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タクアムからエイビへ


 『ヴェータラダンジョン』から戻って数日、俺たちは『タクアムの街』を出て、警護武士団と共に『ニモン領』を目指す。


 道中は平和だ。

 なにしろ結界門のおかげでモンスターがほぼ出ない。

 出ても弱いモンスターばかりで、結界門の内側では冒険者が少なくても問題はない。

 代わりにと言ってはなんだが、ワゼン領内では『武辺者ぶへんもの』という対人戦に特化した冒険者的立場の者たちがいるらしい。


 それは、モンスターの脅威よりも人間の脅威の方が高いことを意味している。


 モンスターが出なくなったからといって、山賊や盗賊が横行するのでは安全度はそう変わらないような気もするが、ワゼンの人々からすると、モンスターの方が脅威度が高いという認識らしい。


 同行する武士団の人がこんなことを言う。


「武門の家に生まれたこの国の者らは、戦は武器を手にした瞬間から始まると教わって育っております。

 たとえ短刀だろうが、包丁だろうが、女子供とて武器を手にした瞬間から戦人でもあるのです。

 まあ、ここのところ戦も少なく、だからこそ貧困にあえいで賊に身をやつす者も増えてはいるのですが……コウノモンは遥か昔からマンガンとの最前線ですからな。

 賊に身をやつさねばならぬ者もおりませぬし、平和なものです」


「最前線で平和なんですか? 」


 聞くともなしに聞いていたのだろう。

 アステルが横から質問してくる。

 話をしていた武士も可愛い女性冒険者が話し相手の方がいいのだろう。

 相好を崩して、更に饒舌になる。


「まあ、平和ですな。

 小競り合い程度はありますが、それとて一人か二人を殺したり殺されたりで、大きな戦とはなりませんからな。

 まあ、平和ですよ」


「普通、領民が殺されたりしたら、小競り合いではなくなってしまうのではないんですか? 」


「ははっ、その辺りは覚悟の違い、ですかねぇ……」


「はぁ……そういうものなんでしょうか……」


「ええ、戦人とはそういうものですから」


 ワゼン人とは文化が違う。そういうことを体感した会話だ。


 旅は順調に進む。

 『コウノモン』と『ニモン』の領境で『ニモン』の武士団が護衛に加わり、結構な人数での移動になると、速度はともかく安全度は上がる。

 ブリュレーたち外交団とは『ニモン』の主街に着いたところで別行動になる。

 それまでに折を見てブリュレーたちとは情報を共有しておく。


 カモっさん曰く、いい商売ができそうだというのは、お世辞やおためごかしではない。

 なにしろ頬は紅潮して、目がギラギラになっている。

 なにかいい物でも見つけたようだ。


 ニモン主街『ゴンボッコ』。

 ここで冒険者組は暇乞いをする。

 ここからは対魔王戦を主眼とした航空戦力の確保と、アルのための素材集めが主となる。


 目指すは『アゲモン領』の『天空ダンジョン』だ。

 『ゴンボッコ』を出てアゲモン領主街『ミョーガ』にある結界門を通る。

 ここからは結界の外だ。


 結界から出るとチラホラと冒険者の姿が増えている印象がある。


 俺たちは『コウノモン』『ニモン』『アゲモン』の各主街を通って来たが、位置でいえば『天空ダンジョン』はコウス王国『オドブル』から東、森を越え、山を越えた先ということになる。


 コウス王国と敵対した今、この『天空ダンジョン』に来るためにも、ヴェイワトンネルの開通は必須だったということだ。


 『天空ダンジョン』を管轄しているのはアゲモン領『エイビ』という小さな街だ。

 『天空ダンジョン』が高難易度すぎて、人の集まりはあまり良くないらしい。


 ただ『天空ダンジョン』の一階層、二階層辺りまでは地元民に人気の狩場となっているらしく、主な産物は矢羽根や卵になっている。


 『エイビ』に入ってしばらく、俺たちは次々に勧誘を受けることになると聞いていたのだが……。


「すごい遠巻きに見られてるな……」


「空飛ぶ馬車はさすがに目立つっスからね」


 自分を案内に雇わないかと地元民が押し寄せるので、良いガイド選びのコツを参照しながら、自分に合ったガイドを選びましょう、と『ダンジョンガイド』という本に書いてあったが、どうやら俺たちには適用されないようだ。


 まあ、『魔導飛行機』は俺たちが世界初だと自負しているから珍奇な目で見られるのは仕方がない。


 俺たちの後方が騒がしくなるので、ふと目をやると、『コウス』の方から冒険者の一団が到着したらしい。

 人が集まり、「雇ってくれ」「いや、俺だ」などと、この街の定番な喧騒を見ることはできた。


 『天空ダンジョン』はこの街から出て西に二時間ほどで『天空階段』というダンジョンに繋がる階段がある。

 この『天空階段』は古い言葉で『エスカ・レタ』というらしいが、不思議なことに階段自体が動いていて、三十分ほどで空の上の『天空ダンジョン』まで連れていってくれるという謎の魔導機だ。


 今後のアタックのことを考えて、俺たちは街の西側に宿を取る。

 宿は『天馬館』という冒険者目当ての宿で、十人以上で泊まれる大部屋をひとつ貸切にして

使うことにした。

 ここ『エイビ』では大人数で泊まれる宿というのはそう珍しくもない。

 最高難易度と名高い『天空ダンジョン』に挑むべく人数を揃えるのは、ある意味普通のことだからだ。


 宿の中、誰にも見られないように『取り寄せ』魔術でアルを呼び出す。


「待たせたかな」


「うん。でも大丈夫だよ。

 ブリュレーおじさんは大丈夫なの? 」


 アルにかかれば五議会の重鎮、テイサイートの領主も、ただのおじさんでしかないらしい。


「ああ、かなり手厚くおもてなしを受けたみたいで、俺も外交団側に回れば良かったのにと散々、勧誘されたよ……」


 まあウチの国が受け入れられる体制が整っているのは忍者フウマがうまくやってくれた証だと言える。

 ありがたい。


「珍しい食べ物が出たり……? 」


 アルは至極当然という、したり顔で言ってくる。


「それな。

 こっちの産物やら、独自の調理法なんかをなるべく押さえて来るってカモっさんに宥められなきゃ危なかったぜ」


 もちろん冗談だ。

 旅の途中でカモっさんとそういう話はしたが、俺の第一目標はいつだってアルのことだ。

 お互いの付き合いの長さからくる冗談だった。


 そんな冗談を交えながら、俺たちは情報収集と一休みを兼ねて、併設された酒場へと向かうのだった。


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