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十年後、天空ダンジョン


 製紙魔術で紙を作る。

 この魔術は不本意ながら、アステルの魔術を見せて貰ったから覚えられたモノだ。

 今では非常に重宝している。


 本を書く。


 題名はそうだな……『神々のぐーたら』なんていいんじゃないだろうか。


《ベル……ダサいのぅ…… 》


 うっせぇ! 俺のセンスにケチつけるんなら、お前はどうなんだよ。


《我ならば、そうじゃのぅ……『主神の停滞、邪神様、万歳』なぞいいと思うぞ》


 その邪神マンセーはどうにかなんねえの? 

 お前、他の本の題名案聞いた時も、必ず『邪神様、万歳』つけるじゃん。


《なにを戯けたことを……そこまで我とて馬鹿ではないわ。

 ちゃんと雰囲気に合わせて邪神様、最高やら邪神様の言う通りやら、邪神様の愛などと変えておるわ! 》


 いや、毎回つけてるからね。一緒だよ。

 俺にはその差が分かんねーよ。

 もう、いいや。提督は何がいいと思う? 


「…… 」


 『ウチの主神が新しい神を生み出そうとして争いの種を撒きまくってるんだが、そろそろ邪神認定していいだろうか』って、長い! 


「…… 」


 え? 今はこれくらい長い方がウケる? 

 いや、提督が生きてた頃だろ『今』って。


《主神を邪神認定など烏滸がましいわ! 》


 いや、もうほんと、その邪神マンセーウザいわぁ。


《ダサい奴は邪神様へのリスペクトが足らんのぅ……ホントにこんなのが邪神様の子孫…… 》


 あ、待った、待った! 

 久しぶりの客だ。題名案はまた後でな。


 俺は書きかけの本を閉じて、机を横にずらす。

 それから、大仰に足を組んで、玉座の肘掛けに肘を立てて頬杖をつく。


「天空ダンジョン、十階層へようこそ、哀れな犠牲者諸君…… 」


「は?」


 登って来たのは男女三人組で揃いの鎧を着けている。


「ギャグかな? かな? 」


「待て、罠の可能性が高い…… 」


「しかし、この広い野っ原に玉座がひとつと生活用品が散乱している様は、シュールすぎませんか…… 」


 三人組が口々に言いたいことを言う。


「放っておけ。

 俺にも生活というのがある。

 それで、三人だけか? 」


 俺は聞く。


「なんか丸いね? コロコロだね? 」


「飛ぶのか? こんなのが? 」


「三人? いえ、我らは斥候に過ぎませんよ。

 今回はデモンストレーションを兼ねたダンジョン攻略ですからね。

 あなたが何者かは知りませんが、お覚悟下さい」


 三人組は間合いを測っているようだ。

 言う通りに斥候なのだとしたら、一人が逃げて、他の二人で足止めってところか。

 見たところ、超級冒険者一歩手前くらいの強さはありそうだ。


 俺たちがこの『天空ダンジョン』に登った時、アルがちょうどこれくらいの実力だったはず。

 見ただけで、そこまで分かるとか、俺も成長したな。


 少し脅してみるか。俺の本を託すに足る人物か、確認が必要だ。


「俺が飛べるか知りたいのか? 

