緊急依頼ですよー!しかし、回りこまれてしまった。
冒険者という触れ込みの俺たちとブリュレーたち外交団は宿泊施設が違う。
『コウノモン領』内の護衛はイブリ麾下の武士団が請け負うとのことで、俺たち冒険者組は一週間ほどの自由逗留とされた。
ワゼンにはウチみたいな『取り寄せ魔術連絡網』も『武威徹』もないので首都『ギンシャリ』まで行こうと思うと時間がかかる。
早馬を走らせて、十日くらいと聞いている。
外交団は正式な使節なので、それなりにおもてなしが必要だとワゼンの人たちは考えているらしい。
ウチ? ウチは無理しない。なんせ辺境も辺境と見られるからな。
おもてなしをしようと思っても、せいぜいが家庭料理に毛が生えた程度の食事、売りである『武威徹』で空の景色を楽しむ、そんなところだ。
ちなみに俺はウチの食事に文句はない。
特にソウルヘイの属性岩塩を日替わりで使ったソテー肉なんかは飽きなくていい。
あ、今なら近衛騎士団による『異門召魔術』を使った演習とか、クーシャとドラゴンゾンビたちの剣舞なんかは見せられるか。
後は有り余る魔宝石を使ったじいちゃんとメイと俺の大魔術共演なんかはいいかもな。
ブリュレーたちはどんなおもてなしを受けているんだろうか。
そんなことを考えながら、冒険者組は街を散策する。
「はっ……」
俺の口から言葉が漏れた。
「どうかしました? 」
アステルの問いに、俺は小走りで屋台に駆け込むことで答える。
「スードンだ! 」
「へい、らっしゃい! 」
屋台の親爺の威勢のいい声。
俺は『スプー』にあった屋台を思い出して、零れそうになる涎を抑える。
ここも、スードンを食べてからトッピングを増やす方式だろうか?
「このトッピングのやつは何杯目から頼めるんだ? 」
「何杯目も何も、頼みたきゃ頼んでくんな! 」
な、なるほど……最初から選び放題とは剛毅な……。
だが、最初はスードン単体からがいいだろう。
俺は黄金色のスープに麺が浮かぶだけのスードンを頼む。
食欲を唆る香ばしくやさしい香りが鼻腔を刺激する。
「これこれ……」
さっそく食べようと思うものの、食器が……棒が二本。
フォークのように持ってみるが、麺が逃げていく。
「おや、にいさん箸は初めてかい? 」
「ああ、どう使うんだ? 」
店の親爺が『ハシ』なるものの使い方を教えてくれる。
「そうそう、こっちは支えるだけで、こっちを動かす……」
ふむふむ……手指全体をトングに見立てて動かす感じか……。
「よっ……はっ……こ、こう、もうちょい……」
「はっはっはっ……ウチの麺はコシがあるツルシコ麺だからな。初めてだと難しいだろ」
そう言いながら親爺は俺の持つ『ハシ』よりももっと長い『ハシ』を器用に操って麺を茹でている。
俺もどうにか掴んで口元に持っていく。
「……ぶあちゃあっ! 」
熱々のスープの中の麺もまたそれなりの破壊力があった。
熱さに口を逃がすと、麺もまた逃げていく。
ぬおおおお……せっかく掴んだのに……。
「ベル、なにしてんの? 」
俺の背後からメイが覗き込むように話しかけてくる。
「くっ……今、話しかけんな……ハシには集中力が必要なんだ……」
親爺曰くのツルシコ麺をどうにか掴む。
持ち上げて、ふうふうと息で冷ます。
「らっしゃい! どうしやすか? 」
「んー、じゃあこのカマタマってのひとつ。
あ、あとフォークある? 」
「へい、まいど! 」
俺の横に並ぶメイの前には『カマタマ』なるスープなしのツルシコ麺、上には青い筒状の小さな野菜がパラパラと掛けられ、中央に生の卵が鎮座している。
そして、フォーク。
フォークあるの!?
