準備!護衛依頼!
俺は二日という期限を自分に設けた。
今まで、知らなかったからというのは簡単だ。
これまでも基本的にアルのことを最優先にしてきたが、それがアルを置き去りにしたことだったのだ。既に二ヶ月くらい放置していることになる。
『サルガタナス』によれば、時経れば未練は薄れる可能性もあるという。
アルに未練があることを望むというのも、業腹な話だが、俺はそれに縋ることしかできない。
二日という期限は、地縛されているとしたら、アルが亡くなった地だろうということで、『ゼリ』のダンジョンに向かうための準備期間だ。
「なあ、『サルガタナス』。アルが地縛されているとして、そのアルを見つける方法はあるのか?」
《ふむ……見つけることも、捕らえることも、容易いことよ!
それこそ、羊を飼うのに必要な技術。
書いてあるぞ!》
という会話を経て、俺はその記述を見つけた。
それは様々なアンデッドの作り方の合間にコラムのようにして書かれていた。
まずは点眼薬。
製法はいつもの魔瘴石を一晩月光浴させてから、普通の点眼薬に混ぜるというもので、これを点眼すれば一回で三十分ほど、霊の視認ができるというものだ。
それから、人工霊魂を筒に詰めたもの。
これで見つけた霊魂を捕らえることができる。
一日目は、人工霊魂作りと、テイサイートの街で俺の護衛依頼を出した。
ついでにオクトのところで売上を貰う。
八百ジンももらってしまった。
『ゼリ』のダンジョンは最低でも『赤よっつ』以上の冒険者しか受けられない。これが護衛依頼になると『緑よっつ』からになるので最低でも五十ジンは掛かる。
ただ、俺は『ゼリ』のダンジョンの怖さを知っているので、さらに金を積むことにした。
八十ジンだ。
依頼内容は『ゼリ』のダンジョン一階層の探索。
ここは思いきって、『ロマンサー』からの依頼として『青ひとつ』をつけてもらう。
いつものおじいさん、何故か依頼に行くとじいちゃんの知り合いだと言う互助会職員のおじいさんに対応されるが、そのおじいさんに「まあ、なるべく使えるやつらを見繕ってやるわい!」と胸を叩いて言っていたので、何とかなるだろう。
指名依頼料は払ってないのだが、いいのだろうか?
謎だ。
あとは街であれこれと買い物をして、『塔』に帰る頃には日が暮れる時間だった。
それから、準備を進めて二日目。
朝、昨日街で買ってきた鈴を鳴らしてみる。
ガサガサと茂みを揺らして、ゾンビ化したポロと赤腕のサンリが森から出てくる。
おお、間に合った!
まずは二人に『消臭』の魔術をかける。
森の中など、道なき道を進んで来たからか、身体の損傷が激しかった。
戦力としては二人を『ゼリ』のダンジョンに連れて行きたいが、さすが腐りかけの死体を連れて行くのはヤバそうなので、研究室の拡張工事をしてもらう。
ただし、俺が『ゼリ』のダンジョンに行っている間は、『取り寄せ』魔法陣部屋で待機だ。
いざという時用の戦力になってもらう予定だ。
まあ、いざという時は無いとは思うけど、前回はあそこで置き去りにされているからね。
用心に越したことはない。別にトラウマとかじゃない。
あくまでも用心だ。
鳥のオーブであるトーブくんと、ファントムであるアルファは透明化できるので、連れていく。
今回は採算度外視、アルの霊魂さえ捕獲できればいいというスタンスだ。
二日目は点眼薬を作って試したり、『芋ん章魔術』の魔術符を刷ったりして、時間が過ぎていく。
そして、『ゼリ』のダンジョンへ向かう日が来る。
俺は日の出と共に、テイサイートの街へと向かう。
できれば、護衛は誠実で頼れるやつらでありますように……と願う。別にトラウマとかじゃない。
二度目の『ゼリ』。
アル、待っててくれよ。