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コウスからの。会議室。

前話短めだったので、調子に乗って本日二話目。


 魔〈術〉王国ヴェイル。

 『天空ダンジョン』から十日ほどで帰って来た。

 魔術城は俺たちが帰ってきたことに気付かないほどに大騒ぎだった。


 とりあえず、ぼーっとしていても仕方ない。

 適当に誰でもいいから、話を聞こう。


「なあ、何かあったのか? 」


 文官らしき人を捕まえて聞く。


「ええっ! なんで知らないの!? 

 コウスからの宣戦布告ですよ! 貴方、本当にこの国の人間で、す、かああああっ! 

 ブ、ベ、ベイル様! 」


 誰だよ! あといちおう、この国の名前ヴェイルなんだが、文官が発音できないって大丈夫なのか? 


「ベイル様! ベイル様がお戻りになりましたーーーっ! 」


 文官は誰だか知らない人の帰還を叫びながら走り去っていった。


 俺たちはお互いに顔を見合わせる。


「「ええーーー! 」」


 いや、きな臭いとは聞いてたけど、いきなりクライマックスなの!? 

 そんなにウチの国の諜報部って無能? 


「ヴェイル様ーーーっ! 」


 駆けてきたのは近衛騎士のスコーチだ。


「おかえりなさいませ、ヴェイル様! 」


「あ、ああ、先に帰ってたんだったか、おつかれ…… 」


「とと、そんなことより、取り急ぎ会議室まで起こし下さい! アステル様とメイ様もお願いします! 」


 俺はスコーチに抱えられ、連れ去られるように会議室へと向かった。


「おお、ベルちゃん、それにアステルさんとメイもおかえり」


「おかえりなさいませ」「ようやくの帰還か、待っとったぞ! 」


 じいちゃん、クイラス、ブリュレーが待っていた。


「ただいま。

 コウスからの宣戦布告って聞いたけど? 」


「うむ……二日前にヂースとスプーの両国境から軍隊が集結、攻撃されているとの連絡が来てな。

 クラフトとオルニオは領軍を率いてそれぞれの防備を固めておる」


 『コウス』との街道には、両国間の関所に砦を築いてあったはず。


 会議室に広げられた地図には、ヂースの砦と、砦の正面に展開している『コウス軍』、砦後方の丘に布陣した『ヂース領軍』の駒、また、スプー方面では『スプー湖』に展開された『コウス湖軍』とスプーの港砦に駒が置かれている。


「それぞれの砦には、さまよえる鎧が二百と領軍二百が配置してあるからの。

 そう簡単には落ちぬが、スプーは主要都市のスプーを直接攻められる形じゃ。落ちるとかなり厳しくなるかのう…… 」


「スプー港の軍船が半数、乗船前に落とされ、それでも半数は残ったと聞きます。

 オルニオもなかなか強かですからな」


 ブリュレーは笑う。

 奇襲攻撃でも受けて、それでも半分は守りきったということか。

 スプーの街は北と東がスプー湖に囲まれている分、剥き出しとも言える。

 たしか領軍の大半は港に駐留していたはず。

 その効果が大きいのだろう。


「銀輪騎士団がヂース国境に現れたとの報告もあります。ヂースも決して侮っていい訳ではありませんぞ」


 そう言ってクイラスは『銀』と書かれた駒を『コウス軍』の駒の隣りに並べる。

 まあ、普通に考えれば砦を攻める側は兵力三倍とか言うけれど、アンデッド二百は昼夜関係なくいつでも動けるし、簡単に消滅したりしない。糧食も消費しない。

 その分、砦の兵二百は余裕を持てるから、五倍の兵力でも持ち堪えるとは思う。


 砦の兵力に、クラフトさん、オルニオさんの領軍……奇襲攻撃を受けたらしいのに、戦力的にはまだ戦える感じだ。


「襲われた割には意外と拮抗してる? 」


 地図と並べられた駒を見て感想を述べる。


「まあ、その辺りはベルちゃんの『取り寄せ』魔術とレイルたちの魔導飛行機による情報伝達の速さの賜物じゃな」


 『コウス国』の立ち直りの速さは恐らく余力を振り絞ってのことだろうとは思う。

 さすがに一年経たずに国力回復はありえない。

 国王のプライドやら国の威信をかけて、それなりに無理を押し通したのかと予測する。

 ただ、コウス国内の他の領軍や金十字騎士団の動きは知りたいところだ。


「他の領軍と金十字騎士団、あと秘蔵の近衛騎士団の動きは? 」


 俺が質問するとクイラスが考えながら答える。


「カフィ領軍は動かない、と言うよりも動けないでしょうな……『コウスの乱心』でボコボコですから……フツルー領軍も同じような理由で、普通ならば無理と断じるところですが、我が国を恨んでいる可能性もあります。

 何かしら動きがあるやもしれません。

 金十字騎士団は『金色』の魔王の抑え。

 軽々に動けないと見ていますが、もし、動くなら山岳を突破して陸路からスプーでしょうか? 

