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黒?うん、真っ黒だ!

黒く染まる【ロマンサーテスタメント】。

腕輪が月星太陽も含めて、全て真っ黒になる。

だが、それだけだ。


「え?これだけ……?」


正直に言おう。

どうでもいい。心底、どうでもいい。

自分がダンジョンに潜って、GPを稼ぐとか、保険の保険のそのまた保険、考えられることを全て網羅した後に、どうにもならなくなったら仕方が無いからやるかもしれない、いや、やらないかもしれないくらいのものだ。


《はい?恐怖じゃろ?道が閉ざされたのだ。絶望に打ちひしがれるじゃろ?》


「いや、別に……」


《ぼっちだぞ?神々から無視されるんだぞ?》


「まあ、ぼっちは慣れてる。というか、他人と関わるの苦手だし……」


《あ……その……なんか……すまん……》


「謝るなよ!俺は本さえ読めれば幸せだし……神からそっぽ向かれるってのも良く分からんしな……。

それにほら、俺とお前、ぼっち同士なら、もうぼっちじゃねーし……」


《あっ……》


なんで俺が駄本のフォローなんかしなきゃいけないんだ、と思いながらそう口にすると、それきり駄本は黙ってしまった。


とりあえず、隠し部屋から出て、仕掛けを戻すと、気持ちウキウキした足取りで自室に戻る。

いや、決してアルのことを忘れた訳じゃない。

ただ、新しい知識との出会いって、ほら、ワクワクするよね?


一応、自室に戻る前にキッチンに寄って、飲み物と軽食だけ用意する。

窓から外を見れば、もう陽は落ちていた。

どうりでお腹が減ったはずだ。

でも、まずは本だ。お腹が減るのは我慢できても、読書欲は我慢できない。

『サルガタナス』を小脇に抱えて、お盆に載せたお茶とパン、干し肉を咥えて、自室に入る。


夜か。

器用に足で自室の扉を閉めると、月明かりを頼りに机にお盆を置いて、干し肉をもむもむと噛みながら、ベッドの灯り用魔導具に魔石をセットする。


さて、と表紙を捲る。

俺は本の世界へと没入する。

最初の数ページを読み込んだ俺は、おもむろに本をパタンと閉じる。


死霊術ネクロマンシーじゃねーか!?」


死霊術ネクロマンシーとは死者を不死者に作り変える儀式魔術の一種だ。

モンスターの使う技で、極稀に人間にも使い手は存在する。

ただし、邪法だ。

違法ではないが、他人には見せられない、忌避される魔術。

さすがに大魔導師アークウィザードのじいちゃんも、詳しくは知らない秘術中の秘術。

ゾンビやらスケルトンを作り出して操ることができる。


これは……生き返るとは言わない。


ちなみに自然発生したアンデッドのゾンビやスケルトンは、そのままモンスター扱いになる。


あ!と俺は自分の間違いに気付く。

確かに『サルガタナス』は死者を操るとは言ったが、生き返らせるとは言っていない。

それに『さまよえる仔羊』だ。『迷える仔羊』じゃない。

騙された……。

最初の方に書かれているのはゾンビの作り方だ。


《まあ、待て……早急な判断は足下を掬われるぞ……我がタナトス魔術の真価はサルが使える、その全てだ!このような本、世にふたつとないのだぞ?》


駄本が焦り気味に伝えてくる。

本として、読まれないというのはアイデンティティに関わるとでも思っているのかもしれない。

結構、必死に売り込んで来る。


「別に……読まないとは、言ってないだろ……!」


そう、もう読むのをやめると言った訳ではない。

普通ではまず手に入れることができない知識。

興味はある。死者を操るということはアルが動けるようになるということだ。

それだけでも進歩ではある。

俺はまた、本の世界に没入する。


ゾンビ、スケルトン、ゴースト、レイス、キョンシー、亡者、餓鬼、オーブ、シャドウ……ありとあらゆるアンデッドの作り方が載っている。

中には自我を持つアンデッドもいる。

ガストウォーカー、陰鬼、吸血鬼、吸魂鬼、吸精鬼、ノーライフウォーカー、エインヘリアル、スパルトイ……他にも様々だ。

自我を持つアンデッド。これは半分くらい生き返ったと言っても過言ではないのではないだろうか?

いや、過言か……なにしろ、普通に考えてモンスターだし、何より永遠に在り続ける地獄が確定してしまう。

だが、俺には希望が見えていた。

さすがは魔術書だけあって、発想力なしには読み解けない記述が多いが、吸血鬼が作れるのなら手はある。

なぜならば、吸血鬼が人間に成る方法が書かれた本があるからだ。


あれは五年ほど前だろうか?

旅の冒険者が情報を求めて家の塔を訪れたことがある。

その人はムウとかムーとか言う名前で、恋人の冒険者が吸血鬼に噛まれて、吸血鬼になってしまったという人だった。

その人が言っていたのが『月夜鬼譚〜流転抄〜』という本を探しているという話だった。

そこには吸血鬼の人化の方法が載っているという話だった。

あいにくと家にはなかったが、確かな情報だと言っていた。

対応していたじいちゃんも、書名は聞いたことがあると言っていたので、間違いない。


つまり、アルを吸血鬼にして、それから人化させれば、晴れてアルは生き返るということなのだ。

俺はそれに思い至ると、ページを戻って、吸血鬼の作り方を読み直す。


まず最初に陰鬼〈※〉を用意します。闇月水と魔神の血を混ぜ合わせ、満月の夜に……


陰鬼!?

吸血鬼を作るには陰鬼を作らないといけないのか!

俺はさらに戻って陰鬼の作り方を読み直す。

生き返りに関係ないと思って、理解する前に次のページと読み進めてしまったのがいけなかったらしい。


まず最初にシャドウ〈※〉を用意します……


シャ、シャドウ!?

俺はまたまたページを戻る。


まず最初に餓鬼〈※〉を……


餓鬼……。ちくせう!なんかたらい回しにされている感覚に、自分で自分に腹が立つ。

悔しいと思いながらも、素直に餓鬼のページを開く。


まず最初にゾンビを用意します。


ゾンビかよ!一番最初のところじゃんか!

つまり、アルを最初にゾンビ化、餓鬼に進化、シャドウに進化、陰鬼に進化、吸血鬼に進化、吸血鬼を人化させると生き返るということらしい。


ようやくそこに気付いた辺りで、夜が明けていた。

目が疲れた。

ゾンビの作り方に目を通していると、睡魔に襲われて、いつの間にか俺は寝入ってしまっていた。


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