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バレたかな!?暇かよ!

俺の驚きをよそに、ゴブリン・ノーブル率いるゴブリンズとの戦闘は推移していく。

と、いってもアステルによってゴブリン・リーダーが倒れてしまえば、後は簡単だった。

真の意味のリーダー、統率者であるゴブリン・ノーブルは膝をこわした元『赤やっつ』冒険者ジェアルに完全に封殺されていて、ダインともう一匹のゴブリン・リーダーもカンドゥの弓の援護があれば、楽に倒せてしまう。

残るゴブリン・ソードマンとアーチャーが二匹という雑魚の掃討は俺とアルの二人で充分だった。


アステル?アステルは冒険者ではないので、俺は颯爽と踵を返すと「後は任せろ!」と言いきった。

何しろ一番ヤバい、ゴブリン・リーダーがいないからな!


アステルに殴られたゴブリン・リーダーは顎の骨がぐしゃぐしゃのまま放置されていたので、アルがきっちりトドメを刺している。


でも、現状アルは俺が未知の魔術で操っている剣という扱いなので、冒険者としての功績は俺のものだったりする。

ごめんな、アル。


その後、ゴブリンたちとの戦闘は終わった。

ゴブリン・ノーブルはモンスター特有の魔法を使うことが出来ないままに、ダインとカンドゥによってタコ殴りにされて沈んだ。

ジェアルに鍛えられただけあって、連携は見応えがあった。


「おお!すげー!『ゲームキング』に出てくるロイヤルストレートフラッシュみたいじゃん!」


「クイーンとキングが足りませんけど……」


「古代の人々は、そういう時に素晴らしい技能を持ってたらしいよ」


「まあ、ベルさんは古代史にも精通なさってるんですか?」


「精通ってほどじゃないけどね……」


「それで、その素晴らしい技能というのは?」


「脳内補完って言うらしい。

足りない部分を個人の妄想力で埋めるってことらしいよ」


「ああ、それは素晴らしい技能ですね。見習いたいものです……」


俺とアステルが呑気にそんな会話をしていると、ジェアルが話しかけてくる。


「そっちは無事か?」


そう言ったジェアルとダインはあちこちに小さな傷を作っていた。


「ああ、問題ない……」


「大丈夫です」


「そうか……」


「あの、そちらは大丈夫なんですか?」


アステルは逆にジェアルに投げかける。

心配そうな表情になっている。


「ああ、この程度、どうということはない。それよりも……」


ジェアルはどう言い出そうかと、俺を見ていた。

な、なんだ?

内心で動揺しつつも、それを押し隠して次の言葉を待つ。

すると、ジェアルは意を決して口を開いた。


「なあ、もしかしてお前は『ロマンサー』なのか?」


「は?な、なんで……?」


「正直、『緑ひとつ』冒険者とはとても思えん……超常の力、優れた才能、それを持つのが『ロマンサー』だ」


「ジェアルさん、あと捻くれた性格だろ?」


ダインめ、余計なお世話だ……。


「あ、いや、お前がそうだって話じゃなくてだな……俺が会ってきた『ロマンサー』がそうだったって話で……」


まあ、『とても強い願い』を持っているってことは、ある意味真っ直ぐで、『とても強い願い』に真っ直ぐということは、それ以外が歪む。

ジェアルがダインに『ロマンサー』の説明をする時に、『ロマンサー』は捻くれた性格をしているんだ、と言っていても不思議ではない。不思議ではないが、ダインは俺の性格が捻くれていると思っているんだな。

まあ、多少は他人と違うって自覚があるから、それはいい。

ただ、この俺の性格は……昔からだ!


「俺は全員の旅の安全を確保するのが使命だと思っている。

はっきり言わせてもらえば、『ロマンサー』は乗せられねえ。

次の村で降りてもらう……」


まあ、目的のためにいきなり依頼を蹴飛ばすポロみたいな『ロマンサー』もいる訳だし、何をするか分からない、さらに高い能力で無理を通せてしまう『ロマンサー』を危険だと見ているジェアルは、たぶん正しい。

でも、お前は『ロマンサー』か?と聞かれて、素直に『ロマンサー』だと答えるやつなんているのか?

まあ、ここまでに作った信頼感とやらに期待しての話なのかもな……。


「何を勘違いしているのか知らないけど、俺は一介の冒険者だよ。

ちなみに『ロマンサー』なんて大嫌いだ!」


おっと、つい本音を零してしまった。


「まあ、『ロマンサー』はお嫌いですか?