 まあ、飛べるが、お前らが知りたいのはそんなことじゃないだろう? 」


 俺は背中に血の翼を広げて、浮かび上がってみせる。

 それと同時に提督へ念話を送る。

 提督はすぐさま応えて、俺の背後、奥にある小高い丘の裏から『超古代空中戦艦・スッシー』がその姿を覗かせる。


「な、なにかな? かな? 」


「やはり罠か! あちらが真のボス! 」


「これは参りましたね……本隊が来るまで粘れるか、妖しくなってきましたよ…… 」


 三人組はやる気だった。

 ビビってはいるが、引けない覚悟のようなものを感じる。


 俺は両手を軽く開いた状態で、威圧感増し増しに三人組を睥睨する。

 すると、橋の下に百人くらいの集団が進んで来るのが見える。


「多いな…… 」


「ビビってるかな? かな? 」


「そりゃそうだろうよ。何しろ俺たちは最強だからな! 」


「まさか、天空ダンジョン十階層のモンスターが敵に臆するなど、考えられませんね…… 」


「ああ、臆病風に吹かれることはないな。

 お前らくらいなら、百人が千人でも負けはない。

 ただなぁ……人数多いと手加減が難しいんだよ…… 」


 俺はぼやいた。


 すると三人組は一斉に剣に手をかける。


「バカにされた! されたよね! 」


「油断するな。仮にも相手は最難関ダンジョン十階層のモンスターだぞ」


「あの血の翼からすると、吸血鬼でしょうか? 

 眷属に注意を! 」


「うーん……まったく戦わないとまた主神に文句を言われるか、副神に愚痴言われるしな……。

 お前らの仲間が、仲間の命を大事にするタイプであることを祈るよ…… 」


 俺は血の翼から魔法を放つ。

 血の茨という有刺血線が相手に巻き付き、拘束する魔法だ。

 三人組は、最初の一撃こそ防いだものの、有刺血線は俺の意思ひとつでいくらでも動く。

 三人ともぐるぐる巻きにして、転がしておく。


 ああ、美味そう……。


 終わったら下の階層行って、ご飯にしようと固く決意する。


「なぜ殺さない…… 」


「そんなこと言うなよ。これでも本能を抑えるのって大変なんだぞ…… 」


「理性的な本能ですか…… 」


 三人組のまとめ役っぽいやつが言った言葉に俺は考え込む。


「利用される訳にいかないかな…… かな…… 」


 紅一点の冒険者が舌を噛み切ろうとするので、有刺血線を強めに締めて止めさせる。

 ついでに口も縛っておこう。


「なあ、その言葉、どこで聞いた? 」


 俺はまとめ役っぽいのに目を向ける。


「答える必要があるか? 」


「答えなければ、お前以外は全員死ぬ」


 反抗的だったまとめ役っぽいのは顔を歪ませる。


「……我が騎士団に伝わる初代団長の言葉だ」


「は? 」


 俺は間抜け面を晒した。


「も、もしかしてお前ら……ヴェイル魔王国の…… 」


「な、なんでダンジョンモンスターがそんなことを…… 」


 もう一人の男が驚愕に目を開いた。


「ふざけるな! それは蔑称だぞ! 

