帰り道!緊急依頼?
すいません。遅れました。
明日はいつも通り22時投稿予定です。
そこからは一日置きの投稿になりそうですm(_ _)m
水スライムは身体の中心部に核袋というのを持っている。
この核袋を開くと、魔石と核と内臓?のようなものが手に入る。
魔石が十二個、核も十二個だ。
核は俺が最初から貰うことになっているので、パーティーとしては魔石が十二個となった。
それと核袋も素材として売れる。
水スライムは粘液状の身体で対象を包み込んで溶かして捕食する。
その粘液には溶解成分がある。微弱な神経毒も含まれているらしい。
核袋はそれらを完全にシャットアウトしてくれる素材である。
その核袋は十一枚取れた。
デニーにナイフを借りて、俺も解体に挑戦したのだが、失敗して一枚ダメにしたから十一枚である。
貝殻集めは全部で五袋になった。
最低三袋からで、一袋増えるごとに二ジン三十ルーン上乗せなので、基本の十ルーンと併せて十四ジン六十ルーン。
『色なし』依頼としては、それなりにもらえる方だろう。
拳大の魔瘴石、所謂、クズ魔晶石は普通に買えば、最近の相場で十五ジンくらいする。
『取り寄せ』で荷物を送ると、採算が合わないので、これは手で持っていくしかない。
うーん。なかなか『取り寄せ』魔術は使い勝手が微妙だ。
もっと稼げるようにならないと、楽ができない。
俺たちは帰りの準備をして、歩き始める。
ミアンは腕が火傷したみたいになっていて、薬草を使って応急処置はしたが、なかなかに痛ましい格好になっている。
「ねえ、ヴェイル!さっきの『異門招魔術』って新作なの?」
『名も無き村』への帰り道、デニーが話しかけたくてうずうずしていましたという顔で聞いてくる。
「まだ試作品って感じだね。痛みやすい食材を運ぶ時とか、スライム相手になら使えるけど、汎用性には欠けるよね……」
「基本は冷気が吹き出す魔術なんだよね?『クラッカ連山』の火口近くとか、『アラモンド』ダンジョンの地下十階より下なら、凄い使えるよね!」
なるほど、熱気対策としてなら使い道があるか。
今回はスライムを相手にする前提だったので、急遽用意したモノだが、デニーのような上級冒険者には意外と需要があるかもしれない。
「いやあ、試作品かあ……早く実用化されないかなあ……。
ぜひ、『アラモンド』で使ってみたいよね!」
「まあ、オクトに伝えておくよ……」
そんな話をしながら、獣道みたいな細い道を辿る。
無事に『名も無き村』へと到着した俺たちを待っていたのは、新しい事件だった。
「ぼ、冒険者様!何卒、何卒お助け下さい!」
村に入った瞬間、村民が俺たちに向けて土下座する。
何事?と俺たちが顔を見合わせていると、少しだけ立派な衣服を纏う村長らしき人が他の村民に呼ばれてやってくる。
「お願いです。何故かモンスターが森から溢れて来ていまして!緊急依頼を受けてくれませんでしょうか?」
「緊急依頼って何?」
意味が分からないのでデニーに聞いてみる。
「その名の通り、緊急で受ける依頼だよ。
冒険者互助会を通す暇がない時に村や町から出される依頼で、依頼が終わってから冒険者互助会に依頼を出す形になる。
普通は倒したモンスターの最高難易度から、依頼の難易度を選出、指名依頼扱いで、自動で青ひとつ依頼になる。
ただし、どんなモンスターと戦うことになるか分からない。
目安が無いから危険だし、支払いも安定しない。
でも、村だって余程のことがない限りは緊急依頼なんて出さないはずだ。
凌げるなら、村側でどうにか凌いで、普通に依頼を出した方が安く済むからね」
それ、受ける冒険者なんているのか?と考える。
だって、 冒険者は命懸けの職業だ。でも、だからこそある程度、捌ける自信がある仕事しかやらないとも言える。
そりゃ、指名依頼で実入りはいいかも知れないが、払われる保証がない。
倒したモンスターの最高難易度から、依頼の難易度を選出ってことは、数によって難易度が大化けする可能性もある。
安全マージンの取りようがない。
「ちなみに依頼って、どんな依頼なの?」
村長に聞いてみる。
「はい、村に入ろうとするモンスターの撃退をお願いしたいのです……どうも、森の奥地からモンスターたちが何かに追われる形で、この村に湧き出して来ているようで……今朝から段々と数が増えているのです……」
あ、ダメなやつだ、コレ。
まず、期限がない。しかも、原因がよく分かっていない。
何かに追われるように……これって近隣の住み着いているモンスターを追い出すような脅威が後ろに控えているかもしれないって話だよな……。
そして、どう断ろうかと俺が思案していると、デニーがこんなことを言い出す。
「受けてもいいですよ!」
「おお……!」
「ただし、受けるのは僕だけです。
ここの二人はまだ『色なし』冒険者です。
あなた方が望まれる戦力とは、とてもではないですが言えません。
女、子供と一緒に匿って下さい。それなら、僕は協力できます!」
「な、なるほど……かしこまりました……。
仰る通りに致します……」
おお、さすがデニーだ。気遣いはありがたく受け取っておこう。
「納得いかないわ!」
と、ミアンがいきなり異を唱える。
バカなの?と、つい白い目でミアンを見てしまう。
「私だってもう戦える!私も受けるわよ!」
「ダメだ、ミアン!