たったひとつの願いのために、神に挑むなんて、設定としてはかなり秀逸だと思いますけど?」


「アステルは実際の『ロマンサー』に会ったことないんだな……」


「ええ、本の中でしか知らないですね……」


「うん、本の中じゃ、『ロマンサー』は英雄で主人公だから、かっこいいし、正しい部分しか表現されないもんな。

家は親父が『ロマンサー』になってしまって、大変だったんだ……」


「そうなんですか?」


「ああ、家に何年も寄り付かない。たまに帰ってきても、またすぐに次のダンジョン……。

おかげで、普通の人が経験する親父との思い出なんてものと無縁の生活だ。

まあ、あんな親父との思い出なんて、今さら欲しくないけどね……」


「なにやら大変だったんですね……。

では、お母様と二人で?」


「いや、じいちゃんとかあさん、あと兄ちゃん、姉ちゃんの代わりはいっぱいいたから……」


たまに年齢関係なく、弟やら妹やらも居たけどな……。


「ああ、そうなんですね……あの、もしかしてベルさんは『知識の塔』の?」


「え?あ、なんで分かるんだ?」


秘密にしている訳ではないが、自分から言うことでもないと、黙っていたのだが、アステルは少ない情報ですぐに見抜いた。


「この馬車はテイサイートから来てますし、豊富な本の知識、お父様が『ロマンサー』で、お爺様とお母様の二人暮らし、それにベルさんは魔導士としても、充分な教育を受けていらっしゃいますよね?

それから考えると、カーネル・ウォアム様のお孫さんかな、と思ったのですが……」


「『知識の塔』!?

お前……そうか……」


「『異門召魔術』の関係者って……そういうことか!?」


何故か、ジェアルやカンドゥが納得したように頷いた。

それから、ジェアルは申し訳なさそうに頭を掻いた。


「ああ、その……なんだ……『知識の塔』の大魔導士アークウィザードのお孫さんってんなら、あの常識外れの力量も納得だ……その……悪かったな……変な疑いかけちまって……」


「いえ……ただ、家のレッテルで見られるのは、あまり好きじゃないので……」


元とはいえ『赤やっつ』冒険者に謝られるのは、あまり気持ちのいいものじゃない。お尻がむず痒くなる。


「そうか……すまない……確かに『知識の塔』に住んでいるなんて言えば、周りの反応も変わっちまうしな……」


「ええ、なるべくならここだけの話にしといて下さい……」


今は事後処理ということで、カモっさんとタカーラ親子はまだ馬車の中だ。

あの三人から色眼鏡で見られるのは、出来れば遠慮したい。


「分かった。そうしよう。

ダイン、カンドゥも分かったな?」


ダインとカンドゥは頷く。


わたくしも広めようとは思いませんから、安心して下さい。

家の名前によって色眼鏡で見られるというのは、理解していますから……。

まあ、ベルさんはそんなことなかったですけど……」


アステルも色々と苦労があるのかもな。

大富豪で国から保護されるようなルフロ・ハロ製紙魔導院の出身だしな。


それから、次の村でゴブリンを仕留めたことを証明してもらい、緊急依頼で緑むっつ分の色を付けてもらった。

最高難易度がゴブリン・ノーブルの『いつつ』で緊急依頼だから『ひとつ』上がって『むっつ』になった。

ただし、実績は積んだものの、ジェアルから金は出ない。

払ってしまったら、既に旅としては、ほぼ赤字だからね。

代わりにゴブリンの魔石よっつとゴブリン・リーダーのでかい魔石ひとつをもらった。

まあ、金は欲しかったが、無い袖は振れない。仕方ない。

あんまりゴネて、やっぱり『ロマンサー』じゃないのか?とか言われても困るしな。

決して、性格が捻くれてることを気にした訳ではない。


そこからの旅は『ヂースの街』まで、快適だった。

ただし、ひとつの問題を除いては。


問題……そう、大問題なのだ。

アステルの読書スピードがとても、遅い。

アステルが読み終わったら、『ダークナイト・悪夢ナイトメア』を貸してくれるというので、俺はワクワクしながら待った。

アステルには代わりにフェイブ兄が書いた『師の言葉』を貸す約束までしたのだ。

だが、馬車は終点『ヂースの街』に着いてしまった。


「ふぅ……」


ぱたん、とアステルは本を閉じる。

残り三分の一程度のところで栞を挟んでいる。

マジか……読み終わらないだとぅ……。


「いやあ、ヴェイルさんやダインさん、カンドゥさんといった優秀な冒険者の方たちと同じ馬車に乗れて良かった……。

無事にヂースに辿り着けたのは、貴方たちのおかげですよ!」


カモっさんが皆と握手して回る。

ジェアルも、ほっと胸を撫で下ろして、美味そうにタバコに火を着けた。


「カモっさんは乗り換えて『スペシャリエ』だろ?

