精神バトル?くそっ!どけ!
いきなりの提案。
「貴方も黄昏のメーゼになればいい」って意味が分からん。
いや、全く分からないという訳でもない。
想像はできる。
『黄昏のメーゼ』は今見た限りでは、四人いる。
厳格そうな老婦人、奔放そうな少女、眠そうな青年、権威に弱そうな壮年、この四人はそれぞれに『黄昏のメーゼ』を名乗り、老婦人と少女はお互いを『メーゼ』と呼び合っている。
仮説としては、『黄昏のメーゼ』は増えるというものがある。
意識の共有でもしているのだろうか。
だが、意思統一がされているとは言い難い。
だとしたら、繋がりはなんだ?
そんな風に考えていると、すぐにそれは示された。
「とても簡単なことよ。貴方の魔導書を捨てて、こちらの魔導書を選べばいいわ。
それで私たちと知識を共有できる……」
老婦人は言いながら懐から紙を出すと、机に置かれたランプの火をその紙に移した。
老婦人の手の中で紙は一瞬で炎になったかと思うと、その炎はすぐに収束して一冊の本になる。
表紙には骨で作られた門が張り付いていた。
老婦人が本を机の上に置く。
「どうぞ……」
《サルガタナス、これは何だ?》
《…………。》
《おい、サルガタナス!》
《…………。》
あ、クラっとしてきた。念話は届いているはずなのに、『サルガタナス』は答えない。
もしかして、これもルールなのか?
「これ……は……?」
少し荒くなる息をどうにか絞り出すように声を出す。
「そんな緊張しなくても大丈夫よ、お兄ちゃん。
死霊術士なら誰でも持っている物……魔導書よ」
その本は禍々しい『サルガタナス』と比べて、荘厳な雰囲気を漂わせている。
思わず俺は一歩前へ。
「死霊術の秘技の数々が書かれておる……さらにこの魔導書は他の魔導書の主の知識を取り込んで更なる高みへと進む!
つまりは進化する魔導書なのだ!」
「おおっ……」
つまり、この魔導書には四人分の知識が書かれている。
そして、もう一歩前へ。
「……国家認定死霊術士だし、アンデッドの研究も進めている。
所謂上級アンデッドも調教が完成すれば使えるようになる……」
「上級アンデッド……」
さらに一歩前へ。これ以上は進めない。なにしろ机の前まで来たから。
すぐ手に取れる位置に本はある。
最終的に眠そうな青年までが、俺にプレゼンしてくるのは少し意外だった。
でも、内容は一番聞き逃せないものだったな。
「エインヘリアルよ。『プルスケータ』深層十五階層で発見、捕獲したわ」
俺の興味を嗅ぎとったのか、老婦人がそう教えてくれる。
『エインヘリアル』とは死の超越者。
死して『エインヘリアル』となったものは、永遠の戦士となれる。生前と同じ肉体、死んでも夕方には甦るという、ある意味ダンジョンボス向きなアンデッドだ。
戦うことが大好きな脳筋戦士というイメージしかないが、『エインヘリアル』の恐ろしいところは、弱点らしい弱点が見つかっていないということに尽きる。
勇猛果敢、技量に優れた死んでも甦る戦士。
聖水、聖塩、聖豆、武器を聖別化する意味もない。
ただ、殺せば一時的に止められるだけだ。それだって簡単じゃない。
これは恐ろしい。上級アンデッドだけあって、意思疎通はできるし、人間のような飲み食いすら可能で、新たな知識を取り入れて、更なる技量の向上すら望める。
何故か最終的に『戦えばなんとかなる』という結論に達する脳筋志向さえなければ、最も人間に近いアンデッドだと言える。
その『エインヘリアル』が『プルスケータ』ダンジョン十五階層に居たということは、国家認定死霊術士である『黄昏のメーゼ』は領主に嘘を吹き込んでいるということだ。
『プルスケータ』ダンジョンは八階層以降、どこまでも同じような階層が続いているとされている。
俺が集めた情報の中でも、『メーゼ』がダンジョンに挑む前、他の冒険者が更なる探索を進めた記録の中では十階層まで変わり映えのしないダンジョン構造が続いていたとあった。
