イオ?強くなりたい!
ちょっと投稿ペース乱れてます。
頑張れ、自分!
「んじゃ、次は私にゃ!」
は?
イオは何を言っているんだろう?
あと、アル、何故やる気に満ちた目でこっちを見る……。
今、散々マチャに斬られたばっかりだろ。
アルファも任せて下さい、みたいな感じで頷かないの!
剣を正面、中段で構えるアルに対して、イオは身体を半身に、背後に隠すように剣を構える。
「ふふっ!剣はやる気みたいにゃよ?」
「……だあっ!分かったよ!
でも、俺を巻き込むな!その剣は勝手に動く!やりたきゃ剣とだけやってくれ!」
「それじゃあ、勝ち負けがつかないにゃ!」
「やっぱりアールガートなんですね!」
アステルは俺が適当に誤魔化している剣の性能を『ダークナイト・外典』というダンジョン産の本に書かれている、知性ある剣『アールガート』と重ね合わせている。
アステルはダークナイトシリーズにかなり思い入れがあるので、この剣、というかアルの操る剣に興味津々らしい。
「た、ただの魔術だから!
勝ち負けじゃねーだろ!最初は剣筋を見るって話だったじゃねーかよ!」
「ええ、それじゃつまんないにゃ!」
なんでだよ!?このパーティーでは「つまんない」って流行ってるのか?
俺はそこらに転がっている木の枝を一本拾い上げて、地面に突き立てる。
「これ!これが俺な!これが斬られたら俺の負けでいいから」
「じゃあ、ちゃんと防壁の魔術かけといてにゃ!
邪魔したかったら邪魔してもいいにゃよ」
構えを解いてイオがそう言う。
「ああ、はいはい……」
簡単に言いやがって……一瞬、本気で結界魔術でも掛けてやろうかと思うが、そんなことに魔宝石を使うのも馬鹿らしい。
アルファになるべく斬られないように、と話しておく。
イオは一応、アルの剣筋を見て、マチャのように色々と説明してくれる。
「やっぱり、人間ぽい?」
「そういう魔術なんだよ!」
ということにしておく。
「たぶん、ここが腕。踏み込みの足がこの辺りにあるはず!」
良く分かるな……。マチャの時もそうだったけど、アルは何度も斬られている。
「まあ、人間が持っていると想定してれば、なんとなく分かるものさ、にゃ」
凄いとってつけた様に『にゃ』って言うなよ、ビジネスにゃんこ。
でも、言ってる通りにアルは斬られてるから、実力は本物なんだろう。
「んー『赤ふたつ』冒険者って感じにゃね!」
おっと、残念。生前のアルは『赤ひとつ』冒険者だ。
それとも、アルって成長してるのか?
そういえばマチャも段々、良くなってきたとか言ってたしな。
イオはアルの剣を巻き取るように剣を滑らせると、アルから剣をもぎ取った。
アルの剣が空高く放り投げられる。
アルは呆けたように自分の手を見た。
それから、アルは剣に向けて手を伸ばす。
放物線を描いていた剣が、途中で軌道を変えて、アルの手に収まった。
ポルターガイスト能力!?使えるようになったのか?
って、アルが驚いてるよ……。
偶然か!
でも、偶然でも進歩だ。これがアルに変化を齎すなら、無駄じゃないな。
ギャラリーというか、他の乗客や御者のおっさんも「「おおっ!」」とか歓声を上げる。
暇か!?
