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……してくれる? 命令だ。


 朝、何事もないかのように、飯を食う。

 メイに睨まれたが、あれは怒るまで行ってないからセーフだ。

 アステルは俺に凄い微笑みかけて来る。

 あと、何故か異常に世話を焼こうとしてくるのは何故だ? 

 分からないが、何故か迫力を感じるので逆らえない。

 昨晩のことで怒らせたか? だが、だとしたら何故、世話を焼く? 

 しばらく放置が良さそうだ。


「ベル先生…… 」


「どうした、ユウ? 」


「アル姉ちゃんって死んでるの? 」


 場が凍りつく。


「何・故、ソレヲ…… 」


 俺の首がアンデッドみたいに、ギギギ、とそちらを見る。


「姉ちゃんたちが心配で、ベル先生からは寝ろって言われたけど…… 」


 尾行されていた……? 

 あばばばば……。

 ナンヤソレ、恥ずかしい……というのも問題ではあるが、それよりも今後のことだ。

 気を取り直して、ユウを見る。


 不安そうだ。でも、何を言われても受け入れようとする決意みたいにも見える。


 しかし、察しがいいユウにしては珍しい。

 昨日の場面で俺たちの話を聞いていたとして、ユウならば黙っているのが普通のはずだというにも関わらず、わざわざ俺に聞いてくる。

 一番、厳しいであろう俺にだ。


 ユウが一番、懐いているベルグやセイコーマではなく、なんなら一番、最後に打ち解けた上に、一番、厳しい決断をするだろう俺に聞く。

 なにか意味があるような気がした。


 俺は嘆息をひとつ。


「お前はバカじゃない。

 それを俺に聞くってことがどういうことかは分かるよな? 」


 俺は少し遠くを見ながら言う。


「……うん」


「お前を二階層から先に連れて行く時、俺たちが行うことは秘密にするって約束をして、ユウからすれば聞きたいこと、知りたいことを、なるべく見ないフリしてきただろ。

 何故だよ…… 」


 ユウに見せたものはたくさんある。

 異門召魔術、取り寄せ魔術、死霊術……どれも『ワゼン』の民からすれば、耳馴染みのないもので、それらを見て、ユウからの質問はなかった。

 俺から最低限の説明をしたものはあるけどな。


 では、何故ユウは質問しなかったのかといえば、それらは詳しく知ったらヤバいもんだと、ユウは察していたからだ。

 この察しの良さがユウを連れて行くことに、俺が渋々ながらも同意した理由だ。


 引き際を弁えている。そう思っていた。


「私のこと、殺す? 」


 ユウが聞いてくる。

 それは、殺してもいいよ、と言われているみたいだった。


「正直、迷ってるな…… 」


 俺はそれこそ正直に言った。


「こ、殺したら、ア、アンデッドに……してくれる? 」


 ユウは震えながら聞いてきた。


「ベ、ベル様…… 」「おい、よせ! 」


 そう声を上げたのはベルグで、それを止めたのはセイコーマだ。

 メイは頭を抱え、アステルとクーシャは絶句している。


 俺は聞いた。


「なんでアンデッドになりたいんだ? 」


「……だって、アンデッドになれば、皆とお別れしなくて済むから…… 」


「街にいる弟妹たちはどうする? 」


「それは…… 」


 ユウは黙ってしまう。

 これは、アレか。アルがアンデッドだった事実に気が動転して、そこまで考えてないやつか。


 俺は暫く考えた後、ベルグに言った。


「ベルグ、何も言わずにアルを連れてきてくれ…… 」


 昨日の今日で、アルに嘘をつく意味はない。

 十中八九、アルは傷つくだろうが、そうなったら、慰めるなり、俺の脇の甘さを謝るなりするしかない。


「うっス! 」


 誰も何も言わない時間が続く。


「ベル〜。私に用って何? 」


 呑気なアルの声が響く。


「ああ、実はだな……アルがアンデッドだって、ユウにバレた」


「え? 」


「うん、すまん……昨日、ユウは俺の後をついてきてて、全部聞いてたらしい」


「は? あ、そ、そう……えっと……ユウ、ごめんね」


 ひと言残して、アルは踵を返し、一目散に逃げようとする。


「待って! アル姉ちゃん、待って! 」


 ユウは慌ててそれを引き止めるべく、声を上げた。

 アルは、ビクリ、という感じでその場に留まるものの、振り向けなかった。


「わたし……アル姉ちゃんに、ちゃんとありがとうって言ってなかった……私が冒険者になりたいって言った時に、最初になろうって言ってくれたのがアル姉ちゃんで……そのひと言で、私はここに居られることができた。

 だから、アル姉ちゃん……ありがとう! 