そして、その後『メーゼ』がダンジョンの踏破距離を伸ばした際の報告でも、出てくるモンスターに変わりはないとされていた。
このことは、『黄昏のメーゼ』になれば、この街で好き勝手できるぞということを示している。
とても魅力的な提案だ。ただし、俺が『サルガタナス』と出会っていなければの話だ。
自然と目の前に置かれた本へと視線が落ちる。
この白い骨、パッと見た限りでは白木にも見える骨で作られた門。
扉の中央には炎の意匠。
門の周囲は業火で包まれているようにも見える。
その業火の合間には亡者の意匠……中央の炎からは光も放たれている。
題名はない。
『冥府の門の書』とでも言っておこうか。
どうやら『冥府の門の書』にも『サルガタナス』と同じく新たな知識を書き込む余地があるらしいことは、知識を共有できるという言動から、なんとなく推論できる。
だが、『サルガタナス』を捨てて『冥府の門の書』を選ばなければならないらしい。
いや、そもそも『サルガタナス』すら完読できていないのに、新しい魔導書に移れと言われても、困る。
『サルガタナス』を読んで得た知識、その半端な知識を『冥府の門の書』へと書き足したところで、半端な知識の寄せ集めの本にならないか、ソレ。
ただ、問題がある。
この『冥府の門の書』と『黄昏のメーゼ』になることのメリットをあれこれと伝えられたが、これを断った時に帰れる未来が見えない。
秘密をポンポン教えてきたのは、たぶん俺が断れない場を作るためだろう。
『黄昏のメーゼ』は国家認定死霊術士で、実質的な街の支配者だ。
秘密裏に上級アンデッドを飼っていて、同じ知識を持つ者が最低でも四人いる。
たぶん、『黄昏のメーゼ』が一人じゃないってのも秘密なんだろうな。
俺は一人だと思ってたし、一般的にもそう思わせているんだと思う。
うん、逃げられないな、これ……。
たぶん、この国で死霊術士が『黄昏のメーゼ』以外に見当たらないのは、『黄昏のメーゼ』が他の死霊術士を取り込んでしまうからなのだろう。
「迷う必要があるか?得たい知識があるならその本を読むがいい。
『ブネの書』『ガミジンの書』『ミュルミュールの書』世に名だたる死霊術の名著、その全てがそこにある!」
壮年が両手を拡げる。その手には一枚の紙きれ。
老婦人から廻されたランプの火を紙きれに移す。
紙きれは炎を生んで、もう一冊の『冥府の門の書』になった。
おお、増えるんだ……便利だな。
せっかくだから、もう少し情報を引き出してみよう。
逃げる算段をつけたいから時間稼ぎをしたい。
「あんたが手放したのはどれだ?」
「うん?手放してなどいない。
メーゼの『ブネの書』から得た知識はちゃんとこの『ウリエルの書』の中だ!」
ふーむ、『ウリエルの書』ね。
俺の持つ『サルが使えるタナトス魔術』には『サルガタナス』が宿っている。
となると、他の魔導書にも何かしら宿っていると思っていいのかな?
ここはカマをかけてみるか。
「じゃあ、ブネもその中か?」
「いや、どこかへ消えたな。だが、知識は『ウリエルの書』に残った。
今はウリエルが啓示を与えて下さる。それもより洗練され深く尊い啓示をな!」
他の魔導書って安直だな。まんま宿っているやつの名前を題名にしているのか?
それとも、宿っているやつが伝えた名前を壮年がそういう書物だという認識で使っているのか。
でも、世に名だたる死霊術の名著とか言うくらいだから、やはりそのまま題名にしているのかもしれない。
「なーに、書物の精霊さんのことを気にしてるの?
大丈夫よ。ウリエル様は優しいから、私のミュルミュールも本当に消えた訳じゃなくて、またどこかのダンジョンの宝箱でしばらくお休みする程度にしてあげるって言ってたもの……」
書物の精霊ね。確かにそんな感じだよな。
なんとなく読めて来たぞ。
これ『ウリエルの書』に俺が触ったら、その時点で『サルガタナス』の負けってことになりそうだな。
つまり、今は『ウリエル』と『サルガタナス』の代理で『黄昏のメーゼ』たちと『俺』が争っているって構図なんじゃないか?