まあ、後は雑談か寝るだけだから、暇なんだろうな。
「おお、そういうこともできるんだ!にゃ」
うん、どんどんぞんざいになっていくな、語尾。
イオはアルの剣を跳ね上げてすぐ、仮想俺こと木の枝に向かっていたが、気配を感じたのか後ろを向いて剣が戻る様を見ていた。
アルは剣を握るとすぐにイオに向けて駆け出すが、それを待ち受けたイオはアルの胴を一閃、真っ二つ……にはならなかったが、一瞬、俺も焦った。
「あ、これじゃ止まらないんだった……」
慌ててイオが振り向いて、剣を構える。
でも、アルもショックだったのだろう。動きが止まっている。
イオは駆け出す。もちろん、勝ちを取るためにだ。
哀れ、仮想俺は一撃を……というところで、俺の隣に待機していたアルファが腕を振るう。
不可視の一撃。ポルターガイスト能力による衝撃波がイオの腹にめり込む。
「ぐはぁっ!わ、忘れてた……にゃ……」
お腹を抑えてイオは蹲る。
それから、アヤ、エモ、ノマと、何故か全員とやることになった。
結果は四勝一敗でアルファの勝ちだった。
ノマの吹き矢が仮想俺に突き刺さっている。
ノマの棍は中が中空になっているらしく、暗器のように吹き矢が仕込まれていた。
アルファのポルターガイスト能力は腕の延長という感じなので、広範囲を守ることはできない。
吹き矢で飛ばされる矢針が上手くポルターガイスト能力をすり抜けたという感じだった。
不満そうなのは、アルとイオたちパーティーメンバーで、全員からもう一回!もう一回!とせがまれたが、夜も更けていたこともあって、俺は「また今度!」といって逃げた。
月がそろそろ沈もうかという頃、俺は何かに引っ張られて起こされた。
アルの囁く声が耳元で聞こえる。
「ベル、聞いて欲しいことがある……」
俺は起き出して、移動することにする。
見張りをしていたアヤがこちらに気付いたので、トイレと言って離れた。
「あまり離れすぎないようにして下さい……あ、ち、近くでしろってことではなくて……」
顔を真っ赤にして話すと逆にどんな想像されてるのか不安になるな……。
何かあったら大声出すから、と手を振った。
そして、馬車からそれなりに距離を取る。
そろそろいいか、というところでアルが声を掛けてくる。
「あのね……」
「またやらせてくれって話だろ?」
俺は点眼薬を使いながら、機先を制する。
「うん……」
「あれだけ斬られて、まだやるのかよ?
生身だったら二百回くらい死んでるぞ?」
「あの、ご主人様。そのことで少しお話が……」
「何かあった?」
俺に言われて落ち込むアルをよそに、アルファも話があるようだった。
「実は……アルちゃんの霊体が弱まってます……」
「え?ど、どういうことだよ?」
「恐らくですが……アルちゃんは斬られたという精神的衝動が霊体にダメージを与えていると思われるのですが……」
そうだよな。そもそも霊体なんてあってないようなものだ。
同じような霊体型モンスターである『オーブ』はモンスター図鑑に物理攻撃無効とはっきり書かれているくらいだしな。
斬られたところで、それがダメージになるとは思えない。
でも、肉体がないから精神に大きく左右されるということだろうか?
……ありえる。
そもそも、霊体は未練がなくなったら、次の輪廻へと向かってしまうという脆さがある。
未練がなくなるというのは霊体の精神活動に依存している部分が大きい。
だとしたら、自意識を持つ霊体型アンデッド『ファントム』であるアルやアルファは、自分が「死んだ」と感じる度に精神的に負荷が掛かり、霊体にダメージを受ける可能性は充分にある。
え、ヤバくないか、それ!
俺の顔色が変わったのを察知したのか、アルファが続ける。
「……それで、ですね。
人工霊魂をいただけないかと……」
「どういうことだ?」
「アレをいただくと、意識がはっきりするというか……霊体が強化される感じがするので……」
そういうことか!