 国を興しておきながら十年も前に国を捨てた男の国は滅んだ! 訂正しろ! 」


 まとめ役っぽい男がいきなり激昴する。


「ええっ! そんな怒る? 」


 俺は困惑した。


「いや、それよりも、滅んだ? ヴェイル国は滅んだのか!? 」


 俺の困惑に毒気を抜かれたのか、まとめ役っぽい男は少し冷静になり、嘲るように言った。


「今はヴェイル共和国だ! 」


「ん? えーと、つまり? 」


 またもや困惑する俺に、もう一人の男が答えた。


「改名したんだよ。あんた何者だ? 」


「なるほど……じゃあ、国自体は残っているんだな。ああ、俺はダンジョンボスの吸血鬼ヴァンパイアだ。

 ちなみに、ここから生きて帰りたいなら、土産に俺が書いた本をやろう。

 ただ、お前らの本隊に渡せるだけの本はまだ書けてない。

 だから、お前らは土産の本を手に、ここのボスは倒せる強さじゃなかった。このまま帰るしかないって言ってきてくれるかな? 」


 俺はするすると三人組を縛っていた有刺血線を外すと、地面に降りて、自信作な三冊を選んで三人に渡す。


 三人組は、キョトンとしている。


「ん? 理解できてるか? 」


 もしかして脳筋だらけで、俺の言葉が通じてない可能性があると思うと、ドキドキしてくる。


「……戦いたくないのか? 」


「正確には、殺したくない、だな」


「吸血鬼だよね? 違うかな? かな? 」


「ああ、違くないな。しかも俺より上はいないから真祖な上に大抵の弱点を克服した天空ダンジョンの大ボス様だぞ」


「モンスターのはずだ…… 」


「そうだな。本能的にはお前らを殺して、腹を満たしたくて、うずうずしている。

 だが、それをやると神々が喜ぶからな。

 これでも必死に抑えてるな…… 」


 腹が減ったら下階層のモンスターから血を貰う。

 普段は知的好奇心を優先して、本能をなるべく抑える。

 これでも苦労しているのだ。

 一度でも人間を襲ってしまえば、我慢ができなくなるのは目に見えている。

 俺には契約による命令もないから、自分の我慢だけが頼りだ。

 アルは凄いよな。俺が血を与えたにも関わず、最後まで我慢を通したんだから。


 ピコピコ、と俺の魔導黒板から音が鳴る。


 なんだろう? 提督からの通信だ。


 俺が地面に置きっぱなしにしている魔導黒板を拾うと、三人組はお互いに目配せを送りあって、俺の隙を窺おうとするので有刺血線を、うねうねさせて牽制しておく。


「は? なんで? 」


 魔導黒板には橋を進んで来る本隊の姿が大写しに見えていた。


「……やっぱり死霊騎士団か」


 三人組の言動から察してはいたが、前列に並んでいるのは『トルーパー』の面々だ。

 それから冒険者風の格好をした人間たちが続き、その後ろに……後ろに……。


 アル……。


 年の頃は二十代半ばまで成長したアルがいる。

 アル、綺麗になったな。まだ俺が渡した鎧着てるのか。ボロボロなのに。髪、切ったんだ。身長伸びた? 美味しそうになったな。凛々しい顔してるな。ちょっと蔭のある表情もかっこいいな。でも、昔と変わらず笑顔になるといいな。怒った顔も泣き顔も見たいな。屈辱に染まったらどんな顔になるのかな。少し痩せたかな。筋肉質になったかも。


 アルがやる気に溢れて歩いている。

 三十代になって渋みが出てきたクーシャが隣にいる。

 トウルが、魔神が、両脇を固めていて、アルの背後には霊体のアルファもいる。


 ほんの十年前のことなのに、やけに懐かしい。

 俺は昔を思い出すように、そっと唇を舐める。

 今でもあのキスのことを覚えている。

 冷たくて熱かった……それからアルの柔らかい肉が俺の喉を通って……。

 もう一度、俺は唇を舐めた。


 俺の目の前まで、あと三十分。


 俺は魔導黒板を通じて提督に声を掛ける。


「提督、主砲用意! 」


 提督はゆっくりと頷いた。


 俺とアルの第二章まで、あと三十分。

 俺はその時をゆっくり待つことにするのだった……。


 俺の目の前まで、あと……。



これにて閉幕!

続きが皆さんの心の中に浮かんだら、それが正解です!

人は日々、変化の中で生きていて、変わることを恐れてはいけないし、変わらない何かを心の芯にしなきゃいけないと思います。

ここまでお読み下さり、まことにありがとうございました!


次はVRMMOに挑戦予定!

悪役VRMMOでヒーローは倒せるのか?〈仮題〉


「REEARTH_JUDGEMENT_VRMMORPG?」


「うん、リアース・ジャッジメント!略して『リアジュー』!」


「リア充……恋愛シュミレーションか?」


「バーチャルMMORPGだってば……」


 対立するふたつの世界。それは正義か悪か。

 特撮風味のVR世界で巻き起こる物語。

 乞うご期待!


書き溜めまーす!

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― 新着の感想 ―
[良い点] TRPG風味の物語で、楽しんで読めました。 冒険者の格を『採集実績・護衛実績・指名実績』で表すとか、種々のモンスターとか、世界観の独自色も強かったと思います。 惜しむらくは多くの謎がそ…
[一言] 完結お疲れ様でした。アルはハッピーエンドを掴み取れたのか、どうか。
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