ただ、逆に『黄昏のメーゼ』たちを俺の『サルガタナス』に触れさせるのがいいこととは思えない。
なにしろ『サルガタナス』はぼっちで、いきなりたくさんの人と繋がりとかできたら、絶対にキョドる。
俺と一対一だからコミュニケーションが取れているけど、いっぺんに五人とかになったら、距離感が分からなくなって勝手に孤立するタイプだからな。
俺はいきなり机を大きく叩く。
バン!と机が揺れる。
「無理に抗う必要ないだろ……知識が統合されればメリットしかない……」
さして驚いた風もなく眠そうな青年は言った。
あ、俺が抵抗に屈しそうに見えてる訳ね。
《駄本!これ、勝ち負けあるだろ……?》
俺としては、念話で体力使うから身体を支えようとしただけなんだけど。
《……ある。いい話じゃろ……思うようにすればよい……》
素っ気なく、それでいて泣きそうなのを堪えたような思念が頭に響く。
体力の消耗を避けるため、短く聞いた。
それに対する答えがソレか。
勝って欲しくはない、負けて欲しくもない。そんな複雑な心境なのか、駄本!
諦めちゃってんのか、駄本!
俺というパートナーを失って、知識を吸い取られても自分の見る目がなかったから仕方なかったとか辻褄合わせをしようと思ってんのか、駄本!
読めてんだよ、俺がどれだけたくさんの感情と接してきたと思ってるんだ、何万冊、何十万冊に書かれた膨大な量の感情を読んできてるんだぞ!
駄本みたいな、ぼっちで、そのくせ傲慢で、寂しいくせにそれをうまく表現できなくて……そんなキャラいっぱい見てきたわ!
俺ははぁはぁと荒い息を吐く。
アステルが、たぶんアルとアルファも、俺の状況が分からないなりに心配してくれている気配が伝わってくる。
アステルなんかは今頃、俺とメーゼたちとの会話から何とか状況を理解しようと頭がフル回転しているはずだ。
それでも、禁書を読んだことがない、少女のメーゼ曰く『書物の精霊』と触れ合ったことがないアステルには、ピースが欠けているから、言葉を発することができないのだろう。
だから、俺が戦わないといけない。
勝たずに負けないように。
「俺のターン!」
とりあえず、気合いの入る『ゲームキング』の合言葉を叫ぶ。意味はない。ないけど叫んで、この体力が尽きかけた身体を震わせる。
「俺が欲しいのは『アンデッド図鑑』だ!『ウリエルの書』じゃない!」
「同じことよ。
貴方の知識を『黄昏のメーゼ』に提供する。
『黄昏のメーゼ』の知識を貴方に提供する。
お互いに損のない取引だわ」
ちらり、老婦人の目線が俺の後ろに動く。
なんだよ、そんな近くにあるのかよ!
「いいや、違うね。
『ウリエルの書』は図鑑じゃない。
禁忌の魔導書だ。触れた瞬間、呪いが掛かる。
『黄昏のメーゼ』になる呪いがな!」
「呪い?どちらかと言えば祝福だわ。
地位、権力、魔術。
この街が何と呼ばれるか知っているかしら?
調停の街よ。
降霊術で呼び出された死者は嘘をつけない。
でも、『黄昏のメーゼ』は生者なの。
分かるかしら?
たくさんの秘密が集まる街なのよ」
そう言って老婦人は口角を上げる。
笑い顔?違うな。不気味な妄念に取り憑かれた顔だ。
やっぱり呪われてるとしか思えない。
「俺のターンだ……」
《アルファ、俺の左後ろの棚だ。アンデッド図鑑を探せ》
咄嗟にアルファへ向けて念話を発する。
「地位も権力も秘密も、興味がないな……。
魔術?俺に向かって魔術を語るのか?
カーネル・ウォアムの孫のこの俺に?
アホか。
さらに俺のターンだ。
この『ウリエルの書』は半端な知識の集合体でしかない。
魔導書が普通に読んだところで意味を成さないことは知っているよな?
たしか、そこの男が言ったよな。
この『ウリエルの書』は他の魔導書の主の知識を取り込むことで知識の補完をすると。
『ブネの書』の知識は全て頭に入っているのか?
