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勝負だからね! 一番頑張った。


 ついユウとのお喋りに夢中になって、夜遅くまで語ってしまったが、俺たちは翌日から、八階層に戻ることにした。

 帰りはルート構築ができているので、橋を渡るのも二日は短縮できる。


 俺たちは橋の上で多少の時間を調整して、ギガントバードの朝食後くらいに合わせて八階層へと戻った。


 俺とユウ、アステルは一週間待ち続けた橋の袂のキャンプ地にもう一度キャンプを張る。


「よし、クーシャ行こう! 」


 アルとクーシャ、ゼリ・グレイガルム・シャドウのオルでひと組。

 オルはシャドウの能力を使った荷物運びだ。

 メイとベルグとセイコーマ、それからやっぱり荷物運びのケルでひと組。


 五人と二匹が霧と岩場と山の八階層をワイバーン狩りに進んでいく。


「メイ、どっちが多く狩れるか、勝負だからね! 」


「いいよ〜。アルちゃんがどれくらいやれるか、楽しみだよ」


 アルとメイはワイバーン狩りで勝負するらしい。


「アルちゃん、楽しそうですね」


 アステルが微笑ましそうに言う。


「いやいや、一般的に考えて、ワイバーンを狩った数で勝負しましょうとか、正気の沙汰じゃないからね。

 ほら、ベルグとセイコーマのあの顔の引き攣り具合、分かる? 」


 普通は上級冒険者がパーティーで何日もかけて狩るのだ。一匹を。

 同志アステルよ、最近、ちょっと毒されて来てない? 


「でも、アル姉ちゃんとメイ姉ちゃんなら、心配ないんじゃない」


 ユウ、お前もか! 

 俺がわざわざ一般的な上級冒険者ベルグとセイコーマを指導役につけた意味よ。


 しかも、メイのやつ、ユウがアルを姉ちゃん呼びしているのを耳聡く聞きつけて、ちゃっかり自分まで姉ちゃん呼びさせてやがる。


「ほら、ベル先生、テントのそっち持って」


「お、おう」


《顔がニヤケとるの。やれやれ……》


 くっ、『サルガタナス』からツッコまれるとは……てへぺろっ。


 それから一時間。


 オルとケルの操る影の手が山の木々の間を縫うようにして、ワイバーンを連れてキャンプ地へとやってくる。

 えーと、右角に蔦が結んであるのがアルが仕留めたやつで、左角に草が結んであるのがメイが仕留めたやつな……。


「とりあえずは一匹ずつで引き分け、と…… 」


 まあ、さすがに一時間だとこんなもんか。

 いや、すげーけど。

 でも、この八階層のワイバーン、数はいっぱいいるからな。


「いえ、今のところメイさんが一歩リードです」


 アステルが額から一筋の汗を垂らす。

 いや、一対一で引き分けですけど。


「見て下さい。メイさんの草は可愛らしくリボン結び。

 ですが、アルちゃんは固結びです…… 」


「ホントだ! 」


 ユウ、そういうのに付き合うと大変だぞ、と俺は半眼で見ている。


 いつのまに始まってたんですかね、女子力対決……。


 その一時間後。

 運ばれて来たのは三匹ずつ。計六匹。

 固結び一匹、リボン結び二匹。

 何もついてないのは男性陣が狩ったワイバーンか。


 また一時間後。

 運ばれて来たのは一匹ずつ。

 何もなし一匹とリボン結び一匹。

 昼休憩かな?

