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三度見。団長命令! 


 二日経った。


 クラフトから、『コウス近衛騎士団』が『コウス軍』の後方、半日ほどのところで陣地というか要塞の建築に取り掛かっているという情報を得たと言ってきた。


 『コウス軍』に動きがなかったのは、俺たちを釘付けにするためだったという可能性が出てきた。


「コウス軍がいる限り、この街道を通りたい人たちがずっと足止めされているってことでしょ? 」


「まあ、そうなるな」


 アルの言葉に俺は答える。


「ただやっつけるだけじゃダメなの? 」


「相手の意図が読めないんだよな……。

 宣戦布告して来たくせに、守りに入ってるだろ? 

 何が待ってるか分からないから、迂闊に動かないで欲しいってクラフトから言われてるんだよ…… 」


「でも、後ろに援軍が来たんでしょ? 」


「半日、後ろにな。

 連携取るには離れすぎてるし、こっちから攻められることを想定した守りの施設って感じだ。

 だから、怖いんだよな。

 やってることがチグハグで、アイツら不気味じゃん」


「ふーん……でも、ベルなら一度戦ってみたら分かることとかあるんじゃないの? 」


 アルが俺を持ち上げるようなことを言う時、それは決して褒めているのではないと俺は知っている。


「アル、待ちの姿勢に飽きたから戦わせろって言ってる? 」


「え? そ、そんなことないよ…… 」


 あからさまに視線逸らして、大して吹けもしない口笛を鳴らして去っていくという、前時代的な誤魔化しを披露するアルに俺は深くため息を吐いた。


 だが、アルの言うことを聞いておけばよかったと俺が後悔するのは、もう少し後のことだった。


 俺たち、というか、俺と五議会メンバーは、特に問題がない時なら三日に一回、少し密に連絡を取りたい時は一日一回、今のような戦時中だと、数時間おきに手紙をやりとりする。

 手紙は『取り寄せ』魔術越しに行われていて、基本的には魔術城とのやりとりだ。

 魔術城地下に秘密の『取り寄せ』部屋があり、そのことを知るのは一部のメンバーだけだ。


 そうして、戦闘らしい戦闘がないまま、さらに二日後、その凶報は届いた。


「お、じいちゃんからの手紙が入ってる……どれどれ…… 」


 俺は『取り寄せ』魔術で魔術城からの手紙を開く。

 何も報告がない時は、入っていないのが基本なので、魔晶石の使い損だが、それは必要経費だ。

 情報の早さには変えられない。


 これがあるから、『天空ダンジョン』アタック中も、ブリュレーの『ワゼン』との交渉具合を知れたし、『コウス』がきな臭いという話も早めに知ることができたのだ。


 今回は手紙が入っている。

 何かしらの報告があるということだ。

 なんだろう? メイとフェイブ兄は派手にやってるって聞いたし、スプー側で動きでもあったかな? そう思いながら俺は手紙を読む。


『ヂース南、ヴェイワトンネルに金色の魔王と思われる襲撃あり、死霊騎士団は転身、これを撃滅されたし』


 簡単な文章だ。

 内容が瞬間的に理解が及ばなくて、二度見、三度見してしまったが、今、このタイミングでっ!? という思いが強い。


 まるで図ったように、『コウス』が攻めて来て、軍事力のほとんどを動かした後で、『金色ゴールデンドーン』の魔王の登場だ。


 なんで?〈二度見〉 


 まさか!?〈三度見〉 


「ど、どうしたんだ、だ、団長! 」


 クーシャ、無理やり団長呼びしなくていいんやで。

 ちょっと恥ずかしそうじゃないか。

 あ、呼びたかったのね。鼻の穴、膨らんどる。


「うむ……我々は罠に嵌ったようだぞ、副団長」


「え? 」


 俺がクーシャに合わせて、騎士団長っぽく答えたら、クーシャが急に真顔になった。


 すっごい、おいてきぼりを食らった気分。


「あー、え〜と…… 」


「なに、見せて」


 アルに手紙を奪われた。


「は? 大変じゃないの! どうするの? 」


「あ、ああ、そうだな……まさか金色の魔王がヴェイワトンネルを狙って来るのは予想外というか…… 」


 前に俺が襲われたのも『ヴェイワトンネル』だったか。

 確かに『金色』の魔王は、ヂース南の山脈の中か、見てきた今なら分かるのが『ヴェイワトンネル』出口に広がる『ワゼン』の森の中のどちらかに潜伏している可能性が高い。

 手付かずの広大な自然が広がり、さらにダンジョンが近いせいで『対地』としてモンスターが発生しやすい場所。


 黄昏のメーゼとしての能力でアンデッドを従えていたことだし、勢力を伸ばすにはうってつけの場所だろう。


「た、大変だけど、ぼ、僕たちなら間に合う! 」


 そう、クーシャの言う通りだった。

 俺が『武威徹』で向かえば、一、二時間でヂース南に行けるし、そこまで行けば死霊騎士団を展開して、『金色』の魔王と対峙できる。


 だが、それをしてしまうとクラフトはどうなる? 


