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師の言葉!先生、マチャ!


「早く乗るにゃ!」


俺たちが乗ると伝えると途端に急かす猫耳獣人。

どうやらライバル関係らしい狼顔獣人に先を越された直後だから気持ちがいているらしい。


「お客様を急かすやつがあるか!

どうもすいません……」


御者の男が謝ってくる。

彼の説明によると『スプー』まで二十ジン。

『シロフ村』から、ここ『ヂース』までが六ジンだったのを考えると、同じ二週間程度の道のりである『スプー』までで二十ジンというのは、かなり割高だが、護衛の冒険者がしっかりついているから仕方が無い。


そして、俺の旅の資金は二百十ジンくらいまで減ってしまった。いざとなれば魔石を売るというのも手だが、魔導士としては魔石は商売道具。

どうするかな……。


馬車が動き出す。

ちょうど俺とアステルで定員だったようだ。

相変わらず俺が剣を他の荷物と一緒に馬車の上に載せると、御者からは驚かれたが、まあきっちり護衛が着いてますからと愛想笑いを頂いた。

御者がチラリと俺の【冒険者バッヂ】を確認して納得したような顔をしていたのは、この際、どうでもいい。


馬車の乗客は俺以外に冒険者はいないようだった。

だが、護衛の女冒険者の一人は馬車の中にいる。

彼女はノマと名乗った。どうやら吹き矢と棍術というのを使う、ちょっと異色の冒険者らしい。


それはそれとして、アステルは早速、本を開いているので俺もそれに倣うことにする。

俺とアステルの座席だけ、他の乗客と浮いてるような感じがするが、元々二人ともそういうことを気にするタイプではないため、すぐに自分の世界へと入り込んでいた。


俺が読むのはじいちゃんの弟子、フェイブ兄が書いた『師の言葉』だ。

凄く真面目にじいちゃんの言葉を受け止めているのが、良く分かる。

実情を知る者としてはなんとも複雑だけど。

じいちゃんは自分たちの研究で判明したことは、基本的にバンバン公表するタイプなので、目新しいことは書かれていない。

でも、フェイブ兄の言葉を借りるならじいちゃんは『先進的で実践主義、神秘の秘奥を目指す探求者にして、世界に革新をもたらすべく活動する偉大なる思想家』なんだそうだ。

俺の言葉に直しちゃうと『新しいもの好きで、とりあえずやってみよう。魔術は論理、どうせいつかは解き明かされるものだから、言ったもの勝ちじゃ』という感じになってしまう。

そういう感じだから、じいちゃんはたまに間違った発表なんかもしてる。

そういう時は他の国の偉い魔導士さんに公的に弾劾されたりして、昔は結構、苦労したらしい。

でも、フェイブ兄は生真面目で哲学者って感じだから、じいちゃんの言葉をこねくり回して、勝手に納得しちゃうところがある。

そんなフェイブ兄の思考回路を通して見るじいちゃん像というのも、なかなかに笑える。

じいちゃんが「詠唱魔術における属性解明をする。同じ系統の魔術を集めて、そこに使われる文言から類似するものを探すのじゃ!」と言った時、要は呪文の総当りの第一歩の時、他の弟子たちが散々に文句を言ったのに、フェイブ兄とメイだけはそれを支持した。

フェイブ兄は、はっきり言ってじいちゃんの思いつきでしかなかったそれを、素直に信じた。

じいちゃんは普通の魔導士と違って、覚えている詠唱魔術の量がとても多い。だから、なんとなく似たような音節があるなぁとかその程度の感覚だったはずだ。

それを素直に信じてしまう根拠というのは、フェイブ兄のじいちゃんに対する信頼感だ。しかも若干、心酔しているきらいがある。

メイはなんとなく面白そうだからって感じなんだろう。

必死にフェイブ兄は他の弟子を説得した。メイも支持していたが、メイは感覚派なので、説得の邪魔にはなっても援軍にはならない。

仕方ないので、フェイブ兄は高名な錬金技士アルケミースミスである母さんに応援を頼む。

だが母さん曰く「また、お父さんの変な思いつきでしょ?弟子だからって何でも言うこと聞いてたら、貴方の身が保たないわよ」と言ったのを曲解して、この時ばかりは師の娘たりとも、詠唱魔術の深淵を覗くことに懐疑的だったが、我が身の心配を口にすることで、密やかなエールを贈られた。と随分都合の良い解釈をしていた。

