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保険取引!罪深い生き物たち?


「この辺りでお願いするよ」


クーシャに言われるまま、『取り寄せ』魔術で仕舞っていた荷物を取り出す。


こうして見ると、荷物多いな……。


「これだけあればひと月は篭ってられる!」


クーシャは勝ったな!みたいな顔で言う。


「あ、引きこもる用の……」


「ち、違うよ!さ、先に進むには、ぢ、地道な調査が必要になるからね……」


「なんで吃るんだよ!嘘っぽく聞こえるだろうが!」


「い、いや、だ、だって……」


ああ、クーシャは真面目で優しいからダメなんだと、いや、真面目すぎて優しすぎるからダメなんだと、唐突に俺は気付いた。

つまり、純粋すぎる。


「なあ、クーシャ。お前、ダメなやつだな……」


「えっ!?あ、うん……」


「反論しないの?」


「僕は……自分がダメなやつだって、知ってるから……」


「うん。だろうな。

クーシャはそういうやつだよな……。

『ディープパープル』って異名を持って、誰かを不快にさせることを嫌って、ダンジョンに籠る。

なんとなく分かるよ。

あのさぁ、クーシャって他人の目を気にしすぎじゃないか?」


「他人の……目……」


クーシャは目を丸くして、こちらを見ていた。


「ダンジョン狂って呼ばれて、二年間引きこもるって、そういうことじゃないか?

他人の目が怖かったんだろ?」


俺は今、実を言えば恐怖を感じている。

他人の目、というよりもクーシャの目が怖いと思っている。

クーシャに俺の真実を話した時、クーシャから気持ち悪いモノを見る目で見られるのではないかと、そして、その時、自分がどれだけ傷付くのかと想像すると、それは恐怖だ。

そう、ここまでで俺は確かにクーシャを友として認めている。

その友から拒絶されることが怖いと感じているのだ。


「そう……そうだね。

僕は他人から拒絶されることに恐怖を感じる……。

でも、誰だってそうだろ?

誰かから拒絶されるのは辛い……他人の目が少ないダンジョンなら、それは最小限に抑えられる。

なら、ダンジョンに篭ってもいいじゃないか!」


それはクーシャの偽らざる本心ってやつなのだろう。

そして、それを否定する気は俺にはない。

いや、俺を理解する気がない奴らに拒絶されたところで、俺には、アルが居る。じいちゃんが母さんが、兄や姉代わりのじいちゃんと母さんの弟子たちが、アルの両親であるバイエルさん、リートさん、アルの姉のモニカさん、同志アステル、アルファだって俺を否定することはないだろう。

だから、俺はクーシャに示さなければならないと思った。


「篭ってもいいんじゃないか?」


「え?」


「別に引きこもるなとか説教してやろうとか、そういうつもりで話してる訳じゃない……。

俺は、今、クーシャの目が怖い。

クーシャに俺の真実を伝えて拒絶されるのが怖い。

正直、俺は恵まれた環境にいたからな……他人に拒絶されても、俺を認めてくれるやつがいる。

だから、知らない誰かに拒絶されたところで、俺はそれを取るに足らないことにできた。

でも、その……クーシャは俺を友達だって言ってくれた。

その友達に拒絶されるのは怖いって、そう思ったんだ。

だから、俺はクーシャを拒絶しない。代わりにクーシャにも拒絶されたくない。

そういう取引をしないか?」


「取引?」


「一人でもいいんだ。誰かが認めてくれるなら、俺は今のまま進んで行ける。そうやって俺は進んできた。

それは他の誰かからは、間違っている道に見えるかもしれない。

それでも、俺はクーシャに拒絶されたくないんだ……」


我ながら、ひどい話をしていると思う。

保険に保険を掛けて、嫌わないでくれと頼んでいる自分はかっこ悪いな。

だが、俺が死霊術士ネクロマンサーだと教えるべきだと思ってしまったから仕方ない。


「つまり、ベルくんには、ひ、他人に言えない秘密があって、ぼ、僕に共犯者にな、なれと……」


クーシャは緊張に喉を鳴らして、何やら決意の眼差しを向けてくる。


「いや、そこまでは言ってない。

ただ、友達に俺のダメな部分も知って欲しいと思った……でも、それでクーシャに嫌われるとしたら、ショックを受ける。

たぶん、爽やかイケメンで超級冒険者の『ディープパープル』が、引きこもり気質で本心を話そうとすると吃ってしまう気弱なクーシャこそが本質だって街で触れ回るくらいにな……」


「お、脅されてる!?」


「まあ、冗談だ。半分は……」


「半分は本気なんだね……。

でも、それなら無理に話さないで、黙っていればいいんじゃないかな……?」


「友達に隠し事なんて、気持ち悪いだろ……」


「うっ……それは……うん、そうだよね……」


「まあ、それでも隠し事はするけどな」


「ええっ!?