 そうなると厄介ですから、ブリュレー様の領軍の一部をスプーへの援軍として回しています。

 我がソウルヘイからはヂース方面に援軍を回していますが、どちらも少し時間が必要なのは変わりません。

 それと、コウスの近衛騎士団ですがこちらは情報が掴めておりません」


「どうも、コウス側は冒険者や商人の国内での移動をかなり前から著しく制限していたようでな。

 コウスの情報はかなり遅れておるようじゃ。

 ウチの国内ならば情報伝達はどこよりも速いんじゃが、国外まではまだどうにもならんからの…… 」


 国内の情報伝達は早いが軍の移動速度は変えられない。

 俺の死霊騎士団以外は。という注釈が着くけれど。

 このまま何事も無ければ、勝てる戦に見える。

 だが、あのプライドの高いコウス国王が勝算もなく攻めてくるとは思えない。

 やはり問題になってくるのは『コウス近衛騎士団』の動き、だろうか。


「あの、死霊騎士団の土木部隊はどうなってますか? 」


 それまで静かに聞いていたアステルが発言する。


「ヴェイワトンネル、ヂース南の穀倉地帯開発、魔術城・城下町開発……クイラスんとこの山岳開発は終わってたか? 」


 ブリュレーが指折り数えていく。


「ええ、今はスプー南の山岳開発に向けて移動中ですね」


 クイラスが資料を見ながら答える。


「今、どの辺りか分かりますか? 」


「おそらく、フクラシ湖近辺を移動中だったはずですが…… 」


「でしたら、ヂース方面に援軍として出せませんか? 」


 アステルが提案するものの、難しい顔をするのはじいちゃんだ。


「ルーキーのゾンビは足止めとしてならともかく、普通に戦うとなると弱いじゃろう……それを指揮する現場監督も戦闘は不慣れじゃろうしな…… 」


 土木部隊も死霊騎士団預かりとなってはいるが、実際は戦闘要員としては数えていない。


 アステルの場合、『コウスの乱心』の時に俺の研究所内で戦った『ルーキー』の強さが頭に残っているのだろう。


 あれは逃げられにくい状況とか瞬間的に数で勝る状況なんかを駆使したからこそ強かったのであって、戦闘経験値のない野戦のゾンビ軍団なんて逃げられ放題、罠かかり放題で雑魚もいいところだろう。


 それよりも厳正な審査を経て一部命令権を譲渡した現場監督たちをそんなところで使いたくないというのもある。

 正直、ゾンビは使い捨てでも仕方ないと思えるが、土木技術を持ち、ゾンビを作業員として使うやる気〈忌避感が少ないも入る〉と信用〈これが最重要〉がある人間はかなり貴重なのだ。


 結果として俺とクーシャが率いる『トルーパー』をどちらに派遣するかが重要だったりする。

 数が足りないなら『ベテラン』アンデッド勢も入るが、やはり使い捨てを覚悟するべきだろう。

 自己判断できるほどに経験値が貯まっていないからな。


「お師匠さん。ボク以外に誰か帰って来てるのいないの? 」


 メイが言うのは、じいちゃんの他の弟子という意味だろう。


「ん? いちおう、フェイブは帰っとるよ」


「フェイブ兄さんか……じゃあ、ボクはセプテン兄さんを連れて、スプー湖で実地試験でもしてくるかな…… 」


「あ、フェイブ兄、帰ってるんだ! 」


 じいちゃんの弟子、筆頭。『師の言葉』の著作者で研究一筋。真面目で朴念仁。

 なるほど、メイは実地試験という名目でフェイブ兄を連れ出すつもりなのか。


「うむ、塔におる。後で挨拶するといい」


「じゃあ、俺はクーシャとヂースか」


「ええ、本来ならば師匠は王として玉座に座っていただきたいところですが、お願いできますか? 」


 ウチの国で一番、機動力があるのは、俺が『取り寄せ』魔術を使う前提の死霊騎士団だから、仕方がない。


 翌日、俺、クーシャ、アルの三人は『武威徹』の上の人となるのだった。


 全然、休めない……。



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