いや、普通にやめとけ、としか解釈できない気がするんだが……。

だが、フェイブ兄が確信に至る出来事が『師の言葉』には綴られている。

それは、ある子供の言葉だ。

『塔』にはたくさんの子供が勉強に来ている。

その中の一人が「ねえ、同じ言葉にも違う意味があるって本当なの?」とフェイブ兄に聞く。

その男の子は、友達の女の子に「嫌い!」と言われて落ち込んでいた。

そこでメイに相談を持ち掛けたところ、「同じ言葉にも違う意味があることもある」という話をされたらしい。

その子は「嫌いは嫌いだよね?ひとつのことを表す言葉に幾つも意味があるんじゃ、意味が伝わらないじゃない?」と困惑していたらしい。


……俺だ。その男の子は俺だー!俺の黒歴史ー!

フェイブ兄、何、書いてくれちゃってんのー!


こほん。と、とにかくフェイブ兄はその子の言葉でじいちゃんの言葉に更なる確信を持ったらしい。

確かに詠唱魔術の文言全てを今すぐ解明するというのは不可能だ。だが、ある一点を指す言葉、それひとつなら解明は可能だと確信したのだ。「嫌いは嫌い」それ以上でも、それ以下でもない。その意味を規定するのは前後の文章によるのであって、その言葉自体が持つ意味はひとつであるという結論に至ったらしい。

ならば、『炎』を生み出す呪文と『炎避け』の呪文に類似する文言があるはずだとフェイブ兄は考える。

ある程度、集める呪文の方向性が見えたことで、師の言葉は実現の可能性を得たのだった。というようなことが書いてある。


そ、そうか……あの時、フェイブ兄は「前後の事象にも留意する必要がある。嫌いは嫌い。確かにその通りだ。だが、言葉は時に様々な意味を伴うこともあるのだ。『嫌い』は『嫌い』だが、それの意味するところは『興味がない』ではない。

