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舌戦!じゃねーし!

体調崩して寝込んでおりました。申し訳ない。

なんとか復帰してきたので、とりあえず一本上げます。

もしかすると、しばらく不定期になるかもしれません。


そして、久しぶりに入ってみれば、何とも素敵なレビューを頂いておりました!

ありがとうございます!

俺はアルのことは、そこで一度、区切りとした。

すでに二時間くらい経っている。

うん、オクトは上手くやれているだろうか……。


「アル、透明化してついてきてくれる?」


「うん。うん?透明化って何?」


アルはいきなり中級アンデッドになったからなのか、他のアンデッドが本能レベルで理解していることが分からないようだった。

何でだろうか?

調べたくなるが、ぐっと堪えて俺は他のアンデッドたちに指示出しを頼んでいたアルファを呼ぶ。


「おーい、アルファ!アルに透明化のやり方教えてやってくれ!」


「はーい!ご主人様!」


アルファはリスケくんやサスケくんに「じゃあ、そういう形で拡張工事を進めてね……」と声を掛けてから、こちらに向かってきた。


「え?あの、誰?」


アルファを見て、アルが俺に聞いた。


「えーと、ファントムとしてのアルの先輩?」


アルファが俺の横に浮かんで、アルを眺め回す。


「そうです。私がファントムとしても、アルとしても先輩になります!」


なんだかやけに挑戦的な顔をして、アルファはアルの前で胸を反らして見せる。

対するアルはキョトンとした顔を見せていた。


アルファは、こほんと咳払いしてから、アルに説明していく。

なにやら「頭のこの辺りでぐぐってやると、カチッてなるんですけど〜」とその説明は観念的過ぎて俺には理解できなかった。

アルは「ああ!」と言っていたので、問題ない、ということにしておく。


アルとアルファは透明化して着いてきて貰って、俺は遠回りして別方向から帰ってきたように装って帰る。


すると、案の定というか、じいちゃんが玄関に仁王立ちして待っていた。

さすがにオクトは時間を稼ぎきれなかったか……じいちゃんが俺を待っているってことは、オクトはもう帰ってしまったようだ。帰らされたのかもしれないけど。


「おかえり。どこに行っておったんじゃ?」


「ちょっと気分転換に散歩……」


「ふむ、そうか……のう、ベルちゃんや。まだ、じいちゃんに本を返してくれる気にはならんか?」


「……だって、じいちゃんはまた本を封印するんだろ?」


「そりゃ、禁書じゃからの……世の中には読んではいけない本があるというのは、ベルちゃんに教えたじゃろ?」


随分と昔にそんな話をされた。それは俺の記憶に残っている。まあ、じいちゃんはそれが家の『塔』にあるとは言わなかったが……って、当たり前か。


「じいちゃんはその時、ベルちゃんに何て教えたか覚えとるかの?」


「……世に広まってはいけない知識。悪いことにしか使えない知識。神様が許さない知識が書かれている本。そういう本は読んだ人も、その周りの人も不幸にする。

そういう本は見てはいけない……」


俺がじいちゃんに教わったことを記憶から引っ張り出して反芻する。

じいちゃんは満足そうに頷いた。


「そうじゃ。禁書とはそういうものじゃ」


「じゃあ、なんで焼き捨てなかったのさ?

誰の目にも触れさせないなら、焼くなり、破り捨てるなりすれば良かったじゃないか!」


「それは……」


じいちゃんは言葉に詰まる。

これは正直、俺が意地悪なんだと思う。

本が好きで、なんなら愛してると言ってもいいじいちゃんが、例え禁書と言えども、焼いたり破り捨てたりなんて、できる訳がない。

あと、『サルガタナス』はまだしも、俺が見た他の禁書たち。

『神の書』とか『緑の世界』なんかは、そもそも消滅させようが無いんじゃないかとも思える。

案の定、じいちゃんはしょぼくれた顔をして俺を恨みがましい目で見ていた。


「それは、ベルちゃん、意地悪じゃろ……」


「……ごめん」


つい俺も謝ってしまう。


「でも、あの本だけだよ。他の本に手を出すつもりはないし……俺に必要なのはあの本だけだから!」


そう、アルの生き返りを目指す俺に必要なのは『サルガタナス』とアルの魂。

今のところ、これだけだ。

他の禁書に手を出すつもりはまったくない。


「ベルちゃんは、死霊術士ネクロマンサーになるつもりなのかの?

死者の魂を弄ぶ、邪なる道じゃぞ?

世の死霊術士が忌み嫌われているのは、ベルちゃんも知っておるじゃろ?

何故、あの本なんじゃ?よりにもよって、一番危険な本じゃぞ?」


え?じいちゃんの中では『サルガタナス』が一番危険な本なのか……。

たぶん、あの五冊の中じゃ、一番どうでもいい本だと認識していたのに……。

もしかして、じいちゃんは知らないのだろうか?


