まずはリィルが何者であるのかを知る必要がある。どこの街に住んでいたのか。何故こんな場所にいたのか。

 同じレーヴェティアの街の人間なら話は早いのだが、どうもそれはないだろうとアルフは思っていた。


 彼女の腰には銃が携えられていた。鉛弾ではなく、魔力を発射する物と思われる銃が。無弾式魔力照射銃──縮めて魔力銃と呼ばれるそれは、高威力だが非常にピーキーで、かつ燃費も悪い──魔力消費が大きい──という代物だ。よりにもよって、これを得物にする者なんか、余程の酔狂者、とまで言われる程である。


 となれば、仮にアルフの住まう街──レーヴェティアの住人であるならば、まず間違いなく、名前は知られている筈だ。しかし、アルフはこの少女の名前に全く覚えがない。



 そうなると、自ずと考えられるのは、どこぞの街の、魔物か、あるいはイクリプシアと戦うことを生業とした同業の者だろう、というものだった。

 しかし、やはり魔力銃なんていう特殊性が高い武器……それを扱える実力者なら、名前くらいは知れていてもおかしくないのだが……。



 思うところは色々あったのだが、何にしても、彼女からの返答は非常に詰まったものだった。


「……えっと…その……わから…ないの」


「わからない?」


「ええ……。あの魔物に襲われる直前…。それより過去の…ことが……わからないの…。どうして…こんな場所にいたのか……自分…でも……」


「……記憶喪失か」


 どうやら彼女は、ここに来る以前の記憶を失っているらしかった。

 よほどショックなことがあったのだろうか。騎士やレーヴェティアという単語を聞いても不思議がらないし、自分の名前も覚えている。会話する分にも困ることがない以上、となると、エピソード記憶を思い出せなくなってしまっているようだ。

 しどろもどろになるのも仕方がないだろう。


 何故自分がこんなところにいるのかもわからないままに、しかもズタボロの状態で魔物に襲われていたとすれば、焦るなという方が無理な話である。

 斯く言うアルフ自身も、幼少の頃に記憶を失った身だった。それだけに、目の前の少女の心細さはよく理解出来た。


 こうなっては、ラーノルドの言う「場合によっては」のケースを取らざるを得ないだろう。仮に追われる身だとしても、流石にこれでは可哀想だ。

 つまり、街に連れて帰るしかない、ということだった。放り出すわけにもいかないことだし。


「それなら、オレの街に来なよ」


「えっ? でも……」


「記憶もないんじゃ……行く宛もないでしょ…?」


 当たり前のようにそう切り出したアルフに、リィルは悩ましげに眉を寄せた。アルフは思い至ってないようだが、いくら助けてくれた人だったとしても、見ず知らずの人からいきなり一緒に行こうと誘われれば、それは警戒するのも無理はない話だった。


 極論を言えば、「オレん家に来ないか。大丈夫、何もしないから何も」と言っているのに近しいニュアンスである。

 だが、アルフは最早そのことを考える程の余裕は無かった。何故なら、既に瞼が持ち上がらなくなってきていたからだ。


「困った時は…お互い……様……だか…ら」


 言いながら、とうとうアルフは意識を手放した。限界であった。それでなくともこれまで野宿続きで満足に休めていない上に、リィルが目を覚ますまで何とか寝ずに番を続けていたのだ。

 彼女が目を覚まして、思いの外元気だっただけに安心したのだろう。


 音をあげていきなり倒れたアルフに驚いたリィルだったが、しかし安らかに寝息を立てるアルフを見て、何だか警戒心も薄れていた。それほどに、アルフの寝顔は安らかで、初対面の相手の前だというのに安心しきったものだった。


 状況的にも、彼がずっと、自分が目を覚ますまで番をしてくれていたことはリィルにもわかっていた。



 思わず笑みを浮かべたリィルは、それからそれを申し訳ないという思いが混在したものに変える。

 いいんだろうか、と。

 迷惑を掛けることになるのではないか、と。

 大丈夫、だろうか、と。


 そうは思いつつも、それでも、目の前の少年の好意が、温かかった。

 目を伏せ、それからリィルは洞窟の方まで歩いていくと、アルフが掛けてくれたであろう毛布を、今度はアルフに掛けてやる。

 焚き火に照らされて、俯せに倒れたアルフの頬に浮かぶ手の跡が赤々としていた。


 焚き火の近くに座り、ぼんやりとその火を見つめながら、彼女は呟いた。


「……ごめんなさい」


 そう呟いた少女の表情は、酷く、悲痛なものだった。

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