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貝殻集め!スライム退治?


「ヴェイル、遅いから心配したよ」


「悪いね!たぶん、俺たちより前に来た冒険者が近場の枯れ木を洗いざらい拾ってしまったみたいで、少し奥まで足を伸ばしたんだ」


「まあ、問題なければそれでいいよ。さあ、火をつけよう!」


デニーが嬉しそうに『火の異門招魔術』を手にする。


「大いなる火よ!火神の眷属、叡智の種よ!我が求めに応じて、ここにその姿を現せ!」


デニーが自作の呪文らしきものを唱える。

効果はない。趣味だな……。


「それって呪文?」


ミアンが聞く。だから、趣味だって。


「そう!かっこいいだろ!」


「効果はないけどな……」


「あ……ないんだ……」


「いや、魔導士っぽいでしょ?」


「はいはい……」


俺はサラリとデニーの言葉を流す。

デニーはにこにこと嬉しそうだ。


「ミアン、あんな大人になっちゃダメだぞ!

ほくち箱で火はつけられる。魔術符一枚二ルーンだからな!」


「えっ!デニー、ダメよ!余裕のないダンジョン内ならまだしも、こんなところで使ったら勿体ないわよ!」


お金にうるさいミアンがすぐさま反応を示す。

わかりやすい。


「一度くらいは試しておかないと、いざ使う時に躊躇しちゃうからね!」


「ふーん……そういうものなのね……」


「そうそう」


適当言ってるな、デニー。

まあ、いいや。


それからも順調で、俺たちは翌日朝から貝殻集めを始める。

この貝殻は建材や儀式魔術の触媒になる。

俺たちは黙々と貝殻を集めていく。


「これ、すぐに集まっちゃうわね」


ミアンが皮袋を三つも四つも積み上げる。

俺はまだひとつ目の袋の半分程度だ。

差が激しいな……。

ミアンと何が違うのかと、ミアンの仕事を見てみる。

目につく貝殻、巻貝も二枚貝も全部まとめてポイポイとミアンが袋に入れていく。


「ミ、ミアン!」


俺はミアンが積み上げた袋を覗いてから、それをその場に全てぶちまける。


「ちょっと!ウォーくん!何するのよ!」


ぶちまけてから、気付いてしまった。

そうか!ミアンは依頼にあった貝の種類が分かってないのか!


「依頼にあったのはコトホギ貝の貝殻集めだよ……」


「何それ?」


「これ……」


俺は拾った貝殻を見せる。紅白の縞模様の二枚貝だ。


「これがコトホギ貝。他の貝は依頼にないよ……」


「ええっ!?」


「依頼、読めなかった?」


「読めたよ!読めたけど……」


「もしかして、コトホギ貝が分からなかった?」


「うっ……」


そっちか!一応、解決方法だけ示唆しておこう。


「冒険者互助会の図書館に行けば、絵入りの本があるよ……。

知らないことを知らないままにしておくと、困るのは自分だろ?」


「うん……」


ミアンが項垂れる。それを見ていたデニーは相変わらずのにこにこ顔でコトホギ貝の貝殻を集めながら。


「ヴェイルはすっかりミアンの先生だね!」


「いや……そういうつもりじゃないんだけどな……」


「いいじゃない。ヴェイル、何だか楽しそうだよ?」


まあ、他人にものを教えるのは嫌いじゃない。

ただ、俺としてはかなり遠慮しいしい教えているので、あまり本調子という感じでもない。

これが、『塔』に集まって来た私塾の子供たちなら、もっとがっつり言っているところだ。


ただ、絵本に見入っていたミアンは知識欲を満たそうとしているように見えて、自分とダブったのだ。

だから、ミアンの知識欲を満たすまでは無理でも、俺の知っていることくらいは知識を注いでやりたいとは思っている。


ミアンは改めてコトホギ貝の貝殻集めを始める。


俺も肩を竦めて、気分を入れ替えるとまた貝殻集めを始めるのだった。


ようやくひと袋目が終わる頃、少し離れたところで貝殻集めをしていたミアンから悲鳴が上がった。


「きゃーっ!」


「どうした!」


デニーが駆け出す。

俺もそちらに注意を向けると、ミアンが足首まで水に浸かって貝殻集めをしていたところ、スライムを呼び寄せてしまったらしく、ミアンの腕に透明なゼリー状のスライムがまとわりついていた。

ミアンが腕を振ってスライムを剥がそうとする。

デニーが叫んだ。


「水から上がるんだ!他のスライムが寄ってくるぞ!」


俺は右腰の『芋ん章魔術』を用意しながら言う。


「デニー!ミアンの手に貼り付いてるスライムを焼け!」


「そうか!」


ミアンは恐慌状態に陥って、身体を振り回すばかりで、なかなか水から出ない。どころか、より深みに進んでいる。

デニーは判子を押して、魔術符を抜く。

ごうっ!と火が噴き上がる。

デニーは危険を顧みず、膝近くまで来ている水の中に入って、その火でスライムを焼くとミアンに貼り付いていたスライムが落ちる。


「こっちだ!」


デニーがミアンを引っ張るが、ミアンはそれに抗う。


「集めた袋が……」


「どうでもいい!」


バチャバチャと飛沫を上げて、デニーが水から上がろうとすると、あちこちで湖面が盛り上がる。

湖面だと思ったのはスライムで、ヤツラは次々に飛び上がってくる。

デニーは魔術符を振り回すが、水に濡れたからか、火球が出るのは遅いが、火の勢いが弱い。

滲んで正答率が下がったか……。


ミアンに三匹、デニーに二匹のスライムが上からのしかかるように跳びつく。

俺は新しく用意したばかりの『芋ん章魔術』を使う。

新しく用意したのは『氷結』の魔術符だ。

魔術符から吹き出る冷気が水の表面を一瞬で凍らせる。

だが、このままでは冷房のような効果で終わりだ。

身体のほとんどが水分で出来ているスライムには、これでもそれなりに効果はありそうだが、全体が凍るのを待っている間にミアンとデニーは身体を溶かされてしまうだろう。

俺はミアンの上に乗るスライムに向けて魔術符を破る。

冷気弾とでも呼ぶものが飛ぶ。

一瞬だった。


「きゃっ!痛っ!」


ミアンの上のスライム同士が水分を通じて凍っていく。

何とかミアンまでは凍らずに済んだ。

ミアンには痛いくらいの冷気が伝わったみたいだが、死なないだけマシだと思ってもらおう。


同じようにデニーに乗っかるスライムも凍らせてやる。

ミアンとデニーが水場から飛び出すように出てくる。

それを追うようにまた何匹もスライムが飛び上がってくる。

十匹はいるだろうか?

だが、地上に出たスライムは途端に動きが鈍くなる。

これも水スライムという、水棲に特化したスライム種だからだろうか?


とにかく、デニーとミアンが陸に逃げてきたのなら、こっちのものだ。

『氷結』の魔術符の冷気弾が面白いように決まる。


「デニー、ミアン、武器で砕いてくれ!」


「僕も『火の魔術符』で……」


「ダメダメ!逃げられちゃうよ!」


水スライムは確かに火を苦手にしているが、火だと逃げてしまう。

俺の欲しいスライムの核は手に入らなくなってしまう。


「後で使う時、あるから!」


俺が言うと、デニーは渋々ながら剣を抜いた。

そこからは問題なくスライムを倒すことができたのだった。


書き溜めが、またなくなりました。

また暫くの間、お休みをいただきます。

二週間後に再開致します。

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