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進むか、迎えうつか……


 俺たちは二階層を歩く。

 俺たちが受けた依頼『二階層のマップ作成』はかなり難航していた。

 枯葉の道は幅が特定できない。

 なにしろ、壁も枯葉なので無理をすれば道幅は広がる。

 さらに言えば、見た目は変わり映えしない枯葉の道だが、どこかに隠し通路があっても不思議ではない。


 天井の枯葉もどこに巨大ダンゴムシがいるか分からず、罠の位置も特定できていない。


「こ、これは失敗するしか、な、ないかも」


 クーシャの言うとおり、この依頼は失敗するしかないかもしれない。

 その上で『冒険者互助会』にこの階層のマップ作成の困難さを訴え、対策を取ってもらうのがいいだろう。


 方法としては、人海戦術で枯葉と巨大ダンゴムシを処理しながらのマップ作成か、乱暴だが人払いをした上で、一度枯葉を全て焼き尽くすか、といったところだろう。


 今のところ、アンデッドモンスターは出てきていない。

 それなら、依頼達成は諦めて、もう少し上の階層を見てもいいかもしれない。


 そんな話を、ぽつりぽつり呟きながら歩いていると、メイが不思議そうな声をあげる。


「あれ? なんか臭う……」


 ササッと自分の服の匂いを確認したのは真面目な近衛であるセイコーマと女性であるアステル。

 冒険に出れば身体を拭く余裕がないので、そうではないと、辺りを匂うのが他の面々だ。


「ん……焦げ臭いのか……? 」


「え? 」「あ……」


 嫌な予感というのは、大抵の場合当たる。

 この時もご多分にもれず、というやつだ。


 遠く、枯葉の舞うカサカサした音に混じって、パチパチパチリッ……と音がして、音がしたと思った時には黒い煙が漂って来ていた。


「なっ……まさか……」


「火を使ったやつがいるな……」


「ど、どうしますか? 」


 アステルが焦っているが、焦りは禁物だ。


 俺はここまでのマップを見る。

 熱気はまだ届いていないが、煙は俺たちが来た方向、二階層の入り口の方から来ている。

 空気が動いているが、ここはダンジョンの中だ。

 一般的な感覚がどこまで通用するかは、甚だ疑問が残る。


「戻るのは、危ないだろうな。進むか、迎え打つか……」


「む、迎えうつ? 」


 クーシャが疑問の声を上げる。

 だから、俺はニヤリと笑って見せる。


「ここに、汎用性の高い魔導士がふたりいます」


 俺とメイを交互に指さして見せる。


「まあ、ボクの手持ちの魔石で戦術級の魔術なら三発はいけるかな……」


 メイは腰のポーチに入れた魔石を確認している。

 それにも俺は悪い笑みで返す。


「メイ、俺は専属魔導士だぜ! 」


「ん? 」


「戦略級の魔術が何発も撃てるくらい魔石はプールしてある」


「あ、それって……」


 そう、『エスプレーソダンジョン』の魔宝石鉱脈から今も送られ続けている例のアレである。

 『取り寄せ魔術』を使えば、まだまだ増やせてしまう。


「じゃあ、何も問題ないじゃないか。

 とりあえず、水激の強化詠唱でいいかな? 」


「ああ、俺は煙対策で竜巻の詠唱だな。

 少し煙が出てきたから、全員、身を低くしていてくれ」


 セイコーマと青タンベルグは不安そうに俺たちを見ているが、あまり俺たち『塔』の人間のことは知らないのか。

 いや、知っていても、実感がないということなのだろう。


「「イジュ、ウオハム、ヌネツ、イアブ……」」


 俺とメイの強化詠唱が同時に響く。


 水を表すのは『イウス』、俺の風は『ウウフ』系の呪文という分類をしている。


 俺たちの呪文は同時に完成し、メイの翳す掌からは俺たちの研究所を水没させようとした『カシュワ・テーン』の放った水流よりも太い水激が、俺の掌からは風が渦を巻くように吹き出していく。

 水を巻き込んだ風が通路を嵐のように蹂躙していく。

 枯葉を舞いあげ、落ちてくる巨大ダンゴムシも流れに押されていく。


「「おおっ……」」「わあ……」


 魔導士をやっていて良かったと思うのは、やはりこうして身近な人たちが上げる歓声を聞いた時だろう。


 この二階層にどれだけの被害が出ているのか分からないが、自分たちの命より大事なものなんて、このダンジョンにはない。

 まあ、そもそもこんなフィールドで火を使ったやつの尻拭いだ。

 俺たちの後からダンジョンに突入した冒険者たちに被害が出るかもしれないが、それは必要な犠牲と割り切るしかない。


 俺とメイがそれぞれに用意した魔宝石がただの石ころになって、俺たちの魔術が止まる。


 辺りの惨状は凄いことになっている。


 吹き飛んだ枯葉の先は一階層と同じ生木になっている。

 足元、壁、天井がそれぞれ一メートルくらいずつ抉れている。

 いまだに焦げ臭い煙は漂って来るが、火が迫って来るような感じはしない。


「よし、しばらくは大丈夫だろうから、先に進むか」


「え、進んでしまっていいんでしょうか? 」


 不安そうにしているアステルに俺は微笑みかける。


「戻ったところで、先は火の海、今は吹き飛ばした水浸しの枯葉とダンゴムシがしばらく火を防いでくれているけど、どこまで保つか分からない。

 上の階層がどうなっているか分からないけど、どちらにせよ見に行く予定だったからこのまま先に進もう。

 燃えるものがなくなったら、火も消えるだろうしね」


「う、うん。僕もそれがい、いいと思う」


 ダンジョン歴最多のクーシャも賛成のようだ。

 俺たちは上の階層を目指して進むのだった。


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