「ん? にいさんもフォークがいいかい? 」
親爺がにこやかに聞いてくる。
なにやらフォークを選んだら負けた気になる。
しかし、フォークの方が食べやすそうだ……。
「ああ、何事かと思ったら、スプーで食べたスードンですか! 」
アステルも来たようだ。
その後ろにはクーシャと近衛騎士二人も続いている。
アステルもケーツネスードンを注文、フォークを頼んでいる。
クーシャも、近衛騎士二人もフォーク。
ち、ちくせう!
俺は『ハシ』でスードンを食べることにする。
ずっ……ずっ……ずずぅ……ちゅるん!
ほふぅ……うんまい。
麺が煮崩れていない。噛みごたえがある。
これがツルシコ麺。
『ハシ』で持ち上げて、中空にある麺を見れば、表面はツルリとした光沢を放っていて、木製の『ハシ』と真っ白な麺の対比が美しい。
これを噛むと、もっちりとした歯触りと表面のツルツルが口の中で踊る。
スープを飲めば、香りはもちろん、あとを引く旨味が麺と融合して、えも言われぬ至福が口中を駆け巡る。
音を立てて啜る背徳感と口中の至福が俺を満たしていく。
飲み込んでしまえば、次が欲しくなるというのがこのスードンの魔性だ。
「ふぅ……美味かった! 」
結果、俺はスードンの全トッピングを一種類ずつ試し、カマタマも同じく制覇するまで食べたのだった。
「相変わらず健啖家だよねぇ、ベルは……」
「最近はダメだな。セーブがきかなくて……」
「まあ、美味しそうに食べるから、見ているこっちも幸せだし、いいんじゃない? 」
メイはそう言ってくれるが、アステルは多少思うところもあるらしい。
「うーん……アルちゃんからは食べさせ過ぎないようにって言われてるんですけどねぇ……」
うん、そのアルがいないから箍が外れている可能性は否めない。
アルは物理的に止めに来るからな。
「まあ、このあとはちゃんとセーブするよ」
「はぁ……ならいいんですけど……」
「おっ、あの屋台はなんだろうな? 」
『タクアムの街』は俺たちにもしっかりとおもてなしをしてくれているようだった。
そんな風にあちらの屋台、こちらの屋台と俺たちは渡り歩いていたが、いちおう当初の目的である『冒険者互助会』に向かっていた。
街を取り囲む情勢を見るには、互助会の依頼を眺めるといいと教えてくれたのは、今では近衛騎士団長のデニーだった。
「ふむぅ……ちらほらとアンデッド退治の依頼が出てるな」
「金色の影響ですかね? 」
アステルがはっきりと言わないのは、混乱を避けるためだ。
ワゼンにも話は伝わっているようだが、それがどのレベルまで伝わっているか分からないからだ。
「モ、モンスター退治の依頼は、常設の素材採集がある、く、くらいだね」
クーシャの言うとおり、どうも常設らしいモンスター退治の依頼以外の退治系依頼はアンデッド退治に集中している。
それも『オオモリ』近辺の小さな村からの依頼が二、三あるだけだ。
いちおう、ダンジョン系依頼もあるが『タクアム』近郊に初級ダンジョンがあるだけらしい。
「少しずつ影響が出ているって感じかね……」
メイが言うことに俺も頷く。
「何か依頼を受けられるんでしょうか? 」
近衛騎士の一人が聞いてくる。
「いや、どんな依頼があるか見に来た……」
だけだ、と言おうとした時、互助会職員が俺たちを押しのけるように紙束を持って来て、掲示板に貼っていく。
「みなさーん!
緊急依頼ですよー!
オオモリにて新規ダンジョンが発見されました!
階層情報、高額買い入れいたしまーす!
今なら無制限入場可能でーす!
ほらほら、そこで昼間から飲んだくれてる場合じゃありませんよー!
新規ダンジョンの位置情報は受付で地図配ってまーす!
新規ダンジョン、ヴェータラダンジョンの地図は受付でーす! 」
「新規、ダンジョン……? 」
「も、もしかして、アンデッドが出てるのって……」
「ちょ、ちょ、シーっ!
