スプー!どっち?
木立の間を縫うように進むと、石造りの巨大な城壁が見えてくる。
うん、俺の方向感覚は間違っていなかったようだ。
「スプーだ」
今、アステルは杖を使ってどうにか自分で歩いている。
ポロとサンリは『取り寄せ』魔術で研究所へと帰した。
さすがに『スプー』が近いので、他の人間に見られるのは遠慮したい。
『スプー』の街は、西と南を城壁に囲まれ、東と北は巨大な湖、その名もスプー湖に面した大都市だ。
このコウス王国の中では最南端に位置し、漁業が盛んな街でもある。
もちろん、この街の近くにも『神の試練』がある。
街の南、地下十五階からは湖底遺跡に繋がる初級から中級までの冒険者が潜る『フオーン』。
さらに南に進めばあるのが、山間に建つ塔型ダンジョン『クラムーチャ』は五十階もある。
『フオーン』地下十五階から繋がる湖底遺跡は『ミーネスト』と言う別物扱いのダンジョンだという話だ。
俺たちは城壁沿いを門まで進む。
門には入街待ちの列ができていて、俺たちは最後尾で待つ。
だが、たいして待たされることなく列は進む。
入街検査も簡単なものだった。
俺は『冒険者バッヂ』を見せて、専用魔導具にかざして終わり。
「おや、この街には冒険で?」
「ええ、できればひとつ、ふたつ仕事をしていこうかと……」
「どちらか決めてますか?」
「どちら?」
「ああ、初めてですね。では、お気をつけて!」
「いや、どちらって……」
「次のかたー!」
街の案内などは一切やる気がないらしい。どうりでサクサク進む訳だ。
次のアステルは個人登録証を見せて、入街料を払って、この街に来た目的を聞かれたりと、少し手続きに掛かる。
「お待たせしました!」
「ああ、いや、別に……」
「うーん……」
「どうかした?」
「もしかして、わたくしも冒険者登録した方がいいんでしょうか?」
「月に一度、簡単でもいいから仕事する気があるなら、登録を考えてもいいかもな……入街料が掛からなくなるのと、『冒険者互助会』にお金を預けることで、他の街で引き出せるようになるから、大金を持ち歩く必要がなくなる。あとは魔導具で本人確認をするから手続きが簡単になるとかかな?
ただ、登録するなら身元保証人が必要になるよ」
「身元保証人ですか……それは……」
「まあ、無理に冒険者なんてやることもないんだし、とりあえずはいいんじゃないかな?
アステルの場合、お金は問題ないだろうし……」
はっきり言って、アステルは金持ちだ。
ローブで隠しているが、服のあちこちに高価な貴金属を縫い付けた物を着ているし、チラと見えてしまった金袋には千ジン硬貨とか、商人が取引で使うような高額硬貨が普通に入っている。
あれだけあれば、何百冊という本が買えるだろう。
まあ、ルフロ・ハロ製紙魔導院の愛娘、アステルとしては本は買う物というより作る物かもしれないけどな。
「少し、考えてみますね……」
アステルがそう言うのなら、俺としては何も言うことはない。
警備兵の詰所を出て、俺たちは大通りを歩く。
スプー湖に面しているだけあって、水が豊富な街という印象がある。
小さな水路が街中を流れていて、水車を動力にした機織工房があったり、ちょっとした広場に噴水があったり、井戸もあちこちにある。
俺たちはキョロキョロとおのぼりさん丸出しで街の雰囲気を眺める。
「はあ……異国情緒に溢れるという感じですね……いたた……」
アステルは街の風景に目を奪われて、足元が疎かになったらしい。痛めた方の足を普通に踏み出してしまい痛そうにしている。
「一度、そこらに座ってひと休みしよう」
俺は提案する。大通り沿いには飲食店も多い。屋台なんかも出ていて、串焼きにした魚なんかも売っている。
焼き魚の香りに惹かれて、つい足を止めてしまう。
アステルを噴水周りの座れる場所に待たせて、軽く屋台を巡って来よう。
焼き魚、柑橘系果汁の飲み物、貝を使ったスープもいいな。
シャンデリアバットの肉を使ったサンドウィッチもある。
「これは?」
スープパスタ?にしてはパスタは太いし、スープも透き通っていて、不思議な食べ物だ。ただ、やけに食欲を刺激する香りがしている。
「魚の出汁と発酵豆の調味料、アレコレ秘伝が入って、小麦粉を練って叩いて、延ばして切って、これが遠くワゼン国より伝わるスードンなる食い物でさ。
優しい味わいに深い旨み、一度試してみてくんな!」
「うーん……気になるけど、ふやけまくったパスタを放置して水が濁ったようにしか見えないんだよな……」
「まあ、そう言わずに、ちょいと味見してごらんな!」
スードン売りのおっさんが、茶色く透き通ったスープを小皿によそって、渡してくる。
まあ、味見くらいならと、受け取って啜る。
「ズズっ……なっ!?」
正直、味自体、するのかよ?と半信半疑で啜ったスープはコクがありつつもクドくなく、確かに優しい。
塩味?いや、でももっと柔らかで、色々な風合いの味が混じりあって……これが『旨み』?
