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図鑑!テスタメント!

なかなか執筆ペースが戻りません。

頑張れ、自分!

それから数日間、朝はじいちゃんと魔術談義、昼は『異門召魔術』作り、夜は『サルガタナス』の読み込みという日々が続いた。

アルとアルファはすっかり打ち解けたようだった。

アルファがアルに対してお姉さんぶるのに、アルが乗ってあげるという感じらしい。

結果的にアルの方がお姉さんということか。


「ま、まあ、アルが元になって、私がアルファと名付けられたのは認めましょう……でも、私はわざわざご主人様から名付けられてますからね!

最初からアルのアルとは違うのですよ!」


「あ、そうか!ベルに名付けられたんだもんね!

じゃあ、アルファちゃんはベルの娘みたいなもんかぁ……」


アルが納得するように頷くのを見て、アルファは頬を染めつつ身体をくねらせる。


「そんな、娘だなんて……ダメです!ご主人様はご主人様ですから、お父様と呼ぶ訳には……でも、ご主人様がそう呼べと仰るなら……」


アルファがチラチラと俺を見てくる。

いやいや、こっち見んなよ。


「ほら、ベル。アルファちゃんが見てるよ……」


アルが俺に耳打ちする。

いや、知ってるよ。めんどくさいことになりそうだから、あえて無視してるんだよ。分かれよ……。


俺は黙々と『サルガタナス』の解読に集中する。

実はこの一週間ばかり、行き詰まっている。

解読はそれなりに進めているのだが、アルに肉体を持たせる進化先が見つからないのだ。

ファントムから肉体のあるアンデッドにしようとすると、意志を持たないアンデッドに退化しなくてはならなくなりそうなのだ。

それと、意外と知らないアンデッドというのも多い。


ある程度、アンデッドに対する知識はあるのだが、モンスター図鑑に載っていないアンデッドというのがかなりある。

霊魂に肉体を持たせる。その素となる物も様々だ。

紙の形代、人形、土塊、剣など、どんな姿形をしているのかなど想像するしかない。

『サルガタナス』に載っている以上、作れるのだろうが、元の霊魂の意識が残るかどうか、明言されていないものは怖くて手が出せない。


最低限、人の形をしていて、元の霊魂の意識が残ると明言されているものが対象で、欲を言えば生前の姿形になるのが理想なのだが……。

普通のモンスター図鑑と首っ引きで見ていくものの、コレだ!というものが見つからない。


「サルガタナス……なんか情報くれ……」


《とてつもなく雑な質問よ……恐らくベルが求めているモノはルール違反になる故、答えられぬ。》


「はぁ……使えねぇ……」


《ぐぬぬ……ベルの好きな図鑑とやらに頼ればよかろう!

まあ、さまよえる羊を纏めた図鑑でもあるならだがな!》


どうやら、『サルガタナス』をいぢめただけだったようだ。

さまよえる羊を纏めた図鑑ね……。

そんなもんがあれば、確かに欲しい。

というか、『サルガタナス』に載っていればこんなに苦労することもないのに……。


……いや、待てよ。アンデッド専門の図鑑か!

心当たりがあるぞ。そう、アンデッドを扱う専門家なら持っている可能性がある。

つまり、死霊術士ネクロマンサーだ。


基本的に死霊術士ネクロマンサーは忌避される職業だ。

何故なら、ダメな方向に向かう奴が多いからだ。

モンスター発祥の『紋章魔術』や『詠唱魔術』は発動に時間が掛かるという弱点があることで、ある意味、人の制御下に入っている。

死霊術ネクロマンシー』も時間は掛かるが、一度アンデッドを作ってしまえば、その行使はほぼ弱点がない。


だから、死霊術士ネクロマンサーは慢心するのだ。

無敵のアンデッド軍団で世界征服してやるー!みたいな単純なものなら、普通に国から怒られて、潰されて終わりだが、高位のアンデッドを作って、裏で暗躍とかさせると、途端に『世界の敵』認定されることになる。

だが、認められている死霊術士ネクロマンサーというのも存在する。

それは降霊術を駆使する者である。

死者に会いたがる者は多い。

必然的に降霊術を覚えた死霊術士ネクロマンサーは大金を掴む。

ただし、国から見張られることになることだけは覚悟しなければいけない。

簡単にはアンデッドを作らせてもらえず、作ったアンデッドも国に登録したりするらしい。


そして、この国、コウス王国にも一人だけ、国に認められた死霊術士ネクロマンサーがいる。

南東の街オドブルにいるとされる『黄昏のメーゼ』だ。

彼だか、彼女だか知らないが、メーゼならアンデッド図鑑を持っている可能性がある。それを写すなり、譲ってもらうなりできれば、アルの進化先を決める手掛かりになる。


よし、オドブルに行こう!