 今までの集計はアル二匹、メイ四匹。

 俺の目の前には十匹のワイバーンが並んでいる。


「ちょっとユウちゃんと狩りの練習してきますね」


 これだけワイバーン臭いと、地上の中級モンスターは近づくこともない。

 俺はアステルとユウを送りだした。


 それから一時間、また一時間とワイバーンが途切れることなく送られてくる。


 いや、もう物理的なバリケードになってるよ、これ……。


 俺は置き場所に困るようになってきたワイバーンの死体をゾンビパウダーでアンデッド化。

 契約を結んで研究所へと送っていく。

 『サルが使えるタナトス魔術』での契約は、アンデッドに俺の名前を血で刻んで、アンデッドの体の一部を俺の中に入れることで成立する。

 体の一部を俺の中に入れるというのは、実際には食うということだ。


 ゴースト系の霊体はだいたい苦いか酸っぱいのが多いが、食うというより、吸い込むみたいな感じだ。


 スケルトン系は硬い。骨だから。まあ、普通は砕いて粉にして飲む。


 問題は、ゾンビ系だ。

 あまり深く言及はしないが、鮮度、大事。

 あと慣れ。なにも考えずに飲み込むのがいい。


 今回のワイバーンは、まあ良い方だ。

 締めたて、肉は美味い、生肉しかないが。


 おい、こら、ワイバーン。キロ単位で提供しようとするな。食えないとは言わないが、キロ単位の生肉はさすがに辛い……え、焚き火で焼いてくれる? それありなの? いや、でも多いわ! あんまり際限なく食ったらアルにぶちのめされる。

 このダンジョン来てから、食いすぎ注意報が出てるから少し抑えないといけないんだよ。


 初期の頃、ガリガリだったユウにちゃんと食わせるべく、俺は目の前でガツガツと食った。


 その名残りから今、食欲がハメを外してて、つい五人前、六人前と食ってしまう。


 飯食う時にアルはいないしな。


 でも、アルはアステルを抱き込んで食事量のチェックを始めやがった。


 しかし、こちらにはメイがいる。


 メイは俺に餌付けするのが好きで、食わせよう、食わせようとしてくる。


 こんなところにもアルとメイの密やかな闘争があったりする。


 冒険者として俺には『奈落大王』という異名がある。

 これは際限なく飯が食えるからついた異名で、冒険者としてそれはどうなんだ、と思わなくないが、とてもわかり易く俺を表現している。


 まあ、だからと言って俺の異名を異国の地である、ここ『ワゼン』で拡めるつもりもないので、ダンジョンから出るまでには、もう少し節制するつもりではある。


 ただ、焼いちゃった分は仕方ない。

 これも契約のためだしな。

 塩、振っていい? 