 死霊騎士団、不滅の軍隊がいなくなったら、俺が『コウス軍』だったら、確実に攻める。

 元々、『銀輪騎士団』と合流していて、数は向こうの方が有利だ。

 さらに半日、半日待てば『コウス近衛騎士団』が合流できる距離にいる。

 野戦で半日と、攻城戦で半日は全然違う。


 クラフト率いる領軍を『コウス軍』と『銀輪騎士団』で瓦解させ、ゆっくり半日掛けて『コウス近衛騎士団』と合流、砦攻めはゆっくりやればいい。


 これは計算された動きなのか? 


 『コウス国』が『金色』の魔王と組んで、狙ってやったことだとしたら、相当、ヤバい。

 俺たちはコウス国限定で魔王軍という扱いだが、組んでいたなら世界的に『コウス魔王国』だ。

 ただでさえ、『黄昏のメーゼ』による、七柱の魔王の脅威に晒されたはずなのに、魔王と組むなんて、正気の沙汰じゃない。


 偶然であって欲しいが、『コウス軍』のあの不可解な動きも、『金色』の魔王の動きを待っていたためだと考えると、納得できてしまうんだよな……。


 俺は思考の袋小路に閉じ込められそうになる自分を、頭を振ってなんとかしようとする。


 『コウス国』と『金色』の魔王が組んでいるかどうかは、今は置いておこう。


 それよりも、ここからどうするかだ。


 今、展開している『トルーパー』は『金色』の魔王戦で、絶対に必要になる。

 『金色』の魔王が、『コウス軍』の動きを計算に入れて動いているなら、俺が個人的に保有している戦力〈研究所ダンジョンの戦力〉も含めて全部を使うつもりでいないと不味い。


 『金色』の魔王がこちらの戦力をどこまで把握しているかにもよるが、相手もアンデッドを使う以上、生きている人間は連れていけない。


 ここの『トルーパー』を『ルーキー』と入れ替えるか? 

 見た目だけでも、数を揃えておけば、『コウス軍』は止まるかもしれない。

 だが、注意深く観察すれば分かることだが、『トルーパー』と『ルーキー』じゃ、動きが全然違うんだよな……。


 悩んでいると、クーシャが俺の肩に手を置いた。


「ベ、ベル団長は、な、何を悩んでいるの? 」


 そうか、クーシャは副団長だからな。

 とりあえず、打ち明けてみよう。


「簡単に言うと、今後の動き、だな。

 金色の魔王は放置できないが、俺たちが完全に退いたら、コウス軍はおそらく攻めて来る。

 アンデッドなしじゃ、コウス軍は止められないが、ここに『トルーパー』を置いていくとなると、金色の魔王に対抗できない可能性が高い。

 かといって、『ベテラン』も金色の魔王で投入することになると考えると、『ルーキー』くらいしか置けないが、『ルーキー』だと弱すぎる……八方塞がり、だな…… 」


 クーシャは考える。

 必死に考えてくれているが、良案は出て来ない。

 俺はクーシャに言う。


「それと、クーシャ副団長」


 クーシャが俺を見る。


「クーシャ副団長は、クラフト領軍と合流。

 クラフト領軍に力添えをしてくれ。これは団長命令である! 」


「え? え? 」


「命令だからよろしく。

 あ、そうか! それでいいのか! 」


 クーシャは混乱しているようだが、俺はようやく閃いた。

 数を減らしてしまおう。

 その代わり、質を高くする。


「クーシャ、命令変更。

 クーシャ副団長は引き続き、こちらの陣地でクラフト領軍と共に防衛任務を頼む。

 ここの『トルーパー』は俺が連れて行くけど、代わりにアイツらを置いていく…… 」


 アイツら。そうクーシャと連携するとお祭り騒ぎになる頼れるやつら、『グレータードラゴンゾンビ四天王』である。


 俺はクーシャが混乱している間に、『グレータードラゴンゾンビ四天王』を呼び出し、他の『トルーパー』たちを回収していく。


「ちょ、ちょっと待って……ベ、ベルくんが行くなら、ぼ、僕も…… 」


 ぬうっ、意外と混乱から覚めるのが早かったな。


「いや、団長命令だから、よろしく! 

