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外伝・続、師の言葉


 私には魔術の深奥を確かめるという使命がある。


 魔術とは即ち、オドの転化に他ならない。

 オドとは魔石・魔晶石・宝晶石・魔宝石に含まれる自然エネルギーであり、また生きとし生けるものが生み出す生命エネルギーである。


 これは私の前著『師の言葉』に詳しいので、この辺りを知りたい者は、ぜひ前著『師の言葉』を読んでみて欲しい。


 さて、前著において、私の学術的思考、魔術的探求は残念ながら、諸々の事情により断念していると書いたが、遂に復活の時が来たのだ。


 魔術王国ヴェイル。

 巷では魔王国などと不届きな言われ方をする国ではあるが、我が英智の源泉『知識の塔』はここにある。


 『知識の塔』があるということは、我が師、偉大なる大魔導士カーネル・ウォアムもここに在るということである。


 流浪の旅を続けながら、細々と魔術の探求を続けた私であったが、そんな私の元へ一通の手紙が届いた。


 師の言葉である。


 残念ながら私信も含まれているので、ここでの全文公開は避けるが、ここに意訳を載せようと思う。


『深奥へと続く道は用意された。

 疾く参上して、道を進め』


 魔術の深奥への道は長く険しい。

 弟子たちの誰もがその道を歩むために、持てる力の全てを持って、道を切り開こうとしていた。

 しかし、結局のところ、道を拓いたのは、誰あろう、幾度となく私に救いをもたらした少年、今は成人して理知の瞳に力を増した青年だったのだ。


 かの青年については幾度となく言及してきたが、やはり彼こそが私の導き手なのだろう。


 師の元には、幾葉かの新たな魔法陣があり、それは青年の持つ理知の瞳によって集められたものだった。


 師よりそれを見せられた時、私は震えた。

 今でこそ、それを見た者も少なくはないと思うが、それは『浮遊魔術』の原型であったり、『手裏剣魔術』の原型であったりした。

 中には『禁術』となるものもあった。


 ここでの言及は避けるが『禁術』は確かに存在し、またそれは深奥へと至る確かな道ではあったが、使うべきではなく、しかしながら確かに私に光を見せるに足るものではあった。


 だが、この章では『紋章魔術』ではなく、はたまた『儀式魔術』でもなく、『異門召魔術』でも『死霊魔術』でも『神聖魔術』でもなく、やはり『詠唱魔術』から語ることとしたい。


 他の魔術にも英智の深奥は確かに存在し、それに至る道を師は照らしておいでだが、今の私には些か見えていない部分が多すぎる。


 私の深奥の第一歩は最も深くまで歩いた『詠唱魔術』から始まるのである。


 それは、妹弟子が私の部屋の扉を叩いたことから始まった。


「兄さん、詠唱魔術の実地試験をしたいと思いませんか? 」


 確か、そのような文言から始まったと記憶している。


「ここに魔術の深奥に至るための実験材料が腐るほどあります」


 私の前には妹弟子が持って来た、魔石の数々が綺羅星の如く瞬いていた。

 それはどのような宝石よりも英智の光で輝いていた。


 師の言葉。


『魔術とは使うことで磨かれ、発現する度に新たなインスピレーションを想起させる。

 使うことを恐れるべきではなく、使われず忘れ去られることを恐れるべきである』


 私の頭に天啓が舞い降りた。


 私は「よろしい。すぐに始めよう」と答えたが、妹弟子はそうではないと言う。

 実地試験にはそれに相応しい場所があるとのことだった。

 私は実地試験はここでもできるのではないかと主張したが、妹弟子の主張は違うものだった。


「詠唱魔術の距離と正確性、詠唱時間による規模変化はあるのか、また、詠唱文字列の置換による規模変化を観測するために、専用の場所を用意したんだから、来てよ」


 妹弟子の成長に私は喜びを感じた。

 今までは詠唱時間の短縮こそが命題であると主張していた妹弟子だったが、ようやくそれだけではないと気付いたらしい。


 その場所へは『魔導飛行機』を使って向かった。

 私は初めて乗ったが、『浮遊魔術』と『風系魔術』を複合させたそれは、渡された風防ゴーグルなるものがなければ目を開けていることも適わないような速度を持ち、風系魔術の持つ衝撃力を体感できる素晴らしいものだったが、残念ながら私の神経はそれに耐えることができず、気がついた時には素晴らしい浮遊の時間は終わっていた。


「ここは〈導き手の青年〉が用意してくれた実地試験の場だよ」


 戦場のようなそこは、臨場感溢れる湖の一角だった。


「あれが目標物。それぞれの魔術で射程距離の差と正確性を確かめよう! 」


 妹弟子が瞳を輝かせて言う。

 湖には、ご丁寧に様々な位置にターゲットとなる船が用意されていた。


「勝手に動いたりするから、その場合は兄さんと私、詠唱時間の違いでどんな差が出るか確かめたいと思うんだ」


 こうして私は妹弟子に請われるままに、『詠唱魔術』を唱え続けた。


 以下はその実験結果を纏めたものである。

〈以下略〉


 ふう……俺は霞む目を揉みほぐす。

 さすが、フェイブ兄だ。

 すごく分かりやすく戦果が書いてある。

 いや、フェイブ兄からしたら、実験結果か。

 これって戦争なのよね〜と思いながら読むと、背筋が冷えるが、メイの言葉をひと言たりとも疑わないのは、凄い。

 脳内変換の神だわ。

 ほぼ全編に渡って意訳されてるのも、フェイブ兄ならではだな。


 さて、そろそろ寝るか。

 俺は本に栞を挟んで枕元に置いた。

 これがまた売れるんだろうなぁ……そんなことを思いながら、久々の読書時間に満足しつつ、俺の意識は寝闇しんえんへと落ちて行くのだった。



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[一言] うーんこの感性、やばい!
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