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こりゃ罠か……。ぽるたばりあああっ!


 鷲頭と翼と鉤爪の前半身、強靭な獅子の後半身。

 その咆哮は魔法として放てば、大木をも倒壊させ、羽根は忍者の手裏剣にも匹敵する強度を誇り、地を走れば馬をも凌駕する速度を出す。

 空を飛び、凶暴に獲物を狩るモンスター。


 鷲頭獅子グリフォン


 だが、山の稜線から飛来するそいつらは、翼の一部が剥げ、横腹から臓物が飛び出し、頭が、脚が奇妙な方向にねじ曲がり、目玉は窪んでいたり、垂れ落ちていたりする、おぞましい姿をしている。


 死獣だ。


 グリフォンゾンビとされた、グリフォンよりも危険なモンスター。


 そいつらが雲霞の如くこちらに押し寄せて来る。


「ヤバい……こりゃ罠か……」


 『金色ゴールデンドーン』の魔王は、山に身を隠しながら、手勢を増やしていたのだろう。

 山裾で大規模な工事なんかしてたら、観察するわな。

 そして、それがどういうものか推測し、俺が来ていた頃に見つかっていたのだろう。

 手勢が集まるまで、息を潜め、力を蓄えた。

 そして、俺が来なくなったから、罠を張ることにしたってところか。


「陛下! お逃げ下さい! 」


 警備の兵たちがやって来る。


「いや、無理だろ」


「今なら、武威徹で逃げられます。

 我らがなんとか時間を稼ぎます! 」


 警備兵は必至に訴えるが、槍と剣でどうやって時間を稼ぐつもりなのか、小一時間問い詰めたいが時間がない。


「技士のおっちゃんを武威徹に乗せて、城へ。

 狙いはどう考えても俺だ。

 俺たちは、ここで時間稼ぎだ。

 全員、トンネルに退避! 」


 そう俺は命じながら、『取り寄せ魔術』を起動。

 研究所から『リザードマンデュラハンズ』を呼び寄せる。


 トンネル内なら、グリフォンゾンビの機動力を潰せるし、槍と剣でも多少は戦えるはずだ。

 怖いのは崩落だが、それは残った工事用ゾンビたちに支柱を死守させれば、なんとかなるはずだ。


「オル、ケル。

 リザードマンデュラハンズと共にグリフォンゾンビ共を迎撃、なるべくトンネルに入り込もうとするやつを優先的に落とせ! 」


 俺の言葉に、リザードマンデュラハンキングが頷く。


 トンネルの外にウチのアンデッドたち、警備兵と俺、アル、アルファはトンネル内百メートル程の位置で待ち構える。

 技士のおっちゃんと武威徹の運転手は、城への伝令を兼ねている。

 『取り寄せ魔術』の連絡網は、手紙を書く余裕がないと使えない。


 俺は警備兵に命じて、ありったけの光魔導具を持ってこさせると、それをトンネル内に設置させる。

 ゾンビは視覚が関係ないが、俺たちはそうはいかない。

 それにこれから夜が来る。

 城からの応援が来るまでは、今の戦力で持ち堪えるしかないからな。





 トンネル内で、警備兵たち総勢二十名と待ち構える。

 外はグリフォンゾンビたちのギャーギャー言う叫びで、酷いことになっている。

 時折、オルとケルのものだろう喉奥から放たれる火炎弾の光がトンネル内を赤く照らす。

 いつ入って来るかと緊張しつつ待つ。

 だが、大して待つこともなく一匹目は入って来る。

 毛羽根は乾いた血で汚れ、胸元はリザードマンデュラハンメイジの水流撃だろうか、孔が穿たれ水に濡れている。


