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ファントム!取り寄せ?


翌朝、母さんは旅装を整えるとまたソウルヘイに向けて旅立った。

原本は貴族の所有物らしく、写しを作れるかは分からないが、なるべく努力してみると言ってくれた。

一応、解読済みの紋章の紙を見せて、何か足りない気がすると言ったところ、母さんも同様に思っていたらしく、同意を得られた。


ふう、とりあえず誤魔化せたか。

俺は自室に戻ると『サルガタナス』を取り出し、リスケ君を肩に乗せて、研究室へと向かう。


さて、研究を進めたいのは山々なのだが、それよりも優先すべきことがある。

アルがオーブになったので、次の進化へと進まなければならない。

次の進化先はファントムという所謂幽霊だ。


オーブと違うのは生前の姿を持った半透明の人型で意志を持っているということだ。

声も出せるし、一時的にではあるが実体化もできる。もちろん、透明化もできる。

これが成功すれば、アルは半ば帰って来たと言っても過言ではない。


レシピは次の通り。

・ゴースト又は人工霊魂

・宝晶石

・オーブ

・オウカチップ

・フォンサンの香油

・魔法陣


魔法陣は専用のものが載っている。紋章的には謎な形が多い。分かるのは、強化系の紋章くらいだろうか。

今回、問題になるのは『人工霊魂』というやつだ。


人工霊魂。

スライムの核と魔瘴石を挽いて、青龍の水で練った後、焼く。それから立ちのぼる煙状のモノを絡め取り纏めたもの。

その性質は無であり、他の霊魂の邪魔をしない。

また、特定の霊魂を絡めることで、存在強化や生前の人物特定などにも使う。


霊魂というのは、正直ふんわりとしか理解していない。

霊質、霊魂、魂、魂魄、何がどう違うのか分かっていない。

『サルガタナス』に聞いたところ。


《霊魂とは生命を決定づける根幹であり、機関である。

それ以上はルールに抵触する》


とのことで、アルがアルであるということを決定する大事なモノという認識で終わっている。

基幹ではなく、機関というイメージを『サルガタナス』が伝えてきたので、もしかすると精神活動などの動力炉的なものなのかもしれない。


ゴーストを使わずに人工霊魂を使うのは、オーブに宿っているであろうアルをアルたらしめるモノを中心にしようとしているからだ。


まずは人工霊魂を作るところからだろう。

スライムの核。これは『フクラシ湖』の近くに棲息しているスライムを狩ってくればいい。

『フクラシ湖』は『色なし』でも問題ないので、デニーが暇なら一緒に行ってもいいかと思っている。

青龍の水。これは冗句だと睨んでいる。おそらくは清流の水。綺麗な小川の水で試してみようと思っている。

川を龍に例えるのは基本的な比喩表現でもある。

本当に青龍ブルードラゴンだとしたら、アルの進化が詰む可能性もある。なにしろ、伝説級のモンスターで、実在を疑われているくらいだからだ。


オウカチップとフォンサンの香油は普通に売っている品なので問題ない。


俺の研究室は入口の階段を降ると、まず部屋になっている。

ここはカムフラージュ用の部屋で、見られても問題ない『芋ん章魔術』などの研究に使えるようになっている。

その部屋に続くように作られているのは、倉庫だ。

今はアイアンヘッジホッグの針や、余ったストーンゴーレムの粉なんかが置いてある。

その倉庫から隠し通路があり、その通路の先は俺の休憩室になっている。

さらに倉庫には隠し階段もある。

階段を降りた先がアンデッドの研究室になっており、そこから繋がるように網の目状の小部屋をいくつも作っている。

何故、網の目状の小部屋を作っているのかと言えば、各小部屋に『取り寄せ』の紋章魔術を仕込むからだ。

これが完成すれば、俺は各小部屋の数だけの収納を持っているのと同じということができる予定だ。

今、完成しているのは十部屋分で、スライム狩りに行くまでにこれの研究を進める予定である。


『サルガタナス』にある事物の移動を可能にする魔術。

これは基本となるふたつの紋章魔術を使う。

簡単に言えば『入口』と『出口』だ。

それを、俺が数字ではないかと見ている紋章で組み合わせて使うらしい。

『零』から『九』、『十』、『百』、『千』、『万』だと考えれば、一億までの数が表現できる。

それぞれの紋章はあまり複雑ではなく、元になる魔法陣の八箇所の空白にどれかを当てはめればいいのではないかと思っている。


最初は『零』『零』『零』『零』『零』『零』『零』『一』の入口と出口の紋章魔術を作る。

あれ?八箇所の空白に当て嵌める順番だけで一億通りになるぞ?

『十』『百』『千』『万』の紋章は使わない?

俺が悩んでいると『サルガタナス』が馬鹿にしたように笑う。


《くかか、くかかかか……ベルよ、お前の常識が全てに通じる訳ではないぞ。

魔法とは静寂しじまの海に溜まるおりのようなもの……。

編んで合わせて、虹の事象を示すものよ! 》


「それはヒントってことか?」


《さての……》


どうやら、これ以上はまたルール違反になるとでも言うのだろう。

澱……淀み、編む……合わせる、イメージで言えば集まるとか、重ねるとか……重ねる?

数字でありながら、数字でないとすればどうだろう?

