わたしたちのものがたり
生きるのが下手なわたしから生きるのが下手なあなたへ贈るおはなしです
あるところにさみしがり屋な女の子がいました
その子は自分以外誰も知りませんでした
さみしくてさみしくて、いっそ死んでしまいたくなるくらい、さみしくて
でもその子は誰の名前も知りませんでした
「だれかたすけて!」
その子は声をあげました
しかし、その子の喉は潰れていて誰かに声が届くことはありませんでした
助けて欲しくて手を伸ばそうとしました
だけどその子に誰かに伸ばす手はありませんでした
その子は毎日泣いていました
声は出さなくても泣いていました
流れる涙もそのままに泣いていました
いよいよいっそ死んでしまった方が良いと思い始めた頃
声が聞こえました
小さな小さな声でした
「ねぇ、なんで君は目をつむっているの?」
女の子は首を傾げました
目の開け方を知らなかったのです
また小さな小さな声が聞こえました
「真っ暗だと何も見えなくてかなしいだろう?目を開けたほうが楽しいよ!」
すると声の主は女の子に触れゆっくりと目を開けさせてあげました
女の子はびっくりしました
目を開けた瞬間たくさんの色とキラキラが自分の世界に広がったのです!
ずっと1人だと思っていた女の子はけして1人ではありませんでした
ただ女の子が目をつむっていたから気づかなかったのです
声の主は幼くも大人にも男の人にも女の人にも見える不思議なひとでした
彼は続いて女の子の腕にふれました
「ほら、これで聞こえやすくなっただろう?」
女の子はまたびっくりしました
自分の手でずっと耳を塞いでいたことにも気づいていなかったのです!
女の子に呼びかける音が、とたんにたくさん聞こえました
優しい音、恐ろしい音、楽しい音、悲しい音
素敵な音に世界はあふれていました
やっぱり女の子は1人なんかではなかったのです
女の子は何も知らなかっただけでした
しる術すら知らなかっただけでした
女の子は嬉しくなって涙が溢れてきました
たくさんたくさん長い間泣いていたけれど、こんなに涙があったかいのははじめてでした
彼はだまって女の子を優しく抱きしめてくれました
あったかいのもはじめてで、やっぱり涙が溢れました
女の子は彼に「ありがとう」と言おうとしましたが
やっぱり喉は潰れていて声は出ません
だからかわりにおもいっきり抱きしめることにしました
あったかいのが彼にも伝われば良いと思って、心を込めて抱きしめました
彼は笑ってくれました
女の子もつられて笑いました
月日は流れ、女の子はもうさみしくはなくなりました
たくさんのことを知り、たくさんのひとと出逢ったのです
知らなかった時は感じなかった痛みも悲しさもありました
でもそれ以上に楽しいことや素敵なことを経験しました
そして、すぐそばにはいつも彼がいてくれるのです
ある日女の子は決めました
わたしみたいに何も知らないひと、わたしみたいにだれにもたすけてをいえないひと、わたしみたいにだれにもてをのばせないひと、そんなひとたちをわたしもすくいたい
なにもできないかもしれない、声をかけても聞こえないかもしれない、てをとろうとしても触れないかもしれない、それでもそばにいてあげたい
でも、女の子のからだひとつじゃそんなひとたちみんなを見つけることもたいへんです
だから女の子は風になりました
だいすきな彼やみんなと一緒にあったかい風になりました
気づいてもらえなくてもずっとそばにいます
せかいはとってもキラキラしているんだよ
「さぁ、目を開けてごらん」
これをみて何か感じていただけたなら嬉しいです
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