となると、まずは準備だ。

オドブルは遠い。じいちゃんが王都スペシャリエに行って帰ってくるのに、三ヶ月ちょい。オドブルなら順調にいって四ヶ月くらいか。

じいちゃんの取り付けて来た一千万ジンは、その十分の一、百万ジンが先日届いたところだ。

月に一度、十回に渡って届けてくれる約束らしい。

この百万ジンはもらって行く。

まだじいちゃんと分配についての話し合いはしていないが、山分けでも五百万ジンは俺に権利がある。

弟子たちが帰ってこないと詠唱魔術、地獄の総当り研究は進められないので、当面はじいちゃんとしても宝の持ち腐れになるだろうしね。

千ジン硬貨が千個。持ち歩くには重過ぎる上、使える場所も限られる。

これはアンデッド図鑑を買取するかもしれない時の軍資金だ。

研究所の部屋十箇所ほどに分けて設置しておくのがいいだろう。

でも、それをやるのは出掛ける直前がいい。

今はじいちゃんが宝箱に入れて結界を張って管理している。


当面、俺がやることと言えば、タナトス魔術の実用化だろう。

何故か泥棒にぴったりなタナトス魔術はいざという時に使える。

どんな、いざという時かは、今は考えないけどな……。


実用化しなきゃいけないのは、『鍵開け』と『千里眼』。

『姿隠し』は詠唱魔術だから、きっちりと覚えるだけだ。

『鍵開け』と『千里眼』はしっかり読み込んだところ、魔導具化できそうなので、その方向で考えている。


久しぶりの鍛治作業だ。

『千里眼』はゴーグル型の魔導具を考えている。

『鍵開け』は棒状にするべきだろうか?

と、考えていると『サルガタナス』が話しかけてくる。


《ベル、おぬしに今度こそ有用そうなギフトを用意したぞ!》


自室の中、夜。アルとアルファが小声で会話を交わす中、『サルガタナス』から唐突に話しかけられて、俺は一瞬、ビクリとする。

『サルガタナス』の声は俺にしか聴こえない。

さすが、ぼっち属性の駄本。


「ギフト……またかよ……どうせ使わないんだから、変なことするなよ……はぁ……」


独り言のようにぼそぼそとため息交じりに答える俺。


《くはっくはっくはっ……それは見てから言うがいい。

今回は自信があるぞ!》


「はいはい……見るだけな……」


これで興味ないとか言って無視したら、たぶん泣くだろ……。

見るだけは見てやるか……。


俺はペンダント型にして隠している【ロマンサーテスタメント】に触れる。




《現在、七万千二十四GPです。

どうしますか?》




俺は半ば止まっているぐらいの遅々として進む空白の意識世界の中でメニューを開く。

あまり変わってな……変わってる!?




《…………

…………

鍵開けのギフトー五十GP

…………

…………

運命線の変更ー六百六十六万GP

運命線の回復ー六百六十六万七百GP》




鍵開けのギフト……全ての鍵を開けられるギフト。使用時にGPの支払いが必要。

な、なな、なんだってー!

むう……こう来たか……。

『神』にしても、『サルガタナス』にしても、俺のGPを削りたいという思惑があるのは分かる。

この鍵開けのギフトは、使用時にGPが必要になるらしいが、時間の短縮になる。

これはやられた。正直、欲しい。今から長旅になるからと、必要そうな『鍵開け』の魔導具を作る時間が短縮できる。

俺にとって【ロマンサーテスタメント】は望まざる力で、運命線の変更は保険の保険という程度の物に過ぎない。

アルの進化を考えるならば、これは買いだ。

『サルガタナス』の思惑に乗るのは癪だが、これは仕方ない。

俺は鍵開けのギフトを取得する。


気になるのは、運命線の回復の数値が地味に増えていることだろうか?

まあ、使う気ないからいいか。


俺は空白の意識世界から戻ってくる。


《どうじゃ?ぴったりじゃろ?》


「……ああ、今回は負けておいてやるよ。この悪魔め!」


《なっ……ち、ちち、違うぞ……我は悪魔ではないぞ……》


何を動揺しているのか、軽口のつもりで言った悪魔という言葉に過剰に反応していた。

まあ、悪魔でも構わない。『ロマンサー』になった時点で呪われてるみたいなもんだしな。

今さら『サルガタナス』が悪魔でしたと言われても、大して驚くことはない。


「どっちでもいいよ……どちらにしろ俺は『サルガタナス』に頼るしかないんだからな……」


《う、うむ……で、あろうな……》


何とも複雑な心境だというかのような声音で『サルガタナス』は言うのだった。


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