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五議会と国王とため息。

 城に帰って一日、しっかり休養を取った後、俺は五議会と共に会議に参加していた。


 議題は『金色ゴールデンドーン』の魔王対策。


「やはり陛下が恨まれていらっしゃる可能性が高いということですな……」


 俺の説明に難しい顔をしているのは『スプー』領主のオルニオだ。

 でっぷりした腹を窮屈そうに椅子に収めている。


「魔王種となった者に人の道理を当て嵌めて考えてもいいものなのか、疑問は残るがな……」


 白髭をしごきながら言うのは『テイサイート』領主、ブリュレー。


「近場に潜伏していることこそ問題なのではないですか? 」


 『ヂース』領主のクラフトとしては、ヴェイワトンネルがテイサイートとヂースの間にあるというのもあって、気が気じゃないらしい。


「確かにそうじゃのう……各領二百のさまよえるワンダリングメイルを配備しているとはいえ、今回のように飛べるモンスターを眷属化されるとなると、防衛も厳しいと考えねばならん」


 これはじいちゃん。


「敵もアンデッドを使うということで、各領の主要な神殿に協力を取り付けるべく動いていますが、問題は対空戦力の確保ですね」


 アステルもしっかりと意見を言う。

 さすが『五議会相談役』だ。


「城の方で集められるだけの弓矢とバリスタは集める予定だけど、各領での集積もお願いしたいところかな」


 メイはペンを鼻と上唇で挟んで書類と睨めっこしつつ言う。


「今のことも大事だが、先々のことを考えれば、魔導学校の開校こそ急務ではないだろうか? 」


 ちょっとクイラスの個人的な欲望が入っている気がするが、確かに初期から構想は出ているので、間違いではない。


「前もやってた寺子屋スタイルなら、なんとかなると思うけど、学校となると先生役の確保が難しいからな……」


 参加している以上はちゃんと考えを示しておくのが国王の仕事だとじいちゃんから言われている。

 さすがに全部、だんまり、お任せにはしない。


「そろそろ何人か戻って来るじゃろ。

 そうしたら、寺子屋スタイルで教師を育てるとしたらどうかの? 」


「おお、それなら実現の目もありそうですな」


 じいちゃんのフォローにクイラスが喜びの声を上げる。


「長期的にはそれでいいとして、今、当面の戦力は補充するべきでしょうな……」


 ブリュレーの瞳が俺に向けられる。

 ああ、誰かに似ていると思っていたが、テイサイートの冒険者互助会の受付のじいさんに似ているんだ。

 受付じいさんは、ウチのじいちゃんの知り合いで、さらっと俺がロマンサーだと見抜いた人だ。

 もしかして、ブリュレーと兄弟? 

 ブリュレーはあまり好々爺然とした表情を作らないので、なかなか繋がらなかったが、今の俺を揶揄からかうような笑顔から毒を抜いたらそっくりだ。


 まあ、今はその毒が問題だ。

 ちくせう。

 俺に空戦用アンデッドを用意しろって意味だよな……。

 嫌とはいえない状況だ。

 今、俺が用意できるとしたら『カフィー』の『エスプレーソ』ダンジョンで大量にゲットした『空飛ぶ毒持ちカブトガニ』くらいだが、俺に毒は効いても、アンデッドに毒はほぼ意味がない。


 こちらもグリフォン並の空飛ぶ上級モンスターを用意できるといいんだが、『ソウルヘイ』のワイバーンは絶滅寸前で探すのが難しいし、それ以外となるとやはり『エスプレーソ』ダンジョンのドラゴン? しかし、『カフィー』は敵地な上に、ドラゴンはボスモンスターなのでリポップ待ちが必要で、下手すると強化されて倒せないどころか、こちらが危なくなる可能性もあるので却下だ。


 こうなると早くヴェイワトンネルを開通させて、『ワゼン』の『天空ダンジョン』を狙うのが早いか? 