そんなこと言ったら、受けてくれる人がいなくなっちゃうでしょ!
気になるなら依頼を受けて、確かめて来てください! 」
クーシャが予想を口にすると、途端に受付職員が口止めしてくる。
できたのがアンデッドダンジョンだったりすると、取れる素材が限られてくるため、人気がないダンジョンになってしまう。
実情は潜ってみなければ分からないが、もしアンデッドダンジョンだった場合、近隣に出始めているアンデッド退治依頼はダンジョンが原因ということも有り得る。
うーむ……この『タクアム』にいられるのは、残り六日ほど。
超級冒険者のクーシャと神官戦士のアステルがいるから、アンデッドダンジョンも怖くはないが……行きと帰り、それから一日程度は次の街へ向かう準備に充てるとして、五日か。
最近、出没しているアンデッドが『金色』の手駒かどうかだけでも確認しておくべきか?
俺が張り紙を前にどうするべきか考えていると、今日という日を冒険以外に充てようと考え、酒を飲んでいたり、互助会の図書室にいたであろう冒険者たちが群がってくる。
「おう、受けねえならどけや、デブ! 」
「なっ……!?」
少し酔った巨漢の冒険者に肘鉄気味の排除を食らって俺がよろめくと、近衛騎士の一人がそれを見て驚愕の表情を浮かべたと同時に、その顔を真っ赤にして、激昴寸前となった。
俺は慌てて止めようとするが、その俺を手で制したのはメイだった。
メイは諭すように首を否定のために振る。
敢えて何も言わないのだろう。
一瞬、何故止められたのかを考える。
昔のメイならどうだろう。
昔、メイと一緒に街中を歩いた時。
「どけやチビ! 」
俺はメイに買ってもらった肉串を大人の冒険者にぶつかられて落とした。
「なにすんだ! 」
「あんだコラ? 道の真ん中をガキがふらふらしてるからだろがっ! 」
当時の俺は、まだちょっと本が好きな普通のガキだった。
その時はメイがちょうど欲しい道具があるとかで俺は餌付けされつつ本を読みながらふらふらと待っている時だった。
確かに俺はふらふらしていたし、正直、帯剣してごつい鎧を着た大人にビビっていた。
ふらふらしていたという負い目が俺を覆った。
「ご、ごめんなさい……」
「はぁ!? 謝れば許してもらえるとでも思ってんのか? ……これだからガキはよぉっ! 」
恫喝、だったのだろう。
俺は恐怖に固まり、身動きひとつできなかった。
若かったな。多少殴られたところであの状況なら命まで取られることはない。
だが、その瞬間は確かに死ぬような恐怖を感じていた。
大人に胸倉を掴まれ、俺は「ひぃっ……」と息を吐き出すのが精一杯だったが、それに気づいたのだろうメイはすぐに来てくれた。
「ちょっと、ちょっと……この子がなんかしたのかい? 」
「ああ? 誰だてめえは? 」
「この子の連れだよ。
何があったのか言って欲しいね」
大人はジロジロとメイを見て、いやらしい笑みを一瞬だけ浮かべた。
「こいつが俺にぶつかって来たんだよ! 」
俺は大人の嘘に目を丸くした。
メイは俺に確認しようとしたが、大人は俺に凄んだ。
「そうだよなぁっ! 謝ったもんなぁっ! 」
謝ったかどうかと言われれば、確かに謝った。
思わず口から出たのは「う、うん……」という曖昧ながらも肯定の言葉だった。
「ほぅら、このガキも……」
「ちょっと待ったーっ! 」
大人が俺の言葉をかさにきて追い打ちをかけようとした時、メイがいきなり大声を出した。
「謝ったんだね? 」
メイの目は慈愛に溢れて俺を見た。
俺は大人に胸倉を掴まれたまま頷いた。
「こんな可愛い子が謝ったんなら、それでいいじゃないか。
それ以上、何が必要だってのさ? 」
「何が必要かだと? それぐらい自分で考えるもんじゃないのかよ?
