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……っスね。立ち入り禁止。


「ゴガアァァァッ! 」「グルオガアァァァッ! 」


 四階層から降りようと、三階層への坂道に向かう途中、五叉路になっている場所に差し掛かった時、その声が大きく響いた。


 一体のオーガが、他のオーガたちと戦っていた。

 一体だけのオーガはオーガコマンドだろうか。

 俺からすれば幅広剣ブロードソードほどはある短剣を二本、両手に握り、部分鎧を着けている姿は他のオーガとどれだけ差があるかと言われれば首を傾げざるを得ないのだが、双短剣に部分鎧を着けた個体はオーガコマンドと呼ばれる。


 そのオーガコマンドは他のオーガウォリアーやオーガナイトからボコボコにされていた。


 俺たちは五叉路に入る曲がり角に身を潜めている最中だ。


「いじめっスかね? 」


 青タンがアステルの治癒の祈りの余波で治ってしまったベルグがそんなことを言う。


「モンスターが? 

 ……いや、そういうこともあるか」


 リザードマンはキングの下で役割分担している。

 いじめにオーガたちの社会的役割があると認めたくはないが……いや、違う。

 あのオーガコマンドは、アンデッドだ。


 オーガ自体に傷の回復能力があるので、見逃し、いや聴き逃しそうになったが、殴られようが斬りつけられようが鳴き声ひとつ上げないのは異常だ。


「タフっスね、あいつ」


「いや、あれはアンデッドだな」


「ああ、道理で……」


 ベルグの口調が生真面目なものから、急に砕けてきたのは、何かあるんだろうか? 

 オーガコマンドがアンデッドだと理解してからは、そっちの方が気になる。


 暫く待てば、次々にオーガがやって来て、多勢に無勢で最終的にオーガコマンドはオド切れで動かなくなった。

 オーガたちは一斉に勝鬨を上げて、それぞれに散っていった。


「よし、じゃあ行きますか。

 あ、あいつの魔石は取っていくっスよね? 」


「いや、たぶん魔石はないぞ」


「えっ? 」


「魔石ってのは、オドの集合体だ。

 あのオーガコマンドはオド切れで動かなくなった。

 つまり、あいつの魔石はもう真っ黒なはずだ」


「ええっ!? 