「今、最優先すべきはヴェイワトンネル開通になりそうだな……」


「それだと時間が掛かりそうじゃのう……」


「ええと、ベルは戦力増強のために早めにワゼンに行くべきって考えてる? 」


 俺の言葉を受けて、じいちゃんとメイが言葉を返す。


「ああ、正確にはワゼンの天空ダンジョンな」


「ダンジョン……それならトンネルじゃなくていいんじゃないの? 」


「ん? 」


「だーかーらー、ダンジョンを利用して対空戦力増強だっていうなら、山越えでワゼンまで行っても同じだよね。

 せっかく山に巣食ってたグリフォンたちの数が減っている今がチャンスなんじゃないのかって言ってるんだよ! 」


 あ、そうか……。

 確かにメイの言う通りだ。

 現在、『ヂース』南部の山脈は野生化したモンスターの住まう土地ではあるが、どこかのダンジョンと对になっている訳ではない。

 つまり、グリフォンゾンビ、またはグリフォンが無限にいる訳ではないのだ。


 グリフォンゾンビを百から百数十体は始末している現在、おそらくグリフォンを見つける方が難しいというくらいまでには個体数が激減しているはずだ。


 これなら、『武威徹』での強行山越えは可能そうだ。


 俺たちは天空ダンジョンへ向けての山越え作戦を計画する。

 せっかく『ワゼン』に行くのならと、外交用の人員も何人か連れて行く予定だ。


「……では、出発は一週間後とします」


「うむ、それなら近衛騎士団も間に合うからな」


 アステルの宣言に、クイラスが頷く。


「何故、近衛騎士団? 」


「うむ、さすがにベルちゃんの警護をただの兵士にさせておくのは、国として格好がつかぬからのう」


「ボクたちはいいとしても、他国で骸骨やら幽霊が護衛ですなんて話をしたら、ますます魔王じみてくるからね」


「わざわざ余計な誤解を招く必要もないでしょう」


「「「うんうん」」」


 全員一致でひとつの近衛騎士団結成に向けて動いていたようだ。

 何故、俺だけそんな重要な話を聞いてないんだ? 解せぬ。


「師匠、師匠のお手を煩わせるまでもないかと、我々でご用意しましたが、なにか問題などありましたでしょうか? 」


 俺の顔色に気づいたのか、クイラスがこちらを伺ってくる。


「あ、いや、ないない。

 ただ、皆がひとつの近衛騎士団結成のために動いているって知らなかったからさ……」


「あれ? 

 逐一、報告はしてましたよね? 

 団員選抜の武闘会や、五議会による面接、そのための騎士叙勲でオルニオ様やブリュレー様が動いていますって……」


 アステルが不思議そうな顔をする。

 俺の背中を汗がタラリと流れる。


 あ、ああ、そういう……。


「うん、そうか、そういえば聞いてわ、うん、聞いてた、聞いてた……」


 聞いてたけど、俺には関係ないからいいやと聞き流していたのは、胸の内にしまっておこう。

 騎士団って、もしかして俺の近衛騎士のことだったのか。

 各領で戦力拡充のために騎士団を作っているのかと……まあ、いいか。


 ちょっと皆の目がジト目になっている気もするけど、気にしちゃいけない。


 さすがに国王だからか、皆さんからため息ひとつ程度で許されたので、話を進める。


 各領から『武威徹』を一台ずつ、俺の専用機と併せて、計五台。

 近衛騎士は全員、『武威徹』の操作、『異門召魔術』の行使は無論、剣の腕も確かで、人物的にも信用できるエリートとして結成されているらしいので、文官二名、補佐として王国御用商人一名、ブリュレー、メイ、俺、アステル、クーシャ、近衛騎士七名という人員で向かうことになった。

 近衛騎士が操縦士と護衛を兼ねることになるが、それだけ厳しい訓練を受けているから大丈夫、とはブリュレーの談だ。


 ちなみに旅の荷物は、俺の『取り寄せ魔術』頼りなので、かなり身軽に動ける予定だ。


 アルたちアンデッド組は研究所待機、天空ダンジョンの状況次第で呼び寄せられるようにしてある。

 霊体化しているアルファと影に潜むオル、ケルはいつも通りに俺の護衛を務める。

 いつも通りとはいえ、ここ最近のアルファは、アステルの執務補助が多かったせいなのか、微妙に嬉しそうにしているように思う。


 俺が死霊術士になってから、護衛といえばアルファだった。

 今や俺の盾であり、剣であり、ペンであるという獅子奮迅の活躍ぶりなので、少し休ませてやろうとすると、毎回、アルからアルファを使えと厳命される。

 それでアルとアルファの仲が悪いのかと思えば、仲は良い。

 よくわからん。


 まあ、アルファに仕事を振ると喜ぶので、俺の魔導書『サルガタナス』による従属化の影響なのかもしれない。


 人員が決まったら、持っていく土産の選定、これは地の物を中心に、母さんたちの傑作魔導具シリーズと見本代わりの『異門召魔術』、ダンジョン産魔宝石一式、さらに色々な味が楽しめる属性岩塩セットなどを用意することにした。


 決めることを決めたら、後は移動のための準備だな。

 そうして、俺たちは一週間を過ごすのだった。


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