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せーい!ビジネス?

アステルと同じ宿。もちろん、部屋は別だ。

アステルが言うには、ホントにふらっと旅に出たというような話で、本人的には見聞を広められれば……ということだった。

お互いに本の貸し借りをするというのが二人の約束だった。

アステルの旅支度はその殆どが本で、後は着替えが数点とお金だけという、恐ろしい程の軽装だった。

いや、本が十冊もあれば恐ろしい程の重装備とも言えるが……。


とにかく、アステルの気が変わるまでは俺と行動を共にするということになった。


イヨッシャー!

持ってる本を見せてもらったところ、俺の知らない本が半分くらいあった。

まだ、世に出回る前の本らしい。

なるべくアステルのご機嫌を取って、俺の知らない本を借りなければ……。


それは、それとして、夜は商人なんかが集まる酒場で情報収集をしてみた。

街近辺の情報は冒険者が集う酒場、他の街や街道の様子なんかは商人が集う酒場で耳をそばだてると集まりやすいというのは、じいちゃんの弟子の中でもしょっちゅうあちこちに出掛けていたメイから聞いた。


それによると、『ヂース』から『スペシャリエ』回りの街道はかなり混みあっているらしい。

なんでも、『スペシャリエ』から兵士の一団が物々しい雰囲気でこちらに向かっているらしく、一部通行規制があったりして、普段の倍くらいの日数がかかるようになっているらしい。

どこかの街で反乱の気配でもあるのかとか、モンスターが溢れかえったダンジョンがあるのかもとか、噂になっているが、情報の真偽は分からずじまいだった。


それから『スプー』回りのルート。

こちらはどうやら、いつも通りであまり変わり映えしないといった話が囁かれている。

『ヂース』から『スプー』への街道は元々整備が遅れているらしく、あまり良い道とは言えないらしい。

ちょうど、始めて『スプー』方面に行商に行こうと思っている商人が、そちら方面に慣れた商人から色々とアドバイスを受けているところだったので、俺とアステルは便乗して話を聞かせてもらった。

曰く、護衛の金はケチるな。道に慣れた御者を探せ。荷物の半分はガラクタを詰めて行け。

というような話だった。


「荷物の半分にガラクタを詰めるというのは、この地方の厄除けの風習だったりするのでしょうか?」


「ああ、あるよね、意味が分からない風習とか。

でも、荷物の半分にガラクタを詰めるって、正直荷物が重くなるばっかりで、いいことない気がする……」


「そうですね……今の荷物の倍になったら、ちょっと困ります……」


アステルはすでに本を十冊も持ち歩いているからな。

さもありなん。


「護衛の金をケチるなって言うくらいだから、しっかりした護衛のいる馬車なら、大丈夫じゃないかな?」


「そうですね!」


護衛付きの馬車となると、少し割高になるが、これは必要経費として割り切るのがいいかも知れない。


そうして、今後の方針を立てた俺たちは、それぞれの部屋に帰って休むことにする。


一人部屋。

夜、ベッドの上で必死に手を上下させる俺。

ナニをしているのかと言えば、屹立した棒状のアレから白っぽいモノを出しているのだ。

俺の目には、白っぽいモノをングングと口に吸い込んでいくアルとアルファが見える。


「もっと……」


「ハァ、ハァ……少し休ませ……」


「ングッングッ……」


「アルファちゃん、急ぎすぎ……」


「……だって、止まらな……ングッ……」


「ちょっとベタつくな……」


両足で抑えて、竹筒から綿アメこと『人工霊魂』を必死に取り出し続け、いい加減疲れてきた。

まあ、二人とも食べること、食べること……。

アルとアルファのご機嫌取りに用意してあるものだが、あまり時間を置くとベタベタし始めるらしい。

スライムの核、まるまる一個分だぞ、これ。

人工霊魂をぎゅうぎゅうに詰めた竹筒は、浮遊霊捕獲に使ったものと同じだが、圧縮して入れてある分、一本に使われている人工霊魂の量ははるかに多い。

そのまま食べるというのは、アルとアルファでは無理らしく、竹筒から必死になって俺がほぐすという作業が必要になったのだ。

いや、自分たちでほぐしながら食べればいいじゃん、と言ったら、アルから「せーい!せーい!」と連続デコピンを食らった。

何の掛け声かと、少し迷ったが……どうやら「誠意!誠意!」と言っているのだと気付いたのは、普通に一発殴られた方が、ダメージが少なかったんじゃないかと思えるくらいデコピンを食らった後だった。

