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学習!ぽるた!

部屋に帰った俺は気分転換に適当な本を読む。

『カモスブレイブ』という『創世記』の前、混沌とした時代の中で如何にして創造神が創造神になったのかという趣旨で書かれた古い本だ。

痛快娯楽活劇風に書かれていて、なかなかに楽しめる。

元ネタは『カモスコード』というダンジョン産の本らしい。

ダンジョン産の本。その言葉だけでスープ三杯は飲める。

ダンジョンにある宝箱から本が出る可能性があるのだ。

『神の試練』はひと味違う。本を読むことが試練なのだとしたら、俺は確実にそのダンジョンをクリアしてやる。

だが、ごく稀に宝箱から見つかるというだけで、その本を読むのが試練というダンジョンは見つかっていない。

とても残念に思う。


と、肩をツンツンとつつかれた。

誰だ?と振り返るものの、誰もいない。いや、見えない。


「今なら姿見せていいぞ……」


俺がそう言うと、アルとアルファが姿を現す。


どうやら、俺を呼んでいたのはアルらしい。


「なに?」


「じいちゃんとケンカしてるの?」


アルが言い出し難いという顔で、ぽつりと漏らす。

アルは小さい頃からしょっちゅう泊まりに来ていたからか、じいちゃんのことをじいちゃんと呼ぶ。

まあ、半ば家族みたいなもんだしな。


「いや、ケンカってほどのことじゃないけど……」


「わ、私のせい、だよね……」


しおらしいことを言う。


「いや、アルが気にすることじゃねーし」


「でも……」


俺は本にしおりを挟んで、ちゃんとアルに向き直る。


「アルを生き返らせるのは、アルに命を救ってもらった俺のしょく……ぎ、義務だ」


「え?」


「だって、アルが死んだのは俺のせいだろ。

だから……」


「ベル。義務……なの?」


アルは何やら悲しそうな顔をしていた。

あれ?俺、なにか間違ったか?


「いや、その……アル……?」


「あの、さ……ベル。ベルはなんにも責任ないんだよ……。

あそこで死んだのは私が弱かったから……。

だからさ、もしベルが、私が死んだことに責任があるって思ってるんだとしたらさ……」


俺は直感した。あ、これマズいやつだ。未練を無くした、もしくは晴らしたアンデッドは次の生に向かって輪廻の輪に向かってしまう。特に肉体を持たない今のアルは簡単に消える可能性がある。

俺は慌てて、口を挟む。


「わー!わー!アル!ちょっと待った!前言撤回!

別に義務感だけでやってるとかそういうんじゃねえから!

俺のわがままで、俺がアルに生き返って欲しくてやってることだし!さっきのは言葉の綾っていうか、とにかく本心じゃなくて……と、とにかく逝くなっ!ほら、生身の身体を取り戻して、もう一度冒険したいだろ?バイエルさんの手料理食いたいだろ?ロマンサーになるアホな夢だって叶えたいだろ?なっ!だから、逝くなっ!」


俺が早口にまくし立てると、アルはすっごい膨れっ面になっていた。


「……ん?」


よく分からず俺がアルの反応を窺っていると、アルは膨れっ面のまま言う。


「アホな夢って言った……」


「いや、昔から言ってるだろ?ロマンサーになりたいとか、アホな夢だって……」


「この、ベルのおたんこなすっ!」


怒るとこ、そこ?っていうか、久しぶりに危険を察知。

俺は両腕を頭の上に掲げて防御体勢になる。


「ちょっ……待っ……」


びしっ!と俺の頭蓋骨が痛そうな音を立てる。

というか、痛い……。

あー、もう!何度やっても、昔の癖で殴られ拒否の体勢になってしまう。

そうだよ、デコピンだよ!いい加減、学習しろよ俺!


俺は自分の額を擦りながら、「いっつぅ……」と叫びを漏らした。


「ベルのばーか!」


「だから!俺が馬鹿になるとしたらアルのせいだかんな!」


あ……なんか久しぶりにこのやりとりした気がする。

アルは先程までの膨れっ面が一転、にこにことした顔で俺を見ていた。

ああ、もう!俺の顔もつい綻んでしまう。


「と、とにかく俺がやりたくてやってることだから、アルは余計な気を回すな……。

生き返ったら何がしたいかだけ考えとけよ!」


「え?あー、うん……」


そう言って、アルははにかむように笑った。

じいちゃんを説得できなかったことで、心にあったわだかまりみたいなものが、少し和らいだ気がする。

あ、そういえば、今のデコピンってファントムのポルターガイスト能力で再現してんのか?

