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依頼探し!ショートカットルート!

『ダンジョン冒険者互助会』の依頼掲示板を特にこれという風もなく眺める。

これはデニーに教わったことだ。

自分が受けられる依頼だけでなく、全体の依頼からこの近辺で起きている時勢を読む。


今のところ読めるのは、フオーン・リザードマンの需要が高まっていることくらいだろうか。

スプー湖のモンスターが活発化している、とかだろうか?


他に分かることと言えば南の塔型ダンジョン『クラムーチャ』の依頼が多いことだろうか。

『フオーン』ダンジョンに構造変化が起きない分、という訳でもないのだろうが、『クラムーチャ』ダンジョンは構造変化が激しい。

それに伴い出現するモンスターも変化があるらしく、最近は金になるモンスターが多いようだ。

こうなると『クラムーチャ』ダンジョンの方が稼げるような気もする……。

ただ、難易度高いんだよな。『赤よっつ』からでなければ入れない制限が掛かっている。

俺が『ロマンサー』だと明かせば、入るには入れるが、そこまで無理をする理由はない。


「随分、熱心に見るんだね。

君は『緑ひとつ』だろう?」


チラとそちらに目線をやる。

全身白ずくめと言えばいいのだろうか?

白い服、白い革鎧、白いターバンを頭に巻いている。

肌の色が褐色なので、似合うは似合うが、眩しい。


「白いな!」


「ははっ!普通はこの肌を見て、黒いと言われるんだけどね……」


白い男はにこやかに笑う。


「あんまり目立つ色の服は感心しないぞ……」


やんわりと注意だけしてやって、掲示板へと視線を戻す。


「ああ、僕は『海底遺跡』中心だからね。

それよりも、自分と関係ない依頼を熱心に見ているようだけど、何故かな?」


『海底遺跡』の資料はあまり多くなかったから中心と言われても理由がよく分からない。

ただ、『フオーン』十五階層を突破したその先にある『海底遺跡』に入れるということは、それなりの実力者なのだろう。


「今、時勢を読んでるんだ、『緑ひとつ』に用なんかないだろ。

邪魔しないでくれ……」


「時勢を……なるほど……」


そう言って白い男は黙る。

俺はまた依頼を見る作業に戻る。

他に分かることと言えば……って、ずっと俺の横に立ってるから、白が眩しい。

何故か俺の移動に着いてくるし……。


「なんだよ?」


「君、一人で冒険者やってるの?」


ニコニコと声を掛けてくる。何とも違和感のある声掛け。


「ああ、一人だけど、それが何?」


ちょっと喧嘩腰になってしまう。


「なら、僕の荷物持ちやらない?」


ああ、そういうことか。


「六日後の船に乗る。荷物持ちはいいけど、期間が短くないと無理だな。

あんたのパーティーがどこまで行くかによるな」


「ああ、予定は五日で『海底遺跡』の二階層だよ!」


「あのな……そりゃ行きだけの日程だろ?

それにどれだけの実力者か知らないけど、無茶苦茶言ってるぞ?」


モンスターに全く出会わなければ、五日で『フオーン』十五階層を超えて、『海底遺跡』二階層まで行くだけなら出来るかもしれない。

だが、五日で『海底遺跡』二階層まで行って帰ってくるとか、こいつもしかして頭弱い奴か?


「ああ、見かけない冒険者だと思っていたら、旅の途中なんだね!

大丈夫、五日で戻って来られるよ!モンスタールームの掃除をするだけだから!」


うわぁ、こいつ、頭弱い奴だ。


「冒険者でも少しは先のこと考えた方がいいぞ……」


「え、うん。凄い顔だね……落胆と哀れみがない混ぜになっているのは、よく分かるけど、最新版の地図でも載っていないショートカットルートがあるんだよ……」


「ショートカット?」


もしかしてアレか、転移魔法陣の罠とか?

だとしたら、見たい。

生物が転移できる魔法陣は非常に稀だ。

前に俺が引っ掛かった『ゼリ』ダンジョンの転移魔法陣、あれだって相当なレアものである。

もし、あの転移魔法陣がランダム転移ではなく、構造変化が起きても変わらぬ位置にあり、安全が確保できるなら、ぜひとも調べたいところだが、現状は無理である。

これがもし、同じ場所に生物が送れる転移魔法陣だったりしたら……ヤバい、鳥肌が立つわ。


「うん、『フオーン』三階層を掘っていたら、抜けた先が十階層だったという……」


「は……?」


「うん、分からないよね。でも、事実なんだ。

結果、『海底遺跡』二階層まで、二日で行ける」


「いや、それを信じろって?」


「うん。大丈夫!

