護衛!直感!
ポロが消え、商人のサントさん、その娘のキリ、盗賊の死体ふたつとポロの金袋が残された。
ロマンサーってあんなわがままなのか……。
あれに比べたら、俺はロマンサーらしくないのかも……。
まあ、GPに頼らない方法論を選んでいるからなのかもしれない。
俺たちは色々と話し合った末、一度テイサイートの街に戻ることになった。
その方が近かったからである。
ふたつの死体を担いで、衛兵に話をする。
冒険者互助会に話を通してもらい、身元を保証してもらう。
『大盗賊団、百鬼夜行』の下部組織『赤鬼夜行』の話をして、盗賊の死体から鬼の刺青が出てきたので、割とすんなり俺たちの話は信じてもらえた。
刺青の話というのはあまり出回ってないらしく、口外無用と釘を刺された。
サントさんとキリは指名依頼で俺たちに『名も無き村』までの護衛依頼が出された。
「どうせなら、信頼できる方に護衛をお任せしたいですから」
というのがサントさんの弁で、デニーからも、乗りかかった船だし、こういう縁を大事にするべきだという話があったので、緑ふたつの指名依頼を受けることにする。
ちなみに元々受けている常設依頼、フクラシ湖の貝殻集めも引き続き継続中で、『名も無き村』までサントさんたちを護衛して、そのまま貝殻集め、俺たちが帰るのを待っていてくれるというので、サントさんたちを護衛して、テイサイートまで帰るというのが、今回の依頼である。
ポロの金袋には結構な金額が入っていた。
サントさんへの違約金三十ジンを抜いても、百五十ジン。
さらに盗賊討伐が認められ、四十ジン。
三人で山分けして六十三~四ジンの報酬になった。
改めて、俺たちはテイサイートの街を出る。
兵士三十人と一緒である。
朝一番に出発したので、昼過ぎには事件現場に着く。
そこで少し時間を取られたものの、次の休憩場所までは三十人の兵士と一緒である。
これ、護衛いらないんじゃ……。
と、そこで兵士三十人とはお別れだった。
兵士たちはポロを追う形で森へと入っていった。
ここからが俺たちの護衛依頼の始まりと言ってもいい。
デニーに護衛の心得や気をつけるべきことなどを色々と教えてもらいながら、俺たちは仕事こなす。
と、言っても、問題が起きないならやるべき事はそう多くない。
護衛対象を一人にしないとか、フォーメーションの組み方を覚えるなど、その程度の話だ。
問題が起きないまま、俺たちは『名も無き村』に到着した。
「では、村長の家に私共は逗留させて頂きますので……」
サントさんとキリはここで一度お別れになる。
「じゃあ、またねミアン!」
「うん、なるべく早く戻ってくるわ、キリ!」
この二日の間にミアンとキリは仲良くなったらしい。
休憩の度に絵本を見せて、色々と説明していたところ、キリは算数をミアンに教え始めた。
お金の数え方、仕入れた商品がいくらで売れるのか、そんなキリにとって身近なところを題材にして教える算数は、ミアンにとって面白い勉強だったらしい。
あれこれ半端に齧るような状態だが、それでいい。
どうせそれぞれは密接に関係している。
ひとつのことを極めるのもいいが、色々な知識を持っている方が汎用性があって、いいに決まっている。
「ミアンのこと、お願いね、ウォーくん」
「まあ、知識の方は任されるよ!魔導士見習いだからね!」
キリに答える。
ミアンのおかげで俺も多少はキリと仲良くなれた、かな?
良く喋るといえば、サントさんだ。
まあ、俺としてはキリやミアンと話している方が精神安定上、気を使わなくて済むので、ありがたい。
サントさんは何かと『異門招魔術』について探りを入れてくるので、躱すのが大変なのだ。
母さんの名前を出してしまったのがまずかったかもしれない。
まあ、ここから『フクラシ湖』での貝殻集めなので、そういった煩わしさからは解放される。
一応、デニーとミアンに関しては信用しているので、新しい魔術の実地試験もできるしな。
『名も無き村』は出入りのチェックなど無いも同然なので、このまま『フクラシ湖』に向かう。
ある意味、村人全員にチェックされているとも言う。
村に誰かが来るというのはイベントのようなものなのだろう。
今日は『フクラシ湖』まで行って、そこで一泊。
明日、朝から貝殻集めだ。
フクラシ湖は大きな湖だ。
淡水だが、まるで海のようにも見える。
砂浜の少し手前に拠点を定めて、デニーは石を集め始める。
焚き火用だろう。
「ミアンは水を汲んで。ヴェイル、薪を集めてくれ」
「水ね!」
「待った!スライムがいる可能性もある。気をつけて!」
「ええ、もちろんよ!」
俺はそんな二人の言葉を聞きながら薪を集める。
乾燥した木が目につくところには無い。
木々が茂る森の中に入るしかなさそうだ。
俺は大きな声でデニーに伝える。
「少し森の中に入る!」
「わかった!充分に周囲に気を配ってね!」
まあ、アルがいるからなんとかなるだろう。
俺は木々を掻き分けて中へと入っていく。
お、やっぱり中の方があるな。
適当に枯れ木を集めて回る。
こんなもんでいいか……。
俺が顔を上げると、茂みの奥に真っ赤な顔が見えた。
「うおっ!」
集めた薪をバラバラと落として、俺は『芋ん章魔術』に手を伸ばす。
真っ赤な顔。距離はある。じっとこちらを見ているようだ。
俺も目を逸らせない。
人の……顔?
アルにモンスターが来たら、追い払うよう命令していたのに、アルが動いていない。
つまり、人だから?
よく見れば、血塗れのようで、ぬらぬらと森に射し込む夕日を反射している。
「ポロ……?」
ふと、直感のようなもので声を掛ける。
ガサリ……と茂みを掻き分けるように一歩前に赤い顔が進んだ。
声を掛けたことで、俺の直感が確信に変わった。
「ポロか!?」
もう一歩、赤い顔がこちらに進んでくる。と思うと、ぐるりと目が上を向いて、白目になったと同時に彼は倒れた。
「え?ち、ちょっと……」
何か非常事態が起きていた。
俺は訳も分からず近付いていた。
うつ伏せに倒れる彼は、右手に人を掴んでいた。
どちらも真っ赤で、血塗れだった。
「だ、大丈夫か!」
ポロを助け起こそうとする。
その瞬間、俺は白い空間に居た。
【ロマンサーテスタメント】に触った時と同じような状態だ。
違うのはシステムメッセージが流れることなく、何かのイメージが流れ込んでくることだった。