やばい、このスープ、いくらでも飲める……。
おっさんはニヤリとして白いパスタを指さして言った。
「この具を入れると、さらに先があるぜ……。
オススメはこのケーツネか、タヌッキをトッピングしたバージョンだが、最低十杯はスードンを味わってからじゃないと、注文できねえってことになってる」
ケーツネは油を含んでテカテカと光るしわくちゃの薄茶色の紙みたいなやつで、タヌッキはコロコロした小さな丸い、黄色いつぶつぶだ。
「異国の食い物、スゲー……」
ケーツネとタヌッキも気になるが、まずは白いパスタか……。
「スードン、とりあえず二杯くれ」
「あいよ、六ルーンだ」
俺は金を払って、器に盛られたスードンなるスープを二杯買った。
「本来は箸って二本の棒で食うのが通なんだが、初心者はフォークでな!麺は啜れ!スープはそのまま啜れ!それが流儀だ!豪快に音を立てるのが正式なマナーだ!」
おっさんはエアー啜りを披露する。
ずっ……ずっ……ズズっ……はふはふ……んぐっ……ズズー……ごくんっ。
その真に迫った演技に思わず魅せられる。
「そ、そうなのか……」
俺は二杯のスードンを持って、アステルのところに戻る。
他のものも買いたかったが、まずはコレだろう。
スープを零さないように歩くと、小さく声が聞こえる。
「ずるい……」
他の食べ物には興味を示さなかったアルだが、スードンには何故か反応していた。
本来、アンデッドになると一般的な食欲は無縁になるはずなので、これは異国情緒に触れたいという知識欲かもしれない。
「アルは食えないだろ……」
「ぬぐぐ……」
女の子が発する言葉じゃないよな、ぬぐぐ……って。
はぁ、仕方ない。
「生き返ったら、食いに来ればいいだろ……」
「うううぅ……絶対だからね!」
唸るなよ……。
「はいはい……」
アステルのところまで戻って、一杯を渡す。
「これは?」
「スードンっていうワゼン国の食い物だって。
珍しいから買ってきた。食ってみてくれ」
「あ、ありがとうございます……」
アステルの顔が少し引き攣っている。
たぶん、俺と同じで、ふやけまくったスープパスタでも想像しているんだろう。
「こう、食べるものらしい……」
教えられた通り、パスタ、麺というらしいが白い太いパスタ状のやつを口にして、啜る。
ズズっと音が出る。
ん?んんっ?麺ウマー!!