否定的に『興味がある』という風に捉えることもできる。

この場合……」なんだっけ?そこから三十分くらい長々と説明された気がするが、あまり記憶に残ってないな。

まあ、なんとなくフェイブ兄なりに励まそうとしてくれたというのは覚えているが、記憶に残ってないということは、大して大事なことじゃないのだろう。

まあ、そういう話をしながらも、フェイブ兄は言葉が表す意味ということに着目していたということだ。


と、そういう感じで、俺は昔の記憶を掘り起こしながら『師の言葉』を読んでいく。

うん、ちょいちょい俺が出てくるな。

一応、じいちゃんの孫とは書かれていないが、フェイブ兄の印象に残っているようだ。

今度会ったら、出演料せびろう。


そうしている内に、馬車は昼の休憩となった。

女性ばかりの冒険者パーティーということで、多少の不安はあるが、逆に女性ばかりだからこそ細かいことに気付いたりもするらしい。

乗客に気分が悪くなっている者がいれば、備え付けの毛布を出して休ませてやる。

三人ほどが斥候に出て、少し離れたところにトイレを作るなど、配慮があるのは嬉しいところだろう。

見れば女性客の割合が多い気がする。リピーターもちらほら居るのか、気さくに冒険者に話し掛けている乗客もいる。

男ばかりの冒険者パーティーだと、まず見られない光景だな。

また、冒険者としても優秀らしく、陽のあるところで見れば、その装備もなかなかに高そうだ。

あと、傷などはあるものの鎧が綺麗だ。

これが男ばかりの冒険者だと、意外と無頓着な奴が多い。

逆に返り血自慢する冒険者なんかも居るくらいで、血と埃に塗れて近づくとちょっと臭うのを、カッコイイと考える奴も居る。

デニーなんかはその点、男性冒険者としてはちょっと異質な方かもしれない。爽やかさと正義感で成り立ってる感じだし。


軽く休憩を挟んで、馬車は出発する。

今度は馬車の中に居る護衛が変わる。

金属製の鎧兜にデカい盾、短めの槍を窮屈そうに立て掛けている彼女はアヤと名乗った。

乗客のおばちゃんがそれを見て、気さくに声を掛ける。


「あら〜、そんな重そうなもの着けて、大変そうだねぇ」


「あ、い、いえ、な、慣れてますから……」


恥ずかしそうにアヤは答える。黒に近い藍色の髪はおかっぱなのか、前髪がぱっつんになっている。


「そんな大層なもの着けてると、禄にお洒落もできないでしょう?」


「え、ええ、まあ……」


「兜の中身はこんなに可愛らしいお嬢さんなのに可哀想ねえ……。あ、そうだ!いいものがあるのよ!」


おばちゃんはピンク色のリボンを取り出し、それを槍に結ぶ。


「あ、あの、汚れちゃいますから……」


「いいのよう!あたしが趣味で作ってるんだけどね。いっぱいあるから使ってやって!いらなくなったら捨てちゃっていいから……」


「あ、ありがとうござ、ございます……」


アヤは顔を真っ赤にして頭を下げていた。

何故か乗客は皆、ほっこりしていた。


そんな会話を小耳に挟みながら、俺の隣からは小さな声でアステルが呟くのが聞こえる。


「行け、アールガート。翼を断て……」


うおお、アステル、お前もか!つい、セリフとか呟いちゃうよな!