俺は腰のガンベルトから『取り寄せ』魔術の魔法陣を抜く。
本来はアルとアルファのご機嫌取り用に用意してある人工霊魂入り竹筒だが、そんなに沢山は要らないだろうと、取り寄せ部屋に置いてあるのだ。
懐から魔晶石を出して、魔法陣にオドを吸わせる。
魔法陣が光を放って、竹筒が現れる。
その数、三本。
これで作ってあるのは全部だ。
「アル、とりあえず食え!」
一本開けて、俺は人工霊魂を取り出す。
アルは何も言わずに、俺が言うままに食べた。
「アルファ、他に気付いたことがあれば言ってくれ」
「あ、は、はい。でも、他には特に……」
俺はまた筋肉痛になるんじゃないかと思いながらも、必死に人工霊魂を取り出す。
暫く続けていると、人工霊魂が無くなった。
「あ、戻りました!」
「戻ったってのは、霊体のダメージが消えたってことでいいのか?」
「はい、アルちゃんの色が濃くなりましたから」
色が濃くなる?なるほど、点眼薬も完璧じゃないってことか。
どうも、アルファの、霊体の目にはアルの色が薄く見えたり濃く見えたりという差異があるらしい。
「アル、どうだ?」
心なしかアルの瞳に輝きが戻ってきているように感じる。
「たぶん……大丈夫。
あのね、ベル。私ね……思ったの……」
「何をだよ?」
「今がチャンスなんだって!
あれだけ実力がある冒険者と手合わせできる機会なんて、そうないでしょ?しかも、私はベルの魔術で勝手に動く剣だと思われてるから、あの人たちは一切手加減しない。
今回のことでベルには心配掛けちゃったけど、私、強くなりたい!
ちゃんと、生き返ってまたベルと冒険したい!
その時にベルのこと守れるように、強くなりたい!
だからね……」
ああ、ずるいよな……と思う。
アルは俺が心配しようが、否定しようが、どうせやりたいようにやる。
いざとなれば、あの女冒険者たちの前で剣を振ってやれば、あいつらは分かったとばかりに、勝手に模擬戦を行うだろう。
でも、アルはわざわざ俺に頼んできた。
俺がアルの頼みを最終的に認めてしまうのを知っているのだ。
勝手に動かれるくらいなら、俺の制御出来る範囲で動いてくれた方が楽だと俺は考える。
アルにしてみれば、そこら辺も織り込み済みってことなのかもな。
まあ、なんにしろ、アルが生き返りたいと思ってくれるなら、俺は歓迎せざるを得ない。
「はぁ……分かったよ……たぶん、アルが生き返る頃には、俺は超絶冒険者になって、アルに守られる必要はないと思うけど、心意気だけは買っておいてやるよ……」
俺は飽きれたように言う。
「あれ?私、生き返るのに数百年単位でかかるの?」
アル、確かに俺の動きは鈍い、更には最近でこそ冒険者という生き方に多少の共感も出てきたが、基本的に本を読んでる方が好きだから、俺が超絶冒険者になるのに時間が掛かると思われるのは仕方がない。
でもな、数百年って、俺が生きてねーよ!
「ちげーわ!俺の『芋ん章魔術』は、『赤ななつ』冒険者から、『赤いつつ』冒険者並の力があるって言われてるんだぞ!」
デニーが言ってたから、信憑性はある。
だから。
「異名持ちの冒険者になるのなんてすぐだかんな!」
「『黄色』とか?」
「【冒険者バッヂ】にねーだろ、その色は!」
黄色はデブキャラって誰が言い出した話なんだろうな。
何故か太古の昔からそう決まってるらしいけど。
「幸福感を感じさせる色ですね!ご主人様にぴったりかと!」
アルファはそんなことを言う。
確か、昔読んだ本に、『色と精神の関係』って学術書があって、そんなことが書いてあったような気はする。
「でしょ!なんでベルは怒るかな?」
幸福?いやいや、ネクロマンサーだぞ。しかも、俺の嫌いな『ロマンサー』になっちまって、幸福なんて程遠いわ。
俺が幸福を感じるとしたら、俺の『とても強い願い』が叶った後だよ。
「あ、『奈落大王』!」
アルが思い出したという風に言う。
異名は異名でも、『ここのつ』超えの冒険者に付くやつじゃなくて、他のやつから出た噂から付くやつな。
でも、それは胃袋が奈落並にデカいって意味のやつだから。
とりあえず、この話を訂正するのは大変そうなので、早めに話を切り上げる。
「ああ、あんまり遅くなると誰か探しに来ちまうな。
そろそろ戻ろう……」
俺は二人を連れて、馬車へと戻るのだった。