モチモチとした弾力、だが、小気味良く歯で切れる。
少しの塩気が小麦の香りを引き立てる。
パスタとはまた違った良さがある。
表面がつるりとしているのが啜り易さに繋がって、次々と口の中に飛び込んで来る。
そして、スープだ。
麺の食感、香りとスープの奥深い味わいが、携帯食料で摩耗しきった食欲を新たに掻き立ててくれる。
「ずずず……ぷはっ!」
ん?もうない……。
アステルは唖然とした表情でこちらを見ていた。
まだ、ひと口も手をつけていないようだ。
「あ、食べ方の見本を見せるつもりだったんだけど……」
やばい、ちょっと恥ずかしい。
だが、そんなアステルはこちらを見て、クスリと笑った。
「なるほど、そのように食べるんですね……」
「いや、その、美味しいから、ぜひ……」
「はい!いただきます……」
アステルは意を決してスードンに挑む。
とても小さく、ずっ……ずっ……と音を立てる。
それから、ちゅるん、と麺の先端がその小さな口に吸い込まれる。
「まあ……美味しいですね!」
目を見開いて、スードンを見つめるアステル。
「それに、この食べ方もちょっとイケナイことをしているみたいで、なんだか楽しいです!」
「お、おう……」
「あの、あまり見つめられるとその……」
「あ、ご、ごめ……アイタっ!」
久しぶりにアルからデコピンされた。
「バカッ!」
「え!?今の……?」
アステルがキョロキョロと辺りを見回す。
それから、見えない何かを探すように目線を飛ばしながら続ける。
「もしかして、アールガート、さん?」
おうい、アル!喋んなよ……。
「あー、まあ、その……アールガートじゃなくて、アルな……」
「お話、できるんですか?」
「できると言えば、できるな……おおっぴらに喋って欲しくないんだが……」
死霊術士だとバレてから、次々にぼろが出てる気がする。
「あ、あの、はじめまして……というのも変ですかね?
えーと、いつもお世話になっております。アステルと申します」
「うん、知ってる。アルだよ。こっちがアルファ。って見えないよね……」
「え、お二人……あ、あの、いつもお世話に……」
「アルファはベルが最初に支配した霊体ね。わたしの友達。
それでわたしはベルの幼なじみって言えばいいのかな?
生きていれば、ちょっとだけベルのお姉さんだよ!」
「やめろよ、ほんの数ヶ月だろ!ほら、アステルが微妙な顔してるじゃないか……ほんの数ヶ月でお姉さんぶるとか、かっこ悪いよな」
「いえ、年齢差というより、その、亡くなっていらっしゃるんですよね?」
「え?うん。死んでるな。前も言ったかもしれないけど、ファントムっていう霊体型モンスターだよ、今は……」
「ええと、申し訳ありません……ちょっと混乱してしまって……」
「混乱……まあ、そうか……。
普通には見えないしな……」
「アレ使えば?」
アルが指摘するのは点眼薬のことだろう。
「いや、使うのはいいけど、今はやめとこう。
さすがにこんな往来で他の人に見えないアルと会話していると、色々問題になりそうだからな……」
「まあ、そうだね。アステルちゃんまで変な目で見られちゃうしね……」
「いや、別に俺も変な目で見られてる訳じゃないだろうが!
……とと、そろそろこの会話、一端終了な。
今夜にでも、ちゃんと会話の機会作るから。
アステルもそれでいいかな?」
「あ、はい。いきなり不躾ですみませんでした……」
「ううん。こっちこそ急にごめんね。
ベルこそ不躾なもんだから、つい我慢しきれなくなっちゃって……ダメだよ、ベル。女の子の食べてる姿をジロジロ見るなんて……」
「うっ……わ、悪い……。
アステルもごめんな……」
「あ、いえ……」
そうして、俺たちは一度黙る。
アステルはスードンを見つめて考えているようだった。
食べないのか?と思うが、あ、そうか、俺がジロジロ見てると気まずいよな……。
「あー、ちょっと他の屋台回ってくる……」
アステルに告げて、俺は立ち上がる。
とりあえず、アステルはようやく気がついたように、スードンを食べ始める。
あれ?俺の目の前でスードンを食べるのが恥ずかしい訳じゃなくて、別のことで考え込んでたのか。
まあ、いいか。
屋台巡りで俺があれこれ買い込んで戻る。
アステルはもう満腹らしいので、俺は少し待ってもらって、一人で食べる。
すると、俺たちが座る噴水周りに一人の冒険者がやはり屋台の戦利品だろう焼き魚の串を持って座る。
何故か俺の隣りに座るんだが、この人の特等席だったりするんだろうか?
