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神のルール。顎クイ。


 メイが俺と吸血鬼の間に起きた超展開に、ついてこられる訳もなく。

 それはクーシャも同じなんだろうが、クーシャはあまりそういう部分を気にしないタイプだから、あっ、戦いなくなったんだ、くらいの話にしてくれる。


 まあ、俺は説明しなければならなかった。


 吸血鬼が『ロマンサー』の成れの果てであったこと。

 『ロマンサー』同士には相手の人生を一瞬で追体験する機能があること。

 俺は吸血鬼に言いたいことを言ったこと。

 吸血鬼はそれを認め、それでも終わりを望んだこと。

 それで俺は彼を斬ったこと。


 まあ、そういったアレコレだ。


「あのねえ、ボク、そういうロマンサーのアレコレって聞いてないんだけど!? 」


「そりゃ、教えてないからな」


「それとねえ、さっきの短剣? 剣? とにかく、一撃で吸血鬼を葬れるアレのこととかも聞いてないんだけど!? 」


「まあ、ゴースト集めの時のおまけ? 付録? みたいなもんだし、そもそも当時はまだメイが帰ってなかった時のことだからね」


 俺はテキパキとウチの軍団を撤収させながら答える。

 もちろん『ムウス』から貰ったグレイファミリアとナイトファミリアも研究所行きだ。

 アンデッドだからな。


「ちょっとベルってば、お姉ちゃんに対して秘密がありすぎじゃない? 」


 お姉ちゃん。まあ、姉弟子だから間違ってはいないが、メイはそういう気持ちで言ってくれているんだろう。


「そりゃ俺だって大人になった訳だし、全部、報告とかはしないよ。めんどくさい…… 」


「あ、あわわわわわ……反抗期? 反抗期なの? 」


「いや、子供扱いすんなよ…… 」


 いちおう、もう成人してんのやぞ。


「ふん、ボクからすればベルはいつまででも弟なんだからね! 」


「はいはい…… 」


 いつのまにか論点ズレてるけど、その方がありがたい。

 『ロマンサー』の問題点とか突っ込まれても、俺だって知らないことがまだまだあるんだ。答えようもない。


 それよりも、気になることは他にもある。

 『ムウス』の記憶だ。

 『ムウス』は俺の探していた『ムウス』だった。


 『月夜鬼譚〜流転抄〜』を読んだ記憶も俺の中に残っている。

 現物も『ムウス』の故郷に行って、隠れ家代わりにしていた古い神殿に行けばあるだろうが、正直もう必要ではない。

 記憶にあるからな。


 『ムウス』が残してくれたグレイファミリアとナイトファミリア。

 こいつらから素材を貰えば、アルを人化する準備は全て整ったと言える。


 ただなぁ……。

 誰かを犠牲にしなきゃ生き返れないなんて、アルが納得するはずないんだよなあ……。


 今のままじゃ、『ソス』の二の舞だ。

 アルが生き返った瞬間に、世をはかなんで……なんて、シャレにもならない。

 まあ、アルはそういうことするタイプじゃないが、色々と面倒はあるだろう。


 別に俺もアルも人を殺していけないなんてことは言わない。

 冒険者をやっていると、罪人は殺すしかない場合も多い。

 前に他の冒険者に襲われそうになって、そいつらを殺したこともあったし、生きるためにスライムに殺させたこともある。


 だが、アルを生き返らせるために誰かの命を使うとなると、また変わってくる。


 瞬間的な判断ではなく、目的のために殺すことになる。


 正直、そこまで非情になれない。


 ダメだ。この件は暫く保留にしよう。

 記憶の中にある『月夜鬼譚・〜流転抄〜』をもう一度精査して、仕組みを理解すれば別の方法論も浮かぶかもしれないしな。


 少し別の視点で考えよう。


 『ムウス』がこの『天空ダンジョン』八階層の階層主に抜擢された件だ。


 ここから読み取れる情報が結構ある。


 まず、『ロマンサー』のGPについて。

 『ロマンサー』はGPの増減がないと、警告が来る。

 そのまま放置しておくと、システムメッセージに『神』か『神に連なる者』か定かではないが、そいつからの介入がある。

 まあ雰囲気的に俺の知る『主神』っぽい印象だったが、『頭に響く声』と表現しているものの、実際にはイメージの塊みたいなものなので『主神』だと断言はできない。


 GPの増減。モンスターやロマンサーを倒せば増えるし、ギフトの取得をすれば減る。


 俺の場合、契約を結んだアンデッドがモンスターを倒してもGPが入るので、放置についてはあまり気にすることではないが、『神』サイドに監視されている可能性があるということだ。


