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待ち人。引越し。


 俺たちは『エイビの街』に帰ってきた。

 二ヶ月半ほどの長旅だった。


 『天馬館』。

 出発前に取っていた団体客も受け入れ可能なデカい宿。

 まずは休息を取るべく、ここに入る。

 俺たちの魔導飛行機も預けてある。


「おかえりなさい! 」


「お、デニーじゃん。いや、っていうかデニーなの? 」


 魔導飛行機は今のところウチの経営戦略物資なので、問題が起きないように人を送るとブリュレー〈今回の外交責任者・五議会の一人〉から手紙が来ていたが、まさかの近衛騎士団長デニーだった。


「「ただいま戻りま……」」


 セイコーマとベルグが敬礼しようとするのをデニーは止める。


「ウチのパーティーでそんな軍隊みたいなこと流行らせないようにね」


「あ、すいません…… 」「失れ……すみません…… 」


 ベルグとセイコーマが謝る。

 セイコーマの方が真面目な分、こういう時に失敗を重ねてしまう辺り、俺は面白く見ている。


 俺の袖が引かれる。


「あの、先生…… 」


 ユウだった。この長旅の中、すっかり装うことをしなくなったユウは、強がらなくなった。

 あと相変わらず察しがいい。

 先生と崇めるベルグとセイコーマが、尊敬の眼差しを向ける人物なので、どう接するべきか迷っているようだ。


 俺はデニーにユウを紹介しておくことにする。


「ああ、デニー。

 話せば色々あるんだが、先に紹介しておく。

 ダンジョン内で仲間にしたユウだ。

 こっちは俺たちの仲間のデニー。

 ベルグやセイコーマの兄貴みたいなもんだ」


「やあ、こんにちは、ユウ。

 デニーだ。よろしくね」


 さらっと視線を合わせられるのが、デニーだなって思う。


「よ、よろしくお願いします…… 」


「良い鎧だね。ちゃんと手入れもできてる」


「あ、はい! セイコーマ先生に教わりました! 」


「なるほどー、先生が良いからなんだね」


「はい! 」


 ユウが誇らしげに返事をした。

 デニーを前にすると、ちゃんと歳相応な感じがしてくるから不思議だ。


「ベルさん、ここで立ち話もなんですから…… 」


 アステルが声を掛けてくる。

 すると、デニーが部屋番号を示すプレートを見せてくる。


「こちらに部屋を取ってあるので、どうぞ。

 女性と分けるようでしたら、取れる準備はしてあります」


「ああ、一緒でいいよ。パーティーなんてそんなもんだしね」


「分かりました」


 ぞろぞろと移動する中、ユウがモジモジと立っていたので、俺はピンときた。


「ユウ、とりあえず弟妹たちに会ってくるか? 」


 パッと喜色を浮かべるユウ。


「とりあえず、今回の道案内の報酬だ。

 それと明日にはユウの家族のところに行きたいから、朝までには帰って来いよ」


 少なくない金額を渡すと、驚かれたが約束は約束だからな。

 一日六ジン。二ヶ月半。

 今後のために使えよ、と念を押しておいた。

 ユウは一度、ぺこりと大きく頭を下げてから、脱兎のごとく家族の元へと駆けていった。




「それで目的の方は? 」


「ああ、俺が欲しいものは手に入れた。

 もう研究所に送っているから、今頃リザードマンキング・デュラハンが上手くやっているだろう」


 部屋で腰を落ち着けて、デニーと今後についての話をする。


 ユウを一人前の冒険者にするため、スラムにいる家族、ユウの弟妹たちをまとめて引き取ることにしたことなんかも言っておかないとな。


 大きなトピックで言えば『ヴェイワトンネル』から『ワゼン』と『マンガン』を結ぶ街道までの道作りをワゼン側が請負うことになったとか、トンネル出口に関所を置いて出入りを確認することにしただとか、大使館の設置、国同士で行う輸出入の取り決めなどだろうか。


 現状、『ワゼン』とは友好的な関係が築けているようでありがたい。

 『ワゼン』と『コウス』は友好的とは言い難い関係で、ウチの『ヴェイル国』と『コウス』は敵対している。


 それから『金色』の魔王については共同でこれに当たるということで意見が一致した。

 細かい取り決めは今後になる予定らしい。


 どこに行ったか、消息不明なんだよな『金色』の魔王。


 そういった諸々の擦り合わせだけで、帰って来たその日は終わってしまった。


 翌日、ユウの案内で『エイビ』のスラム街へと足を運ぶ。

 打ち捨てられた木材で家っぽくしたもの、土塀に布を張って家だと言い張っている場所、テントの家、壊れた井戸、雑然とした町並み、人一人がギリギリ通れる道や五叉路に行き止まり、都市計画のない迷路のような街をユウに従って歩く。

 道端に人が寝ていたり、何か雑炊のようなものを調理していたりする隣を抜けて、奥へ、奥へ。


 みんなどこか煤けた表情をしていて、着ているものもシミやほつれがそのままというのも多い。


 なかなかに物珍しいが、面白いとは思えない。


 一本の路地、その路地の中に大きめの犬小屋みたいなものが数個並べられていて、他にはひっくり返った台車や馬車の幌部分だけが置いてあり、そこが行き場をなくした子供たちのねぐららしい。


「ここは何人くらいで住んでいるんだ? 」


 俺が聞くと、十二歳から五歳くらいまでで八人がいるらしい。

 それがユウの家族だという。


 一人ずつと挨拶する。

 怯えている子、ひたすら騒ぐ子、ひねくれた子、ずっと服の裾を噛んでる子……。

 名前は自分たちでつけているらしく、例えばユウは夕方に他の子に連れてこられたからユウとか、雨の日に捨てられているのを見つけたからアメとか、おにぎりが好きだからニギリ、すぐ寝てしまうからネム。

 フクリの実を見つけるのが上手いからフクリ。

 ずっとカラスの真似をしているカァー。

 服の裾を噛んでるのはシガミ。

 そんな名付けだった。


「よし、引越しするぞ! 」


 俺は言って、皆に大事なものだけ持ってついてくるように言う。


 ボロボロのぬいぐるみ。捨てられた時に唯一持たされたお守り、拾ったおもちゃ、破けた絵本、お鍋、袋いっぱいのフクリの種、皆で集めたお裁縫道具……。


 よほど運ぶのに苦労しそうなものは『取り寄せ』魔術で一時預かりしようかと思っていたが、問題なさそうだ。


 ユウを先頭に全員でスラム街から出る。

 ベルグとセイコーマには馬車を一台、用意させた。

 馬車には旅の用意もしてある。

 旅の用意はクーシャとアルがしてくれた。


「大事なものは馬車に積み込んでおくように」


 子供たちが順番に荷物を置いていく。


「荷物を置いた子はこっちに集まって〜 」


 メイとアステルが手を振る。

 二人はこれから子供たちを連れて、服の買い出しだ。


 今日一日は子供たちのために使う。

 明日はセイコーマとベルグに引率を任せて、子供たちはウチの国へと出発する。

 予定では、子供たちが来る頃には『ヴェイワトンネル』が開通しているはずだ。


 俺とデニーが運転する予定の魔導飛行機はいち早く帰らせてもらう。

 『コウス』がきな臭いとじいちゃんからの手紙があった。

 国王としてはお飾りだが、死霊騎士団としては出番があるかもしれない。


 アルの人化をどうするか……今は少し忙しくしていたいのだった。



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