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お試し攻撃!お試し罠!?

目が覚めて、俺たちは『ゼリ』のダンジョン一階層の残りを歩き回っていく。

地図の中で頼りとなるのは広間の位置だけで、通路はほぼ別物らしい。

マンセは方向感覚に優れているらしく、次はあっち、今度はこっちと淀みなく道を決めていく。


「罠さえ気をつければ、赤みっつからでも何とかなる程度だな……」


ギュカクがそんなことを言う。

ちなみに俺は一匹でも正面から相対したら、まともにモンスターの攻撃を避けられる気がしない。

ミアンがきっちり敵を抑えてくれて、後ろから攻撃するだけなら、ゼリホーンドゴブリンの一匹くらいは始末できるかな。

それも罠がない場所でならだ。


「おい、こっちだ!こっちに退避しろ!」


ジョウエンが俺を呼ぶ。

考えごとをしていたら、いつのまにか風刃鼬と戦闘になっていたらしい。

風刃鼬は大きな鼬だが、風刃と呼ばれるカマイタチを放ってくる。

立ち上がればギュカクと同じか、少し大きいくらいの体躯を持っているので、威圧感が凄い。


俺はジョウエンに言われるがままに鍾乳石の岩陰に隠れて戦闘を見守る。

一応、この辺りに罠はないとマンセが言っていたので、少しだけ手を出してみようかと好奇心が湧く。


「攻撃していいか?」


「『異門召魔術』か?誤射がないなら頼む!」


ジョウエンが剣を抜いて、俺を護衛してくれている。

俺は右腰の『火』の魔術符に判子をぽんと押して引き抜く。

魔術符から炎が上がる。

狙いを付ける。

ギュカクが一匹の風刃鼬を盾で弾いた。

風刃鼬は立ち上がると、風刃を放とうと準備動作に入る。

よし、アイツだな。

燃える魔術符に描かれた魔法陣が壊れ、火球が飛び出す。


「ギュバッ……!」


風刃鼬が奇妙な鳴き声を上げて、燃え上がった。

火球の勢いで、風刃を放つことなく仁王立ちのまま前足の一本が吹き飛び、さらに体毛に引火して全身を焼かれた。

それを見逃すことなくギュカクが盾を構えて突進する。

あわれ、風刃鼬は盾の突撃を受けて、壁にぶつかるとそのまま息絶えた。


ギュカクは盾を掲げて、俺に目配せする。

よくやった、とでも言いたいのだろう。


「素晴らしいな!『異門召魔術』の威力はやはり侮れん……」


ジョウエンが俺を護衛しながら、手放しに褒める。

だが、俺はアンラを見る。

アンラは弓を放って、一匹仕留めると、もう一匹が放つ風刃を片手で側転しながら避ける。


「ああいうのはできないからね……普通に一人じゃ冒険はできないよ……」


「ああ……それでも充分に戦力になれるだろうさ!赤よっつの魔物をほぼ一撃で沈黙させる威力だぞ!」


ジョウエンはそう言ったが、やはり俺はなるべくなら冒険に出ないのが正解だと思う。

冒険者という生き方は心躍るものがあるとは思うが、早いところアルを生き返らせて、本を読みながら悠々自適な生活を送る方が自分にはあっていると思うのだ。


それから、安全が確保できる時だけ、たまに攻撃させてもらい、先へと進む。

俺が倒したモンスターの分として、ギュカクたちは魔石を俺にくれる。

風刃鼬の魔石は、風晶石という属性つきの魔晶石で、普通より少し高く取り引きされる。

それをみっつももらってしまった。

少し戦い慣れておこうと思っただけなのだが、思わぬ収入になった。


俺たちは最後の休憩を取る。


「あと広間ふたつで一階層は調べ終わりだね!

心配してた『拡張』もこの地図以降は起きてなさそうだし、幼馴染の遺品もきっと見つかるよ!」


「マンセ、まだ気を抜くな。依頼は一階層の調査だが、構造変化が起きているらしいことは確かなんだ。それに……。

とにかく、ボス部屋も残っている。

あまり、楽観的だと足元を掬われるぞ!」


結果、アルの霊魂は未だに見つかっていない。

まさか、アルに何の未練も残っていないとは思いたくなかった。

正直、かなり焦っている。

あれから、またアル以外の霊魂は二体ほど見つけたが、既にそれに構っていられる程、お気楽にはなれなかった。


構造変化で一階層のものが二階層に移動、なんてことがあるのだろうか?

分からない……。

俺はうろうろと歩き回る。


「依頼主さんは落ち着いた方がいいとアンラは思うの。

確かに依頼主さんの求めるものは見つかってないけど、焦ったところで何も変わらないわよ?」


「分かってるよ!分かってる……分かってる……」


でも、これでアルの霊魂が見つからなかったら?

そう思うといてもたってもいられない。


自然洞穴のような道の途中だがここは『神の試練』だ。

普通の空間ではない。

落ち着かなければと思うが、思えば思うほど嫌な考えに思考が偏っていってしまう。


「一度、座れ。休憩も大事なことだぞ……」


ジョウエンに言われて、近くの鍾乳石を背もたれ代わりに座る。


「ん?ちょっと待った!それ、何か変だぞ!?」


「え?」


マンセの言葉にそちらを見る。

と、同時に背もたれにした鍾乳石がガコンと一段下がった。

この辺りは大丈夫、とマンセが言ってたはずなのに……。


「魔法陣!?」


ジョウエンが俺を保護しようと立ち上がり、こちらに腕を伸ばす。

俺は慌てて足元を見る。

今まで物理的な罠しかなかったはずなのに、魔法的な罠だって!?

足元に魔法陣が展開して光を放つ。

俺の体内オドが吸われる感じがないので、オドの供給は別場所だろう。

俺が立ち上がろうとした瞬間、ジョウエンの手が光に弾かれる。

結界のような効果だろうか?

と、俺が考えていると光が強くなる。

その光が薄れると、景色が一変していた。

自然洞穴っぽいのは変わらないが、色味が違う。

黄色っぽい土色だったものが、翠色っぽい土色になっていた。

辺りに『ミートスラッシャー』の面々はいない。


「ギュカク!ジョウエン!マンセ!アンラ!誰かいないのか!」


いないのか……いないのか……。と、虚しく声が響く。

転移系の魔法陣だろうか?

生きている人間を転移させるだって!?

一瞬だけ見た魔法陣はどうだったか、必死に思い出す。

俺の『取り寄せ』と似ていたような気もする。

だが、俺の『取り寄せ』では生きている動物の移動はできない。

ああ、くそ、何故ちゃんと見ておかなかったんだ俺は!


と、それよりもここはどこだろうか?


俺は途方に暮れた。


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