確かめたのは僕だから!」


「どうやって?」


「二日掛けて、僕が十階層まで普通に降りて、他の冒険者パーティーが一日でショートカットルートを降りてくる。

そうしたら、見事に中で会えたよ。

それから、ショートカットルートで帰ってきたのが一昨日。

行きも帰りも使える道だと証明できたんだ」


二日で十階層まで降りる……?普通だと有り得ないと思う。

俺は思わず白い男をマジマジと見る。


「うん?何かな?」


「バッヂの色は?」


「えーと……これ?」


白い服がゆったりしていたため、隠れて見えなかったが、白い男が見せた【冒険者バッヂ】は『真っ赤な太陽と緑やっつ、青々と光る月』だった。

赤すぎて、青すぎて、『ここのつ』を超えている。

ごく自然に、白い男がバッヂから手を離すと、ゆったりした服の間に隠れて、また見えなくなった。


「おい……『ディープパープル』が話してる新人って誰だよ?」「いや、『ディープパープル』って、あの!?帰って来てるのか!?」「ああ、半ばアイツは『海底遺跡』に住んでるようなもんだしな……」「『ディープパープル』!?どれだよ?」


辺りのざわめきに耳を澄ませば、アレコレと噂が飛び交っていた。

バッヂを見せたのは一瞬なのに、目敏い奴はどこにでもいる。


実力者どころか、色の異名持ちの超有名人じゃねーか!


「これで少しは信頼の証になるかな?」


『ディープパープル』は白い歯を見せて笑う。

信頼?逆に怪しいと感じてしまうのは、俺の考えすぎだろうか?

ただ単に超絶完璧冒険者が嫌いなだけって話もある。

そんなやついる訳ないからな。


「いや、怪しい……」


「え?」


『ディープパープル』の動きが止まる。


「【冒険者バッヂ】わざと隠してただろ?」


「そ、そそ、そんなことないよ……」


わかり易い反応だな。

例えば、最初から【冒険者バッヂ】を見せた状態で、荷物持ちをやらないかと誘われたらどうだろう?

普通に考えれば、何故『緑ひとつ』冒険者で、しかもパーティーすら組んでいないソロ冒険者に頼むのかが疑問として浮かぶ。


超実力者である『ディープパープル』の頼みとあれば、中級だろうが上級冒険者だろうが、ふたつ返事で荷物持ちをやりたいという奴らがほとんどだろう。

『ここのつ』を超える力。それはもう人外の領域だ。

ほとんどの冒険者の憧れである色で呼ばれる冒険者。

それを求める冒険者ならぜひその目で見たい、あわよくば指導を賜りたい、そう考える。


そんな状況の中、『ディープパープル』はわざわざソロの『緑ひとつ』という、自分の身を守ることすら覚束無い奴を雇おうとしている。

依頼料が安く済む?いや、なんならタダでもやるって奴の方が多いだろう。


わざわざ隠して、依頼の言質を取りたがっていた?

正直、意味が分からない。


ならば、逆に自分が超実力者だったとして、それを隠して依頼するとしたら、どうだろう?


俺なら簡単だ。まず、騒がれたくない。だが、結果的に『ディープパープル』は【冒険者バッヂ】を見せてきた。

だとしたら、逆効果だ。

その証拠に噂が噂を呼び、互助会内は騒がしくなってきている。


だが、バッヂを見せろと言ったのは俺だ。

そして、『ディープパープル』は「信頼の証」と言った。

つまり、俺から信頼されたくて、バッヂを見せたのだ。

目的は、俺……?