 夜、全員が戻ってくる。

 結果からいうと、アル十五匹、メイ二十匹でメイの圧勝だった。


「いや〜、アルちゃんがここまでやれるとは思ってなかったなあ。

 凄い成長じゃない? 」


 メイは嬉しそうだ。


「くぅ〜っ! メイ、明日も勝負だからね! 」


 アルは悔しそうだが、それ以上に楽しそうだ。

 ちなみに、クーシャは三十二匹で、ベルグとセイコーマは二人で五匹。

 ベルグとセイコーマはすっかり息も絶え絶えという感じだが、上級冒険者二人で五匹は、一日の成果として異常だぞ。


「こいつのおかげで、なんとかって所っスね」


 ベルグは左腕に装備した『異門召魔術』を撫ぜる。


「セイコーマ先生、見てください! 」


 ユウは蔦猪を二匹、仕留めてきた。


「凄いじゃないか! 」


 セイコーマがユウを褒めていた。

 俺はそれを微笑ましそうに見ているアステルに近寄って、労いの言葉をかける。


「アステルもご苦労さま。

 大変だったでしょ」


「いえいえ、ユウちゃんが優秀だったので…… 」


 本来、アステルの真価は身を守る時に発揮される。

 冒険者的に言えば聖闘士モンクまたは神官戦士だ。

 ユウはまだ複数のモンスターを同時に相手どる技量はない。

 うまくユウに一対一を作ってやろうと思うなら、他のモンスターを自分から動いて引きつけ、足止めさせる動きが必要になる。

 本来ならアステルには向かない役割だ。


「アステルさん、ありがとうございました! 」


 ユウはセイコーマとベルグに一頻り褒められてから、アステルの元にやってきて頭を下げた。

 ユウもちゃんと分かってたか。


「いえ、ユウちゃんも頑張ってましたからね。

 お役に立てたなら、良かったです」


「はい! 」


 ユウはもう一度、お辞儀をしてセイコーマの方に戻った。


 二日目。


 フィールドが広いとはいえ、一日で六十匹だと、近場のワイバーンは狩り尽くしたと見ていい。

 七階層に向かう橋方面に移動していく。


 今日は移動に充てると宣言すると、アルからブーイングされたが、懇切丁寧に移動がいかに大事かを説明してやると、デコピンされた。


 なんだよ、バカにも分かるように説明しただけなのに。


 とにかく、勝負はお預けで移動した。


 三日目。

 勝負再開。

 アル、十四匹に対して、メイは十一匹。

 アルはアホの子のように喜んでいたが、メイはケロっとした顔で、今回はワイバーン探しに手間取ったから仕方ないね〜、と拍手を送っていた。


 あんまりにもアルがアホの子に見えるので、俺はまた説明してやる。


 要は、アルはまだ手付かずの生息地に向かい、メイの担当は一日目にワイバーンを狩った地域と被っていたから、ワイバーンがいなかったんだよ。バカだなぁ。


 ここまで言ったあたりで、デコピンを三十発くらい貰って、俺は撃沈した。


「ダメだよ〜。どっちに向かうはジャンケンで決めたし、アルちゃんは一日目と同じくらい成果を上げた。

 素直に褒めてあげなきゃ」


 俺が地面を舐めながらじゃなきゃ、もう少し素直にメイの話も聞けたと思う。


 四日目。

 またまた移動日。

 さすがに今回はアルからもブーイングは出なかったが、全員の足は少し早かったように思う。


 少し距離を稼いだ五日目。

 わざわざアルは地理的に不利な方を選んで、クーシャとオルと向かっていった。


 後に残された俺は独りごちる。


「はぁ……。いい加減、メイに手加減されてることに気付かないもんかね? 」


「そうなの? 」


 おっと、ユウに聞かれていた。


「ああ、メイの本業は魔導士なんだよ。俺と同じでね」


「え!? ベル先生も魔導士? 」


「あれ、食いつくのそこ? 」


 ああ、俺、死霊術ばっかりで最近、魔術使ってないや。


「こほん……ああ、実はそうなんだ。

 だから後方待機が基本なんだよ」


「え、でも、メイ姉ちゃんは普段、前に出て戦ってるよ? 」


「うん、超級冒険者はね、規格が違うからね。

 一緒にしないようにね…… 」


 しかも悪名高き『ラーヴァオレンジ』さんやぞ。

 本来ならメイの真価はその高速詠唱される『詠唱魔術』にある。

 俺も詠唱の早さに自信はある方だが、メイの高速詠唱はちょっと芸術レベルなのだ。

 ワイバーン狩りではなく、ワイバーン殲滅なら、たぶんクーシャ以上のスコアが出るんじゃないかと思う。


 そんなこんなで本日のスコア。

 アル、十七匹。メイ、二十四匹。


「まだまだ、アルちゃんに負ける訳にいかないからね! 」


 とは、勝者メイのお言葉。

 ちなみに、クーシャは毎回三十匹前後は狩ってるが、それを誇るようなことはしない。


 アルは超級冒険者並ではあるが、まだ及ばないといったところか。

 ランクは初級冒険者だけどな。


 全部で二百匹超のワイバーンゾンビたち。

 これだけいれば、とりあえず五議会の領主たちも納得してくれるだろう。


 戻ったら、研究所の拡張しないとな。

 俺は今回、一番頑張ったオルとケルに人工霊魂を与えながら、今後のことに思いを馳せるのだった。


 こうして俺たちは下層を目指す。


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