シーフ・ダンス。降参。
第二戦、
ユウ対盾士対長弓士。
ユウは小剣を右手に、左の小盾を掲げて油断なく左右を見ている。
『ジャイアントキリングス』の盾士は大盾の裏に隠れるようにして、短剣を用意している。
恐らくは投擲用だろう。背中には鉄製の棍棒があるので、距離が縮まればそちらを使うのだろう。
『キッチョウ党』の長弓士は連射が効かなくて不利にも見えるが、長弓の先端を金属で尖らせていることから、アレを槍のように使えるのだろう。
弓槍という武器だ。
盾士の短剣が長弓士に飛ぶ。
長弓士はその長射程を活かそうと後退しつつ、短剣を避けた。
お返しとばかりに、矢が盾士に飛ぶ。
盾士は大盾を前面に掲げて前に出る。
ユウは盾士の裏を取ろうと移動するが、盾士はそれを短剣投げで牽制。
長弓士はその隙に回り込むように位置を変える。
ユウも長弓士も盾士を狙っていた。
『ジャイアントキリングス』が一勝を取った以上、それは必然といえた。
目まぐるしくお互いの位置を変える。
ユウは一番身軽なのをいいことに、その位置取りで盾士を牽制することで、盾士の動きをある程度コントロールできていた。
ユウが動く、盾士はそれを嫌がって位置を変える。そこに長弓士が矢を射る。
盾士はそれを大盾で弾く。
ユウは急制動をかけて、辺りに油断なく目を配る。それを隙と捕らえた盾士が距離を詰めようとすると、その隙に長弓士が盾士の裏を取るべく大きく位置を変える。
ユウの視線が長弓士に向けられると、盾士は思い出したように大盾を振って、長弓士を牽制、その隙にユウは詰められた距離を離しながら回るように位置を変える。
ユウはまだ一度も小剣を振っていないが、盾士の短剣はどんどん数を減らし、長弓士の矢も続々と放たれている。
盾士も長弓士も、ぜえはあと息を荒くしているが、ユウはそれほど大きく動いている訳ではない。
ふと、俺が横を見ると、クーシャが納得したように、コクコクと頷いていた。
思わず、頭の中で計画を練るのも忘れて、聞いてしまう。
「クーシャには分かるのか? 」
「あ、あれ、目線とあ、足運び……モ、モンスターもあれやると引っ掛かる。
ク、クリムゾンは『盗賊の舞踏』って言ってた…… 」
クリムゾン。俺も一度だけ会ったことがあるが、クーシャの先輩ポジの超級冒険者だ。
今頃、どこでどうしているのか知らないが、クーシャの知識はこのクリムゾンから得ているものが多い。
暫くすると、盾士は、ふらふらだ。
それを好機と見たユウが『異門召魔術』の箱でペッタンした魔術符を抜く。
だが、ここで長弓士が裏切った。
盾士は、ふらふらで、長弓士自身も体力の限界を感じていたのだろう。
このままでは拙いと感じた長弓士は、瞬間的に狙いをユウに変えた。
「あっ! 」
思わず俺から声が出た。
だが、それは時すでに遅く、ユウに向けて矢が放たれた後だった。
カインッ!
ユウの反応の遅れにも関わらず、死霊騎士団の鎧は見事に矢を跳ね返した。
ユウは驚いたように鎧を見て、それから炎を吹き出す魔術符を改めて構える。
盾士はなんとか大盾を構えていた。
魔法陣が壊れて、オドを絞り尽くした火球が大盾を襲う。
大盾は残念ながら間に合ったものの、盾士の体力はすでに限界で、大盾を抑えきれず、吹き飛ぶように転がった。
ユウと長弓士が同時に走り出す。
「わああ、ま、待て! 降参だ、降参するっ! 」
盾士はなんとかそれだけ絞り出した。
ユウの小剣と長弓士の弓槍が、降参した盾士の直上で打ち合わされる。
それから、お互いに距離を離して、ジリ、ジリと間合いを計り始める。
降参した盾士は、大盾を拾うことなく、みっともなくも四つん這いでその場を離脱した。
ユウと長弓士が同時に動いて、小剣と弓槍が何度となくぶつかる。
長弓士は既に体力の限界を迎えていたはずなのに、徐々にユウを押していく。
「距離をとれーっ! 無理に接近戦で仕留めようとするな! 」
ベルグが叫んだ。
確かにユウはバッヂなしとは思えないほどの急成長を遂げたが、それはモンスター相手のものであって、対人戦はそれほど経験がない。
手ほどきは、アルやらクーシャからも受けているが、それも基礎的な部分で終わっている。
事実、長弓士の技巧や技量にユウは翻弄されまくっていて、ベルグの言に従い下がろうとするも、上手く距離を詰められてしまって、距離を離せなくなっていた。
弓槍に足を掬われ、ユウは無様に転がった。
長弓士は限界のはずだったのに、気力だけでユウを上回った。
弓槍をユウに突きつけて長弓士は言葉を発する。
「ハァ……フゥ…… 降参するか? 」
「降参だ! ユウ、降参するんだ! 」
「ユウさん、充分です、降参して下さい! 」
強い眼で長弓士を睨みつけるユウは、なかなか降参と言わない。
「いやだ! 」
代わりにそう言って、ゴロゴロと地面を転がり逃げようとする。
そこに弓槍が降ってきて、ユウの脇腹を鎧ごと突き通すように後ろから抉った。
ユウの悲痛な声が響く。
「その意気、見事なり!
だが、ここまでだ。次は殺す!
これで、最後だ。降参せよ、娘! 」
ユウは声にならない声を上げ、それでもと、弓槍を掴もうと手を伸ばす。
俺は立ち上がって、大声を上げた。
「ユウっ! 降参だ! 俺を信じろっ! 」
一瞬、ユウと視線が交差する。
俺は大きく頷いた。
ユウは呻くように地面の土を握りしめ、それから、身体の力を抜いた。
「こ、こう、さん、する…… 」
こうして、『キッチョウ党』が一勝を得た。
アステルは跳ぶようにユウの所まで駆けて行って、慌てて神の奇跡を願い。
ベルグとセイコーマは自分たちのマントを使って、タンカを作った。
『キッチョウ党』はこれで勝ったと言わんばかりに大歓声を上げ、『ジャイアントキリングス』は負けた盾士に冷たい眼差しを送る。
さて、次は俺か……。
俺はぶるぶると身体を震わせる。
「武者震い? 」
メイが頼もしそうに俺を見るので、俺は答えた。
「いや、めっちゃ、怖い…… 」
俺の顔は青ざめていたと思う。