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どかーんと一発……。面倒ですな……。


「……ああ、そうなるよな。クソっ! 」


 トンネル入口前の広場には巨大なキャンプファイヤーが幾柱も焚かれていた。

 それらは全て、ウチの土木部隊、『ルーキー』ゾンビたちの死体だ。


 辺りには鰐頭の人型モンスター『カイマンヘッド』のゾンビたちが武装して俺たちを待っていた。


 モンスターと人の境界は明確に分けられている。

 魔法を使えばモンスター。使えないのが獣人だ。


 ひとつ不思議なことがある。

 『金色』の魔王はどこでこれだけのゾンビを集めたのかだ。


 『カイマンヘッド』たちは『ヴェイワトンネル』を守るように立ちはだかる。


「陛下! 」


 え? 


「陛下、お逃げ下さい! 罠です! 」


 奥にあるキャンプファイヤーの柱の近く、縛られ転がされているのは、現場監督たちだ。

 無造作に捨てられている感がある。


「金色の魔王がトンネルの奥で待ち構えているのです! 」

「敵の狙いは陛下です! 我らのことはお見捨てを。お逃げ下さい! 」


「ポロ、サンリ、救出! 

 リザードマンデュラハンズはカイマンヘッドを叩け! 」


 俺は手早く指示を出す。

 なんで? はもういい。今は動くべきだ。

 一連の行動が罠なのは最初から分かっている。

 それでも、俺は国を守る者として進むしかない。


 ポロとサンリが率いる『トルーパー』たちが現場監督たちを救出に動く。

 リザードマンデュラハンズが魔法攻撃を開始する。


 カイマンヘッドたちは、こちらに気付いた者から個々に迫って来る。

 やはり練度は低い。


 こちらは練度も高く、ほぼ無傷で敵を殲滅できる。

 しかし、ここでも時間稼ぎだ。

 敵が部隊として動いていないため、トンネル入口前に散開したようになっていて、俺たちは国を守るために討ち漏らしが許されない。


「ちくせう……他は前進だ! 」


 こちらを滅ぼすためではなく、一枚ずつ手札を切らされている感覚に苛立ちが募る。


 ふとトンネル内部へと視線をやる。

 トンネル内部は照明魔導具で昼夜問わず照らされている。

 敵の姿が見えない。

 ただ本来ならば一番奥まで照明魔導具が点いているはずなのに、奥の照明が外されているのか、真っ暗だ。


「誘われている、か…… 」


 残った『トルーパー』たちは八百ほど。

 今現在、奥がどこまであるのか把握していないが、トンネルは一本道だ。

 八百体の『トルーパー』で押せると判断する。


「ふ〜ん。金色の魔王って馬鹿なのかな? 」


 おおう……アルから馬鹿扱いされるとなると、『金色』の魔王も相当アレだ。


「だってさ、ベルなら魔術でどかーんと、一発でしょ」


 むう……。俺は難しい顔をした。


「そうか……アルなりに考えた結果だから尊重してやりたいところだけどなぁ…… 」


「何よ、その言い方」


「このトンネルを壊したら、ワゼンとの友好が一年は遅れる。

 さすがにそれはちょっとな…… 」


「あ…… 」


「あと、さすがにこの距離じゃ、詠唱魔術も届かない」


「う…… 」


「それから、こっちの魔術が届く距離なら、相手の神聖魔術や奇跡も届くってことだ」


 魔王のオド量にもよるが、元・聖騎士は伊達じゃないだろう。

 俺のように魔石を使えば、連発できる可能性もある。

 それでも、突っ込むしか道はないけれどな。


 俺はウピエルヴァンパイアたちを何組かに分けて、順次突撃させる。

 トンネルの奥行はまだ把握できていないが、見える範囲の倍はないはず。

 それならば、敵の数はもう限られているはずだ。


 多少の損害は覚悟した上での各個突撃。


 先に奇跡を撃たせられれば御の字だと思い、ウピエルヴァンパイアたちに犠牲を強いる作戦だ。


 最初のウピエルヴァンパイアたち、約百体がトンネルを進み、闇の中へ。


 全体を少しずつ進ませながら、次のウピエルヴァンパイアたちを更に闇の中へ。


 ギンッ!


 金属同士が削り合って火花が散った。

 暗闇の中に一瞬だけ浮かび上がるソイツは、身長五メートルを越えるほどの巨体で、瞬きの間に闇から闇を動き回っていた。


 ギンッ! 