 それじゃあ、アンデッドモンスターの魔石ってないんっスか? 」


「おい、ベルグ。

 お前、さっきから陛……ベルさんに失礼じゃないか」


 セイコーマからそう注意されたベルグは、途端に顔を青ざめさせた。


「あっ……す、し、失礼しました。

 つい、昔の気分に戻ってしまったもので……」


 冒険者だった頃の気分ってやつか。

 俺はベルグの口調が変わった原因が分かって晴れやかな気分だったので、そのまま笑顔で答える。


「問題ない。

 呼び方も口調も好きにしていいぞ。

 なにしろ俺たちは冒険者なんだからな。

 セイコーマも無理に口調を改めなくていいからな」


 冒険者は一瞬が命取りになる場合もある。

 そのことはベルグもセイコーマも分かっているようで、ベルグはホッとしたように、セイコーマは感謝と謝罪を織り交ぜながらも了解してくれた。


 三階層まで戻り、軽くマップ埋めをしながら三階層と二階層の間の坂道でまた休憩を取る。


 三階層は燻すような香りが漂っているものの、熱気などが伝わる様子もなく、二階層も坂道から少し確認する限りでは、燃え残った灰が貯まったような景色があるだけだった。


「火はない。道幅広い。モンスターは……判別つかないな」


 残りのマップを埋めながら歩く。

 階層にあった落ち葉が全て灰色になった景色は、死を連想させてうら寂しい。

 モンスターも全て灰になったのか、時折、形が半分くらい残ったやつもいるが、触れた途端に崩れて消える。


「ちくせう、行きに作ったマップだと道幅が全然合わない……場所によって違うし……」


 俺は悪態をつきながら黙々と書き記していく。


「あ……」


 クーシャが小さく感嘆の声を上げる。

 全員がクーシャの視線の先を追って、理解する。

 行きに使ったルートの途中、枯葉に被われ見えなかった安全地帯。

 そこだけが石畳で作られ、小さな水飲み場まで備え付けられていて、中には光苔と呼ばれる暗闇で光る苔が繁茂していた。


「安全地帯……」


「底意地が悪いね」


 アステルの呟きにメイが重ねるように『ダンジョン』への呪詛を吐いた。

 とても、同感である。

 この二階層は罠と火が使えないことを加味すると、緑いつつくらいは必要そうだ。

 急に難易度が上がるタイプのダンジョンなのだろう。


 だというのに、安全地帯は隠されて置かれている。

 初見殺しもいいところで、他のダンジョンに見られる徐々に上がる難易度によって、人間を前に進ませるようなダンジョンではない。


 『神』のどういう意図があるのか知らないが、本当に底意地が悪いと思う。


 その後、二階層と一階層を繋ぐ坂道まで来て、俺たちはソレを見た。

 例の二階層の罠に使われていた巨大ダンゴムシだ。

 焼きあがったソイツらが坂道に詰まっていた。


「ああ、こりゃ素材もとれないっスね……」


 ベルグが端にある巨大ダンゴムシの焼死体に触れると、あの硬かった甲殻がボロボロと崩れた。


 二階層が炎に蹂躙された時、逃げ場を求めて巨大ダンゴムシたちが集まったのだろう。

 俺たちは、煤だらけになりながら巨大ダンゴムシの墓場を抜ける。


 ようやくの一階層。

 一階層は初心者でも気をつければ抜けられるくらいの難易度なので、するすると進み、俺たちは出口である巨木のウロまでたどり着いた。


 ウロには幾重にも縄が張り巡らされ、俺たちの脱出を阻んでいたので、問答無用でセイコーマがそれらを切り捨てた。


 外に出ると、何人かの冒険者が驚いたようにこちらを見ていた。


「これは何の真似だ? 」


 セイコーマが冒険者たちを睨みつける。


「いや、それは……今、二階層で火を使った馬鹿がいて、立ち入り禁止に……」


 冒険者の一人が驚愕の顔のまま答えた。


 一瞬、街ぐるみの罠かと疑った俺たちだったが、そうではなかった。

 どうやら何処かの馬鹿が放った火が原因でダンジョンそのものが立ち入り禁止になっていたらしい。


「な、なあアンタら二階層の火がどうなったか知っているか? 」


「だ、誰か他に生存者はいなかったか? 」


「もしかして、三階層から上は無事だったりするのか?」


 矢継ぎ早に上がる冒険者たちの質問に答えると、今度は俺たちの番だ。


「……それで、あんな枯葉だらけの中で火を使った馬鹿はどうなったんだ? 」


「ああ、あの時、冒険者どもは一階層の探索にほとんどが夢中でな。

 ほら、手付かずのダンジョンなら宝箱があるかもしれないってな。

 二階層にいち早く上がったやつは、そんなに多くなかった。

 おかげで、というか、そのせいでそいつらが慌てて逃げて来る場面を見ていたやつが大勢いたんだ。

 今ごろは街の衛兵に捕まって、それなりのお裁きが下るだろうぜ」


「ふーん、それならいいか」


 実害と言えば無駄に魔術を使わされたことだが、ダンジョン内でそれを言っても始まらない。

 然るべく裁きが下されるなら、気にしても仕方がないな。


「一発、ぶん殴ってやりたかったっス」


 ……という意見もあるようだ。


 冒険者たちは、俺たちがもたらした情報を元に我先にとダンジョンに吸い込まれていく。


 俺たちも街に戻って『冒険者互助会』で依頼の終了確認、素材の売却などを済ませて宿へと戻るのだった。


 『ヴェータラダンジョン』。

 アンデッドモンスターはいるものの、やはり『黄金の魔王』との関わりは薄いと見ていいと思う。


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