アル……ベル!
すいません。遅くなりました。
俺は急いで荷物を持って『塔』を出る。
オクトがじいちゃんを引きつけてくれている間は、じいちゃんも俺を監視できない。
オクトが来た瞬間にじいちゃんが降りて来たことからも分かるとおり、じいちゃんは自分の仕事をしながらも俺の動向にかなり気を張っている。
まあ、俺もじいちゃんがそれとなく俺の監視をしていることに気付いていたからこそ、ここまでまともに動けなかったというのもある。
急いでいるが、『塔』を出るまではこっそりと動いた。
だが、『塔』を出てしまえば、後は全力で走る。
「ご主人様、走るの遅いですね……」
アルファがそう言ってくる。
「ハァ、ハァ、うん、どう……はっ!き、らいだ……ハァ、ハァ……」
「後ろから少し押しましょうか?」
アルファは霊体なので、空中に浮かんでいる。
走ってない。
ちくせう……。
「おっ……せっ……ハァ、ハァ……」
少しでも早くなるならと、アルファに押してもらう。
ポルターガイストで身体全体を支えるように、アルファが俺を押した。
なんとか研究室の近くまで来て、辺りを見回して、誰も見ていないことを確認してから、秘密の扉を開けて、研究室へと入った。
アルをどうするかはすでに決めてある。
安全、安心、確実なファントム化だ。
アンデッドは基本的に三つの系統に分かれる。
霊体を中心としたゴースト系、骨を中心としたスケルトン系、肉を中心としたゾンビ系だ。
神聖系の祈りに一番弱いのがゴースト系、物理的攻撃に弱いのがゾンビ系、能力が平均的になるのがスケルトン系だ。
本来、アル復活のためにはゾンビ系が近道だが、肉体がない。
結果、一番復活というか、吸血鬼に近いのがファントムなのだ。
ゴースト系の中でファントムは中級アンデッドという扱いになる。
人工霊魂の中に保存してあるアルは、霊体としてはオーブのような扱いになるらしい。
これは『サルガタナス』に確認済みだ。
つまり、アルファの時と同じやり方で、アルはファントム化する。
俺は綿アメこと人工霊魂作りから始める。
残っているスライムの核を全投入だ。
人工霊魂はオーブに使うことで霊体強化の効果があるらしい。
これによって、能力が上がる効果があるのだとか。
これはアルファの証言によって、効果が確認されている。
アルファと鳥のオーブであるトーブくんは、人工霊魂を欲しがる。
だが、今回はおあずけだ。
大量に生成した人工霊魂はアルに使わせて貰う。
そして、前回もやった儀式魔術を始める。
相変わらず煙が目に痛い。
アルは現状ではアンデッド化していないので、飛ぶことはおろか、自分で動くこともできない。
筒から出した人工霊魂を他の人工霊魂に混ぜてやる。
魔法陣に宝晶石を置いて、発動させる。
人工霊魂が多いからか、出来上がった卵状の繭は巨大だ。
魔法陣の蒼い光を繭が吸い込んでいく。
「アル、帰ってきてくれ……」
俺は嫌われているはずの神に祈るように呟く。
繭から蒼い光の塊が抜け出す。
それはモヤモヤと形を変えながら、俺に近付いてくる。
なんだ?なんで近付いてくる?
と、目の前が蒼い光で覆われてしまった。
害意はないように感じる。
俺はぼう然と見ていることしかできない。
蒼い光が波打つように動いて、一本の細い枝みたいなものが飛び出した。
「痛っ!」
細い枝が俺の額を打つ。
んん?この身に覚えのある痛みは……。
細い枝はゆっくりと形を整えて、指になる。
「ベル、何て顔してるのよ!」
俺はその声に、はっとする同時に、目の奥に熱いものが溜まっていくのを感じる。
どうにか声を出すが、俺の声はかなり掠れていたと思う。
「ベルじゃなくて……ヴェイルだよ……いい加減覚えろよ……ばか……」
「ふふっ……なんか久しぶりな感じ……」
アルは何事もなかったように半透明の霊体で笑った。
「ああ……俺もだよ……アル……」
こうして、アルはファントムとして俺の前に顕現した。