それを許す訳にはいかないよ!」
デニーが強い口調でミアンを睨む。
「なんでよ!」
対するミアンもデニーを睨み付ける。
「……君は、足でまといだ」
デニーは、はっきりと言った。
気遣いの男、デニーにしては珍しくはっきりとした言い方。
ミアンもさすがにこれは予想していなかったのか、絶句している。
俺は避難することに異論なんてもちろん無い。
だが、できる範囲の手助けというか、口出しくらいはするべきだろう。
「その緊急依頼っていつまで?」
「は?」
村長がそんなボケた返事をする。
「いやいやいや……期限切ろうよ。
百ジンかそこらで永遠にデニーを縛り付けるつもりじゃないでしょ?
依頼は達成目標を決めて、そこまでって形にしなきゃ。
それと、デニーは『赤ななつ』冒険者だ……」
「おお……!」
「違う……それは喜ぶところじゃないよ。
その『赤ななつ』冒険者が一人しかいないんだよ!
俺たち『色なし』と一緒に行動してる意味を考えようよ!」
「いや、と言われましても……」
村長は訳が分からないという顔をする。
「つまり、本気の装備や準備をしてきていないんだよ!
『色なし』冒険者を気まぐれで鍛えてやろうって時に、本気の装備をする訳がない。
そんな重武装でレアアイテムの塊な上級冒険者と一緒に冒険したって、『色なし』冒険者の勉強にならないだろ。
だから、デニーは本気を出せないし、仲間のフォローもない。そんな状態でどこまでやれるか……たぶん、本人が一番分かっているんじゃないの?」
俺の視線に、デニーは申し訳なさそうに苦笑で返す。
「ええと……私はどうすれば……」
村長が困惑しながら聞く。
大丈夫か、村長?これは不安になる。
「森のモンスターが逃げ出してくるってことは、最終的にその原因に対処しなきゃならない。
あんたらがどんな負債を抱え込むかは考慮しないで言うなら、テイサイートの街まで人をやって、正規の依頼で上級冒険者を雇う。デニーの仕事はその上級冒険者が来るまでの村の防衛指揮ってところが妥当だろう」
「ふ、負債を考慮するなら?」
「村を捨てる。全員で逃げ出す。デニーの仕事は安全な場所までの誘導。それで精一杯だ。最低でもモンスターの進路を阻まなければ、命だけは助かる」
「そんな……!?」
「村長……篭城したいなら、外から応援が来るのが前提。
冒険者一人雇ったからって、森のモンスターを全て殲滅できる訳ないだろ?」
「それは……」
「何?まさか『赤ななつ』ならそれくらいできるとでも思ってた?馬鹿なの?村の男衆はどれくらい被害が出た?人間一人が壁の代わりをしたって、狂乱状態のモンスターを止められるのは一匹か二匹だぞ?止められなかったモンスターは家を壊し、あんたをひき潰すぞ!
