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交渉。三日掛けて練りました。


 時間がない。というよりはモタモタしていたくないが正解か。

 それにも関わらず、俺たちは高台からふた組の冒険者パーティーを見守っている。


「ルートを変えようと提案したはずだが? 」


「ああ、君たちの言う通り、君たちと反対側へと向かったさ、最初はな。

 だが、あちらはダメだ。まさかモンスターの分布にここまで偏りがあるとはな。

 まさか、最初から知っていて誘導したのか? 」


「まさか」


 フジ率いる『キッチョウ党』と『クロットのパーティー』は、やはり揉めていた。


「一度に大量なペガサスは相手にできないし、何日も獲物なしでは、商売にならない。

 それで、どうにか我々で相手ができるモンスターを追い求めながら進んだら、進路がかちあったという訳だ。

 疑いたくはないが、本当に作為はなかったと見ていいのだろうか? 」


「なんだと!? フジのせいだとでも言うつもりか? 」


 タカが激昴しそうになるのをフジが抑えていた。

 クロットは少し焦りながらも、それを責める。


「まさかと思うが、四階層まで来られるパーティー同士で諍いを起こすなどしないだろうね? 

 四階層まで来られるパーティーは貴重だ。

 互助会から除名では済まないぞ」


「むろん、争うつもりはない! 

 だが、こう何度も横殴りだと難癖つけられれば、我らとて疑いたくなる」


「疑われても結構だが、そのペガサスはこちらに寄越してもらう。

 なにしろ、そいつに最初にアタックしたのは我々だ」


「証拠もなしに言われてはな…… 」


「では、お前たちはどの傷を誰がつけたか、全部説明できるんだな? 

 それならば納得しよう」


「ふざけんな! モンスターが逃げる時に岩に引っ掛けた傷だってある。

 全部の説明なんかできる訳ねえだろ! 」


 交渉の際、熱くなった方が負けというのは良く聞く話だが、これではフジの側の負けだろう。

 タカ、最初から喧嘩腰だしな。


 相変わらずクロットはグレーなまま、自論を押し通そうとしている。

 違法ではないが、違法スレスレな感じだ。


「そろそろいいかな? 」


 ここからはメイの出番だ。

 クロットのやり方は理解できたので、逆襲といこう。


 俺たちはアルを除いた

全員で高台から滑るように降りていく。

 ちなみに俺はクーシャに抱えてもらっている。

 だって、転ぶ自信があるからな。


「ちょーっと、待ったーっ! 」


 メイが叫びながら滑る。地面に降り立つ直前、ジャンプ一発、空中三回転して身体能力をアピール。

 それを見たクーシャまで……待って、待って、待って〜〜〜。

 クルクルッ……すたっ。


「おぼろろろ…… 」


 俺の口から何か出た。

 いや、強さアピールが必要くらいのことは確かに言った。言ったけど、俺を抱えてやらないで……。


「そのペガサスたちはボクの獲物だー! 

 横殴り禁止ーっ! 」


 メイはとてもいい笑顔でそう叫んだ。

 『クロットのパーティー』と『キッチョウ党』の面々は全員が口をあんぐりと開けている。

 ただでさえ面倒な厄介事を解決しようとした矢先に、また新たな事態を複雑化させる厄介事が飛び込んできたら、そうなるのもやむなし、だろう。


「……おいおい、なんなんだアンタは! 

 アンタも難癖つけようってのか? 」


 最初に反応したのはすぐ喧嘩腰になるタカだ。


「難癖? なんのこと? それよりそのペガサスはボクたちが追っていたんだよ。

 横殴りはやめてくれる? 」


「いや、待て! 最初にそのペガサスを追っていたのは私たちだ。後から来て、何を言っているんだ!? 」


 クロットが弁明する。

 でも、メイはそんなもの、何処吹く風とばかりに、ビシッと指を突きつけた。


「後から来たらどーだってのさ。

 最初に一発入れたのはボクだよ。横殴りは禁止だろ」


 メイは両手を腰に当てて、ない胸を張った。

 一瞬、俺が睨まれた。


「あっ! 君はこの前の超級……いや、関係ない。

 最初に一発入れたというなら証拠はあるんだろうな? 」


 クロットはメイがついこの間、出会ってしまった超級冒険者だと気づいて、怯んだものの、すぐに気を取り直して噛みつくように言った。


「あるよ、ほら、そいつの羽根」


 メイは懐からペガサスの羽根を一本、取り出して見せる。もちろん偽物だ。


「ふ、ふざけるのも大概にしていただきたい。

 そんなものがなんの証拠になると言うんだ! 」


 クロットがキレた。

 ユウが、クスリと笑った。


「何を笑っている。冒険者バッヂも着けていないような荷運びに笑われる謂われなぞないぞ! 」


 激昴するクロットに、ユウを庇うようにセイコーマが前に出る。


「では、あなた方にはこの羽根以上の証拠はおありですか? 」


「そんなもの、ある訳ないだろう! 