 それから、教えたくなかったことなのに、昨日、盗み聞きしてごめんなさい…… 」


 アルはその場で首を、ぷるぷる、と振っていた。

 アルは振り向くこともできず、立ち去ることもできず、佇んでいる。


 俺としては、アルの答えは分かりきっていることだが、ユウのためにも、ここはハッキリとアルに決めてもらうべきだろう。


「アル。ユウの処分のことなんだが……どうする? 」


 アルが俺の言葉に、こちらを向く。


「お前が嫌なんだったら…… 」


「嫌じゃないっ! 

 ユウ、黙ってて、ごめんね…… 」


「ううん。わたしこそ、ごめんなさい…… 」


 まあ、そうなるよな。

 アルはユウにアンデッドだとバレて恐れられるのが嫌だった訳で、関係性が壊れないなら、バレる、バレないに意味はない。


 ユウはアルがアンデッドだったことに衝撃を受けて、本人なりに色々と考えたのだろう。

 俺たち全員がアルのことを隠していたことから、これが一番の厄ネタだと考えた。

 そして、アンデッドになる意味を知らないまま、アンデッドになれば俺たちと共にいられると思い、今回の暴露に踏み切ったのだろう。


 アルは言わば俺の弱点。

 ベルグとセイコーマは、何故、俺がアルをそこまで大事にするかは分かっていないので、俺のお気に入りアンデッドくらいにしか思っていないようだが、俺の原動力だ。

 俺がニート生活を捨てて、国王をやっているのも、冒険者をやっているのも、全てはアルの生き返りのためだ。

 ユウが殺されるのを覚悟したのも、ある意味間違いではない。


「まあ、お互いに納得できたならいい。

 但し、ユウをこのままにしてはおけない」


「え? 」


 アルの声が硬くなる。

 そんなアルに説明する必要があるだろう。


「ユウは洞察力に優れ、頭の回転が早い努力家だが、先を読む力、未来を予測する頭がない」


 生まれや環境のため、そうなってしまうというのも分からない話ではないが、重要な決断を下さなければならない時に、賭け札が『自分の命』しかないというのは問題だ。

 二階層から帰れないと言った時も、アルの正体に迫った時も、どちらも賭けたのは『自分の命』だった。


「それは冒険者として、致命的だ。

 そうじゃないか? ベルグ、セイコーマ」


「確かに先読みは重要っスね」


 と、『ヴェータラ・ダンジョン』で後先考えずに巨大ダンゴムシを槍で突っついて皆を危険に晒したベルグが言う。


「それはどういう意味でしょうか? 」


 セイコーマは前置きよりもその先を聞きたいらしい。


「つまり、ユウが冒険者として独り立ちするためには、瞬間的な先読み力もそうだが、大局的な未来予測力が必要だと俺は気付いたんだよ」


 俺はここで一呼吸置く。

 さあ、引き返せなくなるぞ。


「ユウとその家族を俺の国に連れて行く。

 教育を施し、ユウが一人前になるまでは面倒を見ることにする」


「で、ですが…… 」


 セイコーマが反論しようとするのを、俺は権力によって封じ込める。


「国王命令だ。

 近衛騎士セイコーマ、同じく近衛騎士ベルグ、両名はユウとその家族を全て本国に連れて行くこと。いいな」


「「はっ! 」」


 少し狡いことを言ってしまえば、ユウの家族は有り体に言って『人質』だ。

 衣食住に教育を与えて帰属させてしまえば、裏切れなくなる。

 『ワゼン』の人間を『ヴェイル国』の人間にすると言うと聞こえは悪いが、元々スラムに捨てられた人間たちだ。

 礼を言われても糾弾されるいわれはない。


「王さま…… 」


 ユウは目を丸くしている。


「ベル! 」


 アルは嬉しそうだ。


 俺は両手を打ち払い、全員の注目を集める。


「さて、それはこのダンジョンから出てからの話として。

 次は『アルの鎧』をどうやって取り返すか、考えよう…… 」


 俺は宣言するのだった。


最近、思ったよりたくさんの人がみてくれているようで、作者、感激でございます。

評価まだだよという方がいらっしゃれば、よろしければお願い致します。


と、いうよーなことが作者が読んでるタイプの『なろう作品』にとても多いんですよ。

先人の知恵に学ぼうということで、書かせていただきました。

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