 またウピエルヴァンパイアの斬撃を受けた刹那の火花が散る。

 斬馬刀と呼ばれる超巨大包丁のような武器をナイフのように軽々と振るう姿が浮かんだかと思うと消える。


 それが何度か繰り返されて、その度に浮かんでは消える姿は禍々しく伸びた二本の角を備えた偉丈夫に見える。


 俺が送り込んだウピエルヴァンパイアの第二陣が暗闇の中へと踊り込む。

 俺は第三陣に前進を命じる。


 その時、偉丈夫から声が放たれる。


「熱波の息吹タウティ! 」


「くっ…… 」


 俺は瞬間的に目を細める。

 まるで業火が目の前を通過していったかのような熱波が吹いた。

 一瞬のことだ。

 俺の前に並ぶウピエルヴァンパイアたちが一斉に膝をつく。


「うぐ……ぐ…… 」


 熱波を浴びたウピエルヴァンパイアたちの頬が白くなって、一部がポロリと剥がれた。


「アル! 」


 慌ててアルの方を見ると、アルは俺から隠れるようにあらぬ方向を向いて言う。


「大丈夫っ。大丈夫だから! 

 ちょっとこっち見ないで」


 アルは渡してある『人工霊魂』入りの竹筒を取り出してオドの補給を始めたので、たぶん大丈夫だろうと、俺は視線を戻す。

 他のウピエルヴァンパイアたちもそれぞれに『人工霊魂』入りの竹筒で補給しながら進む。


 ちくせう。今の熱波は俺にほとんど影響がなかったことを考えると、対アンデッドに効果がある魔法か、ブレス辺りか? 


 あの二本角と巨体からすると、オーガ系に近いが、オーガが対アンデッド用の魔法を持っているなんて読んだ記憶にない。


「まさか…… 」


「な、なに? 」


「金色の魔王の変わり果てた姿とか言わないよな…… 」


「そんなことあるの? 」


「分からない……魔王の生態について詳しく書かれた本なんて見たことないしな」


「……だとしたら、ここでアイツを倒したら、私たちの勝ちだよね」


 そう、確かにアルの言う通りだ。

 もし、あのトンネル奥の闇の中で無双をかましているらしきアイツが、『金色』の魔王だとしたら、アイツを倒せば終わる。


 俺がアルに頷きを返そうとした時、トンネル奥の暗がりから丸太より太い足が姿を覗かせる。


「まだ足りないとは……おや、あの時の修行僧モンクとディープパープルがいない…… 」


 声が聞こえなくとも、なんとなく言っていることは分かる。

 なるほど、アイツの狙いは俺と行動を共にしているだろうクーシャとアステルだったか。


 こうなると、ますますアイツが『金色』の魔王だという説が色濃くなってくる。


 クーシャとアステルに煮え湯を飲まされたのは『金色ゴールデンドーン』だからな。


 アイツとウピエルヴァンパイアの第三陣がぶつかった。

 前衛が盾を掲げて迫る後ろから後衛のウピエルヴァンパイアたちの銛状の舌が槍のように突き込まれる。

 完全な制御をされた銛状の舌は、時に鞭のようにしなり、時に槍のように伸びる。


 しかし、アイツは盾の死角から伸びる舌を的確に防ぎ、弾き、斬り伏せる。


「速い…… 」


 アルが呟く。


 的確に連携を取り、数で押しつつ、トリッキーな攻撃すらも使って攻めるウピエルヴァンパイアたちだったが、まるで相手にならないとばかりに、アイツは動き、斬馬刀を振るう。


 灯りの元に出てきたその姿は、しかし、魔王となった姿とはかけ離れていた。


「オーガ・ディストーションエンペラー…… 」


 オーガ種の最高位の一匹、歪皇帝鬼オーガ・ディストーションエンペラーだ。

 モンスター図鑑の……コラムページにほぼ何も分かっていない状態で絵だけ載っていたのを、ようやく思い出した。


 特徴的な肩の形、背中にある放射状にビスを打ったみたいな突起、白黒マーブルの捻れ角が、コイツが魔王ではないと主張している。


「違う……魔王じゃないぞ、アル、気をつけろ! 」


 『金色』のような言動、なのに明確に種別が違う。

 まだ後ろに控えている? 

 だが、俺の従えるアンデッドたちは反応していない。

 どういうことだ? 


 俺は今更ながらに頭を回転させる。


「ちくせう……そういうことか…… 」


 老婆のメーゼが使っていた、アンデッドを直接操作する死霊術だ。

 それなら、俺やクーシャ、アステルを知っていることと、種別が違うことに説明がつく。


「どういうこと? 」


「アイツは金色であって、金色じゃない。

 アンデッド化したオーガ・ディストーションエンペラーを操ってるんだよ! 」


「ふむ……やはり貴方は残しておくと面倒ですな…… 」


 アイツの声がして、気がついた時には目の前に斬馬刀が振り下ろされようとしていた。



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