 まあ、分かってはいるんだ。

 千体のアンデッドで守っている陣地を四体で守れとか無茶だと思ってる。

 でも、クーシャ副団長のこと信じてるしさ、グレータードラゴンゾンビたちなら、クーシャに引けを取らない一騎当千だから、これでなんとかして欲しいんだ。

 ここを空けて行く訳にも行かないだろ。

 ここはこの団長を信じて、死ぬ気で戦って欲しい! 頼む! 」


 クーシャは俺の矢継ぎ早に繰り出した説得に、しかし、しっかりと否定の首を振る。


「ダメだ! ハイン卿はつ、強い。

 ベルくん一人に行かせられない! 」


 ハイン卿は『金色』の魔王が、魔王になる前、メーゼになる前の名前だ。

 ハイン卿は聖騎士にして超能力者の超級冒険者だった。

 それがメーゼになって死霊術を手に入れ、魔王になって、若返りと怪力と再生力、ヤバい色味の爪と頭には角になりかけの瘤ができていた。

 皮膚の色も変わっていたが、もしかしたらモンスターのように強靭な防御力があるのかもしれない。

 まあ、俺からしたら、絶望的に強い。


 クーシャが強いと断言するくらいだ。

 強いんだろうなぁ……。


 だが、それでも、俺はクーシャを連れて行く訳にはいかなかった。

 クーシャは生きている人間だ。


「正直に言うと、金色の魔王とは死霊術勝負になると思っている。

 死霊術勝負なら、生きている人間は邪魔なんだ。

 クーシャ、分かってくれ。

 クーシャが強いのは知っている。

 でも、もしクーシャが死んだら、俺は積みだ。

 金色の魔王に操られでもしたら、確実に死ねる。

 だから、クーシャはこっちで戦って欲しい。

 欲しいっていうか、命令。

 俺、団長。クーシャ、副団長。

 命令、絶対! 理解した? 」


「でも…… 」


「命令、絶対! 国王命令! 

 それで足りなきゃ友達辞めるぞ! 」


 俺は譲らなかった。

 クーシャはそれでも不満そうな顔をしていたが、それ以上は何も言わず、『グレータードラゴンゾンビ四天王』を連れて、恨めしそうに『コウス軍』を見ていた。


《おい、友達辞めるとか酷いことゆーな……》


 『サルガタナス』ことボッチが辛いボッチが切ない声で訴えてきていた。


「まあ、これでクーシャに嫌われなきゃいいけどな。

 俺だって、心はずたずたなんだぞ…… 」


 ちょっと弱音を吐いた。


《ふん、親友ならばあの程度、理解していようよ……真の親友ならばな…… 》


 いや、ボッチが真の友情を語るなよ。

 悲しくなるわ。


《なっ……。ふ、ふん、もう知らんっ! 》


 怒らせてしまったようだ。

 『サルガタナス』は黙ってしまった。


 俺は手紙を書いた。魔術城宛てに一通とアステルにも一通。

 アステルには研究所でアンデッドたちの取り纏めを頼んだ。

 アステルにもアンデッドへの命令権を渡してあるから、俺が効率よくアンデッドを『取り寄せ』するために、『取り寄せ』部屋の整理やら色々だ。


「私は連れて行かないとか言わないわよね? 」


 アルがやって来た。


「ああ、アルはアンデッドだしな。

 来るなって言っても絶対、言うこと聞かないだろ」


 アルはニヤリと笑う。

 アルに関しては、俺は説得を諦めていた。


 「ただ、注意しろよ。

 俺はアルと契約を結んでない。

 それで金色の魔王は俺と同じ契約術を使う。

 お前が金色の魔王に操られても、俺は詰みだからな」


「ふん、私の意志の強さを舐めないでよね! 

 じゃなきゃ今ごろ、ベルなんかしおしおのぱーなんだから! 」


「ああ、血を吸いたいのか。いいぞ。

 気の済むまで吸って」


 俺は腕を出して、盾にもなる『異門召魔術』の箱を外そうとする。

 俺は本気だ。

 アルが俺を殺したいと望むなら、いつでも死ぬ覚悟はできている。

 国も友も、何もかもをこの場で放り出しても仕方がないと思っている。


「ばーか! ベルのばーか! 

 それくらい私の意志が強いんだって話もでしょ! ばかあ! 」


 ピシッ! ピシッとデコピンの嵐。


「いて! いて! いて! 

 やめろよ! お前が言ったんだろ! 」


「言ってない! ベルの血なんか吸いたくない! 吸いたくないんだから、変な勘違いしないでよね! 」


「わかった! わかったから、やめろよ! 」


 ひー! 痛い……。

 どうにか、デコピンは止まったが、アルはむくれてしまった。


 はぁ……今日はなんだか頭が上手く回ってないのかね、俺。


 気を取り直して、『グレータードラゴンゾンビ四天王』以外の『トルーパー』を研究所に送り返す。


 クラフトにもじいちゃんからの手紙がいっているだろうから、説明の必要はないだろう。


 俺とアルで『武威徹』に乗り込む。


「じゃあ、クーシャ副団長、こっちは頼む! 」


 クーシャは振り返って大きくひとつ、頷いた。

 言葉は無し、か。

 まあ、嫌われたよな。仕方ない。


 俺も大きく頷き返して、『武威徹』の操縦桿を握る。

 アルはクーシャに大きく手を振った後、親指を立ててサムズアップしていた。

 コラコラ……クーシャの気持ちを考えたら、そういうの自慢っぽく見えるから、やめてくれよ。


 俺は『金色』の魔王の待つ『ヴェイワトンネル』へと向かった。



急に筆が止まる。あるあるですね。

そんな時は二、三日、外部刺激、いわゆる気分転換をして、リフレッシュします。

すると、また書けるようになる。

不思議だわ〜。

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