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母の教え!新しい冒険!

俺の一日は工房、研究室、読書で終わる。

刺激?

刺激だらけだ。


母さんの教えによって、俺の木工技術は精度を高めた。

俺の錬金技士アルケミースミスの腕は、基本的に見様見真似で、母さんに頼めば教えてくれるけど、弟子たちと違って修行でやっていた訳ではない。

でも、前回はちゃんと教わった気がする。

いつでも教わる時は緊張感があるけど、その質が違った気がする。

言葉で教えるのではなく、母さんが俺の手を握ることで教えたのは繊細さと真摯な向き合い方だった。

大きく削らない、小さく削る。常に視界を確保する。

そういったことだと思う。

精度が高まったのをいいことに、新作も考えたりしている。


それから研究室。

リスケ君は真面目、サスケ君は利発、トーブ君は几帳面なんて、性格が見えてきた。

リスケ君は自分の仕事がひと段落すると、俺の傍に来て次の指示を待つ。

サスケ君はゴムみたいに延びる骨を使って、土を固めて肋骨で包むように土運びをしたりする。

トーブ君は削った土が一箇所に集まるように働く。サスケ君が散らかすように土を運ぶと、そっと集めなおしたりしている。

アル。アルは雑だ。雑だけど本人なりのやり方を重視しているのだろう。相変わらずだ。


研究の方も同時進行で進めている。


『千里眼』の魔術は、魔導具化できないかと思っている。

この魔術はどうやら他人の視界を盗み見る魔術のようだ。

視界泥棒……。相変わらず泥棒くさい……。


『隠し身』と『鍵開け』は詠唱魔術なので、呪文を覚えないと話にならない。

研究は少し先になるだろう。


『取り寄せ』の魔術は現在、十種類。十部屋と呼ぶのが正しいだろうか?

今度、冒険に出る時に使ってみようと、色々と参画している。

『古代服飾史』という本にあったガンベルトというのを参考に、弾帯付きベルトというのを自作してみた。

まあ、ミニポケットが沢山付いたベルトだ。

そのミニポケットに巻物状の『取り寄せ』魔法陣を仕込む形にしてみた。

少しだけ、冒険を楽しみにしている自分に驚く。

もちろん、痛いのも疲れるのも嫌だが、自分が誰かの役に立てるというのは、嬉しい発見だ。

まあ、あくまでも自分の安全が担保できれば、である。


そして、夜は読書の時間だ。

母さんのお土産はなかなか楽しい。

やはり冒険の成功体験が、冒険物語を読む時に実感として感じられるからだろうか?