その程度の甘い考えで村長なんてやっていける訳……」
「ヴェイル!ヴェイル!」
デニーが大きな声を出す。
どうやら、俺は話しながら、少々、その……熱くなっていたらしい。
「ヴェイル。僕の身を案じてくれるのは嬉しいけど、言い過ぎだよ。ちゃんと謝って。」
「あ……その……ごめん……」
ああ、どうせこんなことしか言えないんだ、俺は。
他人と関わるのはこういう時に面倒くさくなる。
アルに自我があれば、こういう時は暴力で止めてくれてたもんだけど、今のアルにそれは望めない。ましてや、その後のフォローも。
ダメだな、俺……。
「いえ、わたくしも言われる通り、考えが甘かったのです……。
確かに、村の男衆は何人もが傷付いて、幸いにも死者は出ていませんが……この先、森のもっと奥深くから脅威となるモンスターが出る可能性は考えていませんでした。
それにご高説はごもっともです。
命さえ残れば、取り返しはききます。
ここは貴方の言に従って、避難をしたいと思います……」
村長はしおらしく、俺に頭を下げた。
それから、大声で人を呼ぶと全員に避難の用意をするようにと伝える。
「じゃあ、ヴェイルとミアンは皆の準備を手伝ってあげてね!」
デニーがにこやかにそう言って、村の東に向けて歩き出す。
「え?デニーは?」
不安そうなミアンが聞く。
「ああ、村の人たちは避難の準備が必要だろ?その間くらいは僕一人でも壁になれるからね!」
言ってデニーは剣の柄を叩く。
「それと、ヴェイル。確かに重武装はしてないけれど、奥の手のひとつ、ふたつは用意してあるもんだよ!上級冒険者ってのはね!」
ニヤリとデニーは笑った。
なんだか、これから死にに行く奴みたいなことを言う。
やめろよな。そういうの。
でも、俺はそれを言うことはできなかった。
デニーはお人好しだ。その人の良さにつけこんで、スライム退治に誘ったのは俺だ。
正直、ここで死なれるのは困る。
いや、死ぬつもりはもちろんデニーにないだろうけど、数ある物語を読んできた俺には分かる。
コレ、死ぬやつ。と。
ロマンサーであるポロを手に掛けた俺が言うことじゃないよな。死ぬなよ!なんて。
また、死ぬなよって声を掛けられた奴が死ぬのも、物語の定番だ。
やはり、何も言えない。
「ほら、デニーに頼まれたんだから、私たちは避難準備の手伝いよ!」
ミアンが俺を促して、俺たちは村の中央広場へと向かう。
すでに何人か、準備ができた者たちが集まっている。
「ミアン!それにウォーくんも!」
「キリ!」
見れば商人のサントさんとその娘のキリだった。
元々、行商の荷物だけだから、準備も早い。
ミアンとキリはお互いの無事を喜びあっていた。
「おや?デニーさんは?」
サントさんが俺に聞いてくる。
「デニーは村人たちの避難準備の時間を稼ぐとかで、村の東に……」
「そうですか……聞けば、散発的にですが、鹿や熊、剣竜狼や鎧兎の群れが森から恐慌状態で出てきたとかで、今は数が少ないから大丈夫との話だったんですが……」
「そりゃ、今は大丈夫でしょうけど、たぶん、これから増えると思いますよ……」
「ああ、それは確かにそうでしょうね……」
「あ、サントさん!魔石とか持ってませんか?」
「へ?」
「売り物に魔導具とかないですか?」
「ああ、まあ、ありますけれど……」
「売って下さい。全部!魔晶石、宝晶石、魔宝石とかあれば一番いいんですけど……」
「いやいや、さすがに村で使う魔導具にそんな効果の高い石は使いませんからね……魔石がせいぜいで……でも、なんでまた?」
「まあ、魔導士見習いとしては、代償を確保しときたいんですよ。緊急時ですから!」
「ええっ!でも、手持ちの魔石はいくらもありませんよ。
売ってしまいましたし……」
「じゃあ、村の人が?」
「いえ、代表して村長さんが。村の魔導具なんて、畑の水撒き機くらいしかないですから……」
「なるほど……」
サントさんが持っていたのは魔石が五個。それを十ジンで買い取った。高ぇ!
さすが、田舎の行商値段……。
俺は村長の家を教えて貰って、そこに押し掛ける。
「村長!」
「あ、先ほどは……」
頭を下げようとする村長を制して、俺はいきなり本題に入る。
「行商から買った魔石があるだろ?あるだけ売って!」
「は?」
「俺は魔導士見習いなの!それで魔術の代償が足りないんだ!デニーは死なせる訳にいかない!デニーを殺させないためには、村長が買ったっていう魔石が必要なんだよ!」
「魔導士の方でしたか……」
「見習いな。そんなことはいいから、魔石!早く!」
「し、少々お待ちを……」
村長は俺の剣幕に押されて、家の中に慌てて引っ込んだ。
俺がやきもきしながら待っていると、暫くして、ようやく村長が戻って来る。
「これを……」
布袋がじゃらりと鳴る。
「結構あるな……」
俺は懐から金袋を出す。
魔石は重さから二十個くらいはあるだろうか。
「いえ、そのままお持ち下さい!」
村長が俺の金袋を押し留めるようにして言う。
「いいの?」
「はい。村のためにもなりますから……」
俺は一応、布袋を開けて中を見る。
数を覚えておいて、後で補填してやらなきゃいけないと思ったのだ。
すると、涙滴型の魔石に混じって、一個だけ、一際輝く小さな石があった。
「げ!魔宝石!?」
「はい。昔、この村を拓く前に旅の最中で見つけたものですが、魔導士様なら使えますよね?」
小粒だが、俺がお守り代わりにしていた魔宝石と同じくらいはある。
今はお守りは持っていない。使っちゃったからね。
これなら、結構な詠唱魔術が使える。
「あ、ありがたいけど……」
つい、金袋を見てしまう。
「いえ、ぜひ使ってやって下さい!」
少し逡巡したが、俺は割り切って使わせてもらうことにする。
「ありがとう!村の被害が減らせるように祈ってて……」
俺はデニーが戦っているだろう、村の東に向けて走り出した。