表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/246

契約?俺の名は!?

もう一度、『サルガタナス』を確認する。

ゾンビの作り方の項目だ。

自然発生したアンデッドと違い、タナトス魔術で作るアンデッドは術者の命令を聞くように作られる。

そのままでもある程度、命令を聞くのだが、それをより強固にするためには、術者と契約を結ばせると良いとある。

契約は術者の血で名前を書くことと、アンデッドの身体の一部を術者の体内に取り込むこととある。


体内に取り込むってどうやるんだ?


分からないことは『サルガタナス』に聞くしかない。

だが、その前にじいちゃんの蔵書の中から、儀式魔術に関連する本を調べることも忘れない。

聞かなくて済むなら、その方が良さそうだからだ。

前に魔瘴石について聞いた時は、ルール違反だと言っていた。

どんなどんでん返しがあるか分からないので、基本的には必要なことは自分で調べることにしている。


だけど、今回のことは調べてみても答えが得られなかった。

いや、これは忌避感から、違う意味であってくれという希望だったのかもしれない。


「なあ、『サルガタナス』。

身体の一部を体内に取り込むってどういうことだ?」


《喰らえ。それだけだ》


「た、食べるのか……やっぱり……」


この質問はルール違反にはならないのだろうか?

あっさりと教えてくれた。


自然発生したゾンビは生命に反応して、その生命を食べようとする本能を持つ。

だが、これでは逆だ。俺がゾンビを食うのか……。


《どう喰らうのか分からなければ、命令すればよい》


「そ、そうか……非実体系のアンデッドとか、どう食うの?ってなるもんな……」


冷静じゃない俺は、無理矢理に冷静なフリをして、そう答えた。

ヤバいな……タナトス魔術……。


しかし、躊躇しているだけでは何も進まない。

意を決して、俺はアルをゾンビ化することにする。


食料庫の中に横たわるアルにゾンビパウダーをふりかけていく。

書いてある通りに作ったゾンビパウダーだけど、俺が『サルガタナス』を間違えて読んでいた場合、この試みは失敗する。

ゾンビの作り方の項は素直に書かれていたと思うけど、『サルガタナス』は駄本でも魔術書。どこに暗喩や暗号、秘密が隠されているか分かったもんじゃない。


「アル……目を開けてくれ……」


俺が祈るような気持ちでそう言うと、アルは目を開けた。


「うおっ!」


俺が驚いて、後ずさる。


《だっさ!くかかかか……!うおって言ったか?ベル?》


俺の反応を見ていたのか、『サルガタナス』が笑った。

最初の頃に比べると随分と口調が砕けてきた気がする。


「うるせー、駄本!べ、別にびびってねーし……」


ダメだ。反論したつもりが街の三下みたいな感じになってしまった。


《ほれ、早く命令してやらんと、お前が食われるぞ!》


『サルガタナス』の言葉に反応した訳ではないのだろうが、アルは濁った瞳で俺を見つけると、口を開いて、身体を起こし始める。


「ァァァ……ァァァ……」


身体が冷えて動かしにくいのか、非常にゆっくりとしている。


「と、とと、止まれ!」


俺が命令すると、ピタリと止まる。

良かった……。ちゃんと命令は聞けるようだ。

そこで俺は思った。声らしきものが出ていたから、もしかして言葉も使えたりするんだろうか?


「……ベルって言ってみろ」


「べェェェルゥゥゥ……」


おお!ちょっと不気味な発声だけど、話せるじゃないか!

だが、起き上がる途中で動きを止めているため、片足を曲げ、上体を反らして、虚空を見つめた体勢で話すアルは、不自然すぎて、やっぱり不気味だ。


「た、立ち上がれ」


アルはゆっくりと立ち上がる。と、そのまま口を開いてこちらに襲いかかろうとしてくる。


「と、止まれ!」


アルは止まる。

ふう……どうも動く許可を与えると本能が働くらしい。


《契約を結べば、多少複雑な命令もきくようになる》


そ、そうか、そうなれば『命令がある時以外、誰も襲うな』みたいな約束事を作れるかもしれない……。

俺は『芋ん章魔術』の箱に付属している針で、自分の指を傷付ける。

それから、動きを止めているアルにその指を近付ける。


「えっと……どこに書けば……」


《肌ならばどこでもよい》


質問した訳ではないが、『サルガタナス』が言うので俺は素直に従うことにした。

アルの服をめくって、お腹の辺りを露出させる。

俺なんかと違って、アルは均整の取れた身体付きをしている。

出るとこ出て、引っ込むところは引っ込んでいるというやつだ。

胸とお尻は少し大き過ぎるかもしれないが、それが余計にアルのプロポーションを際立たせている。

そんなもう少し頑張ったら六つに割れそうな腹筋の辺りに、俺の血で署名する。


『ヴェイル・ウォアム』


すると、乾いた砂が水を吸い込むように、血文字は消えた。

それからアルに言う。


「ア、アル……お前を俺に食べさせてくれ……」


なんだ?俺は何を言っちゃってるんだ?

なんだろう……他のやつには絶対に見せられない顔になっている気がする。

契約だ。これは契約なんだ。だけど、何故か羞恥心に頬が染まる。


すると、アルが動き出す。

ぷつんっ!と音がしてアルが手を前にだす。

アルの指先で揺れる細い糸みたいなもの。


「髪の毛……そ、そうか、これもアルの一部だもんな……」


謎の背徳感から来る羞恥心を収めて、その髪の毛に顔を近付ける。

口を開けて、ちょっと躊躇ってから、意を決してソレを口に含む。


これ、飲み込めない。

俺は水を出す魔導具に魔石をセットして、コップに注いだ水でアルの髪の毛を飲み干す。

なんだか喉に絡みつく感覚に噎せそうになるが、何とか飲み下した。


瞬間、胃の中が沸騰したように熱くなる。

見れば、アルのお腹に書いた俺の署名が、赤く光っていた。


ああ、これでアルは俺のものになったんだ。

そう思った。

アルが俺を襲おうとすることはなかった。


まずはアルに約束させる。

『俺の命令以外で生命を襲わないこと』

とりあえずはこれだけだ。


ゾンビは生命を襲い、食べてしまう。

術者のいるゾンビが生命を襲い、殺した場合、殺された生命も術者の制御下のゾンビになる。ただし、繋がりは術者との契約を結んだゾンビよりも低くなるらしい。

繋がりを強めるには別途契約しなければならない。


自然発生したゾンビとの違いは、生前の肉体記憶により、素早さが上がり、筋力は普通になる。

自然発生型ゾンビは本能で動き、力のリミッターが切れているので怪力で鈍重なモンスターだが、タナトス魔術型ゾンビは普通の人間と変わらない動きができる。

ただし、判断力の低下はゾンビの仕様らしい。

発声もできるが呼吸をしていないので、まともに喋るのは難しい。

人前には出せなさそうだな。

早く次の段階に進化させなきゃな。


目指すは自我を持つアンデッド、最低ラインは『陰鬼』だろう。

俺はアルに待機を命じる。

アルは食料庫で体育座りをした。


え……なんか淋しそうなんだが……。


結局、俺はアルを連れて、自室で『サルガタナス』を読むことにする。

次は『餓鬼』か……。


あけましておめでとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