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ゼリ!構造変化?

『ゼリ』のダンジョン。

入場制限は赤よっつから。

これは冒険者バッヂで赤よっつ以上でないと入れないダンジョンだと言うことだ。

難易度は中級レベルだが、この辺りでは滅多に見ないモンスターの出現報告があり、さらには中級レベルには珍しく罠が多数仕掛けられているダンジョンでもある。


このダンジョンが発見されてから、まだ三ヶ月程度。

研究者によれば、発見ではなく発現だという話もある。

ある日、唐突に現れるダンジョン。

『神の試練ダンジョン』は未だ謎が多い。


正直、『ゼリ』のダンジョンに関しては、知られていることの方が少ない。

ダンジョンの攻略も四階層までしか進んでおらず、まだ先がありそうだという話になっているらしい。

なので、このダンジョンについて、俺が知っていることは少ない。

落とし穴や毒矢の罠があること、デカくて黒い狼型モンスターと角が三本ある小鬼型モンスターが出ることくらいしか知らない。

アルと一緒にこのダンジョンに潜った時の経験で知っているのはそれだけだ。


知識無しで挑むのは、かなり怖いが、今回は護衛がいる。

俺が雇ったのは『ミートスラッシャー』というパーティーだ。

むさくてゴツイ、重戦士兼盾士のギュカク。

双子の兄で飄々とした斥候のマンセ。

その妹で、話し出すと止まらない弓士のアンラ。

胸がデカくて美人だが、お節介焼きで融通のきかない魔導具使いのジョウエンの四人だ。


『ゼリ』のダンジョンの入口は森の中にある、天然の小さな洞穴だ。

その洞穴の前は伐採されて、掘っ建て小屋が置かれている。

今回、俺は依頼主なので、入場制限は適用されない。というか、そもそも冒険者として登録すらしない。

紙に名前やら所在地やら、ダンジョン内で死んでも文句を言わないという誓約を書かされて終わりだ。

入場チェックをしている冒険者がギュカクに聞く。


「緑依頼か。滞在予定は?」


「一階層の探索だけだから、明日の夕方には戻る予定だ」


「分かった。戻らなかった場合、明後日の夕方には捜索の兵士に入ってもらうことになる。そうならないように、気をつけろよ」


「ああ」


これは、依頼主の安全を担保する措置で、途中、問題があったりした場合でも、一日だけ、なんとか逃げ回れば、兵士が見つけてくれる可能性があるというものだ。

まあ、見つけるのは遺品だけという可能性の方が高い。

それでも、一応、希望があるとしておきたいのが緑依頼を受ける側である冒険者互助会の狙いだ。


「一階層は地図があるから、そんなに心配する必要はないわよ。

何しろ、今回の依頼を受けてすぐに買ったから、最新版だし、罠やモンスターも載ってるから、問題ないわよ!

それに『ミートスラッシャー』と呼ばれる私たちは特に獣系を狩るのが得意なんだから、大船に乗った気で任せてくれればいいわ!ね、依頼主さん!」


とは、アンラの言だが、最初は入場チェックをしている冒険者に話しているのだと思っていたら、いつのまにか俺に向けての言葉だったようだ。


「え?あ、ああ……」


聞いてはいたが、まさか俺に話を振られると思っていなかったので、面食らってしまった。


「アンラのことは気にしなくていいよ、依頼主さん!

