霊魂?見張り!?
三本角の小鬼、ゼリホーンドゴブリンの振るう棍棒をギュカクが盾で受け止める。
そこにアンラの放った矢が刺さり、ゼリホーンドゴブリンは倒れた。
『ゼリ』のダンジョン一階層を、アルの残滓を探しながら歩く俺たちだが、ダンジョンの構造変化が起こっているせいで、手探りの総当りという感じで歩き回っている。
ギュカクが松明に火を移すのに合わせて、俺も点眼薬を使う。
今まで二人分の霊魂を見かけた。もちろん、アルじゃない。
一人は罠の一点をじっと見つめているだけで、恐らくその罠に掛かって死んだのかな?と思わせるものだった。
その罠は落とし穴だったが、俺がその霊魂を気にしていたら、斥候のマンセが落とし穴の罠を外して開けてくれた。
マンセからしたら、俺が罠をじっと見つめていたので変に思われたかもしれない。
落とし穴の底には遺体があった。
装備は落とし穴の底にあった槍で串刺しになっていて、使い物にならなかったが、ギュカクたちは【冒険者バッヂ】だけ持っていくことにしたようだ。
【冒険者バッヂ】を拾い上げると、その霊魂はすうっと消えていった。
もう一人はゼリホーンドゴブリンが持っていた剣に地縛されていた。
なかなかに業物の剣だったらしい。
ギュカクが戦利品として持っている。もちろん、霊魂は憑いたままだ。
呪われたりしないのかと心配になったが、ギュカクに変化はなかった。
基本的に俺は護衛される立場なので、戦闘に参加することはない。
あくまでも今回は依頼主という立場なので、荷物持ちをすることもない。
だから、霊魂を見ることに集中できる。
しかし、ギュカクの持っている剣のように、場所ではなく物品に地縛されることがあると分かったので、そういったことにも注意が必要だろう。
霊魂にも差異があるらしく、色濃く見える霊魂もいれば、今にも消えそうな霊魂、動くやつ、動かないやつとあるようだ。
まあ、二体しか見ていないので、これも要研究かもしれない。
ギュカクたちは、冒険者のものと思しき品物を見つけると、その都度、俺に教えてくれる。
俺がアルの残滓を探しに来たとしか言っていないから、当たり前の気遣いだ。
もしかしたら、早く終わらせて帰るために必要だからかもしれない。
俺としても、文句はない。早く見つけたいという想いは同じだ。
ゼリホーンドゴブリン、風刃鼬、ストーンゴーレムなどが出てくるが『ミートスラッシャー』は戦い慣れているのか、危なげなく撃破していく。
「依頼主さん、解体してもいい?」
「ああ、どうぞ……」
あくまでも依頼は護衛なので、素材の剥ぎ取りには俺の許可がいるらしい。
俺の許可が出ないようなら、魔石だけ取って後は捨てていくことになるそうだ。
俺がデニーたちと冒険する時は、基本的に魔石以外に価値があるものが少ないので、魔石を取って後は放置、もしくは穴を掘って埋める程度のことしかしてこなかった。
シャンデリアバットや水スライムの素材を剥ぎ取りしたが、本格的な解体にはほど遠い。
ゴブリンの角、風刃鼬の牙と肉なんかは、それなりに価値が出るらしく、素材の剥ぎ取りをやりたがる。
本格的な解体を見るのも勉強だと思って、俺は許可した上でやり方を見せてもらったりする。
手際が良いからなのか、それ程の時間は掛からないので、あまりイライラすることもない。
「地図で言うと、主要な広間の半分以上は踏破したかな!」
マンセが言う。
「今日はこれくらいで、場所を確保して、仮眠を取ろう」
ギュカクが指示を出すと、他のメンバーが糸と板で鳴子を作って、設置にいったり、寝床、と言ってもなるべく平坦で見通しがきき、モンスターに襲われにくい場所を探す程度だが、そういう寝床を確保したりと忙しく動き回る。
ダンジョン内で燃料の確保が難しいのだが、魔導具で温かい飲み物くらいは用意している。
後は手持ちの携帯食糧をもそもそと食べると、見張りを立てて仮眠を取る。
全員疲れているのか、言葉少なに今後の予定を話す程度で寝る、のかと思えば、アンラがあれこれと俺に話し掛けてくる。
「依頼主さんはどんな冒険をしてきたの?あ、アンラたちのしてきた冒険話聞く?」
あれ?これ、俺は仮眠取れるんだろうか?
俺が不安な顔を見せるとギュカクがアンラを窘める。
「こらこら、ヴェイル殿も疲れてるだろうから、あまり無理を言うな」
「だって、休憩でしょ?リラックスが必要だと思うの。
ここまで、静かにしてたから、色々話したいこともあるのよ」
「まったく……少しだけだぞ!」
ギュカクは大して役に立たなかった。
アンラたち『ミートスラッシャー』の面々の出会いと、それからの冒険譚は松明一本分、二時間は続いただろうか?
「アンラ、交代だよ……」
ジョウエンが眠そうに目をこすりながら、起き出して言う。
「分かった。じゃあ、続きは次の休憩の時ね!」
俺は船を漕ぎながら、念仏のように「ああ……」とか「うん……」とか言っていただけだが、知らない間に他の面子は寝ていた。
辺りを見回すと、ジョウエンだけが起きている。
「ほら、君も早く寝な。限界だろ?」
目線をぼーっと漂わせていると、既にアンラは寝ていた。
ああ、見張りもするつもりはなかったけど、結果、見張りをしていたのか、とその時になってようやく俺は気付いた。
精神的な疲れが大きかったのか、横になった俺は気絶するように眠りに落ちるのだった。