こいつの連れだって言うなら、あんたが誠意を見せてくれたっていいんだがね? 」
大人の下卑た態度は、当時の俺が読んでいたような本には出ていなくて、俺はそれを驚きと共に見ていた。
だが、俺が本当に驚くのはその後だった。
メイが薄く笑う。それは蔑みと怒りを宿した目だ。
「もう、どっちでもいいや。
ウチのベルを怖がらせたお前はどちらにせよ痛い目を見せてやるつもりだったからね……」
「はあ? 何を言って……」
大人が言いかけた瞬間、大人が着ていたごつい鎧がずれた。
「お前、冒険者だよね。
今の見えたかい? 」
「見る? 何かしたって言うのか?
はんっ、バカらし……」
大人の言葉が終わらぬ内に、ごつい鎧が重力に引かれて落ちた。
俺の側から見えたのは、メイが後ろ手に隠したナイフだ。
いつのまにナイフを手にしていたのか分からなかった。
ただ分かったのは、メイがそのナイフで大人のごつい鎧の留め具部分を断ち切っただろうことだ。
「なっ、げぇぇぇっ! 」
「この子に買ってやった肉串が落ちてる。
そのことについては謝った? 」
「な、なにしやがった? 」
大人は慌てて自分の鎧を拾い上げた。
留め具は金属の輪に革紐を結ぶタイプのようだった。
その革紐が切られている。
「謝ってなさそうだね。
この子は謝った。お前は謝ってない。
さて、悪いのはどっち? 」
「か、勝手に決めつけんじゃねえ! 」
大人が鎧を捨てて、腰の剣を抜き打ちする。
だが、低い体勢からの抜き打ちはメイに筒抜けだった。
メイの膝が一瞬で大人の鼻先にめり込んだ。
「ぴぎっ……! 」
仰け反り倒れ、転がるように大人は鼻を抑えた。でも、噴き出す鼻血は大人の手を真っ赤に染めた。
地面に蹲るような格好の大人の頭をメイは背中側から踏みつけた。
「……悪いのはどっち? 」
俺はメイが怖いと感じていた。
「ず、ずびばぜんっ……おでが悪がったでず……」
「謝るのは僕にじゃないよね? 」
大人は頭を踏みつけられたまま、必死に俺を見て懇願した。
「ごべんなざい……ゆるじで……」
「ベル、どうする? 」
許す? 殺す? そんな言葉が後に続きそうで、俺はもういいという意味で頭をコクコクと振るしかできなかった。
「うん。たぶん、ぶつかって来たのもコイツだろ? 」
コクコク。
「いいかい。暴力の信者ってのは、より強い暴力に屈する。
舐められたら侮られているってことだ。
そういう輩には、どんな方法でもいい、侮られないように力を示すんだよ。
ベルが侮られるってことは、塔のみんなが馬鹿にされてるってことだと思っておきなね」
コクコク。
……はっ! そうか、近衛騎士やメイからすると、俺が侮られるってことは、国が馬鹿にされていると感じてしまうのか。
俺はメイの意図を理解して口出しするのを止めた。
近衛騎士は酔っ払い冒険者に食ってかかっている。
「貴様、陛〈下〉……我が仲間に手を出すとはどういう了見だ! 」
「手を出す? バカ言っちゃいけねぇ。
ちょっと小突いただけだろ。よそ者は流儀がなっちゃいねぇなぁ……」
「ほう……赤ななつの俺に流儀を解くか、この三下めっ! 」
近衛騎士のこうげき。
三下にダメージ。
「てめえ、やりやがった、なっ! 」
三下のこうげき。
近衛騎士はサッとかわした。
俺にダメージ。
メイの『かばう』がはつどうした。
メイの『受け流し』がはつどうした。
知らないオッサンにダメージ。
「痛えな、このやろう! 」
知らないオッサンのこうげき。
三下にダメージ。
三下の『吹き飛ぶ』がはつどうした。
若造冒険者にダメージ。
「やったな、飲んだくれ! 」
全体に『大乱闘』がはつどうした。
誰もがこんらんしている。
「痛えな! 」「ふざけんな! 」「前から気に入らなかったんだ! 」「ぶっとべ、コラ! 」
俺はにげだした。
………………しかし、回りこまれてしまった。
「逃がさねえぞ、よそ者が! 」
「ちくせう……俺は暴力信者じゃないのに……」
とはいえ、ここで更に逃げ出すという選択肢は、後でアルから怒られる。あと、メイもいい顔はしないだろう。
「ああ、やってやる……俺の流儀でな! 」
俺のこうげき。
ミス。荒くれ冒険者にとどかなかった。
「おいおい、へなへなパンチが届いてすらいねえぞ。
パンチってのはな、腰を落としてこう打つんだよっ! 」
アルファのこうげき。
荒くれ冒険者にダメージ。
荒くれ冒険者をたおした。
「はっはっはっ、バカめ。誰がまともになんかやるもんか! 」
「いい加減にしなさぁああいっ! 」
互助会職員の『一喝』がはつどうした。
全体のこんらんがかいふく。
「互助会の中で揉め事は許しませんっ!