アンラは会話したい訳じゃなくて、一方的に言葉が漏れてるだけだと思えば、そんなに気にならなくなるから!」


「ちょっと、マンセ!そういう言い方はないでしょ!一応、アンラだって会話する気はあるんだからね!ただ、世の中は無口な人が多すぎるのよ。思ったことを素直に言えばいいだけなのに、それができない可哀相な人が多いの。アンラからしたら、間を保たせる為に気を遣ってあげてるだけで、感謝の言葉も言えない人は可哀相だなって思うの!それにアンラに気を遣ってもらってること自体、気付いてないって人も……」


「じゃあ、行こうぜ!」


唐突にギュカクが言う。

俺は言葉数が多いタイプではないので、少しだけアンラに羨望の眼差しを注ぐが、やはりウザイものはウザイ。

ギュカクの助け舟に乗る形で、移動を開始する。


「ちょっと聞いてよ!人の話を遮るなんて、ギュカクは人としてどうかと思うの……」


止まらないアンラの言葉に、ジョウエンが頷きながら肩を押す。


「アンラほど人は素直に生きられないんだ……羨ましいと思うよ、私は……」


「そうかしら?心の中に浮かんだ言葉をそのまま出すだけだから、大したことはしてないのよ、アンラは。

でもね、言葉を選んでしまうというのも、分からないでもないのよ……」


うんうん、と頷きながらジョウエンがアンラを促す。

慣れているというか、そういう役割分担なのだろう。

全員で洞穴の中に入ると、さすがにアンラも黙った。

ここからは仕事だという線引きがあるのかも知れない。


自然の洞穴に見えるが、しばらく進むとあからさまに雰囲気が違ってくる。

俺は作った点眼薬を差す。

ついでに『芋ん章魔術』も用意しておく。


「ん?それは『異門召魔術』か?」


ジョウエンが目敏く見つけて、聞いてくる。


「特別な伝手があるからな」


ジョウエンは魔導具の灯りに小粒の魔晶石をセットしながら羨ましそうにこちらを見ていた。

俺は右腕の箱をぽんと叩いて、『光』を取り出す。

マントの肩部分にポケットを付けたので、そこに魔術符を仕込む。


「そうか、確かあまりの人気ぶりに制限が掛けられているはずだが……特別な伝手か……」


「おい、ジョウエン。また、面倒を起こすなよ……」


ギュカクが松明に火を点けて言う。


「分かっている。特別な伝手はズルいなどと言う気はない。

人脈も冒険者にとっては武器だからな。

ただ、少し羨ましいと思っただけだ……」


「ジョウエンはどれかひとつでも借りられないかって、散々、応募してたもんね!

まあ、運が悪いんだよ、ジョウエンは……」


同じく灯りの魔導具に魔晶石をセットしながら、マンセが言う。

灯りの魔導具はランタンのような形をしていて、ジョウエンは腰から吊るし、マンセは手持ち型の物を使っている。


「アンラは灯りを持たないのか?」


気になったので聞いてみる。


「持ってるけど、使わないのよ。

人数が多い時は一人は灯りを使わずに暗闇に目を慣らしておくのが基本よ。

ギュカクが松明を使うのは、時間感覚を失わないようにするためと、使い捨てだから、投げて遠くを確認するのに使ったりするからよ。

これも、冒険者の基本だから覚えておくといいと思うの。

アンラが親切だから、びっくりした?でも、冒険者としてはアンラの方が先輩だから、これも当たり前のことなのよね……」


「アンラ、まだ休憩じゃないよ!」


マンセが言うと、アンラは自分の両手でバッテンを作って、自分の口を塞いだ。


俺は灯りの使い方よりも、マンセの、アンラの御し方に関心してしまう。

時間感覚を失わないようにするというのは、デニーからも聞いた気がする。

俺の『光』の魔術符は一枚六時間。

途中で破いたりすれば、たぶん時間感覚は失ってしまう。

入ったのは昼過ぎくらいだから、破かなければ六枚使うまでに帰るという指針になる。


物語には描かれない部分なので、本を読むだけでは分からない、生の体験というのは、やはり勉強になると思った。


俺たちはゆっくりと進んで行く。


先頭は斥候のマンセだ。

地図を見ているのもマンセで、時折、罠を見つけては白いペンキのようなもので、「これ、罠ね!触らないように!」と声を掛けていく。地図の方にも書き込みを入れているのは、構造変化が多少なりともあったということだろうか?