つい同志の癖を聞いて、俺は俺でほっこりする。

だけど、同時に俺がまだ読んでないからネタバレやめてくれ!とも思う。複雑な心境だ。


そんなこんなで二つの村を越えて、五日目になる。

休憩や夜を挟む度に、入れ替わりで違う冒険者が馬車の中に座るので、乗客はそれなりに楽しんでいる。

例の猫耳獣人はイオと言う名前らしい。

イオはサービス精神旺盛なタイプで、自分から乗客に耳を触らせたりしていた。但し、尻尾は触らせないらしい。


「これは、好きな人にしか触らせないことになってるにゃ!」


ということらしい。


他に身の丈ほどもある大剣を持っているエモは身体の傷が凄いが、見た目に比べてとても女性的な性格をしていた。

他の女性客と恋愛相談をしあったりしていた。

最後の一人はマチャという名前で、短弓使いで双短剣使いらしい。

性格は豪快。豪放磊落という感じで、メンバーの中で一番身体が小さいが態度がデカいという感じだった。

ちなみにこのマチャ。馬車に乗り込んでいきなり俺の腹をぽんぽん叩いてきた。


「ん?何してんの?」


「いやあ、何が詰まってんのかと思ってさ。

冒険者だろ、ちゃんと剣、降ってるか?」


「あの、ベルさんは剣を振らないので……」


「ん?コレ?」


小指を立てて俺に聞いてくる。なんか、ゲスいな。


「い、いえ、そういう訳では……」


「同志だ。旅の連れってやつだよ」


「同志?良くわかんねーけど、コレじゃねーのか……つまんねぇな!」


すっごいにこやかに、つまらないと言われてもどうしたらいいのか分からん。


「にしても、剣、振らねえのか……飾り?」


「魔術媒体だ」


「はあ?魔術?何、魔導士なのお前?」


「ヴェイルな」


「ああ、だからベルさん?んじゃ、ベルでいいな」


「ベルさんは高名な……」


アステルが言おうとするのを俺は手を上げて、止める。


「アステル、そういうのは言わなくていいよ。

逆にバカにされるのがオチだから」


親じゃないけど、祖父の七光りなんて実力が伴わないと、バカにされる格好の材料だ。

特にマチャみたいなタイプは実力主義だろうから、気をつけないといけない。


「ふーん。剣を振るなら、暇な時に剣筋でも見てやろうかと思ったけど、振らないなら意味ないね……」


途端にマチャは興味をなくしたように目線を逸らした。


トントン……。


肩を二回、軽く叩かれる。

振り向いても誰もいる訳がない。

アルだな。やりたいらしい……マジかよ……。


「……見てもらえるか?」


「は?」


「剣筋、見てくれるんだろ?」


「振らないんでしょ?」


「振らないけど、振ってるようなもんだから……」


「なんだそりゃ?まあ、こっちから言い出したことだから、いいけど……んじゃ、次の休憩の時な!」


それから暫くして、馬車は止まる。

今日はここまでらしい。陽が暮れ始めている。

全員で野営の準備をする。

斥候に出ていたノマが吹き矢で鳥を捕まえてきたらしい。

他の乗客と一緒になって、鳥団子鍋を作る。

何故か、一度やったら以後、俺が味付け係に任命されていた。

なので、鳥団子鍋に味付けをする。

最初に少しだけ味見させてもらう。

……うん。鳥肉の味がしっかりしているから、塩は余り振りすぎないように……。

香辛料はぱっぱっぱっーと。

ずずっ……。うん、ばっちりだな。


「どうですか、先生?」


「え?ああ、こんなもんでいいと思いますけど……」


食事時だけ、俺は先生と呼ばれている。

俺はおばちゃんに許可を出すと、おばちゃんが全員に鍋をよそっていく。


「あ、ちょっと待って!」


「はい?」


俺は辺りを見回して、背の低い木の葉を毟って、洗う。

最後に両手で、ぱんっ!と潰して、それを各人の皿に載せていく。


「あら、いい香り……」


「こいつは『オシスの葉』。

爽やかな香りと、ほんの少しの酸味がある。脂の強い肉なら二、三枚、ノマの取ってきてくれた鳥なら地味は強いけど、脂はそんなに強くないから、一枚入れてやると、味が締まるよ」


「あ、ほんとにゃ!さすが先生にゃ!」


「ホント……まるで高級店のお食事を頂いているみたいだわ、先生!」


「先生!」「先生!」「先生!」


いや、先生じゃないから……。皆で先生、連呼するのかよ……。

まあ、これも好きに呼ばれる内のひとつか……好きにしてくれ……。


「いやぁ、うまかった!さて、先生。そろそろやるか?」


げふぅ、とマチャが盛大にげっぷをする。

おい、推定年齢十八歳の小柄美少女なおっさん……。

せめて、その大股開きな胡座はなんとかならんのか。

いつまでも胡座をかかせるのも忍びないので、とっとこ食事を済ませて立ち上がる。

とりあえず、久しぶりに霊体が見える点眼薬を使い、 『光』の芋ん章魔術で四方を照らす。


「まあ、明るい!」


見たまんまだな、おばちゃん。


「え……なっ……!?」


「凄い!これなんなの!?」


前髪ぱっつんのアヤは絶句、イオは語尾のビジネスにゃんこ忘れてるぞ……。


「これもテイサイートの……?」


アステルには軽く説明してあるから、すぐに理解できたようだ。


「な、なんだ?これ、魔術なのか?なに?こんなの見たことないぞ!?」


軽くパニックになっているのは吹き矢を使うノマだな。


「はぁ……綺麗ですぅ……」


何故かロマンチックに浸っているのはエモか。

これからアルとマチャの剣劇が始まるんだけどな。


「へっ……この程度でビビるかよ!」


マチャは立ち上がると、腰の双短剣を抜く。

器用に短剣を手首で回して見せるのは、他の乗客へのアピールかもしれない。


俺は適当に呪文を唱えるフリをしてアルに目配せする。

アルは馬車に足を引っ掛けるようにして、屋根の上に括りつけてある鞘から剣を抜いた。


「ええっ!勝手に動くのかよ……」


マチャが驚きに目を丸くする。


「そうだな……この剣を躱してベルに一撃入れたら勝ちでいい?」


なぬ!?そ、それは困る……。


「どうしたの?目が泳いでるけど?」


「あ、えっと……剣筋を……」


アルが剣を持つ腕を反対の手で叩いて、任せろと応じる。

はあ……一撃か……一撃ね……相手は『赤みっつ、緑いつつ』だぞ。

なんでそんな自信満々なんだよ。

一撃、寸止めにしてくれるかな……。


「い、痛くしないでくださいね……」


とりあえず、弱気になってしまう。


「ふふーん。痛くならないように、せいぜい頑張ることだ……ねっ!」


軽くステップを踏んで、マチャが突っ込んでくる。

アルはムスッとして唇を尖らせてから、マチャの進路上に割り込む。

軽く短剣でアルの剣を押して、マチャが身体を入れ込んでくる。

アルはバックステップを踏むと、気合い一閃、横薙ぎに剣を振るう。


おい、殺す気かよ!

