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神の庭から宝と共に……アルの成長……

『ダンジョン冒険者互助会』は『スプー冒険者互助会』から派生して出来た互助会らしい。

そこに登録している冒険者たちはお互いを馬鹿にしているようだが、登録時に互助会職員から、あっちとこっちは仕事を分けているだけなので、揉めないようにと釘を刺された。

ちなみに互助会同士の関係は良好らしい。

つまり、反目し合っているのはプライドの高い一部の冒険者だけか。


ならばわざわざ互助会をふたつにする必要があったのかと思うのだが、理由は簡単で、冒険者たちがポコポコ死ぬから。

そもそも、ダンジョンとスプー湖、冒険者に求められる資質が違う。

そして、冒険者という生き物はそんなに器用じゃない奴が大半で、ダンジョンで『赤よっつ』とスプー湖で『赤よっつ』は戦い方も違うし、考え方も違う。

つまり、専門職として冒険者を鍛えた方が死に難くなる。ということを職員は説明してくれた。


ダンジョンの冒険者というのは、所謂いわゆる普通の冒険者だ。

モンスターを狩ったり、宝箱を探したり、ここスプーの場合、『フオーン』のダンジョンに海賊の財宝が隠されているという伝説があり、一時期、大発掘ブームみたいなものが起きたらしい。その関係でダンジョンの地下二階までは一般公開もされていて、当時の発掘跡なんかが観光名所扱いらしい。

当然、ダンジョンだと観光でも護衛が必要になるので、それもこの『ダンジョン冒険者互助会』の主な収入源になっているらしい。


そして、他方、スプー湖の冒険者というのは、主に船を守って戦うため考え方が違う。

誰かの護衛というよりも船を守るというのが基本になる。

また、船を守るというのは本能レベルになるまで刷り込まれる訓練なんかもあるらしく、そのため『緑』持ちが少ないらしい。

本来、守るための戦い方を得る依頼は『緑依頼』のはずだが、船を守るのは基本なので色は着かない。

そういうものらしい。

戦い方も役割分担という考え方が強いらしく、射手は射手、白兵戦要員は白兵戦要員というような役割を守るというのも特徴らしい。


簡単に説明を受けて、登録は終わりになる。

『ダンジョン冒険者互助会』については、特別なことはなさそうだった。

強いて言うなら、観光護衛は講習を受けないと受けられない、ぐらいだろうか?


俺としては、他の冒険者の荷物持ちをするか、個人で受けられる依頼を受けるか、迷うところだ。


『緑ひとつ』冒険者の俺が受けられる依頼となると、『色なし』でも受けられる『赤ひとつ』か『緑ひとつ』依頼、あとは『色なし』用の常設依頼程度しかない。


だが、他の冒険者の荷物持ちをやるなら、基準がその他の冒険者の色になるので、もっと上の依頼が受けられる。

まあ、実入りは減らされるかもしれないが、基準の金額が高くなるので、稼げる割合は多くなる。


どちらにせよ、先にある程度情報を仕入れるべきだろう。


聞けば『ダンジョン冒険者互助会』にも資料室があるので、まずはそういった資料を当たるべきだろう。

モンスタールームがある階層に挑むパーティーに着いていければ、それが一番稼げる可能性がある。

なので、モンスタールームがどの階層にあるか分かれば、一番ありがたい。

あとは歯欠けが言っていた『トーク・ガワー埋蔵金伝説』の写本があるので、借りられるかどうか確認しておくべきだろう。


まあ、あくまでもついでだ。そう、本命はダンジョン資料である。

あ、『トーク・ガワー埋蔵金伝説』も立派なダンジョン資料だな……うん。


俺は職員に資料室を見てもいいか聞く。


「資料室?あ、ええ、構いませんよ。持ち出し厳禁でお願いします……」


持ち出し厳禁か……ですよねぇ……。


それでも、ウキウキと資料室に入る。寂れとる……。

人がいない。

ちょっとホコリが積もっている。

昔の資料なんかは平積みで放置されていて、今、読まれているものは棚にある。

ちなみに棚はスカスカだ。


俺はいつも『塔』でやっている癖で、平積み本を手に取ると、軽くホコリを叩いて棚に戻す。

その際、軽くパラパラと目を通す。


初出は五年前か……。どのダンジョンにどんなモンスターが出たか、売れる部位はどこか、そういうのをまとめた本だな。

でも、平積みされてるってことは、傾向が変わったってことか……。


初出が百年前!『フオーン』ダンジョンの地図か……。

平積みのこんな上にあるってことは最近まで使われてた?

そんなに構造変化が起きてないのか?あ、でも、平積みってことは最近になって構造変化が起きた?