なら、ポルターガイスト能力は普通に使えるのか。

よくわからんな。


「あー、アル……せっかくだから検証にちょっと協力してくれ」


「ん?いいけど、何?」


「ちょっとそこのテーブルに置いてあるカップを取ってくれ」


「いや、横着しないで自分で取りなよ……ほんの三歩の距離じゃん……」


「ちげーわ!検証だって言ってるだろ!」


「検証?ああ、検証なのね。……はい」


ファントムという霊体アンデッドのアルは、ふよふよと歩いてカップを手に取ると俺の前に差し出す。

ん?とりあえず、それを受け取るものの、なんかおかしくないか?

俺はカップを読書机の上に置いて、今度はアルファに頼む。


「アルファ、このカップをテーブルに……」


「はい、ご主人様!」


アルファはその場に居ながらにして指先を右から左へと振る。

カップは危なげなく宙に浮いて、読書机からテーブルへと移動する。

おお!そうだよな。ポルターガイストは能力だ。念じることで事物を動かす。


「アル、もう一度、カップをこっちの机に……」


「だから、横着しないの!」


「いや、検証だって言ってるだろ!」


「まったくもう……」


アルはカップを手に取ると、そのまま腕をこちらに伸ばして俺に渡してくる。


「あのさ……今のアルはアンデッドだから固有の能力が使えるはずなんだ……ポルターガイスト能力で移動させてくれない?」


「ぽるた?」


「手を触れずに動かせるはずなんだ」


「ど、どうやって?」


「アルファ、教えてやって」


アルファに話を振る。


「え?あの……思えば動くとしか……」


「そ、そうなの!?」


「ええと……腕を動かす感覚なので……」


ちくせう……透明化は教えられたのに、こっちはダメかよ。


「手を動かす……手を動かす……」


アルが集中しているのか、ブツブツと呟きながら見様見真似でアルファの真似をして指を振る。

カップは動かない。

何故だ?カップを持ったりするのもポルターガイスト能力でやっているはずなのに、距離があると使えないのか……。

生前の記憶が色濃く残っているからとか、何か要因があるのだろうか?


「……まあ、いいや。続きはまたにしよう」


俺はそう言って、ベッドに潜り込む。色々あって疲れが出ている気がする。


「あ、もう寝る?んじゃ、私、客間使うね!」


「ああ、おやすみ……って、ダメだろ!」


普通に部屋を出て行こうとするアルを慌てて止める。


「え、もしかして私の部屋って、もうない?」


「いや、あるけど……」


「あ、良かったぁ……」


「いや、そういうことじゃなくて!

今のアルが普通に生活してたら、ただの怪奇現象だろ……」


「ん?……あ、そっか!私、ファントムっていうアンデッドなんだった!

……そっか、死んでるんだ……」


アルが俯いて、小さく呟いた。

それは今までにない落ち込みようで、俺は知らず奥歯をギリと鳴らしていた。

自分でそれに気付いてから、無理に笑顔を作る。


「と、とにかくさ。しばらくは一緒の部屋で我慢してくれよ……。

なんなら、研究室の方にアルの部屋を作るとか、考えるからさ!」


無理矢理に明るく振る舞うのはさすがに無理があると自分で思っていたら、アルは途端に慌て出した。


「あ、そ、そういうことじゃなくて……ちょっと寝顔とか見られたら恥ずかしいというか……いきなり、同じ部屋とかハードルが高いっていうか……」


「いや、待て待て。寝るの?」


ファントムって寝るのかよ!あと後半がぼそぼそ言ってて聞き取れないが、何より『寝る』という言葉に俺の意識は持っていかれる。


「ん?あれ?どうだろう?」


俺の言葉にアルは首を傾げる。


「そういえば、眠くはない、かも?」


霊体アンデッドのファントムは眠らないはず……アルファが寝るところは見たことも聞いたこともない。


「えーと……寝たいなら寝ても構わないけど、と、とにかく俺の部屋なら自由にしてていいから、しばらくは我慢してくれよ」


「あ、うん、わかった……」


アルの進化先を確定させて、早いところ実体を持たせてやらなきゃな……。

俺はそう考えながらも、今日のところは……と、ベッドに潜り込む。

睡魔はすぐにやってきて、意識は消える……はずなんだが、めっちゃうるさい。

アルが質問、アルファが答えるファントム談義が右耳から入って左耳から抜けていく。


やめろ〜……お前ら感覚だけで会話するな〜……せめて論理的な会話を……と脳内で訴えていたら、知らぬ間に寝てしまっていたようだ。


ただし、起きた瞬間からそういうのは、やめて頂きたい。

微睡みの中、俺の脳内にはアルの「ぽるた!ぽるた!」という声が響く。


マジか!?意味分からん……。


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