身なりはそれなりに整った装備、革鎧に剣を吊って、頭に鉢金というのだろうか、鉢巻の一部を金属で補強したものをつけている。
痩身でひょろっとした印象がある冒険者だ。
ちなみに胸元に輝く【冒険者バッヂ】は『赤みっつ、緑ひとつ』なので、中級にこれから成ろうとしている初級冒険者だ。
彼はこちらを見ると、ひょこっと頭を下げて、にっこり笑う。
あ、歯が一本欠けてる。
何となく、俺とアステルも頭を下げる。
「君、冒険者だろ……?」
「あ、まあ……」
「隣、いいかのう……」
歯欠けの冒険者に答えようとしたところで、ずんぐりむっくり、胸元がモジャモジャの毛で覆われた髭男がアステル側に座る。
頭にバンダナ、着崩した服から覗く肌は赤銅色、腰にはやはり剣を吊るしている。
日に焼けた毛深い人ってイメージだが、こちらも冒険者のようで、腰帯に【冒険者バッヂ】が付いている。
こちらは『赤よっつ、青ひとつ』という冒険者だ。
「おいおい、俺が話し掛けてんだろうが!」
歯欠けがモジャモジャにイラっとした顔を向ける。
モジャモジャはどこ吹く風とでもいうのか、屋台の肉串を頬張りつつ、目線は遠くを見ていた。
「やれやれ、モグラはうるさいのぅ」
「こっちが先に声掛けてんだ、マナーくらい守れや、このカエル!」
「はん、冒険者のマナーの前に、人としてのマナーを守っただけのこと。話したけりゃ、穴蔵の中のミミズとでも話しておればええ」
モグラ?カエル?それがこいつらの名前なのか?
というか、なんで俺たちを挟んでギスギスしてんだ、この二人?
「なんだとー!お前らカエルこそ、飯が食いたきゃ飯屋行けや!」
「なんだ、話さんのか?なら、権利はこっちでもらっていいな!」
ぺろりと食べ終わった肉串の串を捨てて、指についた油を舐めとるモジャモジャ。
「お前が邪魔するからだろーが!これからなんだよ!これから!」
「なら、とっとこ話さんか……」
モジャモジャの筋肉質な左手にはまだまだ肉串がある。
次なる一本を食いながら言う。
歯欠けは魚串が一本、それもひと口齧ったきりだ。
「カエルに指図されるいわれはねーんだよ!」
「あ、あの……な、なんなんですか……?」
アステルが異様な雰囲気に飲み込まれまいと、懸命に声を上げる。
「ああ、お嬢さん、悪いね。
用があるのは、こちらの有望そうな冒険者さんなんだ」
歯欠けと目が合う。
俺かよ!しかも、有望そうとか、俺のどこ見て言ってんだ?
「なあ、冒険者さん。もうどっちにするか決めてんのかい?」
どっち……あ、入口で警備兵にも言われたな。
「何がどっちなんだ?」
「ああ、知らずに来たクチか。
この街には二つ『冒険者互助会』があるんだよ……」
ああ、だから『どっち』なのか。
「ひとつは『神の試練』に挑んで、金銀財宝を目指す『ダンジョン冒険者互助会』と、もうひとつは漁師の真似事をする半漁半冒の『カエル冒険者互助会』。
それでどっちで仕事するかって話なんだが……」
「おいおい、嘘はいかんだろ。
穴蔵の中でセコセコ、あるかどうかも分からない金銀財宝を探す『モグラ冒険者互助会』とスプー湖の目玉、浪漫溢れる巨大魚と格闘する『スプー冒険者互助会』じゃろ?」
モジャモジャが割り込んでくる。
なるほど、モグラとかカエルは蔑称か……。
つまり、ダンジョン専門とスプー湖専門の『冒険者互助会』があって、ふたつはいがみ合う間柄ってことか。
「おう、何が!嘘はイカンだ!お前こそ嘘だらけじゃねえか!」
「ふん、モグラが金銀財宝を持って帰ったなんて話、聞いたこともないからのう……」
「それを言うならカエルだって、巨大魚とか眉唾もんだろーが!」
「なにを!伝説の巨大魚スプー湖の主『スッシー』の例があるじゃろうが!」
「それを言ったら伝説の財宝、隠された海賊のお宝『トーク・ガワーの埋蔵金』があるんだよ、こっちは!」
なんか、不毛な言い争いに巻き込まれた感がすごいな……。
「ああ、どちらも本になっている有名な伝説ですね」
アステルはぴこんと人差し指を一本立てて、理解したという風に頷く。
なぬ?
