圧倒的ではないか!我が軍は!
「ここはどこ?
俺は誰?」
《自分で先程、ゼリだろうと言っておったと思うぞ……それに、お主はベルぞ。何を混乱しておるのか……》
俺の呟きに律儀に『サルガタナス』が返事をする。
「いや、ベルじゃなくてヴェイルだから!
……ふぅ。少し落ち着いたな……」
『ゼリ』のダンジョンから飛ばされたなら、おそらくここは『ゼリ』のダンジョンの下階層だろう。
先程、ゼリホーンドゴブリンを見かけた。
これも、ここが『ゼリ』のダンジョン内だろうという推理を裏付けている。
アルとやっていた定番のやりとりを『サルガタナス』としたことで、自分を落ち着かせた。
よし、まずは持ち物の確認だ。
『芋ん章魔術』はある。
ガンベルトに『取り寄せ』魔術の紙はある。
背負い袋に『サルガタナス』、予備の魔術符、代償に使う魔石類、携帯食糧、お金、解体用ナイフ、全て揃っている。
とりあえずは大丈夫。
休憩になった時に『光』の魔術符を新しく使って、さっきゼリホーンドゴブリンから逃げるのに破いてフラッシュにした。
あと、三十一時間と少し頑張れば、兵士たちが俺を探しに来るだろう。
ここが何階層なのかによるが、探索が済んでいる三階層くらいまでなら、見つけてもらえる可能性が高い。
とにかく、上の階層を目指すか……。
俺はガンベルトから一本の筒を取り出す。
紙を巻いただけの筒だ。
それを拡げれば、十センチ四方程の魔法陣になる。
まずは俺を守ってくれる戦力を呼ばないとな。
地面に紙を置いて、クズ魔晶石を当てると、俺は下がる。
その空間に重なってると危ないからな。
「来い!守護者たちよ!」
魔法陣が光る瞬間に合わせて、右手の掌を下に、まるで自分のオドで呼び込むフリで遊ぶ。
ふふ、かっこいいな俺!
ふと視線を感じて、俺は横を見る。
ファントムで姿を消しているアルファが、キラキラした瞳で俺を見ていた。
姿を消して、喋ったりしないように厳命しているので、声を出さずに感動していた。
「アルファ。俺たちだけの時は喋っていいぞ」
俺はアルファに許可を出す。
「……ご主人様、かっこいいです!」
「ふっふっふっ……アルファには分かってしまうか……この洗練された所作が……」
「はい!最高です!」
「うーむ……アルファいい子じゃないか……」
「ありがとうございます!」
アルファとそんなことを話していると、魔法陣の光が収まって、そこに元『ロマンサー』で『赤よっつ、緑むっつ』の冒険者ポロのゾンビと『百鬼夜行盗賊団』の一翼、『赤鬼夜行盗賊団』元首領、赤腕のサンリのゾンビがフードを被った死神のように立っていた。
『取り寄せ』魔術でアンデッドは転移できるんだよな……。
俺が飛ばされた『転移』の魔法陣を調べられれば、生きている人間を飛ばすこともできるようになる。
ぜひ調べてみたいが、もう一度飛ばされる度胸はない。
何しろ魔法陣は壊れていないはずなのに『ミートスラッシャー』の面々は誰一人、飛んで来ていないのだから。
あの『転移』がランダム転移だったりしたら、と思うと背筋が冷たくなる。
俺はポロとサンリに守られながら移動を開始する。
ポロは元『緑むっつ』冒険者だっただけあって、罠を見つけるのが上手い。
ポロが罠を見つけた場合、言葉で合図してくれる。
「おぉとぉしぃぃあぁなぁ……」
ゾンビ化すると流暢に話すのは難しいらしい。
「よし、アルファ、漢探知だ!」
「あの、ご主人様……アルファは女ですが?」
「うん、古来より罠を敢えて発動させて、踏み潰すように進むことを漢探知と呼ぶのだ!
ポルターガイストで罠を発動させてみろ……」
「なるほど……漢探知行きます!」
アルファがポルターガイストで落とし穴に重さを掛けると、地面がぼこっと抜けて、落とし穴が露わになる。
穴の底には尖った刃物が幾つも用意してある。
相変わらず『ゼリ』のダンジョンは殺意が高い。
落とし穴の発動音に近くにいたゼリホーンドゴブリンが三匹ほどやってくる。
「サンリ、トーブ、近寄らせるな!」
サンリが死の間際に持っていた大斧を振り回す。
さすが赤腕と呼ばれるだけあって、大斧を軽々と扱う。
ゾンビ化して腕力が強くなっているのもあるだろう。
一匹は一撃で両断だった。
鳥のオーブであるトーブは、ゼリホーンドゴブリンに見えていないのか、ポルターガイストでタコ殴り状態だ。いや、タコ突きと呼ぶべきか。
嘴状のポルターガイストが目や耳など鍛えられない部分を潰していく。
むごい……。
俺は近づくポロに守ってもらい、見ているだけだ。
一方的にサンリとトーブの攻撃で殲滅できてしまった。
「いける……な……。ふっ……ふははっ!
圧倒的ではないか、我が軍は!」
一人、悦に入っている俺に答えるものはいない。
「アルファ、お前も言え!」
「何をですか、ご主人様?」
「こうだ。ふははっ!
圧倒的ではないか、我が軍は!」
俺は胸を張って、再度高笑いする。
「ふはは、圧倒的ではないか、我が軍は……私たちって軍なんですか?」
「いいんだよ、こういうのは雰囲気の問題なんだから……」
「そうなんですね!
ふはは……圧倒的ではないか、我が軍は……」
「もっと高らかに笑いながら!」
「ふははっ」
「もっとー!」
「ふははっ!」
「もっとだー!」
「ふっはっはっ!圧倒的ではないか……」
アルファにこの調子で、英才教育を施しながら、俺たちは進むのだった。