い、言ってること無茶苦茶だよ?」


「いいんだ。とにかくクーシャに聞いて欲しいんだ!」


「う、うん。わ、分かった。

例え、ベルくんが異常性愛者で快楽殺人を趣味にしているって言われても、み、認められるかは分からないけど、絶対、嫌いにならない。約束する!」


おお、それなら安心だ。

別に異常性愛者でも、快楽殺人が趣味でもないが、近からず遠からずと言えなくもない。

やっぱりクーシャは良いやつだな。


「……俺は。

俺はもうひとつ使える魔術がある」


「魔術?」


死霊術ネクロマンシーだ」


「ネ……ええっ!?ネクロマンシーって、屍人を操って悪いことをする、あのネクロマンシー?」


「ああ、悪いことはしない……とも、言いきれないか……死霊術は死者の冒涜と言われれば、世間的には悪だしな……。

オドブルに居る国家死霊術士『黄昏のメーゼ』って知ってるか?」


「誰?ごめん、最近の世間のことって疎くて……」


「いや、別に最近になって出てきた訳じゃないんだが……まあ、いいか。

ただ単に死霊術士ネクロマンサーでも国に認められているやつも居るって話の実例ってだけなんだが……」


「そ、そうなんだ……」


「まあ、俺が修めている死霊術ネクロマンシーとは、たぶん違うモノだけどな」


「そ、そ、そうなんだ……」


「少し長くなるけど、聞いてくれるか?」


「うん……聞くよ」


それから俺はクーシャに長い話をする。

初めての冒険で、幼馴染が自分の代わりに死んだこと。

それを生き返らせるために、死霊術ネクロマンシーに手を出したこと。

知らずにアルファをアルだと勘違いしていた話。

アルをようやく見つけた話。

『取り寄せ』魔術が死霊術の副産物だという話。

今、俺の近くにファントムと呼ばれる死霊が二人いること。


「い、いるの……?」


「ひひひ……ほら、お前のすぐ後ろに……なっ!」


ビクッ!とクーシャが振り返る。

こんな冗談が言えるのも、クーシャがちゃんと俺の話を聞いて、その表情から拒絶はされていないと確信できたからだ。


「あいたーっ!」


「ひぃぃぃぃっ!どこ、どこ、どこ?」


俺の叫びにクーシャが取り乱したように叫ぶが、それどころじゃない。

あ、居たーじゃなくて、あ痛ーっ!なのだ。


これは、アルの全力デコピン!


「ふぉぉぉぉっ……割れる……頭が割れる!」


「ぎゃああああ!何?何かヤバいのっ!?」


ある種、地獄絵図が展開される。俺が叫ぶ、クーシャが喚く。立ち上がろうとしたクーシャの膝と、うずくまろうとした俺の額が正面衝突して、さらに俺が、クーシャが……。


この状況を表すいにしえの言葉がある。

かもす!という言葉だ。あれ?かろす!だっけ?かおす!かもしれない。

そんな思考の乱れを生み出すほどに、アルの全力デコピンは高威力だった。


「だ、だ、大丈夫?ベルくん!」


「ぬお、お、お……す、すまん……」


「いや、僕こそ、ごめん……」


「ちょっとした冗談だったんだが……」


「えっ!?ど、どこから、どこまで?」


「ああ、クーシャの後ろにってやつな……」


「あ……うん……」


「えと、今度こそ真面目に……今、挨拶させる」


「あ……う、うん……その、の、呪われたりとか……」


「ないない。この凄まじい頭痛も、呪いとかじゃなくて、普通に腕力的なモノだから……」


俺はアルとアルファに姿を現すように告げる。

二人ともここまで俺と一緒にクーシャを見て来たのだ。

今さら、警戒するようなことはない。


「はじめまして。ベルがお世話になってます。アルです」


「はじめまして!といっても最初から御一緒させて頂いていたので、違和感は拭えませんが……アルファです」


「く、黒髪の美少女と、赤髪の美幼女……あ、あ、は、はじめましてクシャーロです……。

ん?あ、あの、アルさんとアルファちゃんって……」


姿を現した二人を見て、クーシャが赤面しながら吃りまくる。ちょっといつもの素のクーシャと違うような印象がある。

なんというか、街の有名人の噂話をしていたら、その有名人が後ろで聞いていたというような、そんな感じか?