 『副神』からの手紙にも俺のことは隠しておくみたいなことが書かれていたので、その時点で監視とは言わないまでも、首輪の鈴のようなものがついている可能性は考えていたが、これはもう可能性ではなく確定だろう。


 【ロマンサーテスタメント】は首輪の鈴だ。


 それから、システムメッセージの介入者、暫定『主神』の言動。

 『神』が争いを望んでいるのは知っている。

 しかし、どうやらバランスを取っている節がある。


 はっきり言って『ムウス』はバランスブレイカーだ。

 魔神より強い上に、吸血鬼の始祖としての力もある。

 なにしろ『ムウス』は無知だったが故に稼いだGPを全て自己強化に宛てていた。


 百万GPの技『真・崩壊』とか『ダンジョン』内で使うのを見たが、使った瞬間、『ダンジョン』とそこがあった地域が変な光に変化して、土地ごと消えていた。

 『ダンジョン』の不思議空間すら無効にする技とか、本当にヤバい。

 それ以降、『ムウス』本人が忌避して封印したくらいヤバい。

 あとその技の『封印』にもGPを払わせるあたり【ロマンサーテスタメント】は本当にセコい。

 『おまけの剣』は斬ることに特化しているので、ああいうのは無い。


 唯一の救いは『ムウス』が滅びを望んでいたことか。


 『ムウス』が首輪の鈴を鳴らして、介入者を呼び出してしまった時、もし介入者が『ムウス』の幻想で『ソス』という役割を与えられた『システムメッセージ』を通じて、無差別に人間を殺せと命じていたら……。


 だが、介入者はそれをせず、ダンジョンに封じ込めた上で、システムメッセージ内にわざわざ『新規補助アナウンス・ソス』を作った。


 つまり、介入者は『ムウス』の幻想を利用しつつも、『ムウス』の意志を尊重していた。

 いや、『ムウス』の意志を必要としていたということだ。


 これが分かるのは、俺が『カルマ』によって『ムウス』になりながらも、どこかに『ヴェイル』が残っていたからなのだろうが、『新規補助アナウンス・ソス』はあくまでこの九階層という役割に沿った提案をしていた。