「じいちゃん……あの本のリスク、知ってる?」


俺はおもいきってじいちゃんの説得を試みてみる。


「どういう意味じゃ?」


「どういうも何も……あの本を読むとどうなるのかってことだよ」


「…………。」


じいちゃんは渋い顔をして黙り込む。

俺は畳み掛けることにした。


「あの本を読むとね、神様から嫌われるんだって。

それだけだよ?発狂するとか、身体を呪いで蝕まれるとか、そういうことじゃなくて、神様から嫌われるってだけなんだよ!

死霊術だって、確かに一般的には忌み嫌われる魔術だけど、必要とされている部分もある。

貴族の中にはいにしえの知識を復活させようって死霊術士をわざわざ呼んで、降霊会を開く人もいる。

……誰かに嫌われることなんて、今までたくさん経験してきたよ!

デブとかノロマとか、いくらでも言われてきた。

今さら、神様に嫌われるとか、俺にとってはどうでもいい。

死霊術士として生きるつもりはないけど、そういう色眼鏡で見られることもどうでもいい。

ただ、俺に必要な知識なんだ!」


じいちゃんは俺が喋るのを黙って聞いていた。

ただ、玄関先で立ったまま話すのは限界だと思ったのかもしれない。


「おいで……中で話そう……」


それだけ言って、『塔』の中に入っていった。

俺も後に続く。

ここまで言ったんだ。どうあってもじいちゃんに認めさせなきゃいけない。


じいちゃんは台所に入って、お茶を入れ始める。

慣れた手つきでお茶の用意をしているが、その顔はじっと何事かを思案しているようだった。


俺はじいちゃんが何を言ってきても、絶対に曲げるもんかと、様々なパターンを想像しながら待った。


じいちゃんが俺と自分の前にお茶を置いて、席に着く。

二人でこれからの舌戦に備えて口を湿らせる。


「……アルちゃんかの?」


じいちゃんは呟くようにそう言った。

俺は答えない。答えないことが答えだ。


「……つまり、行方不明などではないわけじゃ……」


ふぅ、と疲れたように息を吐いてじいちゃんが言う。


「アンデッドは生き返るわけではないんじゃぞ?」


「……分かってる……でも、俺にとっては過程だ」


「……そうか。鍵はアルちゃんじゃったか……」


「鍵?」


「過程とはどういう意味じゃ?」


俺の質問に答えることなく、じいちゃんは質問を重ねる。


「アルの魂で吸血鬼を作る。それから、本を探す」


「ふむ……随分と古い話を覚えておったもんじゃ……まだベルちゃんがこんなもんだった頃じゃろうに……」


じいちゃんがテーブルの下に手を這わせて、昔の俺の身長を表現する。

どうやら、吸血鬼と言うだけで、じいちゃんに話は伝わったらしい。

『月夜鬼譚〜流転抄〜』吸血鬼を人にする方法が載っていると言われる本だ。


「……あるかどうかも分からん話じゃよ?」


「それでも探す。今の俺にはそれしかないから……」


「これも運命か……あやつめ、間に合わなんだか……」


「なに?」


「いや。……して、アレはどこまで読んだんじゃ?」


じいちゃんの意味深な発言が気になるものの、それについてじいちゃんは話す気がないらしい。

アレ、『サルガタナス』のことだろう。


「読むだけなら全部。理解度なら四割くらい……だと思う」


「そうか……」


言ってじいちゃんはお茶を啜る。

お互いに淡々としたやりとりだった。


「のう、ベルちゃんや……」


少しの間を置いて、じいちゃんが優しくも悲しげな声でそう切り出す。

俺は視線だけを向ける。


「じいちゃんじゃ、死霊術士ネクロマンサーになっちまったベルちゃんを守ってやれないんじゃ……それは分かるな……」


なんだろう?出ていけとか言われるんだろうか?

とにかく、それでも構わないと俺は覚悟を決める。


「分かってる……」


「ベルちゃんは神に嫌われるだけ……と言ったが、神に嫌われることは、恐らくベルちゃんが考えているよりも、大きなペナルティーになるはずじゃ……それでもいいんじゃな?」


「そんなことは俺を止める理由にならない」


「はぁ……ベルちゃんは昔からアルちゃん一筋じゃものなぁ……」


「はっ!?

いやいやいや……じいちゃん何言ってんの!?

べ、別にそういう理由で生き返らせようとかじゃねーし!」


「まあ、ええ……わしには今のベルちゃんを止めることはできん……」


じいちゃんはそう言うと、席を立った。

納得……はしてないんだろうなぁ。

まあ、邪魔されないならそれでいい。

俺は自室へと帰った。


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