良かったら、一緒に行くか?」


「いいですね!ダインさんたちさえ良ければぜひ!」


すっかり意気投合した様子でダインとカモっさんが話している。

俺は、そんな会話などうわの空で、未だ馬車の中で、荷物をもたもたと纏めるアステルが気になって仕方ない。


「ベル兄ちゃん!俺、いつか大きくなったら魔導士になるよ!」


すっかりトニーにも懐かれたな。


「いや、魔導士はお金との戦いだからな……あんまりお勧めしないぞ……」


辛い現実だが、事実なので教えてやる。

だが、どうしてもチラチラとアステルの動向を気にしてしまうのは仕方のないことなのだ。


「ほら、トニー。お兄ちゃんが困ってるわよ……。

ごめんなさいね。この子ったらすっかりベルさんみたいになるんだって、きかなくて……」


「あ、ああ……」


「ほら、お兄ちゃんはご用事があるのよ……ねっ!」


タカーラさんが気を利かせてくれるが、そういうことじゃない。

どうやら、俺の視線に気付いて、早めに会話を切り上げて、後は若い人同士で……みたいな目つきで見ているタカーラさん。

違うんだ!同士じゃなくて、同志。

俺が気にしているのは『ダークナイト・悪夢ナイトメア』はどうなるんだ!ってことなのだ。

俺は横目でアステルのことを気にしながらも、顔はトニーへと向ける。


「魔導士になりたかったら、まずはお父さん、お母さんの言うこと聞いて、家の手伝いをやらないとな……」


「ええ……!?」


納得できていなさそうなので、トニーの耳元でこっそり真意を教えてやる。


「いいか、まずは読み書き計算くらい出来ないと、魔導書が読めないだろ?

お手伝いを頑張って、勉強させてもらえるようにお父さん、お母さんに頼むんだ。

お前が本気だったら、出来るはずだ!」


こくこくとトニーは頭を動かす。


「……そっか、お金との戦いだね!」


トニーは意外と聡い子供のようだ。

俺はトニーの頭を撫でてやる。この時ばかりは、ちゃんとトニーを見てやれたと思う。


「少し郊外になりますが、南三番区というところに私たちは居ます。

機会がありましたら、ぜひ寄ってやって下さい。

新鮮なミルクを使った料理のレシピ、味わって欲しいですから……」


「ええ、ありがとうございます。

帰りにでも、寄らせていただきますよ!」


タカーラ親子はそう言って去っていった。

ダインたちとカモっさんも、ひとしきり挨拶すると、次の馬車に乗り換えるべく去っていく。


アステルも荷物を纏めながら、それぞれと馬車の入り口越しに挨拶を交わしたようだった。

俺はなんとなくソワソワしながら、それでもアステルが馬車を降りるのを待った。


「あら、ベルさん。わざわざ待ってて下すったんですか?」


「え、あ、ああ……」


あれ?本の約束、忘れてる?いやいや、そんなことないよな?


「ベルさんはこれからどうされるんですか?」


「え、ああ、『スペシャリエ』回りか『スプー』回りで、『オドブル』まで行く予定なんだ。

アステルは?」


「決めてない……ですね……」


「は?」


「ああ、何がどうということもないんですが……アテのない旅なんですよ……あはは……」


なんだか恥ずかしそうにアステルはそう言った。

え?アテのない旅?

このご時世にそんなことする奴がいるとは、かなり驚かされた。

だって、旅は危険が満載で、決して楽なものじゃないのに……。

家が大富豪で、護身術と言うには護りすぎだろ!って技を身に着けているアステルは、もしかして頭のネジが一本、飛んでいるのだろうか?

俺は訝しげな表現をして、アステルを見ていたと思う。

そうしたら、アステルは顔を真っ赤にして、モジモジし始める。


「あ、あの、ベルさん!」


「ん?」


「よ、良かったら、その、ベルさんに着いていったらダメでしょうか……?」


な、なんだってー!

