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枯葉、くるくる……。


 坂道を上がってみると、枯葉の道だった。

 天井も壁も床も、すべて枯葉が敷き詰められている。


「なんだこれ……」


 絶句というやつだ。

 見たことの無い景色なのは確かだ。


 クーシャが壁に剣を突き立てたり、それを動かしたりしている。


「は、入るけど、だんだん重くなる……」


 枯葉が重なった壁だが、ただの枯葉ではないのかもしれない。

 床にしても不思議な感じだ。

 まるで仰向けに寝る熊の腹の上、とでもいえばいいのだろうか。

 ふよふよして、走れば足をとられそうだ。


 天井からは風もないのに、はらはらと枯葉が降っていて、とても邪魔だ。


 こんなフィールドでは初級モンスターだからと気を抜いたら酷い目にあうこと請け合いだ。


 落ちる枯葉で、カサカサと常に音がしていて、俺たちが歩けば、ガサガサに変わる。

 つまり、敵に気付きにくい。

 枯葉だらけなので、火も使えない。


 詰んでいるフィールド。


 そんな言葉がふと頭に浮かぶ。


「この階層自体が、巨大な罠なのかもな……」


「なに? なにかベルは詩的な気分なの? 」


 メイに茶化される。


「いや、別にそういう……」


 わけじゃないけど、という言葉はベルグの「ぎゃっ! 」という声と大量に落ちる枯葉の波にかき消された。


 どうやら最後尾にいたベルグは、クーシャを真似て天井を調べようとしていたらしい。

 ベルグが得物である槍を天井に突き込むと、薄い膜が割れるように大量の枯葉が落ちる。

 頭から枯葉を被る形になったベルグは叫んだ。

 だが、それどころではなかった。


 地響きと共に落ちてきたのは、巨大ダンゴムシだ。

 忙しなく触角を動かして周囲を探っている。


「げ、げえっ! 」


 青タンベルグの悲鳴が聞こえる。

 巨大ダンゴムシは道幅いっぱいくらいの大きさがあり、纏う甲殻は硬そうだ。

 ちょうど青タンベルグとそれ以外のメンバーが分断された形になっている。


「大丈夫かっ」


「は、はい! 」


 俺の声にベルグの慌てたような返事が聞こえる。

 巨大ダンゴムシに誰も押し潰されなかっただけ、運は良かったのかもしれない。


 考えようによっては、俺たちが巨大ダンゴムシを挟み撃ちにしているようなものとも言える。


「くっ……やるか……」


 『火』がフィールド的に禁じられている以上、俺に基本的な攻撃手段はない。

 だが、こちらには超級冒険者も上級冒険者もいるのだ。

 足場は悪いが、なんとかなるはずだ。


「初めて見るモンスターだね。まずは小手調べっ! 」


 瞬間、メイがナイフを投擲していた。

 かんっ! 


かたっ……貫通力特化のダンジョン産風竜爪製ナイフが弾かれた……」


 風竜爪製ナイフ。ドラゴンの爪から作った武器か。

 ドラゴンの爪は鋼鉄をも簡単に切り裂くと言われている。

 だとすると、巨大ダンゴムシの甲殻は鋼鉄以上の硬さか。


 メイの攻撃により巨大ダンゴムシは敵意を感じとったのか、ぐるん、と身体を丸めてこちらに転がり始める。


 え、マジか。


 通路いっぱいの巨大な球体が転がって来るとか、ダンジョンの物語でのお約束の罠じゃないか! 


「斜め下の空間です! 」


 叫んだのはアステルだ。

 クーシャ、メイ、アステルはほぼ同時に斜め下の隙間に身を寄せる。


「え、え……」


 俺もそうしようと思ったのだが、セイコーマが理解できなかったのか、棒立ちになっている。


「バカ! 壁にめりこめ! ここの枯葉ならそれでいける! 」


 そう言って、俺は壁に体当たりするように壁に埋まってみせる。


「は、はい! 」


 セイコーマも俺に倣うように壁を背に、身体を埋める。


 ひとつだけ、誤算があった。


 セイコーマは盾を持っていた。その盾を身体に密着させるように構えたため、なんの問題もなかった。

 誤算だったのは俺だ。

 俺も壁を背にするように枯葉に埋まったのだが、体型を考慮するのを忘れていた。


 巨大ダンゴムシ球体が通り過ぎようとした時、腹のでっぱりがどう考えても当たる。


「ほひゅーっ……! 」


 必死に腹を引っこめる。

 むべなるかな、俺の努力は悲しいほどに無駄だった。

 転がる球体。まあるいお腹。

 ふたつの湾曲面がぶつかり、逃げ場のない俺は、転がって来るエネルギーをどうにか逃がそうとした。


 くるくるくるくる……。


 腹を打つパーンとした子気味のいい音と同時に縦回転のエネルギーを横回転に転化していく。


 めっちゃ回る。

 枯葉の壁に深く潜るように、究極のバレエダンサーのように、身体を回転させながら、枯葉の奥へ。

 しかし、最初にクーシャが探ったように、壁は途中から重くなる。

 その枯葉に弾かれるように、俺は跳んだ。


 どうにか巨大ダンゴムシ球体をやり過ごしたクーシャ、メイ、アステル、俺たちを心配したベルグ。

 彼らが見たのは、俺が独楽のように回りながら壁に埋まっていき、それから大ジャンプで通路に舞い戻る姿だったらしい。


 どうにかバランスを取ろうと、足と腕を前後に開いた状態で着地。


 ……………………おおっ! 


 その光景を見た連中が感嘆の声を上げ、思わず拍手しようとした時。


 おぼろろろろろ……。


 俺は我慢できずに、吐いた。


「ちょ、ちょ、ベル! 」「ベルさん! 」「ベルくん! 」「陛下! 」


 まあ、大事なかったので笑い話だが、一歩間違えれば、俺は全身の骨が砕かれてもおかしくなかった。

 あとでめちゃくちゃ笑われた後、めちゃくちゃ怒られた。

 セイコーマとベルグには泣きながら謝られた。


 いや、上級冒険者が泣くなよ。


 しかし、おかげで『ヴェータラダンジョン』二階層の重要な情報が手に入った。

 天井に仕掛けられた罠とその回避方法。

 俺はマップの端にきっちりとメモを書き込んだ。




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