「ありゃ?ここも変わってるな……」


ギュカクが二本目の松明に火を移した頃、マンセが戻ってきて言った。


「ダメだわ!大規模な構造変化が起こってるっぽい……」


「そうか……最新版のはずなんだがな……」


「最新版とはいえ、情報自体は一ヶ月くらい前のものだからな……構造変化が激しいダンジョンでは一週間くらいでガラリと変わってしまうところもあると聞く。

この『ゼリ』も一週間とは言わないが、かなり構造変化が頻繁に起こるダンジョンなのかもしれないな……」


マンセがお手上げというポーズを取るのに、ギュカクは首を傾げ、ジョウエンはそういうこともあり得ると納得顔だ。


「ここまでで広間的な位置はほぼ変わってないけど、そこに至る道はほぼ違うと思っていいね……」


「依頼主は、幼馴染さんがどの辺りで亡くなったか、知らないのかしら?あ、変な意味じゃなくて……」


アンラが話し始めると、すかさずマンセが口元にバッテンを持っていき、アンラに見せる。

気付いたアンラもまた、自分の口元をバッテンで閉じた。


俺は記憶を思い出すようにして、考える。


「……分かれ道が三回。十字路、丁字路、丁字路で、まっすぐ、右、右に行った広場……広間なのか?

デカくて黒い狼型モンスターが居た……」


「一緒に行ってたのか……」


ギュカクが辛そうな顔をする。


「狼型モンスター……ガルム種ってやつかな……ここで出るのは外皮が異様に強靭で、凶暴なダークガルムって名前になってるけど……それは三階層で確認されてる……」


地図に付属の資料を眺めながらマンセが確認するようにこちらを見る。


「一階で見たよ……」


「そいつに……」


ギュカクが俯きながら呟くので、俺は否定の首を振る。


「死んだのは罠だった……一緒に行った幼馴染の先輩冒険者が言うには『ベノムバイト』って毒矢だったらしい……」


「ベノムバイト……毒蛇モンスターの強力なやつだな……ひと咬みで象も死ぬってやつだ……」


ジョウエンが知っているのか、そう補足を入れる。


「いや、ちょ、ちょっと待った!『ベノムバイト』!?そんな罠があるのは、この地図で言ったら二階層への階段手前、ボス部屋だぞ?

いくら構造変化が激しくても、分かれ道三回でつくような場所じゃねーよ?」


マンセが焦って、地図を見直す。


「もしかすると、拡張しているのか?」


「拡張?」


ジョウエンの言葉にギュカクが聞く。


「ああ……ダンジョンは『神の試練』だ。

この世の物理法則の外側にある世界とも言える。

外の世界と地続きのように思えるが、実際は隔絶された異世界だと言う話もある。

兄は別マップとか言っていたが、とにかく大きさが変わるような構造変化というのもあるのだそうだ……」


「兄?」


「ああ、依頼主に説明すると、私の兄は、その……『ロマンサー』なのだ。

私はいつか兄の手助けになりたいと冒険者をやっている。

それで、兄の助けになればとダンジョン研究者などに話を聞いてまわった時期があって、その時に『拡張』というダンジョンの構造変化もあるという話を聞いたんだ」


なるほど、ジョウエンの兄は『ロマンサー』なのか……。

その手助けのために……か。

ジョウエンがやけにダンジョンに対する知識が豊富なのに納得がいった。


「どの程度、大きさが変わってるか分からねえけど……今のところ広間の位置は地図と一緒だ……それを信じて、進むしかねーな……」


「ああ、罠の位置も変わっているようだし、もう少し慎重に行こう」


ギュカクがそう言って、マンセはまた斥候任務に戻った。

俺は辺りを見回す。

ファントムとして姿を隠しているアルファと、鳥のオーブのトーブくんが見える。

点眼薬の効果だ。

これを使って、アルが見つけられることを祈るしかない。

だけど、前途多難だな……。そう思うのだった。


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