もっと言えば、『ウリエルの書』に乗り換える時、『ブネの書』の全てを読み切っていたのか?」
俺は壮年の男に言葉を放ってやる。
「メーゼが『ブネの書』を読むのに何年掛けたと思っている!
十二年だぞ!」
「俺は読み切ったのかと言ったんだ。
年月の過多は関係ない。
『ブネの書』もまたどこかのダンジョンに飛ばされた。
違うか?」
「それがどうした!
メーゼは『ウリエルの書』を選んだのだ!
『ブネの書』において必要な知識は全て『ウリエルの書』にある!」
「いいや、違うな。
お前が完全に『ブネの書』の知識を得ていたなら、『ブネの書』はダンジョンに飛ぶことなく消滅しているはずなんだよ。
お前は『ブネ』から一番大事な知識を得ていない。
でなけりゃ『ウリエル』が『ブネ』を残す意味なんてないからな。
考えてみろ。
その子の『ミュルミュール』はまたどこかのダンジョンの宝箱の中でお休みする程度にしてあげるって言われたんだぞ。
神の管轄であるダンジョンの宝箱に財物として入れることができる存在なんだよ書物の精霊ってやつらは!」
「神様……」
少女が呟く。
「神なのか、その眷属なのかは知らないけどな……ただ、神々やその眷属たちは楽園に生きている訳じゃない。
争いがあり、お互いに関係性を持っているんだよ!」
断言する。何故、俺が断言できるかといえば『副神』からのメッセージを受け取っているからだ。
そして、『サルガタナス』が悪魔だと知っているからだ。
初めて『サルガタナス』と話した時に『サルガタナス』自身が悪魔の書だと、神に嫌われていると説明していたからな。
「薄々は感じていたはずだ。
違うとは言わせないぞ、『ウリエル』から『啓示』を受けている『ブネ』に捨てられた男!」
そう、壮年の男は『ブネ』から捨てられたのだ。
『サルガタナス』は俺の為にルール違反を犯したことがある。
自身が消えるかもしれない争いの中、ルールを気にするやつがいるか?
『ブネ』は壮年の男に全てを伝えきれなかった。
そして、それが保険にもなっていた。
『ウリエル』との争いの中、『ブネ』はルールを破らなかった。
これは、未だ『サルガタナス』の全てを読み解いていない俺にも適用される。
もし舌戦に負けて、『ウリエルの書』に俺が触れなければならなかったとしても、『サルガタナス』が消滅することはない。
それはある種、救いかもしれない。
まあ、勝つつもりも負けるつもりもないけどな。
「捨てられ……」
《ありました!でも、隠し扉の中です!わたしでは持って出ることが……》
アルファからの念話。
おお、さすがアルファは要領がいい。
初めて使う念話でも、問題なく思念が伝わってくる。
ウチの子がいち番!とか、くだらないことを考える余裕もできた。
それから、やっぱりあったな。魔導書ではなく、ただの図鑑が。
あるだろうと予測はしていた。
触れたら『黄昏のメーゼ』の呪いが掛かる『ウリエルの書』じゃ、他人にアンデッドの説明を紐解くためのリスクが高すぎるからな。
際限なく『黄昏のメーゼ』を増やすなら別だが、それじゃあ最初に生まれた『黄昏のメーゼ』は納得しない。
既得権益がこの世の全てに広まってしまえば、それは既得権益じゃなくなる。
それなりの知識と引き換えに『黄昏のメーゼ』を増やしていることは、この場にいるのが四人で、話に出てきた魔導書が四冊だから、帳尻が合う。
まあ、五人目がいないという不確定な目算だけど。
「君が……黄昏のメーゼになれば、きっと『ウリエル』は喜ぶだろうね……メーゼは君が、君の魔導書を全て解き明かしてから、取り込むことを提案するよ……」
ぐてり、と机に突っ伏して眠そうな青年はやる気をなくしたようだった。
どうやら、青年は俺のことを高く評価したらしい。
俺なら『サルガタナス』の全てを読破できると踏んだ上で、それまで泳がせるべきという結論に至ったようだ。
高く評価した上で、それでもいつでも勝てるという精神は傲慢だけどな。
「あら、メーゼはつまらないことを言うのね。
メーゼはそこまで待つのは嫌だわ。
早く七つ揃えて、次のステージに行きたいの……」
おや、老婦人と意見が割れたらしい。
その老婦人は手元にあったハンドベルを持つと、チリリン……と鳴らした。
それは従者を呼ぶため、だよな。
そして、『黄昏のメーゼ』の従者と言えば……。
俺たちが入ってきた扉、メーゼたちが使っているであろう扉、二つしかない扉が同時に開く。
骨執事アランとその仲間たちの登場だった。
アステルがすかさず俺の横に立った。
「ベルさん!」
「言葉じゃどうにもならないから?」
俺は老婦人に自分の胸を押さえるようにして、笑顔で聞く。
「迂遠なのはあまり好みじゃないのよ、本来は……」
苛烈な性格をしていらっしゃったらしい。
「そう怯えることでもないわ。殺す訳でもなし、メーゼになるだけだもの……」
「アステル、しばらく頼めるかな?」
「精神バトルから肉弾バトルシーンに切り替わったのは、理解しましたよ!
