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びっくりさせないでよ! 私は……。


 目が覚める。

 幸せな夢を見ていた。

 大切な人と大切な時間を過ごす夢。


 なぜだろう? 

 夢は現実と反対なことが多い。


 現実で楽しかった友達とのやり取りが眠ると悪夢だったり、褒められて嬉しかった日の夜に見た夢が怪物に追いかけられる夢だったり、怒られて泣きながら眠る時に限って、甘いお菓子に囲まれる夢を見たりする。


 とても幸せな夢だった。


 目が覚めて、その甘美な夢にもう一度浸りたくて意識を落とそうとする。


 そこでハッとなる。

 目蓋を開ける。

 背中が痛い。硬いものの上で寝ていたようだ。


 そこで二度目にハッとする。

 寝ていた? 私が? 

 眠りとは無縁だった。

 どれくらいかは分からないけど、もう何百日も寝ていなかった。

 それが当たり前になり過ぎて、眠るという感覚すら忘れそうになっていた。


「私……寝てた…… 」


 口に出してみる。そう、寝ていたのだ。

 アンデッドは眠らない。眠る必要がない。

 そのはずなのに、私は寝ていた。




「眠れ! 」


 命令された。優しくない、と思って抗議してやろうかと思ったけど、私の目蓋が重くなった。

 それが明確な私の最後の記憶。

 それから……それから…… 


 木の台座から体を起こす。

 甘い香り、枯れた花、芽が出た種に根が張りついている。それから本。

 いかにもアイツが好きそうな感じの本だ。


 アイツ。そうだ、アイツは? 


 乱雑な実験室。石床に描かれた魔法陣はところどころが擦り切れたようになっている。

 木の台座。私が寝ていたのとは別の木の台座が置かれている。

 真っ赤な血が、ボタボタ零れた跡があって、そこには……。


「耳? 」


 ドキリ、とする。もしかして、と思う。

 不安になって小さく呟く。


「ベル…… 」


 返事がない。


「ベル。ベル! 」


 何かが足りない。

 大切な『ナニカ』を知っているはずなのに、思い出せない。


 扉が、カチャリと音を立てた。


「ベル! もう、びっくりさせないでよ! 」


「すまないね、姫。

 私は主人ではないよ」


 入って来たのは魔神だった。

 それから、アルファちゃんとトール、丸い影がふたつは、オルとケルだろう。

 扉の隙間からは、サスケ、リスケ、トーブの最古参アンデッドも入ってくる。


「ねえ、ベルは? 」


 私が聞く。


「旅立ったよ。

 我々が集まったのは、主人が旅立った今、最高命令権が君に与えられたからだ」


「旅立つ? どこへ? 」


「さあ? 聞くな、追うな、ここから先は姫の命令を最優先にするように、としか言われていないからね」


「キエチャウノ? 」


「ハナレルダケダ」


「イッショニイタイ」


「デモ、アイシテル」


 頭の中に木霊する声がある。


「うん。愛してるよ、ベル…… 」


 ふいに口をついて言葉が出る。

 目頭が熱くなって、私は泣いた。

 涙が零れた。


 そうか、もう私は人間なのだと、ふいに理解させられた。


 透明な雫が、ぽたぽたと落ちた。

 ベルはいつも言葉が足りない。

 自分だけ分かっていればいいって顔をして、私にちゃんと説明しない。


 私の中の『アンデッド』を全て持って行ってしまった。

 食べることが大好きなのに、『アンデッド』になったら、もう好物のお父さんのグランブルの煮込みとか食べられないんだよ。

 私と冒険するって約束はどうするの? 

 副団長は、自分のことを守れるようになった証だろって言ったじゃん! 

 初めての本気のキスにドギマギしてたのバレてるからね! 

 私が元の生活に戻れるようにするって、ワガママなんでも言っていいって……言ったじゃん! 




 私は自分で何を口走ったのか分からなくなるくらい泣いて、喚いて、じたばたした。

 実験室はめちゃくちゃになった。


 それから涙が枯れ果てる頃、ふいに目の前が真っ白になった。

 呟く。


「ベルと一緒にいたいよ…… 」


《貴方の因果律を逸脱した願いです

運命線の変更を望みますか?》


 私は……。


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