念話!魔導黒板!
『スッシー』内部で『提督』とやり取りをして、分かったことがある。
それはーーー
「コミュニケーション取りづらいっ!!」
ということだった。
《なんだ、念話を手にしたのではなかったか?》
俺の叫びが聞こえたからか、『サルガタナス』が言ってくる。
「ねんわ……?」
《うむ、我としておるであろ?念話》
「これ、ねんわ?」
「ベル、何言ってるの?」
訝しげなアルの声がするが、今は無視だ。
《ふむ、ようやく馴染んだかと思うたが……》
「なに?ねんわ……」
「ベ、ベル?大丈夫?壊れた?」
「壊れてねーわ!」
失礼な!
《ああ、固定概念というやつだの。
ベルは頭でっかちじゃからの……》
むきー!この駄本め!分かったようなことを言いやがる!
でも、分からない……。これはストレスが貯まる。
《常識が邪魔をするというやつじゃな。
どれ、手始めに我に向かって、心で語りかけてみよ。
契約がある相手となら魂で語りあえるはずよ》
なるほど!って、分かるか!
だが、『サルガタナス』の久しぶりのヒントだ。
不承不承ながら、素直に言うことを聞くことにする。
駄本、駄本、駄本、駄本、駄本、駄本、駄本……。
何の呪文だと言うくらい、心の声を垂れ流してみる。
「何、ぶつぶつ言ってんの?」
《はぁ……まずはその間抜けな口を閉じよ!言霊にすれば、即ち魂が抜け出ていくが道理。
魂の声にするのじゃ!》
むかっ!誰が間抜けだ!
この、駄本!駄本!《駄本!》。
《誰が駄本か!》
「ん?」
《届いた?》
《届いた?ではないわ!
我の善意をいきなりぶっ叩きおって!》
それで、これからどうすんだ?
《…………。》
あれ?届かない……。
おい、《駄本!》。
《ベル、念話は魂の声と言うたぞ……あとは知らん!》
あ、これ拗ねたな。
『サルガタナス』のフォローはあとでするとして、『提督』に向けて念話を試みることにする。
あ、『提督』っていきなり理解したのは、この骨からの念話か。
俺は『提督』へ向けて、念じる。
《スッシーは船なのか?》
《外洋……宙域……探査……船……敖光》
ふむ、ゴウコウという船らしい。
《この文字は?》
俺は魔導黒板にある記号らしきものを、指差して聞く。
《距離》
「距離!そうか距離か!何が基準なんだ?」
おっと、念話だ。念話を使わなければ。
《基準は?》
《基地》
基地があるらしい。
つまり、基地までの距離が、『距離』という言葉の後に書かれているということだ。
これは?
……これは?
……これは?
ヤバい……念話は俺の中で何かを消耗しているのか、段々と気持ち悪くなってきた。
ようやく、コミュニケーションが取れて、魔導黒板の文字が解読できると思ったのに、集中力が切れているのが自分で分かる。
ぐったりして、その場に座り込む。
「ベル、顔真っ青だよ!」
「きぼち、わるい……」
つい、弱音を吐いてしまう。弱音以外は吐かないように、グッと抑え込む。
それからしばらくして、『スッシー』ことゴウコウ号の魔導黒板には、夜闇の中、灯火があかあかと燃える漁村の姿があった。
「これ、出られるのか?」
はい・いいえで答えられる質問であれば、念話がなくても問題はない。
『提督』はこくりと首を縦に振る。
それから、魔導黒板に数度触れると、うぃぃぃぃん、と音が鳴って入ってきた扉が開いた。
さらに通路には光が点滅しながら進むことで、道を示しているようだった。
「この『提督』はどうするか……」
たぶん、『提督』がいないと『スッシー』が動かない。
「また、研究所に送っておいたら?」
「いや、『スッシー』をこのままって訳にはいかないだろ……。
たぶん、超古代文明の遺物だぞ?