 そして、その提案を許可したのは『ムウス』だ。


 となると、『神』には人の意志を自由にする権限がないか、もしくはその権限を放棄しているかのどちらかだろう。


 これは『神』のルールなのかもしれない。

 誘導はしても、直接操ることはない。

 これは大事なことだ。


 争い続けるようにバランスを取ろうとし、人の意志を誘導はしても、直接操ることはない。


 それから、メーゼ魔王化事件の時に『神』が俺を殺したり、直接何かをするということもなかった。

 まあ、【ロマンサーテスタメント】のシステムに介入はされたが、それは『ムウス』の時も同じだ。


 これもルールだ。


 悪魔『サルガタナス』にもルールがある。

 ここら辺はもしかしたら同じものなのかもしれない。


 神やら悪魔やらに直接は殺されず、俺の意志次第で状況を変えられるのなら、それで俺としては問題ない。


 問題は俺の意志が固まらないことか。

 ちくせう。


 閑話休題。


 俺たちは九階層のキャンプ地へと戻った。

 九階層に来て半日で用事が終わった。

 ここまでひと月半以上掛かっていることを考えると、最後はやけにあっけなかったが、ひとまず第一目標だけは何とかできた。


 次は第二目標である対『金色ゴールデンドーン』用のアンデッド戦力、飛行型モンスターの確保だ。


 ここから十階層に向かうのは、あまり得策とは言えない。

 本来の滞在予定はとっくに過ぎているのだ。

 それもこれも、『天空ダンジョン』の広さが問題ではあるのだが、帰り道を急いだとしても相当な時間が掛かる。


 そうなると、八階層のワイバーンか。

 オル・ケルをお使いに出した一週間の内に、五頭ほど確保しているが、足りない。

 ギガントバードと戦いたくはないので、なるべく見つからないように、という条件はつくが、ワイバーン狩りをするしかないだろう。


 俺はキャンプ地に戻ってすぐ、皆を集めて話をすることにした。


「ベルさん、メイさん、クーシャさん、おかえりなさい。

 偵察はどうでした? 」


 いち早く俺たちの帰還に気づいたアステルが迎えてくれる。


「ははっ……聞いてくれる、アステルちゃん」


 厭世的な笑いを零してメイが口を開く。

 俺とクーシャは少しバツの悪い顔をしている。


「どうかしたんですか? 」


「それがねえ。終わったんだよ…… 」


「はい。……? 」


 アステルは、はいと答えたものの、上手く飲み込めなかったのか、小首を傾げる。


「うん、そうだよね。ボクもそうなんだ。

 でもね、終わったの。

 意気込んで森に入ったら、吸血鬼の眷属のコウモリやらオオカミが出てきて、ベルなんて魔晶石の大盤振る舞いで死霊騎士団まで動員して、いざ吸血鬼の館まで行ったら、ベルが吸血鬼と話して、怪しい短剣持ち出して、斬って、終わり。

 もうね、ボクも意味分かんなくてさあ…… 」


「吸血鬼!? 」「はあっ!? 」「なんと、噂に名高い吸血鬼ですか? 」「ベル様がやっつけたんですか? 」「どういうこと? 」


 アステル、ベルグ、セイコーマ、ユウ、アルと全員がそれぞれに驚いていた。


「メイ、それについては説明しただろうが! 

 あの吸血鬼は最初から滅びを望んでいたんだ。

 それが分かったから、苦しませないように吸血鬼でも葬れる武器を使った。

 何度も言わせるな…… 」


「いや、聞いたけどさ。

 あれだけ意気込んで、ついにボクの全力を見せる時が! って思ってたら、吸血鬼はベルに縋りついちゃうし、ベルは吸血鬼の顎をクイっとやって…… 」


 ん? ん? アステルとアルとユウの鼻息が荒い。


「……かと思えば、ベルはいきなりクーシャくんに、俺を殴ってくれ! でしょ。

 クーシャくんが混乱してるから、ボクが蹴っ飛ばしてやったら、今度はまた吸血鬼と名前なんか呼びあっちゃってるし。

 それで、よく分からないまま、ベルはお前のことは忘れない、みたいな? 本当にもう、ボクは何を見せられているのかと……。はあ……っ 」


「すいません、メイさん、ベルさんの顎クイのあたりの構図をもう少し詳しく…… 」


 いきなりアステルの眼鏡が光ったかと思うと、メイに質問を始めた。


「違う! 触れたのは頬だよ! 