対するアルとアルファも、アステルの時よりも若干固い感じだ。


「やー……なんかベルの説明の後だと認めにくいけど、まあ、そのアル、です……」


「……はい。そのアルファです」


認めにくいってなんだよ……。ありのまま、そのままに如何にアルが暴力気質か、アルファが献身的でイタズラ好きな小悪魔かという話をさらっとしただけだろ?

しかも、最後にはちゃんとフォローも入れたはずなんだが……。


「そ、そうなんだ……君たちが……」


なんでクーシャはそんな眩しいものを見るような目をしているんだ?


「と、とりあえず、クーシャでいい?

私もアルでいいから……」


アルめ、赤面しながら握手しようと手を出してやがる。

そりゃ、クーシャは表面だけ見たら爽やかイケメンだもんな。

デニーも同じ系統の爽やかイケメンだが、クーシャの方がクールな印象だ。

表面上だけはな。たぶん、内面は真逆だが……。


「あ、えと……」


おずおずとクーシャが手を伸ばす。半透明だから躊躇してんのか?


「呪われないし、普通に触れるぞ。普段はすり抜けるけどな」


俺がフォローを入れる。


「うわぁ……確かに感触がある……熱はないんだね……不思議だ……」


クーシャが思いきったのか、アルと握手した感想がこれだ。


「ゴースト系モンスターが使うポルターガイスト能力の延長だからな」


「ポルターガイスト能力?」


「あれ?クーシャはゴースト系モンスターと戦ったことってないのか?」


「う、うん。スケルトン系のマミーなら昔、何度か……あ、その、変な意味じゃなくて!」


何が変な意味なんだ?と思ったが、どうやらアンデッドと戦闘経験があるというのが、アルやアルファに対して失礼な言動かもしれないと感じていたらしい。


「なんとなく分かったけど、そういう気遣いはいらないと思うぞ……。

他の冒険者と話す時、野盗を殺したことがあるんだ、変な意味じゃなくて……とか、言われたら目が点になるだろ?」


「あ、そ、そうだね……ごめん」


「ベル!なんでベルはそういう言い方しかできないのっ!

折角できたお友達なのに!」


「アルは俺の母ちゃんか!って、家の母さんはそんな温い怒り方しなかったわ……」


母さんは怒らせるといきなり手が出る、足が出るタイプな上、そういう時は「なんで殴られたか考えてごらん……」しか言わなかったからな。

しかも、それ以外の時はゲロ甘な親だ。

気軽に母さんが友達風に接して来るのは、母さんなりに俺を放置して友達ができないでいたことへのフォローだったのかもと、ふと思った。


「え、えと……その……」


やべ、クーシャのこと放置で、クーシャが戸惑っている。


「ああ、すまん。話を戻すとだな……ゴースト系モンスターは手を使わずに物を操ったりする能力があるんだ。

中には当たり前にあるはずの能力を使えないアルみたいなのもいるけど……」


「それはサイキックってやつ?」


「ああ、サイコキネシスな……うん、近いかも……」


人間の中には極稀に超能力者と呼ばれるやつらがいる。

魔法でもなく、魔術でもなく、別系統の不可思議な力だ。

そういう意味では、ポルターガイスト能力も魔法や魔術と違うので、似たようなモノかもしれない。


「それにしても、サイキックなんて、ダンジョンに引きこもってるクーシャが良く知ってたな」


「ああ、『クリムゾン』が使ってたから……」


また、『クリムゾン』か。

『クリムゾン』も超級冒険者で有名人ではある。


「友達なのか?」


なんとなく気になって、聞いてみる。

クーシャは首をぷるぷると振って否定する。


「昔、一緒に互助会の依頼を受けたことがあって……強くて、陽気で、尊敬できる人だよ……ちょっとアルファちゃんに似てたかな……」


「え、そうなんですか?」


「うん、赤い髪が綺麗な、美しい人だったよ……」


「へえ……クーシャの想い人ってやつね!」


「アル……ニマニマすんなよ!人が悪いぞ!」


俺はアルを注意する。


「そういうベルこそ、ニマニマしてるでしょ!」


「もう、アルちゃん!ご主人様!」


「いや、想い人なんて烏滸がましいよ!たぶん、その……憧れの……」


「「ほほーう……」」


おっと、ついアルとハモってしまった。


「……でも、そんな人が私と似ているなんて……」


アルファは強くて陽気で美人に似ていると言われて、満更でもなさそうだった。


ああ、人とはなんと罪深い生き物だろうか。

だって、共通の肴があることでこんなにも簡単に仲良くなれてしまうのだから……。


そうして、最初は固い印象があったアルとアルファとクーシャの対面だったが、そこからクーシャに根掘り葉掘り『クリムゾン』話を聞き出すことで、一気に態度が近しくなるのだった。


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