「アルファ、作戦は『オドを大事に』だ。

 多少、弱らせたら兵士たちに任せるようにな」


「はい、ご主人様! 」


 応えたアルファだが、水流撃の傷跡目掛けて『ボルターガイスト』能力を振るう。

 グリフォンゾンビの胸元から上が千切れ飛んだ。

 おお、ないす! とは思うが、警備兵たちがびびって動きが止まっている。

 俺は慌てて声を張り上げる。


「槍、突き刺せ! 動きを止めろ! 」


 俺の声に我に返った警備兵の槍持ちたちが一斉にグリフォンゾンビの身体に槍を突き出す。

 動きの止まったグリフォンゾンビに、アルが剣を手に飛び出す。


「アル、翼だ! 」


「あいあい! 」


 アルによる一瞬の連撃。

 グリフォンゾンビの両翼が綺麗に落とされる。

 頭と翼、魔法攻撃の元となる部分を無くしてしまえば、後はどうとでもなる。

 残った警備兵が剣を手にグリフォンゾンビを滅多斬りにしていく。

 グリフォンゾンビも強靭な後脚を支えに鉤爪を振り回そうとするが、突き刺された槍たちに押さえられ、どうにか動かなくなるところまで細切れにした。


「おお……」「やった……」「お、俺たちでグリフォンを……」


 警備兵たちが喜びの声を上げる。

 だが、次のグリフォンゾンビがトンネル内に入り込んで来る。


「態勢を整えろ! 次、来るぞ! 」


 俺の言葉に警備兵たちが慌てて並びを戻す。

 俺も『異門召魔術』で特大火球を放つ。

 グリフォンゾンビのオドを特大火球とアルファの『ポルターガイスト能力』で削り、槍とアルファの剣技で相手の攻撃手段を削り、あとはひたすら再生できなくなるまで攻撃する。

 これが基本パターンで、俺たちは五匹のグリフォンゾンビを狩った。


「や、槍が……」


 グリフォンゾンビの突進を受け止めるため、何本もの槍を突き立てて人力で動きを止めるこの作戦は、警備兵の体力と槍という武器を削った。


「疲れたら、交代。槍は予備がある。使え! 」


 『取り寄せ魔術』でクーシャの予備武器を取り寄せる。

 グリフォンゾンビは五人掛りでどうにか止まる。

 一匹ずつなら、このまま問題なく守れそうだ。


「やれる、やれるぞ! 」「ああ、陛下のおかげで上級指定のモンスターと、俺たちが戦えているぞ」


 警備兵たちに自信が漲っている。


 だが、そういう時に限って不幸は襲って来る。

 一匹のグリフォンゾンビがトンネルに入り込む。

 警備兵たちが槍を構える。

 と、さらに一匹のグリフォンゾンビ、いや、さらにもう一匹が入り込む。


「さ、三匹……」


 警備兵の一人が絶望に塗れた言葉を零した。

 だが、事態はそれほど単純じゃない。

 今まで、一匹ずつに絞れていた敵が一度に三匹も入り込む。

 それはつまり、外のリザードマンデュラハンズとオル、ケルが支えきれなくなっているということだ。


 俺が取り寄せできる戦力は、元冒険者のポロと元盗賊のサンリが率いる『ベテラン』オーガとゴブリンの部隊と、さまよえるワンダリングメイル二百体の部隊だ。

 他は研究所ダンジョンに設置したままだ。

 取り寄せられるアンデッドは遠距離攻撃手段を持っていない。

 ジリ貧だ。

 グリフォンゾンビたちは空中にいる。


「ベル、援軍が来るまでの我慢だね。

 ご飯よろしく! 」


 俺が悩んでいる間に、アルが前に出る。


「ご主人様、アルファも頑張ります! 