俺は最新版の地図を棚から出して見比べてみる。


構造変化じゃねえ!これは……所謂、拡張だ。

しかも、神の御業でもなく、発掘によって空けられた穴の跡を最近になって書き直したものだ。

ダンジョンとアリの巣が同時に現出したみたいな一種異様な空間がそこにはあった。

本来の『フオーン』ダンジョンは石壁で整えられたカクカクした迷路構造だが、さらに発掘で掘られた穴が二階と三階を繋げていたり、三階と五階を繋げていたりする。

そして、この地図が間違いないのなら、三階と五階の高さの差が五メートルしかないのに、二階と三階の高さの差は二十五メートルもある。

四階には落ちたら確実に死が待っていそうな二十メートルの落とし穴があって、落ちた先が六階ということもなく、地図で見ると五階の通路を突き抜けていなければおかしい。


空間がぐちゃぐちゃになっとる……。


さすがは『神の試練ダンジョン』……という括りで片付けてしまっていいのだろうか……。

ひとつ分かるのは、ダンジョン内の距離はアテにならないということだろうか。

論理が通じない空間とか、俺からすると苦手な部類だな。


そうして、俺は何故かすっかり資料室の本たちを整理したのだった。

あ、『トーク・ガワー埋蔵金伝説』を読んでいない……。

だが、資料の中にはここの領主が毎年出している小冊子などもあったので、概要は理解できてしまう。


どうやら、今の領主よりもっと古い時代、『スプー』の辺りは小国家群があったらしい。

そのひとつの小国家の王が『トーク・ガワー』だった。

『トーク・ガワー』は王でありながら、海賊の船長として、スプー湖を荒らし回った。

スプー湖は当時、海と認識されていたため、湖賊ではなく海賊と呼ぶのが正しいらしい。


『トーク・ガワー』が海賊の船長だったというのは、晩年も晩年、当時のコウス国王が『トーク・ガワー』の国を征服してガワー王を捕らえ、死刑にする時に本人の口から語られた。


「俺を捕らえて殺して満足か!だが、残念だったな。

スプー湖の宝は全て俺のものだ!十五に刻んで隠してやったわ!

真なる宝無き国々で、空の玉座に座って、空虚に笑うがいい!

俺は神の庭から宝と共にそれを見させてもらうとしよう!」


当時のスプー湖周りの小国家群は、湖賊に荒らされて貧乏な国ばかりだった。

それより昔の小国家群はそれぞれにダンジョンを抱えていて、かなり潤っていたとあるので、『トーク・ガワー』は小国家の屋台骨を揺らすほどに荒らし回ったようだ。


コウス王にとっては、確かにうま味の少ない征服だったが、巨大な湖から生み出される利益は他国に取られるのは惜しいという程度には食指を動かされた。

それ故、コウス王は「真なる宝とは、この湖に生きる人々だ!ガワー王よ、いや、ガワー船長よ、お前の掻き集めた金貨こそ虚ろな玉座というもの。我が欲する宝には程遠い……」と、『トーク・ガワー埋蔵金』の探索を諦めた。


だが、後年、新たに『スプー』を治めることになった『スプレイト家』が領主になると、国や領主の対応は変わらなかったものの、冒険者たちが活気づく。

『トーク・ガワー』の言葉、王城に残されていた資料などが公開され、そこから『フオーン』のダンジョンにそれは隠されていると、冒険者たちは気がついた。


何故なら『トーク・ガワー』は罪人だが王だった。

その処刑は首切りでも自決でもなく、『フオーン』ダンジョン十五階層突破後の海底遺跡『ミーネスト』ダンジョン一階層に手枷付き、装備なしで置き去りにされるというものだったからだ。

まさに行くも地獄、退くも地獄という刑。

『ミーネスト』ダンジョンは当時でも十階層まで確認されていて、現在十八階層まで確認されているがまだ底が見えない。

『フオーン』ダンジョンに戻れば、いきなり十五階層ダンジョンボス・フオーンデイモスドラゴンとご対面するという死地。

そういう処刑だったらしい。


だが、そういう処刑だからこそ『トーク・ガワー』の「神の庭から宝と共に……」という言葉を皆が信じたのだ。

実際、今までに十五に刻まれた埋蔵金のひとつは二階層の壁を掘り進んで発見された。

それは魔法金属製の装飾品、武器、鎧の数々で、造りは古いものの当時の金額で一億ジンほどになったという。


その他、『トーク・ガワー』関連では、五階層のモンスターが飲み込んでいた古い一ジン貨幣や、『ミーネスト』一階層で発見された半ば喰われた朽ちた王冠などがある。


それらは歴史的価値や史実の体現として、かなりの値がついたらしい。


そういう概要だけは理解できた。

確かに面白そうな話ではある。

資料室に誰も来ないのをいいことに、アルが聞いてくるので、俺はそういったことを説明していった。


「ロマンだね!生き返ったら、ここ来よう!」


「おう、頑張れよ!」


「なに自分は関係ないみたいな言い方してるの、ベル?」


「いや、話としては面白いけど、もう三百年以上前の話だぜ。

本当にあるなら見つかってると思うんだ……」


「なかなか見つからないからロマンなんじゃないか!」


「いや、現状だとアルに振り回されて、大変な苦労する未来しか見えないから、パス!」


ここで約束とかないわ。

無駄に穴掘りで時間浪費するなら、俺はまだ見ぬ本が読みたい。


……そう思っていた時期が俺にもありました。


俺の額がアルのデコピンで真っ赤に腫れ上がるまではね……。


ちくせう。アルは今までの修行の成果として、ポルターガイストデコピンを覚えおった。

腕防御をすり抜けて、指一本分の打撃が俺の額を打つ。

後ろを向こうが、床に丸まろうが関係なしかよ。


「なんでですかね?普通の衝撃波は飛ばせないんですけど、アルさんが指を弾くと、その分だけは狙ったところに飛ぶんですよね……?」


アルファがボソリと呟いた。

俺専用の最低な技じゃねーか!

俺は涙目でそう考えるのだった。


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