例えば『色』。

『十』『百』『千』『万』と考えていたものを、 『赤』『青』『黄』『緑』と考えてみる。

そうして、最初に数字として考えたものと重ねて使う。

だとすれば、なにも重ねないで数字だけを『無色』としてみれば純粋にひとつの空白に対して五色の『零』から『九』が作れる。

五十の八乗の組み合わせ……。

いや、『零』から『九』すらも数字でないとしたら……。


「サルガタナス、虹の事象って言ったよな……だとしたら七までなのか……書かれているのは十四の紋章……」


前七つと後ろ七つの紋章として考えてみる。

類似点がある!

虹の七色は赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の七色と言われている。

これに数字と明暗を組み合わせれば、前七つは『明赤一』『明橙二』『明黄三』……後ろ七つは『暗赤一』『暗橙二』『暗黄三』……という組み合わせになる。


どうやらこの紋章は母さんが持ち込んだ他の魔術でも使われていることから、『サルガタナス』だけが使っているという訳でも無さそうだ。

この方向で研究を進めることにする。


まあ、それはそれとして、最初に作った紋章魔術の起動確認をしよう。

『サルガタナス』の記述によれば、『入口』と『出口』は繋がっているらしい。

距離や運びたい物の重さや量は関係なく、どちらかの魔法陣に拳大のクズ魔晶石ひとつ分のオドを流すことで起動する。

今回は魔法陣の大きさは『サルガタナス』に書かれているままである。

この『取り寄せ』魔術は最初に読んだ時、紋章魔術と儀式魔術の組み合わせであると考えた。

それは、オドの吸い込み口が設定されていることに由来する。

魔法陣のどこからでもオドが吸えるのならば、何かを運ぶことなどできない。その荷物にオドが含まれるなら、荷物のオドを消費してしまうからだ。

魔法陣外周部の一点からしか吸えないようになっているらしい。


まあ、そういった部分も含めての起動確認である。

入口側の魔法陣に拳大のクズ魔晶石を置く。

反応はない。

もうひとつの拳大クズ魔晶石を用意して、それを出口側の魔法陣のオド吸い込み口に当てる。

手にした拳大クズ魔晶石からオドが流れる。

そして、入口と出口、両方が光ったと思うと、入口側に置いた荷物代わりのクズ魔晶石が出口側に突如として現れた。


では、出口側に置いた荷物は戻るのか、これは戻った。

つまり、どちらも入口でどちらも出口になるということだ。

さらに荷物が魔法陣からはみ出している場合はどうなるのか。

これも双方向で問題なく、魔法陣を起点として対応した位置に現れた。

これ、片側に壁があったり、入口と出口の魔法陣の大きさが違ったらどうなるんだ……。


魔法陣の大きさが違う場合、特に問題は起きなかった。

片側に壁などの障害物がある場合、魔法陣からはみ出した部分の荷物と同じ形、同じ大きさの壁だったものが入れ替わるように現れた。

壁側はその形に抉れていた。

どうもオドを流した側が起点になるようだ。


っと、ここまでの検証でかなりの数のクズ魔晶石を使ってしまった。

アルたちアンデッド組には引き続き研究室の拡張を頼んで、俺はその日を終えた。


翌日、テイサイートの冒険者互助会に行き、デニーに伝言を頼む。

近々、『フクラシ湖』にスライム狩りに行きたいので、手伝って欲しいというものだ。

デニーはタイミングさえ合えば手伝ってくれるだろう。

ついでに、オクトのところに寄って『異門招魔術』を納品する。


「昨日、師匠が来ましたよ……」


苦笑いしながら、オクトが言う。


「うん、知ってる。一昨日の内にしっかり手直しされたよ……」


俺も苦笑いだ。


「レイル一門として、恥ずかしい品は出すなと釘を刺されました……」


「そっか……もう少し精度を上げられるように頑張るよ……」


原板も判子も、彫っているのは俺だ。


「いえいえ、元々消耗品ですから、正答率は九割超えていれば充分使用に耐えると答えましたら、そこは納得して頂けたのですが、問題は魔術符でして……。

版画刷りを頼んでいる業者に問題が起きていたようで、師匠の見立てでは、完成した状態で八割八分とのことでした。

なので、版画刷りの業者により精密な作業を頼むことになりました。インクに交ぜる魔晶石や宝晶石をより細かくすればいいとのことでしたので、しばらく魔術符の生産ペースが落ちそうです……」


「そっか、どちらにせよ、俺ももっと精進しなきゃね」


「期限、もう少し延ばしましょうか?」


「いや、今のままで行こう。勢いのある内に普及させたい」


「……確かに。今が踏ん張りどころですからね」


俺とオクトの意見は一致した。

母さんはやはり厳しい。

ただ、今回の『異門招魔術』では、俺もオクトも殴られたりはしなかったので、そこは成長なのかもしれない。


「それと、それとですね、こちらは師匠から師匠の坊ちゃんに渡すようにとのことです……」


オクトが取り出したのは百ジンもの金だった。


「母さん……いらないって言ったのに……」


「まあまあ、そう言わずに……師匠の坊ちゃんが心配なんですよ!」


「うーん、まあ、もらっておくよ。

煩わせて悪かったね、オクト」


「いえいえ、なんでもありませんよ、この程度」


「んじゃ、残りはまた持ってくるから!」


「はい、こちらもまたお伺いしますから、その時でも大丈夫ですよ」


「ん、分かった!」


そう言って、俺は『塔』へと帰るのだった。


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