ハンバーグ?綿アメ……。
今回は短めです。
日が昇って、俺たちは村人たちの協力を得て、『氷蜘蛛縛り』で倒したモンスターを集めて回る。
兵士たちは、やはり盗賊団のアジトから、それなりの財宝を得ていたのか、九百ジン払うと、『今回のことはこれで口外無用にな』と言って帰っていった。
集めたモンスターと動物は実に二百八十三匹。
魔石は九十四個。
食用になる動物は格安で村に買い取って貰った。
一部は自分たちの食糧として確保したが、それでも八十ジンほどになった。
それから、俺たちは村長と行商人のサントさん、その娘のキリを伴って街に向かう。
村長が一緒に来るのは、緊急依頼の提出があるからだ。
冒険者互助会を通さないと、色々と面倒くさいからね。
三日の道のりを問題なく街まで帰る。
まあ、『フクラシ湖』周辺の森のモンスターと動物を狩りまくった後なので、危険はほぼ無いという道程だった。
そして、全員で冒険者互助会へと行く。
サントさんからは、依頼書にサインを貰うだけなので、実際には街に入ったところで依頼達成となっているのだが、サントさんは俺に魔石を売ったので、次の仕入れが必要になったのだ。
サントさんとキリは、次はテイサイートの北西、ソウルヘイ方面に向かうらしい。
ということで、冒険者互助会に入ったところで別れた。
村長ともお別れになる。
俺たちは、サントさんの護衛、『緑ふたつ、指名』依頼。貝殻集め、『色なし』依頼。村長の緊急依頼、『緑むっつ、青ひとつ、指名』依頼。という三つの依頼をこなしたことになる。
緊急依頼はデニーが一人で受けるという話だったが、最終的に三人で受けたという形になった。
金額は四十ジン、十ジン、八十ジンの合わせて百三十ジン。
その内、貝殻集めの依頼料はデニーは受け取らないので、俺は四十五ジン、更に俺が得た報酬で言うと、貝殻を二袋余分に納めたので、ミアンと山分け、二ジン六十ルーン、魔石とスライムの核袋を売った金が、これもミアンと山分けで五十五ジン、二十五ルーン貰えて、百二ジン八十五ルーンの稼ぎになった。
まあ、金よりも、依頼達成ポイントが大事だ。
前回の冒険と含めて、『赤二回、緑八回、青一回』分のポイントが貯まった。十六回分のポイントで色ひとつになるので、緑依頼をあと八回分貯めれば、『緑ひとつ』冒険者になれる。
でも、緑依頼は護衛とか警備とか、時間を取られる物が多いので、赤依頼を受ける方が現実的かも知れない。
これでスライムの核も手に入ったので、またしばらくは研究に没頭できる。
デニーとミアンに別れを告げて、俺は街中でアルの進化に必要な諸々を買い求めて、『塔』に帰ることにする。
別れ際、ミアンに絵本を貸してやる。
「次の時に返してくれればいいから、勉強しとけよ……」
そう言ったら、ミアンは大事そうに絵本を抱えて頷いた。
なんだかすっかりミアンが素直になった気がする。
俺は『塔』に帰った。
ベッドに身体を投げ出して、久しぶりのその柔らかい感触を味わう。
「疲れた……考えてみれば、まる七日くらいか……しばらく冒険はいいや……」
いつものように独り言を呟いて、俺は目を閉じた。
翌日、昼過ぎに起き出した俺は、さっそくの人工霊魂作りをすることにした。
青龍の水こと清流の水は、『塔』の近くを流れる小川から取る。
アルに細かく指示を出して、魔瘴石、つまりクズ魔晶石とスライムの核を石臼で細かく挽いていく。
石臼はまだ俺の研究室にはないので、母の工房にあるものを使う。
出来上がった二種類の粉に水を加えながら練っていく。
スライムの核は、水スライムのものを使っているので藍色の粉にキラキラ輝く硝子の粒を混ぜるような感じだ。
水を含ませるとクズ魔晶石の光が馴染むように、淡く全体が紫色の光を放つ。
よく練ったものを研究室へと持っていく。
研究室に用意した竈を使って焼くことにする。
紫色に淡く光る生地。とりあえず、アルと同量くらいをフライパンで焼くことにする。
拳大のものを三つ。
なんとなく、ハンバーグのタネにそうするように、左右の手でパンパンと飛ばすようにして空気を抜く。
真ん中は凹ませなくていいのかな?
なんとなく、火の通りが均一になるように、凹ませておこう。
油は……と考えたところで、正気に戻る。
「ハンバーグじゃなかった……あ、バイゼルさんのハンバーグ食べたくなってきた……」
アルに自意識があったら、「私が焼いてあげよう!ふっふっふ……」とか言われるところだな。
当然、俺は反発する。
何故なら、炭化したハンバーグに俺は興味がないからだ。
何度、酷い目にあったかなど、数えるのも嫌だ。
「あと十年、修行してこいや!」
脳内再生したアルの言葉に勝手に反発しながら、人工霊魂のタネを焼いていく。
じゅわっ!と水分が弾ける音が響く。
同時に靄のようなものがフライパンから上がる。
煙りとは違う。
綿アメみたいな靄だ。
多少、重みがあるのか、上がったと思うと辺りに飛び散る。
服にペタペタした靄がまとわりつく。
慌てて、手近にあった木の棒に絡めとっていく。
ハンバーグかと思ったら、綿アメだった。
木の棒はすっかり綿アメみたいになっていく。
というか、何か覆いを作って、その中でやるのが正解だったかも……。顔や服が大変なことに……。
途中でやめる訳にもいかず、服や顔を汚しながら、大きな綿アメができた。
これが、人工霊魂なのか?
「おい、サルガタナス!これって人工霊魂になってんのか?」
《間違いない!間違いないが、後で我にまとわりつくこの欠片を綺麗に拭わんと、許さぬ!》
まあ、作り方のページを開いて、見ながらやっていたので、当然、『サルガタナス』もペタペタになっている。
うん、やらかした。
この人工霊魂というやつは、冷えるとペタペタしなくなり、綿雲状に固まった。
人の頭よりふた周り大きいくらいの靄が取れた。
ゆっくり、木の棒を捻りながら、綿雲から引き抜いていくと、人工霊魂が完成した。
よし、これを使って、次はファントム作りだ!
だが、その前に研究室の掃除と『サルガタナス』の清掃、俺に飛び散った靄も何とかしなくちやな……。
俺は後片付けをしみじみとやるのだった。