俺がアワアワしていると、マチャはニヤリと笑う。


「思い切りはいいね!まるで人間を相手にしている気になるよ!

例えば、こう来たら?」


あれ?マチャってアルは見えてないよな?

なのに、まるで見えているかのように空中に浮かぶ剣に対してレクチャーを始めてしまう。


「うん、基本は出来てるね。でも、剣筋は素直過ぎる。

どうもこの剣は繋がりが見えてない。

右、左、右、左、右、下!ほら、いちいち戻らない!モンスターは構えを正している間なんて、与えてくれないよ!

ほら、右、突き、突き、下、左!

絶対交互に相手が振ってくると思うな!

いくよ、下、下、左、突き、上!

わざと上を打たずに、下ばかりにしてたから意識が下がってる!

そんなところまで人間っぽくしないで、もっと自由でいいんだよ!」


マチャの剣技にアルは翻弄されっぱなしだ。

でも、アルは霊体だからマチャに斬られても平気ではある。

というか、霊体だからいいけど、俺の目にはすでにアルは何十回と斬られている。


「おお、あの剣、段々と動きが良くなってきてるにゃ!でも、本当に人間みたいな動きだにゃ〜?」


見ていたイオが感心したように頷いている。

マチャの動きは次第にステップが入るようになり、それから優美な踊りを見ているように動き出す。


「ほら、一撃、一撃に対処してたら一生終わらないよ。相手の動きを線として見るんだ!って、これ見てるのかな?」


キョトンとマチャが首を傾げる。

大きな隙ができるのに、だらりと腕を下げて、このまま腕組みでもしてしまいそうだ。

もちろん、アルもそれは逃がさない。

大振りの一撃を狙うのではなく、コンパクトな突き、しかし踏み込みは大きく必殺を狙っている。


「そうそう。んで、次は?」


カインッ!と軽い音がして弾かれる。ああ、わざと隙を作って打ち込ませたのか!

アルはそれを想定していたのか、剣先を弾かれたそのままに、剣の柄で殴った。

これをマチャは一瞬、驚いたものの上体反らしの要領で避けると、アルの顎先を蹴り上げた。

霊体だから透過しちゃうんだけどな。

そのまま、マチャは一回転して、膝を使って立ち上がる。


「今の感じは驚いた!言った意味を理解してるみたいだね!

でも、忘れてるよ!」


マチャはそう言うと、アルの身体を避けるようにしてサイドステップ。それからダッシュで俺に向かってきた。


「わ、わぁーっ!」


そうだ、俺に一撃入れたら勝ちって話だった。

俺は慌てて頭を庇う。


「へぶっ!」


変な声が聞こえる。俺は恐る恐る目を開けた。

俺の目の前にアルファが立っていて、その拳が突き出されていた。

美少女おっさんマチャが膝をついていた。

顔を挙げたマチャの鼻から盛大に鼻血が流れていた。

マチャは鼻の片側を親指で抑えて、ブッと鼻血を飛ばす。


「そうか、魔導士だったっけ?なんかの防壁魔術でもあんのか?」


「あ、ご、ごめ……」


「いやいや、こっちの油断だわ……まさか、こんな奥の手があるとはね……」


違う。契約によってアルファが勝手に動いただけなんだ。

なんか、その……すまん。


「ありゃ、マチャが負けたにゃ……?」


「ああ、こっちの負けだわ。

魔導士が使う魔術はひとつだと思い込んでた。

勉強になったよ」


獲物を見るような目でニヤリと笑うマチャだが、目が笑ってない。


ヤバい、怖い……。


だが、マチャは短剣を仕舞った。

あー、一応、ルール違反とか騒ぐタイプじゃなさそうで安心した。


「へへっ……『緑ひとつ』ね……。

やるじゃんか、ベル。また、やろうぜ!」


マチャは仲間の元に戻っていった。


また!?勘弁してくれ……。というのが素直な感想だった。



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