他のやつの研究材料にするなんて、まっぴらだ!」
「ああ、自分で研究したいのね……」
「当たり前だろ!この魔導黒板に次々と出でくる文字!
全部、読むまでは誰にも渡さん!」
「そっち?」
「何が?」
「あ、いや、うん、そうね……ベルだしね……」
「アル……いいか、考えてみろ。
俺がこの魔導黒板の文字を読めるようになるとするだろ?」
「うん?」
「他の超古代文明の本とか読めるんだぞ!」
「いや、そんな本がまず、あるかどうかさえ分からないのに……」
「提督!あるよな?」
こくりと提督は頷いて、魔導黒板のひとつを取り外した。
え、外れるんだ、ソレ。
魔導黒板は本と同じくらいの大きさだが、厚さは数ミリ程度だ。
提督は何やら魔導黒板の光をアレコレと弄る。
それから、俺に渡す。
「これは文字か?いや……絵かな?」
魔導黒板に浮かぶ、先の尖った塔の両側につけられた羽根、その塔の下から炎が噴き出したような絵。
その隣の絵は簡単だ。見開きの本の絵。
さらに隣、三日月がみっつ、段々と大きく描かれている絵。
俺が持つ魔導黒板の横から提督の骨の指が伸びて、塔の絵に触れる。
中心に赤い光と青い光が交互に点滅している。
さらに中心から伸びる針がくるくると回っている。
これは、先ほども見た位置を確認する魔導黒板か。
上下左右に記号が付いている。
おそらく、方角を表しているのだろう。
骨の指が右上にあるバツの字に触れる。
塔と本と三日月……いや、波かな。そのみっつが描かれた絵に戻る。
次に、本に触れる。
記号がずらずらと表れる。
指が左から右へと動くと、違う記号がずらずらと表れる。
右から左に動かすと最初に見た記号が表れる。
「これでページを捲るのか?」
提督が頷いた。
右上のバツの字は、また塔と本と波の絵に戻るのだろう。
触れてみれば、やはり元の絵に戻った。
となると、波はなんだ?
波に触れる。
提督が座っていた玉座、その前にある樹形図のような魔導黒板、さらに向こう。
壁一面に記号が浮かぶ。
それと同じものが樹形図の魔導黒板の一枚にも浮かんでいた。
提督は樹形図の魔導黒板に触れる。
「「うおっ!」」
丸々とした顔。黒髪は温風で乾いたからかサラサラとしている。って、俺の顔だ。
同時に俺の持つ魔導黒板には玉座に座る提督が映っている。
さらに、俺の声が部屋中に響いた。
「もしかして、これがあれば離れていても、提督と連絡が取れる?」
魔導黒板の画面に映る提督が頷く。
うん、提督に発声器官がないから、俺が一方的に話すだけになりそうだけどな。
いや、提督はどうやら意志があるようだし、普通のスケルトンとは違うように思える。
提督を発声器官を持つアンデッドに進化させれば、念話ではなく会話で意思疎通ができる。
「よし、これは魔瘴石と言うものだ。
使い方は、ここの魔法陣のこの位置に置くだけ、ただし、提督は必ずこの魔法陣の中にいて使うんだ。
俺が使えと言ったら、使え。
分かるか?」
こくこくと提督は頷く。
これで、研究所に戻ってから、提督を呼び出して進化させられる。
そうすれば、この魔導黒板の本も読めるようになる!
俺はニンマリと口角が上がるのを抑えきれない。って、壁一面に俺の顔があるから、とてもいやらしい顔になっているのが分かる。
俺は持っている魔導黒板のバツの字を押して、連絡を切った。
それから、提督に俺たちが出てから隠れているように伝えて、『スッシー』の出口へと向かった。
ロケット!パッド!アプリ!スワイプ!
ふう……少し叫びたくなりました。何がとは言いませんが、これで少し胸のモヤモヤが晴れた気がします。
あ、プロジェクター!