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助けてください! キッチョウ党。


「アルさんの鎧とは、どういうことでしょうか? 」


 俺の権力的反論封鎖から復活したセイコーマが聞いてくる。


「簡単に言えば、昨日のパーティーの中に生前のアルの鎧を持っているやつが居て、それを取り返したい」


「えーと、力ずくっスか? 」


 ベルグって上級冒険者の割に短絡思考が多いよな。


「いや、なるべく穏便に済ませたい」


「多少、強引でもいいと思うけどね」


「ど、どういうこと? 」


 俺が穏便に、と言っているにも関わらず、メイは強行策を支持しているようだ。

 俺とメイの意見が分かれてしまったせいでクーシャは説明を求める。


「アルが死ぬことになったゼリダンジョンに冒険に出た時、昨日話しかけて来たクロットってやつと、もう一人、昨日の四十人パーティーの中で弓に指示出ししていたフロルっていう女冒険者が先輩冒険者として引率していた。

 結果的にアルは……罠の毒矢を受けて死んだんだが……その時、クロットとフロルは実入りが少なかったからと、アルの装備を持ち去った。

 アルとしては、それを取り返したいらしい」


 なるべく主観的にならないように、冷静さを心掛けつつ説明する。

 うまくできているだろうか。


「ベルとアルさんは生前からの知り合いだったんスか? 」


「あ、ああ。アルとは幼馴染だ」


 ベルグに答えると、セイコーマが手を挙げる。


「すみません、その二人とアルさんはパーティーとして長かったんでしょうか? 」


 これに答えるのはアルだ。


「ううん。前に一回、ケイクダンジョン攻略で組んで、ゼリダンジョンは二回目になるかな」


「なるほど……あまり褒められたやり方とは言えませんが、冒険者の中には、仲間が亡くなった時にその装備を剥いで売ってしまう者もいるとは聞きます。

 そのアルさんの鎧が高性能なものなら、そのまま自分の物にしてしまうというのも、ない話ではない。

 ですがその場合、取り返すとなると正当性を訴えるのは厳しいと思いますが…… 」


 「……でも」とアルが言おうとしたのを遮って、俺が言う。


「だから、穏便な方法で収めたいと思っている」


 セイコーマは納得したように頷く。


「ア、アルさんにとって、だ、大事なもの? 」


 クーシャが聞いた。


「うん。ベルが私のために魔法陣を刻んでくれた鎧だから…… 」


 クーシャは、コクコク、と頷いた。


「穏便な方法っつっても、難しいんじゃないスかね? 

 アルさんが顔を出すならともかく、それ以外となると買うか、何かと交換ってことっスよね? 

 今はまだ、ダンジョン内っスし、簡単に鎧は手放しませんよ? 

 かと言って、ダンジョンからいつ出るのかも分からないっスし、ダンジョン内で死なれでもしたらますます回収は困難になるっス」


 アルの顔出しはダメだ。

 だが、現実的に考えてベルグの言う『買取り』と『交換』、穏便に進めるならそれしかない。

 しかも、フロルがこの階層に留まっている間にという制限つきでだ。


 皆が頭を悩ませている中、アステルが発言する。


「確か、クロット氏のパーティーはもうひとつのパーティーと揉めているとの話でしたよね? 」


「じ、状況の見極め、だ、大事! 」


 クーシャが頷く。

 つまり、二人が言うのは、状況次第ではあるが、もうひとつのパーティーを上手く利用できないだろうかということだ。


「まずは一度、接触して詳しい情報を集めてみましょうか? 」


 セイコーマの言うことに全員が納得を示し、話し合いの結果、最も相手に警戒心を与えないということで俺、アステル、ユウの初心者トリオでもうひとつのパーティーに接触することになった。




 クーシャとアルが探ったところ、もうひとつのパーティーはクロットのパーティーから半日と離れていないくらいの位置にキャンプを張っていた。


「じゃあ、行ってくる」


 サバンナ地帯なので開けた場所に出れば、それなりに遠方まで見通せる。

 途中、フォワードジャッカルを四匹ほど見つけたので、アステルに仕留めてもらい、ゾンビ化して契約した。


 クロットの四十人パーティーが人数を増やして、もうひとつのパーティーに対抗しようとしていた以上、もうひとつのパーティーも同じようなことを考えている可能性は高い。


 フォワードジャッカルの群れに追われたという体で、もうひとつのパーティーに潜入しようという企みである。


 このもうひとつのパーティーは比較的に開けた場所をキャンプ地にしているため、フォワードジャッカルの群れに追われる距離が長い。

 少しだけ今回の作戦を後悔した瞬間でもある。

 ちくせう。


「ひぃ、ひぃ、ひぃ…… 」「走って! もっと早く! 」「あっち! あっちに人が! 」


 すまん。走るのに精一杯で「ひぃ」しか言えないんだ……。


「たす……ひぃ、ひぃ、ひぃ…… 」「助けて! 助けてください! 」


 もうひとつのパーティーは人数的には三十人ほどだろうか。


「走れ! 」「フォワードジャッカルだ! 」「追い払うだけでいい」


 近づくと、俺たちの後ろ、フォワードジャッカルに矢が射かけられる。

 フォワードジャッカルたちはそれに合わせて追跡を断念、逃げて行くように俺は念話を使う。


《帰って、待機》


 がくん、と体力が奪われて転がるようにキャンプ地に入る。


「はひ、はひ…… 」「ありがとうございます…… 」「助かった〜…… 」


 水を振る舞われた後、もう大丈夫だぞ、と励まされる。

 あれ? 思ったよりもいい人たち? 