ちょっと腫れてる気がする……。

血が出てなかったのが不思議なくらいだ。


まあ、俺の腕が筋肉痛でパンパンになる頃には、二人とも満足してくれたようなので、さすがに本を読む余裕もなく寝た。


俺とアステルは夜が明ける直前くらいから馬車を探す。


「あそこの冒険者さんは強そうですね!」


並ぶ馬車の後ろには冒険者パーティーがフル装備で出発を待っている。

面白いのは、その冒険者たちがそれぞれに自分たちの特色を全面に押し出すように、客に見せていることだ。

『ヂース』の街の馬車置き場、と言っても街中にある放牧地のような場所には二本の列ができている。


『スペシャリエ』方面に向かう馬車の列、こちらは一部の高級そうな馬車の後ろに冒険者が待機しているが、『テイサイート』と同じような旅支度仕様の馬車の列が並んでいる。

一方、『スプー』方面に向かう馬車の列、こちらはほとんどの馬車に冒険者が待機している。

その馬車も頑丈そうな造りだったり、装甲板が打ち付けてあったりと、道のりの困難さを示しているようにも見える。

そして、冒険者だ。

冒険者はまるで客寄せパンダのように、素振りをしていたり、弓の実演を見せたりしている。

静かに佇んでいる風な冒険者も、わざわざお互いにニヒルな笑い顔でお茶を飲んでいたり、中には「俺たちがいれば安全、安心!」などと露骨に客引きをしている冒険者までいる。


アステルが強そうと表現した冒険者は仲間内で模擬戦をやって実力アピールをしていたりする。


ちょっとしたお祭り騒ぎみたいだった。


「これ、毎朝やってるのかね……」


「ああ、だから街の端の牧草地を使うんでしょうか?」


「あるかも……」


「それで、どうしましょうか?」


どうしましょうかとは、もちろんどの馬車を選ぶかという話だ。

基本的に馬車は定員が埋まってしまえば、出発する。

陽が昇って街の門が開けば、定員になった馬車から出発していく。

陽が出ている内に距離を稼ぎたい人は大勢いる。

危険な旅路であればあるほど、陽が出ている内に……というのは誰もが考えることだ。

だからこそ、陽が昇る直前の今が一番人が集まる時間なのだ。


「そこのお兄さん、お姉さん、ウチらの護衛なら安心にゃ!」


そう声を掛けて来るのは珍しいことに猫耳に尻尾、ネコ科特有の三日月目をした獣人だった。


「おお、獣人だ!」


「そうそう、珍しいにゃよ!そんなアチシたちが護衛しているのは、こちらの馬車にゃ!」


珍しい。確かに珍しい。

獣人はこのコウス王国がある大陸全体で一パーセントもいないんじゃないだろうか?

遠く離れた離島に獣人の国があると言うが、俺は見たことがない。

まあ、昔、一度だけじいちゃんに連れられて『スペシャリエ』に行ったのが唯一の旅の記憶で、生まれてからここまで、基本的にずっと『塔』の中で読書ざんまいだから、読んだことはあっても見たことはないのが当たり前だけど。


「あの、ベルさん。あちらにも獣人の方が……」


アステルに言われて、隣の馬車の後方を見ると、今度は犬顔で全身をフサフサの毛に覆われた獣人がいる。


「おお、犬獣人!」


「狼だよ!」


俺が驚きの声を上げると、犬の顔がこちらを向いて、ツッコミを入れてくる。


「あ、ごめん……」


「いや、良く間違えられるからな……。

そんなことより、どうだ?俺たちの護衛する馬車にしないか?