 やめるんだ同志アステル! そっちの世界に行くんじゃない! 」


 俺は必死に弁明する。

 そうか、メイにも俺が『ロマンサー』だと言う話はアルに聞かせないように言い含めたのが、裏目に出たのか……。


「あの、ベル様、あ、ベルさんとクーシャさんってどういう……? 」


 ユウが頭に血を昇らせたようにアルに聞いている。


「えーとね、無二の親友って感じかな? 」


「アル、てめえ! わざとか? わざとなんだろ? その兜の奥でニマついてんの分かってんだぞ! 」


 なんでこう女どもは、そういう系の話に持ち込みたがるんだろうか……。


「あと、メイ! なんで、してやったりみたいな顔してんの? 誤解を招く言い方やめて! 」


「えー? なんのことだろー? あったことをそのまま言っただけなんだけどなー? 」


 すげー棒読み。暴れられなかった意趣返しなのかもしれないが、身内にそういう腐ったネタは本当に勘弁願いたい。


 ひとしきり騒いでから、改めて説明することにする。

 もちろん『ロマンサー』の部分は『ネクロマンサー』の能力ということに改変したし、『ムウス』が俺の探していた『ムウス』なのだという話はしていない。

 肝心の部分は適当に誤魔化したバージョンだ。

 『月夜鬼譚〜流転抄〜』については、俺の考えがまとまっていないのもあって、誰にも説明はしていない。


 ただ、説明が終わってから食いついてきたのはユウだった。


「メイさんのお話が半分、冗談なのは分かりましたけど……ベルさ、んが吸血鬼を斬ったのも本当なんですか? 」


「……あ〜まあ、そうだな」


「あの、実はベルさんが剣を使えるとは思ってなくて……」


 だんだんユウの話し方から悪童っほさが抜けていっているのを、ユウの自信の表れだと受け止めて、少し嬉しく感じながらユウの話を聞く。


「もしかして、強かったり……? 」


 ユウの中では、俺は初級冒険者でスポンサー。戦う力はほぼ皆無くらいに思っているのかもしれないな。

 仕方ない。教えてやるか……。


「自慢じゃないが、剣は糞雑魚レベルだぞ」


「えっ? 」


「たぶん、ユウの方が強い。剣ならな」


「え? でも、吸血鬼を斬ったって…… 」


「呪いの魔剣の力だよ」


「「「呪いの魔剣!? 」」」


 ユウとベルグとセイコーマの声が唱和した。


「俺は死霊術士ネクロマンサーでもあるからな、呪いの魔剣を制御できるんだ」


「なるほど…… 」「さすが…… 」


 セイコーマとベルグは納得したようだ。


「そんなのがあるんの? 」


 ユウの口調が変なのに戻った。もしかして、こっちが素なのか? よく分からんが、まあいいや。


「ある。一般的に魔剣と呼ばれる剣は、正式には魔導剣という。これは人の手で作り出せるもので、人が制御できる。

 でも、それ以外の魔剣というのもある。

 例えば、ダンジョンの宝箱や宝物庫から報酬として出るものだ。

 これが正式に魔剣と呼ばれる。

 製法不明、制御方法も不明、ただ大抵の場合、人の生命力オドを使って制御できるとされている。

 それから主にモンスターが使う魔法剣。

 魔剣に似ているが、実際はただの剣だ。

 モンスターの魔法のことわりで魔導剣に近い効果を生み出しているものだ。

 他にも精霊剣、聖剣、擬似聖剣、機構剣、呪剣…… 」


「はい、ストップ、ストップ! 」


「なんだよ、メイ。せっかく正しい知識を…… 」


「まずはユウちゃんを見よう」


 俺は頭を掴まれて、ユウへと視線を向けさせられる。


「ね。目がぐるぐるしてる。

 詰め込みすぎ、良くない」


「お、おう……すまん…… 」


 つい『塔』の寺子屋で教えていた時の癖が出た。


 一人を相手に語るのと、十人を相手に語るのは違う。


 昔もメイに教わって覚えたはずなのに、ついやってしまった。


 寺子屋だと十人以上を相手に反復をしながら教えるから、生徒のレベルを考えなくなってくるんだよな。

 それで反感を持たれて授業をボイコットされたりすることがよくあった。


 当時は、俺が子供だからボイコットされているんだと思い込んでいたが、そうじゃない、一人、一人と向き合ってないからだよと教えてくれたのもメイだ。


 また教えられてしまった。


「ユウ、悪かったな」


「あ、いえ、わた俺、わたしこそ、ごめん、なさい……」


 俺は黙る。頭の中で猛省していた。

 すると、ユウは俺から離れるわけではなく、続けるように言った。


「あの、魔剣を制御できないとどうなるんですか? 」


「ん? あ、ああ、それはだな…… 」


 ユウが理解できるように、なるべく噛み砕いて俺は説明していくのだった。


 なんだか久しぶりだな、こういうの。

 俺は少し嬉しくなって、寺子屋気分を満喫したのだった。


祝・20万PV達成!

皆様、ありがとうございます!

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