「そんな本があるのか?」
俺はアステルに聞く。
「ええ、定期的にウチで紙を卸してますから。毎年、スプーのご領主様が人手を使って小冊子を出されているんですよ。
原本から情報を小出しにしつつ、その年の収穫などを纏めて、街おこしをされているんです……」
小冊子か。部数も少ない上に、街おこしとなれば都合のいい情報しか載せないような本なのだろう。
そういうのはじいちゃんが「なっとらーん!」と怒るからな。
ウチの『塔』には置かない類いの本だな。
「原本ならウチの『ダンジョン冒険者互助会』にあるぜ!」
「嘘しか書いてない『トーク・ガワー埋蔵金』の話じゃろ。
ウチの『スプー冒険者互助会』なら『スプー湖の主、幻のスッシーを見た!』というそれは由緒正しい原本が保管されとるわい!」
「原本……よ、読めるのか?」
思わず二人を交互に見る。
「え、あ、ああ、写本で良ければ『ダンジョン冒険者互助会』に登録すれば読めるぜ!」
「かぁーっ!セコいのぅ。さすが新参の互助会はそういうところがセコい。
伝統と格式の『スプー冒険者互助会』なら登録なんて面倒は言わんわい」
「え、もしかして、原本が……」
おっと、ちょい興奮して、ヨダレが零れるところだった。
「いや、さすがに写本じゃがな……」
「はっ!そんな手垢塗れの写本、もう読めなくなってんじゃねーの?」
「それはないな。何しろ、小難しくて読む奴がおらんからな!」
いや、それ自慢じゃねえし。んで、モジャモジャは豪快に笑っていた。
だが、これで俺の進退は決まってしまった。
歯欠けに向けて、手を差し出す。
「よろしくお願いします!」
「え?ああ、おう……何が決め手だかよく分かんねーけど、よろしく……」
歯欠けは釈然としない様子で俺の手を握った。
次いで、モジャモジャには反対の手を出す。
「こっちもよろしく!」
「いや、どちらかしか登録できんでな……」
「んじゃ、写本だけ読みに行くんで、よろしく!」
俺は手を引くことなく、握手待ちだ。
「ああ、まあ、そりゃ構わんが……どうも、すっきりせんな……」
一応、肉串を持ち替えてモジャモジャも握手してくる。
油っこいけど、どうでもいい。
「まあ、どうせひとつ、ふたつ仕事したら、また旅に出るんで!」
俺は瞳を輝かせて言う。
「ああ、船に乗るなら客じゃな。まあ、よろしくのう……」
こうして、俺はアステルと宿を決めてから、『ダンジョン冒険者互助会』に登録に行くのだった。
ちなみにアステルは神殿で『奇跡』を願いに行くので、別行動だ。
『奇跡』は魔術とは違うので、俺の専門外だし、アンデッド的には鬼門だ。アステルが一人で大丈夫だと言うので、任せる。
お布施、高いんだよな、アレ。
まあ、アステルなら気軽に払えるだろう額ではある。
ここだとやっぱり水の神様かな。
『奇跡』は使える人が限られる。どこの神殿でもお手軽にという訳にはいかない。
あと、俺には懸念がある。
たぶん、俺には『奇跡』が通じないだろうと思う。
何しろ、『サルガタナス』の呪いで神様から嫌われてるから。
副神様だけは認めているというか、暗黙の了解をもらっているので、全ての神様という訳ではなさそうだが、その副神様というのも誰だか分からないし、神殿には近付かないのが吉だろう。
ということで、俺は『ダンジョン冒険者互助会』の扉を潜るのだった。