まだやる人は、職員権限で色を落としますからねっ! 」
互助会職員は自身の権限で冒険者の色〈ランク〉をひとつからふたつ程度まで上げることと、落とすことができる。
もちろん、権限を使うにはその互助会内の職員、半数以上の賛成が必要という縛りはある。
場が静かになった。
互助会職員は辺りを見回して、無事なカウンターに依頼の紙を乱雑に並べる。
「それだけ元気が有り余っているなら、ここにいる人たち、全員で依頼を受けてもらいますっ。
それが嫌なら、あなたたちの壊した机、椅子、掲示板、その他諸々の修理代を払ってもらいますからね!
さあ、期限、難易度、早い者勝ちです! 」
それまで争っていた冒険者たちが、弁償を逃れようと、依頼の紙に群れる。
「……陛下、どうされますか? 」
近衛騎士の一人が顔に青あざを作ったまま聞きに来る。
冒険者たちは、少しでも有利な依頼を選ぼうと依頼に群がっていて、こちらは気にも止めていない。
俺は考える。
正直、弁償なら弁償でも問題ないくらいの金は持っている。
でも、受けるべきだろう。
ここで弁償金を払って、依頼を受けないとなったら、ただでさえ『よそ者』と罵られているのに、さらに『臆病者』なんて風聞が流れたら堪らない。
「受けよう。ただし、期限は五日以内だ。
それ以上は予定が狂うからな」
「はっ! 」
少し安心したような顔で青あざ近衛は依頼を取りに向かう。
「逃げずにやったみたいだね」
ニヤニヤしながらメイが俺のところにやってくる。
「まあ、俺なりにだけどな」
正しくはアルファの力だが、死霊術なんだから半ば俺の力みたいなものだ。
「いや、舐められなければそれでいいんだよ」
「言うと思った」
そんな話をしていると、クーシャにアステル、近衛のふたりも戻ってくる。
「すいません。残っている中で一番短く終わりそうなのが、これしかありませんでした……」
青あざ近衛が持って来たのは、二階層のマップ作成の依頼だった。
マップ作成は冒険者にとっての基本であり、最も人気がない。
ひとつは冒険者にとって、マップ情報は財産だからだ。
もうひとつ、マップ作成は地味でツラい作業だ。
さらに言えば、互助会からの依頼料は割に合わない。
なにしろ『神の試練』はマップが一定周期で変化する可能性がある。
マップは全員が欲しているが、変化する度にマップ作成の依頼が出る。
あまり依頼料を高くしてしまうと互助会の組織が立ちいかなくなるという問題がある。
俺たちは金に拘りがない上に、近衛騎士は上級冒険者の資格持ちでクーシャという超級冒険者もいる。
何も問題がないな。
これから『オオモリ』の中に街道を通す以上、少しでも『ヴェータラダンジョン』の情報を得ておくのは悪いことじゃない。
俺はこの依頼を受けることにした。