 あったとしてもこのキッチョウ党のやつらがズタズタにして消えてしまったよっ! 」


「証拠もなしに、我らに証拠を求めたんですか? 」


 セイコーマが正論をぶつけるが、クロットは正論なぞ慣れっこだろう。


「何がおかしい? 正しいのは私だ。

 証拠というなら、お前らが自分の胸に手を当てて、本当に自分は間違っていないのか聞いてみればいい。

 少しでも疑念があるなら、それは正しいとは言わないんだよ! 」


「うん、ならボクが言うことが真に正しいね! 」


 メイは即答する。


「ま、待っていただきたい! 

 それを言うなら、我々こそが正しいと私は断言する! 」


 ここに来て気圧されていたフジが口論に参戦する。


「君は? 」


「私はキッチョウ党のリーダー、フジだ。

 このペガサスたちは、我々が見つけて、我々が倒した」


「ああ、なるほど。ウチの団員たちが世話になったみたいだね。その節はありがとう。

 ボクはマナルーナのメイ。

 たぶん、超級冒険者ラーヴァオレンジの方が通りはいいかな」


「ラーヴァオレンジ……あ、いや、礼は結構だ。当然のことをしたまでだしね。

 だが、このペガサスたちの正当性は譲れない。分かって欲しい」


 フジって本当に良い人なんだな、と俺は話を聞きながら感心する。


「それで、君は? 

 ちゃんと話を着けるなら、いつまでも君とかお前じゃ不便だからね」


「私は『ジャイアントキリングス』のリーダー、クロットだ。コウスでは『ジャイアントキリングス』と言えば泣く子も黙るパーティーだ」


 おおっと、マウンティングしてきたか。

 メイに対抗しようと必死だな、クロットのやつ。


「知らないな……まあ、いいか。

 それよりも、このままだと全員、平行線だね。

 いっそのこと代表者同士の恨みっこなしで決闘でもする? 」


 バッサリとメイはクロットのマウンティングを斬って捨てて、理不尽を押し付ける。

 ここまでの流れは、俺とアステルが知恵を出し合って、三日掛けた通りにだいたい進んでいる。


「なっ……超級冒険者と戦えと言うのか!? 

 冗談じゃない! 」


「私、個人なら試してみたくはあるがな。

 さすがにこの場面では、認められん」


 クロットとフジは反対を唱える。

 フジは多少、やる気か。それなら行けるかも。


「じゃあ、ボクを抜いてお互い三人ずつ出して、三回戦の決闘は? 」


 クロットはチラリ、チラリとお互いの陣営を見比べる。

 ちなみにクロット自身、昔より成長したらしく、バッヂは『赤やっつ、緑ふたつ』になっている。


「まあ、そういうことなら…… 」


 クロットが納得を示す直前、メイが言葉を挟む。


「あ、ごめーん。ウチ、もう一人、超級冒険者いたや。

 やっぱり下から三人にしない? 

 正しくは初級冒険者まで限定。これなら公平だろ」


「は? 」


 間抜けな声を上げたのは、何を隠そう俺だ。

 予定では、隠し球のクーシャ登場。

 ごめーんね。でも、メイ抜きなら良いって言ったの君たちだよね! ってやるつもりだったのに、何故、バラす? 


「大丈夫、大丈夫、ウチから出すのは、まだバッヂはもらってないけど、冒険者見習いとして鍛えたユウちゃんと、『赤みっつ・緑ふたつ』のアステルと、『赤ふたつ・緑ひとつ』のベルの三人にするから! 」


「いや、聞いてな…… 」


 ポンとクーシャから肩を叩かれた。さらに親指立ててサムズアップって、もしかして謀られた!? 

 こんなことなら、アルじゃなくて俺が別働隊やってれば良かった……ちくせう。


「ふ、ふん、いいだろう」


「いいのか、バッヂなしでも」


「ああ、問題ないね。そこらの冒険者に負けないくらいの鍛え方しているからね。

 それと、折角だ。一番勝ち星が多いパーティーの出場者ひとりだけ、ここに居る全員で叶えられる願いをひとつだけ叶えてあげるってのはどうだろう? 

 例えばボクのこの、稀代の天才、魔導技士アルケミースミスレイル作の魔導剣が欲しいなんてのもいいかもね! 」


 メイは短剣を抜いて全員に見せる。

 普通の短剣としても業物なのはもちろん、母さんの作った魔導剣となれば実用性、価格共に最高レベルの逸品だ。

 全員からのため息が漏れる。


「い、いいだろう。二言はないな? 」


 クロットは生唾を飲み込むように言った。


「そうだな。そういうことなら、私も手の内を見せておこう。

 ワゼンの名匠、ムラムネ最高のひと振り、銘を山断彦やまたちひこ! 

 ショーグンに献上して立身出世を思いのままにするもよし、世にいる剣豪に挑むもよし、売れば見える限りの土地が買えると言われるものだ」


 仲間を奮い立たせるためだろう。フジは自分の帯刀していた美しく波打つ刀を掲げて見せた。


 おお…… と、どよめきが挙がる。


 アステルとユウは俺と目線を合わせて頷いた。

 俺たちの狙いはひとつだけだ。

 場は整った。予定とは違うが、何をしてでも取りに行く。



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