前に読んだ冒険物語も新しい視点で読める。


アルの進化は進まないながらも、それなりに充実した毎日を送っている。


五日ほど経った時だろうか。

『塔』の扉を叩く者がいる。

まだ早い時刻で助かった。

研究室に篭っていたら、気付かなかっただろう。


「はい、用件は?」


俺が扉を開けると、そこに立っていたのはデニーとミアンだった。


「やあ、冒険に出掛けよう!」


「デニー!と、ミアンもか……」


「何?私が来たらまずかった?」


「いや、まさか来てくれると思ってなかったからな。

ミアンも付き合ってくれるの?」


「ついでだから!あくまでも私の冒険のついでにウォーくんも来てもいいわよって、誘いに来たのよ!」


「ふむ……まあ、確かにそういう側面もあるか……じゃあ、礼を言っておくべきか。助かる……」


「う……」


ミアンは拍子抜けしたような何とも言えない表情で黙ってしまった。

よくわからん。


「とりあえず、入ってくれ!」


俺は二人を案内して食堂へと向かう。


「まさに『知識の塔』だね!こんな沢山の本、見たことないよ!」


デニーが両脇に本棚が設置された廊下を珍しそうに眺めていた。


「ハハッ!デニーは初めて私塾に来た子供たちみたいなこと言うのな」


「私塾?」


「今は長期休暇中でやってないけど、勉強したい奴ら集めて、読み書き計算とか教えてるんだよ、ウチ。」


「へえ、それはいいね!再開したら僕でも教えてくれるの?」


「年齢は関係ないよ。まあ、将来を見据えて子供を通わせる親が多いけどね。

ちゃんと勉強する気があるなら歓迎するよ」


「そっか、冒険者が続けられなくなったら、ここで勉強して、自分の店を持つなんてのもいいかもね!」


「ああ、たまにいるよそういう人。

長く続く人は少ないけどね。基本的なことだけ理解したら、そういう人は辞めてく。

まあ、素直に店で丁稚でもした方がそういうことは覚えられるよ。

ウチは広く深くだから……」


ハハッ……と少し自嘲の笑みが漏れてしまう。

食堂経営に魔法の基礎理論とか、必要ないからな。

しかも、丁稚なら給金が貰えるけど、ウチには授業料を払わなくちゃいけない。

たまに怒る人とかいるしね。


「まあ、どんな商売をするかにもよるってところかな?」


「そうだな……」


食堂でとりあえずお茶を振る舞う。


「ミアンは飯の方が良かった?」


「はあ?別にいつも腹ペコじゃないわよ!」


「そりゃ、失礼!」


からかったつもりはないんだが、ミアンは他人に突っかからないといけない病気にでも掛かっているのだろう。

サラリと躱しておく。


「……それで、『フクラシ湖』に行きたいって話だけど……?」


デニーが水を向けてくるので、俺はお茶をひと口含んでから答える。


「うん、ちょっと早急にスライムの核が欲しい。

どうせなら、依頼をこなして、資金も稼げればってところで、デニーが前に俺の冒険に付き合ってくれるって言ってたから、甘えようかと思って……」


「もちろん、僕は問題ないよ!ミアンも大丈夫だよね?」


「ええ、ダンジョンばかりじゃ時間の感覚が狂うもの。

問題ないわ!」


「んじゃ、ちょっと用意してくるから、待っててくれ。暇ならこの階の本でも適当に読んでてくれ」


一階には初歩的な本が多いから、デニーやミアンでも読めるだろう。

俺は冒険に出掛ける用意をするべく、『塔』を出て研究室に向かう。

研究室で諸々、準備を調えてから声を掛ける。


「アル、冒険に行こう!あ、とりあえず姿は隠してついてきて!」


オーブは透明化できる。

これなら、アルを連れていける。

他の皆は引き続き拡張工事を頼む。


『塔』に戻って、工房で『サルガタナス』と魔術符を量産して確保、最後に自室で装備を確認すれば完了だ。

透明化したアルを連れて、食堂に戻る。

少し待たせてしまったかもしれない。そう思って食堂に顔を出すとミアンが絵本を指差して、デニーに文字を教わっているところだった。


「お待た……せ……」


「ねえ、これは?」


「フォンサン、だね」


「フォンサンって黄色くて甘ずっぱい果実でしょ?なんで青い実なの?」


「それは熟す前の絵だからだよ。隣にあるのがフォンサンの花な」


俺が説明してやるとミアンは珍しそうにそれを見ていた。


「もしかして、フォンサンの木とか知らない?」


「見たことないもの!べ、別にいいでしょ!」


この本は子供たちに文字を教えるための本で、教材としてよく使う本だ。

動物や植物の成長とかを絵と字でわかり易く説明している。


「用意できたから、出掛けよう!」


俺はミアンが見ていた本を取り上げると、自分の背負い袋にしまう。


「あ……」


名残り惜しそうにミアンが本を見ている。


「ん?」


「な、何でもない……」


「休憩の時にでも、興味があるなら教えてやる。

今はおあずけな!本読みながら歩くと怪我するから」


「え?あ……うん!」


ミアンは勉強したいのかもしれない。嬉しそうに肯いた。

ちなみに本を読みながら歩くのは危険だ。

ただし、俺くらいの上級者になると普通だけど。

転んだり木にぶつかったり、馬車から転げ落ちたり、上級者になる道は長く険しい。

上級者の俺が言うのだから、間違いない。


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