「君たちはどこのパーティーの人かな? 」


 モンスター素材だが異国情緒溢れる鎧はワゼンのものか。

 顔立ちもワゼン風だが表情は柔らかい。

 辺りを見回せば、冒険者らしく装備に違いはあれど、ワゼン人が主体のパーティーのようだ。


「私たちはコウスの方から来た者で、『マナルーナ』というパーティーに所属していました」


 アステルが咄嗟にでまかせを答える。


 『マナルーナ』というのは『王者のうた』という伝承を集めた本に出てくる魔法騎士団のことだ。

 モンスターと主従契約を結んで、そのモンスターの魔法を使えるようになった者たちの冒険譚。

 モンスターと主従契約を結べるのは『ロマンサー』のみで、敵も味方も『ロマンサー』だらけという、超人同士の信念の戦いが熱い物語。

 今、考えると色々と思う部分はあるが、アルのお気に入りの話だったのは覚えている。


「そうか。何があったか教えてくれるかな? 」


「私たち『マナルーナ』に入ったばかりの新人なんですけど、先輩たちが獲物を狩った時に、近くにいた『クロットとかいう人のパーティー』と揉めたとかで、場所を移すことにしたんです。

 ただ、運悪く移動の最中に巨体ムササビのテリトリーに入ってしまったらしくて、襲撃を受けて、散り散りに逃げるしかなくて…… 」


「なるほど、それは大変だったね。

 我々とクロットのところ以外にもうワンパーティーが四階層まで来ていたのは意外だったが、君たちだけでも逃れられて良かったよ。

 ああ、私はこの『キッチョウ党』というパーティーのリーダーをしているフジだ。よろしく」


「アステルです」「ユウです」「ベル」


 俺たちも名を告げておく。

 この『キッチョウ党』は全体的にレベルが高いようだった。

 フジは『赤やっつ』だし、他にもちらほらと上級冒険者がいる。

 人数では『クロットのパーティー』が多いが、質は『キッチョウ党』が優っていそうだ。


「それにしても、クロットのところと君たちも揉めていたとは……彼らにも困ったものだ…… 」


「君たちも、ということは? 」


「ええ、我々も、ですよ」


「よろしければ、参考までにお聞きしたいのですが? 」


「そうですね。いいでしょう」


 フジの話は、簡単だ。

 『キッチョウ党』が獲物を狩った。

 そこに後からやってきた『クロットたち』がその獲物は自分たちが追っていたものだと難癖をつけてきた。

 つまり、横殴りとか言われるものだ。

 冒険者として、横殴りはやってはいけない行為になる。

 その場合、獲物は先に一撃入れていた方に所有権があるとされる。

 四階層の飛行型モンスターは一般的な冒険者にとって強敵だ。必然的に戦闘は激しいものになる。

 狩った獲物の傷がどこでどうついた物かは証明が難しい。


 『キッチョウ党』はここで揉めるのは得策ではないとして、獲物を譲った。

 そこから『クロットたち』は『キッチョウ党』と似たようなルートを通ることになった。

 三度に一度くらいの頻度で横殴りの主張をしてくる『クロットたち』。

 一時は一触即発という状態にまでなったが、フジは同じルートを通らないようにしようと提案、現状はなんとか落ち着いているらしい。


「私たちも同じだったと聞いています」


 しれっとアステルが嘘を吐いた。

 なんだか、アステルって逞しくなった気がする。


「おお、あなた方もですか…… 」


 俺たちはフジの好意に甘える形で、その日はフジたちのキャンプで世話になることにした。

 フジの話を聞いている限りは、『キッチョウ党』に正義があるように思えるが、いちおう他の奴からも話を聞いてみないとな。


「アイツら頭がおかしいんだよ! 

 フジの優しさにつけこみやがって…… 

 今度、会ったら容赦しねえ! フジができないなら、俺がやってやるぜ! 」


 タカと呼ばれる副リーダーが語る。


「……どうもナ、どっかに見張りでもいるんじゃないかと疑っているんですけどナ。

 ルートを変えるって提案に向こうも乗っかって来たんですけど、近くにいるような気がしてならないんですナ」


 しきりに首を捻るのはナス氏だ。


「フジが確証がないから疑うなと言ったからな。俺はフジについていくだけだ」


 こちらはオウギ氏。


「邪魔だから殺した方が早いと思うけどねぇ。

 皆殺しにしちまえば問題もないと思うけど……おっと、これは他のヤツには内緒だよ。

 さもないと…… 」


 セッチンという神官くずれは随分と好戦的だった。


「匣を開けてみなけりゃ、あっしには分からないですな。必要ならそうしますよ」


 ザトウは盲目のハゲたおっさんで、こいつはヤバい雰囲気がした。


 フジ、タカ、ナスの三人が上級冒険者で、皆をまとめているらしい。


 こうしてみると、フジが皆を黙らせているだけで、それがなければ充分、戦争になる要因はありそうだ。


 さて、情報は集まったと見ていいが、これをどう利用したらいいだろうか? 


 俺たちは仲間を探すためといって、翌朝、フジに礼を言って別れた。

 心配したフジに引き留められたが、やんわりと断っての出立である。


 フジは良い人みたいだが、周りは荒くれ者という雰囲気だ。

 しかも、クロットたちはナス氏の心配が的中する形で、ほんの半日ほどの位置にキャンプを張っている。


 これは波乱の予感がするな。



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