宣言!記憶?
俺とアルは煙が大分薄まってきた儀式魔術の部屋で向かいあっていた。
「アル、何があったか覚えているか?」
俺はそう聞いた。
アルは自分の額に指を当てて考えながら、首を捻る。
「えっと……ベルと冒険に出て……そうそう……先輩たちのベルに対する扱いがあんまり酷いから、腹を立ててたんだ……」
「え?そうなのか?」
「はぁ……やっぱりそういう反応か……どうせ、どうでもいいとか思ってたんだろ?
私がちゃんと優秀な魔導士だって紹介したのに、魔導士か……みたいながっかりした反応されて、私はかなりご立腹だったんだよ!
でも、ベルが楽しそうに辺りを眺めて、あ、『騎士王物語の龍の腹の巻』みたいとか、『ダークブレード』だとゴブリンは主人公の側近でかっこいいのにとか、相変わらずだったから、段々と私も物語の中にいるみたいな気分になってさ……ベルと初めての本物の冒険なんだから楽しまなくちゃ損だって……それで……あっ……」
アルが何かに気付いたような反応をする。
やっぱり覚えているか……自分が死んだ時のことだしな……。
と、思っていたらアルが急に自分の頬を抑えて、それから俯いて、ポコポコと自分の頭を叩きだした。
「えっ……ちょっ……なにを……」
驚きの声をあげる俺とは裏腹に、 顔を上げたアルはニンマリ笑って言う。
「えへっ……覚えてないや……」
まるで悪びれることなく舌をぺろりと出していた。
「おおいっ!なんでだよ!」
俺もつい気安くツッコミを入れる。
「はぁ……まったく……これだからアルは頭弱いんだから……」
「おい、ベル!」
俺が肩を竦めて嘆息してみせると、アルはドスの効いた声で俺を呼んで、拳を振り上げる。
「ちょっ……やめ……」
咄嗟に防御姿勢を俺はとる。
何もされない……ふぅ……ビビらせるなよ……。
と、顔を上げた瞬間、デコピンされた。
「痛っ!」
ちくせう……何も変わっていやがらねえ……。
「ふっふっふ……ベルは相変わらずだね!」
「……ふーむ」
「何?」
「時間が経っている認識はあるんだな……」
「え?あ……それはベルの雰囲気が……かっ……」
「ん?」
「あー……何となくね……」
「そっか……自分が死んでるってのは……」
「えっ!?死んで……ああ、だから……」
今更のようにアルは自分の身体を眺めていた。
「今かよっ!」
「……あれ?じゃあ、私って何?」
「それ、哲学?それとも物理的な話?」
俺は少し意地悪く聞いてやる。
「えっと……か、簡単な方で……」
こうなった俺がめんどくさいというのを知っているアルは引き気味にそう言った。
「端的に言えば、お化け、幽霊、アンデッド化させました」
少々事務的に、早口でぱぱっと伝える。
意思のある自分がアンデッドだというのは、もし自分だったらと思うといたたまれないものがある。
アルは一瞬、キョトンとした顔をする。
「え〜……あー……うん……えっと……あ、ありがとう……で、いいのかな?あははははっ……」
アルはなんとも言えない顔で頭をワシワシと掻いた。
「ああ……いや、アルがさ……最後に言いかけた言葉の続きが聞きたくて……あ、それにこのままにはしないから!
ちゃんとアルは俺が生き返らせる……!」
俺もこめかみをポリポリと掻きながら言う。
「生き、返る?え?え?」
「ああ、大丈夫!計画は練ってある!」
「生き返れるの?私……」
俺は自分の胸を叩く。
「任せろ!天才だぞ、俺は!」
「う、ん……うん、ベル、頭だけはいいもんね!」
アルは泣きそうな顔で笑っていた。
複雑だけど嬉しいってことなんだろう。
「それでさ……死の間際の言葉なんだけどさ……」
俺はかなり緊張しながら、そのことを聞く。
だけど、アルは「あ〜……」と言って、少し考えてから、ピタと俺を見る。
まあ、自分の中で最後の瞬間に自分が言いそうなことだ。
思うところはあるだろうと、俺は話を振ったんだが、アルはスッと俺から目線を逸らして言った。
「き、記憶にございません……」
分かってて、逃げやがった!
マジか!