『ディープパープル』はもぞもぞと所在無いのか、辺りを気にし始めている。


「なんで俺だったんだ?」


「え?」


「そこらのパーティーに声を掛ければ、タダで荷物持ちをやりたいなんて奴は腐るほどいるぞ?」


「いや……その……ぼっ……だったから……」


語尾が消えていく。良く聞こえん。俺が耳をそばだてる仕草を見せる。


「ぼっ……僕と同じで一人だったから……」


蚊の鳴くような小ささで呟かれたのは、そんな言葉だった。

こいつ、さっきの言葉と文字数合わないじゃないか……推測すれば、前に言ったのは「ぼっちだったから……」だな。

ここで俺はピンときた。


「なるほど、ぼっちが辛くなるタイプのぼっちだな、お前……」


「いっ!?ちょ……シーッッッ!」


途端に『ディープパープル』の褐色の肌が青ざめる。


つまり、俺の本『サルガタナス』の同類なのだ。

他人と関わるのが苦手だが、関わりたい。

ぼっちだという自覚があるが、打開策が見い出せない。

必然、自分に似通った相手を探してしまうのがこのタイプの特徴だ。

俺は本さえあれば、ぼっちなのも苦にならないと考えているが、『サルガタナス』と接してきたからだろうか、気持ちはなんとなく分かる。

たぶん、結果的に俺も同類で、同志を見いだしたことで、少し見識が拡がったと言えばいいのだろうか。


「まあ、分かった。五日で帰れるならやってもいい……」


「え、あ、そ、そう?

それなら、行こうか……」


「動揺しすぎ……口調が変わってるぞ……」


俺は呟くように言う。


「いや、それは君が……」


と、言いかけたところで『ディープパープル』は軽く咳払いをする。


「それじゃあ、詳しい話は向こうでしようか」


また、にっこりと爽やか笑顔を作る。

ああ、この笑顔が嘘くささの原因だな。


通されたのは互助会内の依頼を出す用の部屋だ。

『ディープパープル』と俺の二人しかいない。

色の異名持ちともなると、色々と優遇されるらしい。


「いつもの部屋、使うよ」


このひと言で、互助会の職員が同席することもなく、部屋が使えてしまう。

依頼を出す部屋だが、荷物持ちは個人で雇うものなので本来は依頼にならない。

依頼を受けた冒険者が、互助会に一時的なパーティー申請を出して、荷物持ちだと説明すれば終わり、というのが一般的な対応だ。


ちなみに、荷物持ちはパーティーの一員として功績を与えられるが、『色なし』から『ひとつ』の間は、先輩冒険者によって功績を決められてしまう。


荷物持ちをやるのは、基本的に先輩冒険者から色々と教わるためというのが通例で、例え『赤いつつ』依頼を受けたとしても功績は先輩冒険者が決めたものが適用される。

先輩冒険者が赤ひとつ分と言えば、赤ひとつ分だし、赤いつつ分と言えば赤いつつ分の功績が入ることになる。

ただし、最低でもひとつ分の功績は出る。


今回、『ディープパープル』は依頼を受けていない。

俺の耳に聞こえた情報によれば、『ディープパープル』は半ば『海底遺跡』に住んでるようなものらしいので、住処の掃除をしたいということらしい。

モンスタールームがあるような場所に住むというのも、なかなかにぶっ飛んでいる。

そして、依頼を受けていない『ディープパープル』は俺のために依頼を出すことにしたのだ。

基本は『赤むっつ』依頼。ただし、戦闘無し、荷物持ちだけ。戦闘は『ディープパープル』が受け持つという依頼だ。

本来ならば自分で出した依頼を自分で受けることはできない。

でも、『ディープパープル』に功績は入らない。俺の功績は先輩冒険者にあたる『ディープパープル』の胸先三寸だ。

要は、働きによって赤六回分までの功績を出すつもりがあるという指針を示しているだけだ。

こんな異例がまかり通るのも『ディープパープル』が色の異名持ち、上級を超えて、超級冒険者だからなのだろう。

賃金は赤むっつなので、六十ジンになる。


「えーと、君の名前は?」


『ディープパープル』が依頼票を書き上げてから、聞いてくる。


「ヴェイルだ。お前は?『ディープパープル』って呼べばいいのか?」


そう言ってやると、そこで初めて自分が名乗っていないことに気付いたようだ。

慌てて名乗る。慌てるとすぐにどもってしまう二面性は、少しビジネスにゃんここと猫獣人イオに似ていると思ってしまう。


「ク、クシャーロだ。クーシャでも『ディープパープル』でも好きな方で、よ、呼んでくれ……」


「クシャーロ?クーシャ?」


「あ、し、親しい人はク、クーシャと呼んでくれる……」


「ふーん、じゃあ、クシャーロで」


「え?」


「あー……クーシャで……」


「お、おう!」


あからさまに悲しい顔すんなよ。

こっちが悪いことしている気になるだろ。

あと、アルが何故か優しく俺の肩を叩いてきた。

この叩き方は「お友達ができて、良かったね……ホロリ……」ってやつだ。


俺、友達作りに来たんじゃなくて、仕事しに来てるんだけどな……。

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