相手のトラップスキルに対応した、即応スキル『ダイヤモンド・護封剣』なみに任せて下さい!」
おお、ここでソレ、ぶち込んでくるか!
つい、顔がニヤける。
アステルが言うのは名著『ゲームキング』に出てくるダイヤのクイーンが使う特殊スキルで相手の動きを完全に封じ込める技のことだ。
気合い入れに使った「俺のターン!」に被せてくるとか、ニクいことするな。
「気高き女王よ!宿命を超えたその愛、この眼にしかと!」
つい、被せたくなるのは仕方ないよね。
「ハ、ハート(愛)……」
「アルファ、どこだ!」
「ここです!」
俺の後ろの本棚の本がバサバサと数冊落ちる。
そこには鍵穴がある。
俺はアルファに支えられて、その本棚に取り付く。
アルは……言わなくていいな。俺の指示を待つようなアルじゃない。
「アステル、そっち!」「はい!」
バキ!とかパキャ!とか、骨が砕ける音がする。
「何故そこがっ!?」
老婦人が驚愕の声を挙げる。
いや、俺が図鑑の話した時、思いっきり見てたじゃん。
迂闊な性格もしていらっしゃるのは確認済みです。
俺は胸を押さえた手で鎖を手繰って、【ロマンサーテスタメント】に触れる。
時がゆっくりとしたものに変わる。
思念の中で叫ぶ。
「鍵開けのギフト、オン!」
《……ギフトの使用に五十GP掛かります。よろしいですか?》
久しぶりに聞いたな、インフォメーションの声。
「やれ!」
ガ……チャ……リ……。間延びした時間の中で隠し扉の鍵が開いた。
【ロマンサーテスタメント】から手を放す。
ギ……ギ……ギ……と少しづつ開こうとしていた扉が、ギーッ!と音を上げて開いた。
台座、その上に厚みのある本。もしかしたら特別な客に勿体ぶって見せるための隠し扉なのかもしれないな。
アルファがすぐに本を取る。
「ぽるた!」
ガッシャーン!!
骨執事だか、そうじゃないのだか分からない骨が、アルのひと言でバラバラになる。
だが、すぐに次の骨が来るし、砕かれた骨は再結合を始める。
「くそっ!どけ!」
そう言われてどいてくれる敵なんかいる訳ないじゃん。と今まで読んだ本の場面を思い起こしながらも、つい言ってしまう。
愚かだな、俺。ちくせう。
と、思ったら、骨が、骨たちが一歩退いた。
おや?
《当然じゃの。契約がないアンデッドはベルの言葉にある程度反応する。今までもそうだったじゃろ?》
あ、『サルガタナス』が喋った。
『黄昏のメーゼ』が強硬策に出たから、『ウリエルの書』とのバトルは終わったということだろうか。
でも、そうか。
『黄昏のメーゼ』はエインヘリアルを調教していると言っていた。
それは契約とはまた違うものなのだろう。
ーーーって、一瞬しか効果ないんだけど!?
骨たちがまた向かって来る。
《契約はないが、それに近しい効果はあるようじゃの……》
「適当か!適当なのか、駄本〜〜っ!!」
俺たちは『アンデッド図鑑』をパクって逃げ出したのだった。