それはつまり、『ダークナイト・悪夢ナイトメア』を諦めなくていいってことじゃないかー!

いや、正直言えば、今晩ひと晩だけ、何とか借りられないかと打診するつもりだったのだ。

どちらにせよ、ルートを決めるために今晩はヂースに泊まる予定で、その間だけでも待ってもらえれば、俺なら読破できる。

そのためなら、宿代を出してもいいくらいには考えていた。

そして、それが無理なら……無理なら……断腸の思いで、泣く泣く諦めるしかないかと考えていたのだ。


「あ、だ、駄目ですよね……すいません……いきなりこんなこと言われても混乱しますよね……変なこと言ってすいませ……」


俺はアステルの手を握る。


「いいの?」


「え?あ、ええ……まだお約束も果たせていませんし……もっと他の本についても話してみたいですし……ご迷惑でなければなんですが……。

あ、へ、変な意味じゃなくてですね!その……」


「行こう!俺もまだまだ話したいことあるし、そう、約束!約束をなんとかしたいなって!あだーっ!」


俺は額を抑えて蹲る。何故、デコピン!?


「あ、あの……?」


「ああ、いや、大丈夫……ちょっとごめん……」


うん、昔からあったな。アルの理不尽な暴力。

俺はアステルにその場で待っててもらうよう告げて、急ぎ物陰に入る。

それから、小声で呟く。


「何すんだよ、アル……!」


「別に……暇だったから……」


出たよ。暇だったから……。たまにあるんだ。

アルは暇になると、俺の脇腹を抓ったり、いきなりデコピンしてきたり、となかなかに理不尽だ。

俺はアルのお守りじゃねえ!とは思うが、そんなこと口走ったら、五倍暴力が飛んでくるので、それは言わない。

だいたい、モニカさんと大事な話をしていたり、じいちゃんの弟子のメイにおちょくられている時に限って、これは発動する。

何故だ!?俺が楽しい時に限ってアルは暇を感じるシステムでもあるのか?


「今はアステルと大事な話してるんだから、勘弁してくれよ!『ダークナイト・悪夢ナイトメア』貸してくれなくなったらどうすんだよ!」


「ホントに、それだけ……?」


ジト目ってやつになっているアルは見なくても分かる。

何か疑われてるのか、俺?


「いや、他に何があるんだよ?あ、話に加われないからか?

でも、アルは本なんてほとんど読まないじゃん。

読んでも『ロマンサー』の伝記とかだろ?

つか、今の状態で話に加わる訳にいかないんだから、そこは我慢してくれよ……」


「……はぁ。分かったわよ。

でも、目的は忘れないでよ!」


「当たり前だろ!

一応、『ダークナイト・悪夢ナイトメア』を諦めることも覚悟はしたんだぞ!

でも、でも、着いてきてくれるって言うんだ。

こんなラッキーはさすがに捨てられないだろ……」


「……はい、はい。暇になっても我慢ね、我慢……」


「いや、そんな投げやりに言わなくても……。

あ、素振りでもしてるか?誰にも見えないところでなら、やってていいぞ」


「そんなの毎晩、アルファちゃんとやってますよーだ!」


「え?やってんの?」


「もちろん、誰にも見られないところでね」


知らなかった……。いつの間に。


「あ、じゃあポルターガイスト能力の練習とか?」


「それもやってるもん!」


「え、そうなの?」


いちいち俺が驚くのに反応したのか、アルファがフォローしてくる。


「はい。昼間は声を出すのは、はばかられるので、専らポルターガイスト能力の練習ですね。

夜はご主人様に危険が及ばない範囲でお喋りしたり、剣を振ったり、色々とやってますけど?」


「あ、そうなんだ……悪いな、アルファ。アルに付き合わせちゃって……」


「いえ、おかげさまで充実したファントムライフを送らせていただいてますから……」


充実したファントムライフ……なんとも矛盾を含んだ言葉だが、二人が楽しくやってくれているのならいいか。


「あー、とにかく暇なら問題起きない範囲で自由にしてていいからさ……」


「分かってるもん!いいから、アステルとお話してくれば!」


あ、なんか臍曲げてるな……こりゃ、後でご機嫌取っておいた方が良さそうだ。

まあ、今はアステルとの話をまとめよう。

俺は、物陰から出てアステルのところに戻る。


「アルちゃんは素直じゃないんだから……」


「素直だもん!素直だから表現してるんじゃん!」


はぁ、アルがちょっと幼児退行してるな。

今晩、アレやるか……。


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