 どうか、命令を! 」


 アルファは俺の『オドを大事に』という命令があるから、無理ができない。

 そして、アルの言う通りだ。

 技士のおっちゃんが武威徹で援軍を呼びに行っている。

 まだまだ、絶望するには早い。


「……分かった。アルファ、作戦変更『バンバン行こうぜ』だ! 」


「かしこまりました、ご主人様! 」


 アルが警備兵の足止めを待たずに突出する。

 アルファが霊体化を解いて実体化、ブラックガルム・ルガト=ククチとなる。


「あ、馬鹿! アル、突出するな! 」


 今までグリフォンゾンビから魔法攻撃が来なかったのは、最初にこちらの魔術攻撃を当てて、大幅にグリフォンゾンビのオドを削っていたのが大きいというのに、魔術攻撃前に突出してしまったら敵の魔法攻撃のいい的だ。


 それなのに、アルは一人で突出してしまった。


 グリフォンゾンビの嘴が開かれ、その前面に魔法陣が瞬間的に光る。


「キャアアアアアッ! 」


 不可視の衝撃波がアルに迫る。

 俺が間に合わないと分かっていながらも、つい一歩、踏み出した瞬間。


「ぽるたばりあぁぁっ! 」


 ごばっ、とグリフォンゾンビの衝撃波がアルの背面に流れて、地面に無数の孔が穿たれる。

 アルは次の刹那に、魔導機を取り付けた剣から炎を噴き上げながら、グリフォンゾンビを真っ向から両断していた。


 アルの多少方向音痴な『ポルターガイスト能力』をほぼゼロ距離で発動、相手の魔法に対する盾として使用するという力技で、ある意味受け流したのだ。


 俺はほうけて、思わず足が止まる。


「あ、あ、アホかあああっ! 」


 危うい。一歩間違えたら、身体の一部を持っていかれていたぞ。


「誰がアホかっ! 

 アルファちゃん! 」


 アルは次のグリフォンゾンビが迫る中、身体をたわめて、後ろに向けて大きく跳ぶ、バク宙の形になると同時にアルファに声を掛ける。

 前に向かってついた勢いを、ルガト=ククチの怪力で無理やり背面に身体を持っていったのだろう。


「ぐるがらぁぁぁっ! 」


 空中に身を踊らせるアルの下、アルファの正確無比な『ポルターガイスト能力』が数発通り抜けたらしい。


 二匹目のグリフォンゾンビに、ばん! ばん! ばん! と『ポルターガイスト能力』の連弾が撃ち込まれる。

 その攻撃は、グリフォンゾンビの頭と翼をただの肉片としてしまう。


 グリフォンゾンビの身体が地に落ち、転がるようにこちらに向かってくる。


「陛下をお守りしろ! 」


 警備兵たちが身体ごとぶつかるようにグリフォンゾンビの転がりを止め、剣で、槍で攻撃を加えていく。

 グリフォンゾンビは解体されていく。


 三匹目も似たようなものだった。


「すげぇ……」「まさか聖騎士様なのか? 」「いや、超級冒険者じゃないか? 」


 アルの動きを見た警備兵たちが噂を始める。

 それを聞きながら、全身鎧の騎士ことアルが胸を張るように戻ってくる。


 あれはドヤ顔だ。絶対に悦に入った表情してるに違いない。兜で顔は見えないけど。

 それで皆、ごめん。

 アレは聖騎士と超級冒険者の対極の存在、アンデッドで『赤ふたつ』の初心者冒険者なんだ……。


 この前の冒険で『赤ひとつ』を無事に脱出したのは俺も一緒だけどな。

 アルと違って、俺は『緑ふたつ』もあるから、冒険者としては俺の方が上だ、というのは悲しい欺瞞だろうか。


「凄いですね! 」「きっと名のある方に違いない……」「俺たちも負けていられないぞ! 」


「……ど、どうということは、ない」


 今さら設定を思い出したのか、アルが低く押し潰したような冒険者仕様の声で答える。

 ほら、警備兵たちが困惑してるじゃないか。


「全員、ここで見聞きしたことは口外しないように。

 コウス国にでも情報が漏れると、大変だからな……」


 いちおう釘を刺しておく。

 すると警備兵たちは、納得したように一斉に了承を口にした。

 その顔があまりに真剣だったので、少し申し訳ない気持ちになった。

 だって、一番秘匿したいのはアルの家族に対してだけど、それを言う訳にはいかないからな。


 

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