あっちのビジネスにゃんこは女ばかりで、安全を考えるなら、こちらがいいと思うぞ?」


見れば猫耳獣人のパーティーは女性ばかり五人のパーティーで、猫耳獣人以外は普通の人間の女性だ。

対する犬顔、いや狼顔獣人は男ばかりの四人パーティーで、やはり他は普通の人間の男性だ。


「ちょっと!邪魔すんなよ!」


猫耳獣人が文句を言うと狼顔獣人はそれを鼻で笑う。


「おい、ビジネスにゃんこ!そこは、邪魔すん『にゃ』よだろ?

キャラ崩壊早すぎだろ!」


「な、にゃにおー!」


あー、うん。なるほど。確かにビジネスにゃんこって感じだな。


「ど、どうしましょう?」


喧嘩腰の猫耳獣人と狼顔獣人の罵り合いを耳に入れつつ、オロオロするアステルと話す。

ここまで見てきた中では、狼顔獣人の『緑むっつ』が護衛としては最高ランクと言える。

ちなみに最初にアステルが強そうだと評した冒険者は『赤むっつ、緑ひとつ』で、馬車の護衛として見れば実績はかなり低い。

猫耳獣人は『緑いつつ』だ。

狩りや採取系依頼なら『赤』、護衛や防衛系依頼なら『緑』、互助会への貢献度で言えば『青』を見るのが基本だ。

普通に考えれば狼顔獣人の護る馬車が当たりな気がする。


「まあ、実績で言うなら狼顔獣人の馬車かな……『緑むっつ』だし……」


「では、そちらにしましょうか」


「ち、ちょっと待つにゃー!」


猫耳獣人が俺たちの会話を聞きつけて、割り込んでくる。


「よーく考えるにゃよ!あちしらは女ばっかりのパーティーで、『緑いつつ』まで上り詰めたにゃ!

頭のいい人なら、この意味が分かるはずにゃ!」


ん?どういう意味だ……。

ふと、見るとアステルも意味を考えているのか、しきりと首を捻っている。

俺としても、頭の出来はそこらの冒険者より上だと言う自負がある。

この挑戦には答えてやろうという気にもなる。


女ばかりのパーティーの不利な点というのは、簡単に挙げられる。

まず、この世界では女性の社会的地位は低く見られがちな為、例え実力主義な冒険者といえど依頼は取りにくい。

特に指名依頼となると女性だけのパーティーは余計に取りづらい。

そんな中で『緑いつつ』というのは立派な功績だと言える。

それから、女性は女性だというだけで不利な点がある。

例えば、一部の人型モンスターは人間の女性を襲って繁殖に利用するため、そういったモンスターを呼び寄せ易くなってしまうということだ。

それに、野盗なんかも、やはり女性だけの方が襲われやすいだろう……。


なるほど……俺はひとつ質問をすることにした。


「パーティーメンバーはどれくらい変わってない?」


猫耳獣人は薄い胸板を張って、えっへんという風に答える。


「三年にゃ!」


三年間、誰一人欠けることなく、しかも『緑いつつ』冒険者になるというのは、相当な実力だろう。

恐らく、今この場の雰囲気から見ても、『スプー』行きの馬車の護衛依頼はこの街の冒険者にとって人気のある依頼なのだろう。

だとすると、その『緑いつつ』の大半はこの護衛依頼で培っていそうだ。

これは、猫耳獣人の馬車の方が信頼できるかもしれない。

チラと見れば、狼顔獣人の馬車は客を拾い上げ、動き出していた。


「ぶははっ!おい、ビジネスにゃんこ!

いつまでも同じ客に構ってる暇があるのか、余裕だな!

ウチは定員になったから、先に行かせてもらうぜ!

あーばよー!」


「にゃっ!?あ、こら、ずるいぞ!ふざけんな!」


ふむ……狼顔獣人は機転が利くタイプだったらしい。

猫耳獣人の客引きの邪魔をしておいて、自分たちはとっとこ別の客を呼び込んでいるとは、なかなか抜け目がないな。

あと、猫耳獣人はすぐ語尾の「にゃ」を忘れるな。

さすが、ビジネスにゃんこ。

だが、これによって選択肢は限定された。

ビジネスにゃんこはアレだが、護衛としては信頼できそうだ。

俺たちは猫耳獣人の護衛する馬車に乗ることにした。


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